まさかの事実
屋敷について早々に父の書斎に飛び込んだ。
今日私の身に起こったことについて説明すると父は難しい顔をして考え込んだ。
父は薬師として王宮に出仕する傍ら、魔物から受けた呪いの解呪なども行っており今回の洗脳じみた現象についてもなにかしら知っているのではないかと踏んでいたのだが、返事は私が予想していたものとは違っていた。
「ユリア、洗脳魔法というのは人間には扱えない。いや、正確に言うならば存在していないんだ。」
「存在しない?しかし、魔物討伐に行った兵士が人間を襲うようになったり、魔物に与することがあるではありませんか。それは洗脳魔法ではないのですか?」
「あれは洗脳ではなく幻影魔法に過ぎない。人間が魔物、魔物が人間に見えるように魔法をかけた結果そのような行動をしているんだ。今聞いたような感情や記憶を改ざんするような効果はないんだよ。そのようなことをしたら十中八九魔法をかけた相手は廃人になるだろう。魔道具という可能性もあるが私が知る限りではそのような効果を持つものはなかった。」
まさか魔法そのものが存在しないとは。
予想もしていない返答に困惑して、額に手を当て自問自答を繰り返す。
「では、このちぐはぐな感情と行動は一体…?」
「私も調査はするが第二王子に関わることだ。深く探れば国家反逆罪に問われる可能性もある。あまり力になれず申し訳ない。だが、ライアンとの婚約破棄には絶対に応じないことだけは約束しよう。」
「それだけは絶対によろしくお願いしますわ、お父様。私は何があってもライアンと別れるつもりはありませんから。」
そう強く宣言し挨拶をして父の書斎を後にした。
洗脳についてはわからないままだったが父が婚約破棄を認めないと約束してくれただけでも良かった。
でないと、すでに私とウィリアムが恋仲で~とか、ライアンも認めていて~とかあることないこと吹き込まれ王家の権力で無理やりウィリアムとくっつけられていたかもしれない。
自室に戻りドレスをスフィアに手伝ってもらいながら着替える。
装飾品もすべて外すとやっと一息ついた。
とにかく疲れがたまっていたのでさっと湯あみをし、ベッドに入ろうとするとスフィアがまだ装飾品の片づけをしていた。
仕事の早い彼女にしては珍しい。
「スフィア、どうかしたの?」
「お嬢様、あの実は首飾りに朝はなかった汚れがあるのに気が付きまして。拭いても拭いても取れないのでどうしたものかと思っていたのです。」
「汚れ?その首飾りは水晶でできているし、取れない汚れなんて着くかしら?少し見せてみてくれる?」
スフィアから首飾りを受け取ると石の一部に白い靄のような汚れがある。
布で拭いてみるが確かに取れなった。
「変ね。しかもこの汚れ表面じゃなくて内側から曇っているように見えるわ。つけた時にはこんな風にはなっていなかったはずなのに…」
…もしかして、これのおかげ?
この首飾りは代々グレイ伯爵家に伝わるもので浄化の魔法が込められている。
もしやこの首飾りの力で洗脳が解けたのではないだろうか。
はっきりしたことは分からないが、念のため首飾りは常に身につけるようにしておこうと心に決め眠りについた。




