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話し下手な僕たち  作者: もーりんもも


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14/16

14 夏祭り①

 その日の夜。

 晩御飯を食べている時、律子さんが申し訳なさそうに切り出した。


「明日なんじゃけど」


 あゆちゃんは咀嚼(そしゃく)しながら正面に座る律子さんをチラッと見た。


「ごめんなぁ。さっき電話があってな。明日は午後から半日だけ休日出勤せんといけんのんよ」


 日曜日に仕事か。律子さんも大変だなぁ。


「あの。僕が一緒に留守番していますよ」

「え? ああ、違うんよ。そうじゃのぉてな。明日はお祭りがあるんよ」

「へえ。夏祭りですか。神社とかでやっているような?」


 僕の地元の大きな神社でも、お盆にお祭りがあって神輿を出していた。


「ああ、違う違う。神社とかじゃないんよ。なんてゆぅんかなぁ。盛大な盆踊りみたいなもんかなぁ。倉敷駅前の通りをつこぉて大勢が踊るんよ。まあ、別に踊らんでも屋台とかが出るから子どもは食べ歩きをしとるわ」


 夏祭りの屋台か……。


「あゆみは屋台のたこ焼き好きじゃろ?」

「別に」


 あれ? そこは無言じゃないんだ。

 律子さんも苦笑しているから照れ隠しかな。

 

「なあ、恵人君。予定がないなら、明日あゆみをお祭りに連れていってくれん?」

「あ、はい。大丈夫ですけど」

「そう。ほんなら頼むわ。駅の近くまで行ったら人だらけじゃけぇ。嫌でも分かるわ」

「はい」

「二人とも晩ご飯はお祭りの屋台で食べてきてな。焼きそばとか色々あると思うから、たまにはよかろぉ?」


 ……それいい。すごくいい!

 あゆちゃんもそれで構わないよね?

 僕と律子さんから無言の圧を感じたのか、あゆちゃんも観念した。


「いいよ」

「やったー。楽しみだね。屋台かぁ。いつぶりになるのかなぁ。すごく久しぶりな気がする」


 なんだかテンションが上がってそんなことをつぶやいてしまった。

 

「あれ? そうなん? 恵人君の住んどるところはないん?」


 ……まずい。

 僕の個人情報については触れないでほしいんだけど。

 隠すと余計怪しまれるよな――。


「お小遣いちょうだい」

「ん? ああ、そうじゃな。後であげるから楽しんどいで。恵人君も頼むな」

「あ、はい」


 またあゆちゃんが助けてくれた――。

 なぜか僕がギクリと固まると、それを感じ取って助け舟を出してくれる。

 不思議な小四だよ。


「ごちそうさま」

 

 あゆちゃん、いつの間に?

 しっかりご飯を食べていたんだね。

 僕もお皿の上のおかずを慌ててかきこむ。


「ごちそうさまでした」


 キッチンに食器を下げて二階へ逃げることにした。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 翌日。

 律子さんは一時過ぎに出かけて行った。


「ほんならこれな。ケチケチせんとつこぉたらええからな。あゆみが欲しい言うたら何でもこぉてやってな」 

「はい」


 お祭りで遊ぶためのお小遣いがなんと五千円!

 晩ご飯代を含めているとしても多い。太っ腹だ。

 あゆちゃんを楽しませてほしいという願いが込められている気がして、ちょっとプレッシャーを感じる。



「ねえ、あゆちゃん。いつもは何時くらいにお祭りに行っていたの?」

「夕方くらい。お母さんが、『暑い中歩くのは嫌だ』って言って。ちょこちょこ買って食べてたら、『それ以上食べたら晩ご飯を食べれんじゃろ』って、結局あんまり買わずに帰ってきてた」

「へぇ。じゃあ、今日は特別だね。好きなだけ食べていいって許可が出たからね」

「うん」


 あ。本当に嬉しいんだね。


「じゃあ、四時くらいに出かけようか。それで屋台を見て回りながらお腹いっぱいになるまで食べよう」

「うん」



   ◇◇◇   ◇◇◇



 倉敷駅から南に伸びる倉敷中央通りが見えるところまで来ると、もう祭りの熱気を感じた。

 近隣の住民には迷惑になりそうなほどの結構な大音響だけど苦情は出ないのかな?

 大通りは人で溢れている。


 新宿の人混みを思えば大したことないのに、久しぶりに人が大勢集まっているところを見たせいか、ふと、「あの中に入りたくない」「行きたくない」と思ってしまった。

 学校のように避けられない場合は仕方なくそこに身を置いているけれど、基本的には一人でいたい(たち)なのだ。

 それでもグッと堪えて足を進めていたはずなのに、あゆちゃんにはバレてしまった。


「お祭り嫌い?」

「い――や、別に」


 うわぁ。いつもと立場が逆になってるよ。

 子どもに気を遣わせるなんて――情けない。

 意識して歩幅を広く取り、歩くスピードを上げると、あゆちゃんが小走りでついてきた。

 これじゃあ気にしていることがバレバレだ。

 落ち着け。


 ここには僕のことを知っている人間はいない。

 僕が小さな女の子と一緒に歩いているところを見て揶揄うようなやつもいない。

 だいたい何も恥ずかしいことはしていない。

 ……よし。


「ふう。ちょっと人が多いんでびっくりしたみたい。いつもはあんまり人とすれ違わないから」


 言いながら思い出したけど、あゆちゃんの知り合いとはなぜだかバッタリ出くわすんだよね。


「うん。私もいつもそう思う」

「そっか」

「うん」

 

 励まされてしまった……。

 ま、いっか。


 大通りでは音楽隊がパレードしていた。

 立ち止まって見ている人もいれば、屋台に並んでいる人もいる。

 みんなそれぞれお祭りを楽しんでいるようだ。


『倉敷天領夏祭り』と言うのが正式名称らしい。

 道沿いに大きな看板が設置されていた。

 意外にも浴衣姿の人は少ない。昔の人だから浴衣を着るのだろうと勝手に思い込んでいた。

 昨日、お祭りの話題になった時も、律子さんが浴衣の話をしていなかったのは、着せてあげることができないせいだろうと考えていた。

 デフォルトじゃなかっただけだったんだ。


 

「色んな屋台が出てるね。どうする? ジュースか何か買って飲みながら歩く?」

「うん」


 ちょうど目の前に氷水でジュースやビールを冷やしているのが見えたから、なんとなく視覚情報がそのまま口をついて出た。


「これください」


 この後食べる予定なのでウーロン茶にしようと思いつつ、懐かしくてラムネを指差してしまった。

 もう随分昔に飲んだきりだ――って、あれ? 本当に小さい頃に一回飲んだだけかも……?

 蓋が開けられなくて母が開けてくれたっけ……。

 おいおい。ラムネ一つで思い出に浸るなんて年寄りっぽくないか?



「あゆちゃんは?」

「これ」


 うわぁっ、ファンタかぁ。それも懐かしいなぁ。

 最近じゃコンビニに入ったらボトルコーヒーの棚に直行しているから、他にどんな商品があるのかもあんまり見ていないし。


「はい! 二本で三百円」


 コンビニで買った時も百十円で安いと驚いたけど、若干上乗せして百五十円。

 令和と平成じゃあ物価が違うなぁ。

 

「まいどありっ」


 大人になって初め開けるラムネの蓋。

 あれ? えぇぇっ?


「お兄さん! それ、逆! 逆!」


 お店の人がジェスチャーで教えてくれた。

 左じゃなくて右に回すと開いた!


「ありがとうございます」


 恥ず。ラムネあるあるなのかな?

 こういう時のあゆちゃんの『無』はかなりありがたい。

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