偶然の再会
5月、俺は野郎ばかりを乗せたマイクロバスで揺られていた。これから俺たちが向かうのは、西東京市にある都立神栖高校。この高校の野球部はまだ創設されたばかりで、弱小校と言われている俺たち三沢高校との練習試合を快く引き受けてくれた。
「できたばっかだから、部員も1年しかいないらしいぜ」
話しかけてきたのは、隣の席に座る細谷武先輩。うちのエースで俺とバッテリーを組んでいる。3年生だが気さくで、1年にも関わらずいきなり女房役になった俺にも優しく接してくれた。
細谷先輩だけじゃない。三沢高校の野球部は人数が少ないせいか、上下関係の意識や競争心が薄い。だから、シニア出身の俺が入部した時も、レギュラーになった時もあっさり受け入れてもらえた。リトルやシニアにいた時にはなかった雰囲気だ。
「1年だけですか?すごいですね」
「だからレベルは期待できないかもなぁ」
「でも、シニアから上がった奴が何人かいるって聞いたぞ?」
後ろの席から口を挟んできたのは、センターの有森一樹先輩だ。
「確か南野ホークスの多川が入ったんで他の学校の奴らが騒いでたんだ」
「多川がですか!?」
「寺島、お前知ってるのか?」
「知ってるも何も、シニアやボーイズに所属していた奴ならたいてい知ってます」
南野ホークスの多川と言えば、シニアの人間でもその名を知っている。向こうはボーイズで俺はシニアだったから試合をしたことはないが、小さいながらも走攻守のすべてに優れ、ボーイズの中でも特に強豪の南野ホークスで4番をはっていた選手だ。甲子園常連校からの誘いも引く手あまただっただろう。
「何で神栖なんかに……」
「なんか事情があったんだろう。そんな奴がいるなら、試合のレベルもかなり期待できそうだな!」
細谷先輩が強引に結論付ける。きっとシニアやボーイズに所属してなかった人間にとってはそれほど気になるようなことでもないんだろう。三沢は甲子園を目指すようなレベルではないから、他の高校の選手をチェックする風習がないんだ。
そんな話をしているうちに、俺たちは神栖高校に到着した。
神栖高校は野球部こそなかったものの、もともとスポーツは強い高校だ。日曜にも関わらず、校庭では部活動中の生徒が走り込みをしている。
野球部が練習をしているというグラウンドに向かう途中で、俺は見覚えのある物を見つけた。それは、体育館の横に置かれていた鞄につけられた赤と黄色のミサンガ。
――これは私のお守り。これが切れるぐらい練習して、エースになれますようにって……
「……翔太?」
記憶の中で聞こえた声と呼ばれた声が一致する。ずっと音信不通だったあいつを思い浮かべて振り返った。
「優……希?」
「なんで、ここにいるの?」
そう問いかける優希は、当時の面影を残しながらも、俺が見たことのない恰好をしていた。茶色く染められ、緩く巻かれた髪。大きく見せるために飾られた目元、薄く施された化粧。派手に彩られた爪、それも少し伸ばしてある。
そこにいたのは、すっかりギャルと化してしまった俺のエースだった。




