↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リザレクション・ノア ─蟻は巨象を穿つ─  作者: うしの昴
EP.2 豪槍のダイナスティと影なきルカニウス
PR
5/8

第1章:働きアリ達《エルゲイト》

 ガルバルド将軍の死から数日後。

 エルガス帝国所属艦〈メゾサイロス〉第3作戦室。


 冷えた空気が張り詰める中、一人の少女が、淡々と報告を続けていた。


「指揮官ガルバルド将軍、及び機体〈GR-01 アクラーブ〉は敵新型との交戦の末、撃破されました。見事な最後でありました」


 軍人とはとても思えない小柄な体格。耳を覆う程度に切り揃えられた銀髪が、淡く室内灯を反射する。


 生き残った兵士の報告を受け、作戦担当官アルカ・ヘルム中佐は、短く息を吐いてから呟いた。


「……まさか、あのガルバルド将軍がな。

 あの戦場でよく生き残ったものだ、NNN-044。

 ご苦労。もう行って良いぞ」


 少女はわずかに伏し目がちに答えた。


「少々運が良かったようです。失礼します」


 それだけ言って、軽く一礼すると、背筋を伸ばしたまま部屋を後にする。


 冷たいドアの音が閉じると、残された副官がぽつりと漏らした。


「……エルゲイトがあんな冗談を?」


 ヘルム中佐は長い前髪を耳に掛けながら、モニターを指で撫でた。


「貴様は奴らを見るのは初めてか。エルゲイトシリーズは“ただのクローン”じゃない。帝国法では“遺伝子調整市民”と認定されている。

 ……外見は同じだが、性格や体格は僅かに違うし、人権もそれなりに与えられている。ただの働きアリ(ergate)ではないということだ」


「……てっきり、感情のない機械のようなものかと」


「ふん、分からんでもない。実際、死への恐怖などは大幅に削減されているし、急激なG加速に耐えるよう低身長に設計されているからな。

 ただ、ぞんざいに扱えば背後から撃たれる可能性はある──ということだ。

 まあ、私もどいつが何番だか覚えとらんがな」


 中佐の忠告に、副官はそれ以上を尋ねなかった。


 ――


 食堂は、昼を少し過ぎた時間だった。


 照明の加減もあり、廊下よりやや柔らかな空気が漂っている。

 NNN-044、通称〈NNNOAA(ノア)〉はトレーを持って、まばらになった食堂を見渡す。


 そこへ、ふわふわした調子の声が響いた。


「ノアちゃ〜ん、こっちこっち〜。報告終わったんだね〜」


 識別名RRM-155〈RRMISS(ルルミス)〉。

 同じくエルゲイトシリーズの少女。長く伸ばした髪と、間延びした口調が特徴的な整備担当だ。


 ノアは小さく手を上げた。


「待っててくれたんだね。ありがと、ルル。

 新しい副官が小うるさくて、ちょっと長引いた」


「いいよ、しばらく実戦なさそうだし。担当の子もだいたい死んじゃって暇だしね〜」


 ルルミスはスプーンをくるくる回しながら、無邪気に呟いた。

 しかし、ハッとしたように周りに聞かれていないか確認すると、ヒソヒソと小声で話し始める。


「……それで、今回は何回死んだの? 連合の新型、強かったんでしょ?」


 ノアはその様子に微笑みながら、シリアルバーをひと齧りして答える。


「確かに機体は凄かったけど、パイロットはそうでもなかったかな。

 ちょっと驚かしたら動揺しちゃって、あとは楽ちんだったよ。死んだのは──10回くらいかな」


 その言い回しに、ルルミスの表情がわずかに曇る。


「それって少ないの〜? その能力手に入れてから、感覚バグってない?」


 ノアは少しだけ目を伏せ、具のないスープを一口啜った。

 ルルミスも黙々とビタミンペーストを口に運ぶ。


「ノアちゃんって……あの光、γ線バーストだっけ? を受けた時、どんな感じだったの?」


 その問いに、ノアは短く答える。


「……あんまり覚えてない。

 ただ、あの時から“魂”をなんとなく感じられるようになっただけ」


 ──連合軍に噂される“悪霊(ドラウグ)”。

 その正体は、ガルバルド将軍の怨念でもなければ、もちろん戦場の怨霊などではない。

 それは、すべてこの少女によるものだった。


 数ヶ月前のある日。

 恒星が放った、遥か彼方からの最後の光──超狭角のγ線バーストが、一人の兵士を正確に射抜いた。

 他の誰にも認識すらされず、ただNNN-044という一体のクローン兵だけが、それを“見た”。


 その瞬間から、彼女の中で何かが変わった。

 肉体が滅んでもなお、自分の形を“思い出す”ことで、戻ってこられるようになったのだ。

 しかも、同じ遺伝子で構成された別の肉体──つまり、他のクローンが近くにあれば、“即座に”蘇ることさえ可能だった。

 それが、悪霊(ドラウグ)の正体だった。


 ノアは、スプーンを静かに皿に置いた。

 ビタミンペーストには全く手をつけていない。

 以前と変わらぬ様子に、ルルミスは安堵の笑みを浮かべる。


「ま、戻ってきてくれるなら、なんでもいいけどね〜。

 また機体、ピカピカにしとくからね、ノアちゃん」


「……ありがと、ルル」


 ノアの返事は静かだった。

 不死身となった少女は何を思うのか。──この二人以外に、それを知る由はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。