第一一八話『んー……勢い?』
「んで? みんなして何を深刻そうな顔をしてたのかなん?」
綺麗な所作で、からあげを箸でつまみながらクリスが周りに問いかける。と、周囲の面々は、どうしたものかと顔を見合わせる。
「……あたしが悪いんだ。タカのことを気にし過ぎて空気を微妙にしちまったから……」
不意に綾香がそう言い始めた。それを聞いてひばりが顔色を変える。
「ち、違うよ綾香ちゃん! そうじゃないよ!」
「違わないよ。あたしの都合でみんなを巻き込んだのに、自分のことばかり気にして……。ほんとゴメン……」
声を上げるひばりを制して綾香が頭を下げた。それを見て、琴代と慎吾は顔を見合わせ、洋介はバツが悪そうにした。秋人は困ったように頭を掻き、雪菜が顔をしかめた。
その隣であかりがため息。楓は我関せずとばかりにあくびをし、ひばりが悲しそうにまなじりを下げた。
それらを青い目でクルリと見回し、クリスが「ふむ」と、一息つく。そして大きくうなずくと口を開いた。
「……だいたいわかったよん。あやっぺ〜」
「はい?」
クリスに呼ばれ、綾香が顔を上げた。すると目の前にはクリスの笑顔。
「……は? あ、姐さん?」
思わぬ距離に、動揺する綾香。しかし、クリスは気にすることなく、綾香の唇に自分の唇を重ねた。
「ちょっ?!」
「なっ?!」
「わーお」
「うわぁ……」
「おいおい……」
「わぁ♪ 仲良しさんだね♪」
突然のことに周りの反応は様々だ。
「……」
「?」
だが、当の本人である綾香はそれほど驚いていなかった。その様子に気付いて、クリスは眉をひそめる。が、すぐにその目がイタズラを思いついたかのようになった。それに気付いた綾香が身をそらそうとするが、クリスが素早く綾香の体を抱えて抱き寄せた。そして綾香の顔が驚愕に彩られ、真っ赤に染まる。
「むぐぅっ?!」
くぐもった声が上がり、ふたりの唇がうごめいた。
クリスが綾香の口中に舌を差し入れたのだ。さすがの綾香も目を白黒させるばかりだ。水音が響き、綾香の口が蹂躙されていく。
はじめは戸惑うように抵抗していた綾香だったが、そのうち体から力が抜けていった。
周りのメンバーはそれを目の当たりにして顔を赤らめ硬直していた。
やがてクリスの唇が綾香の唇から離れる頃には、綾香は赤くなったままぐったりと放心していた。
「ふぅ。ごちそうさまぁ♪」
いい仕事をしたとばかりに額の汗を拭うクリス。その背後に気勢が上がった。
「ごちそうさまぁ♪ じゃないっ!?」
すぱぁんっ!!
白刃一閃。繰り出された“小烏丸”によって、クリスの頭がブレた。
「ばふっ?!」
奇妙な声を上げ、クリスが地面とフレンチキスである。
「なな、なにやってるのよクリスはっ!?」
「うにゅう。最低の口直しだよん」
怒りの声を上げるひばりにクリスは涙目で顔を上げた。どうやら鼻からいったらしく鼻の頭が赤くなっている。それを見下ろし、仁王立ちになるひばり。
「で? なんで綾香ちゃんに……キ、キキキ、キスしたの?」
わずかに照れながらも怒気をまとったまま訊ねるひばり。クリスはそんな彼女を見上げて答えた。
「んー……勢い?」
すぱぁんっ!!
晴れ上がった空に、小気味の良い音が響きわたった。




