第一〇四話『雪菜と楓と……』
槍が楓を貫く。
ことは無く、ただ空しく宙を貫いた。
「……くっ」
その事実に雪菜の顔がゆがんだ。が、楓は驚いた顔のままだった。
「……やるじゃん雪菜。それ、“葛貫”だったっけ? 黒崎師範代の演武を見たことがなかったら、確実に捉えられてたよ」
そう言いながら嬉しそうに笑う。
「……覚えていたか。二人でこの技を見せてもらってから随分と経った」
「なーに? 雪菜。若い身空で思い出話? ババくさぁ」
「……お・ま・え・という奴はぁ……」
真面目な雪菜に対し、楓は軽く吹き出してから笑う。それが雪菜の神経を逆撫でした。
右足で踏み込みながら、槍を回転させ、石突きで楓の腹を狙う。が、楓は笑いながら“それ”に足を掛け、雪菜の攻撃の勢いと脚力を利用し、爆宙しながら距離をとる。
そんなアクロバティックな動きにひばりや綾香は声も無い。
「……すげえ身のこなしだな」
「……あたしもあの位動ければ」
つぶやく二人の隣で、心配そうな顔でステージを見ていたあかりが声を挙げた。
「雪菜!! 落ち着いて?! 楓のペースに乗せられないで!?」
「!」
その声に、雪菜が我に返る。それを見て楓が肩をすくめて笑った。
「ありゃま。そういやあかりも八組だったっけ? ちゃお♪ あかり。今朝ぶり♪」
そんな彼女にあかりが苦笑いを浮かべた。
「今朝ぶり、楓♪ けど今は代表同士だから敵ってところかな?」
「違いないや」
言われてあかりの方を見て笑う楓。その様子に苛立ちながら雪菜が突き掛かった。
「戦いの最中によそ見をするなっ!!」
怒号とともに襲いかかる鋭い穂先を、楓は苦もなく避けた。しかし、雪菜の攻撃はそれに留まることはなく、続けざまに突きを放つ。
まるで槍ぶすまのような連続攻撃に観客が息を飲む。
が、当たらない。
「ダメじゃん雪菜。声を出したら奇襲になんないっしょ?」
攻撃にさらされながら、楓が雪菜にダメ出しをする。と、雪菜の顔が、みるみる憤怒に染まった。
「ああもう……また乗せられて……」
そんな雪菜の様子に、あかりが額に手を当てながら天を仰いだ。
「……ねえ狩羽さん」
「ん? なにカナ? 支倉さん」
不意にひばりに声をかけられ、あかりがにこやかに応じた。
「うん、少し聞きたいんだけど、狩羽さんと黒崎さんと、山岸さんは知り合いなの?」
「うん、そうだよ♪ 親友なんだ♪」
楽しげに笑って答えるあかりに、ひばりは困惑した表情になった。それを見て、あかりが小さく笑う。
「ちなみに雪菜と楓も親友同士だよ? あれを見ると信じられないかも知れないけどさ」
「……え?」
あかりに言われ、ひばりの表情がさらに妙なことになった。ステージを見ると、怒髪天を突くかのような雪菜の攻撃を、楓がからかい混じりに避け続けるという状況が展開されていた。
「……」
困惑の度合いを増したひばりが、再度あかりを見れば、彼女は苦笑していた。




