第2章:激突、アクラーブ
立ち上がったオレンジ色の機体、モナークは周囲の炎を受けて、より一層鮮やかに輝いていた。
イオ・セラムは、震える指で操縦桿を握っていた。
モニターの中央に、敵影が数機。
黒く無機質なカメラアイ。鋭く攻撃的な頭部。
識別コードは〈ヴェスパⅡ〉と表示されている。
「こいつらが……帝国のヴェスパ……!」
味方機へとマシンガンを向ける敵のヴェスパへと、素早く銃口を向ける。
すると、敵機の一機がこちらに気付く。
「俺はやるよ、父さん!」
イオはトリガーを引いた。
銃口から、淡い光が閃く。
それは銃火というには静かすぎた。
けれど次の瞬間、ヴェスパの胴体が──静かに“崩壊”した。
熱で溶けた、というようにも見えない。
ただ、砂で作った城のようにホロホロと崩れ落ちた。
支えを失った胸から上の部分が、地面へと落ちる。
「……なんだ、これ……ヴォイドライフル……すごい威力だ……」
思わず息を呑む。だが、次弾装填は済んでいた。
敵はまだ数機。イオは撃ち続けた。
──フォン、フォン、と静かな風切り音が響く。
半分以上は直撃せず掠っただけのように見えたが、敵機は動かなくなり、〈生体反応ロスト〉と表示されている。
「掠っただけでもパイロットを殺すのか……なんて兵器だ……」
ヴェスパ最後の1機が、反転して逃げようとする。
だがそれも、イオの手を逃れはしなかった。
──フォン……
最後の一閃が放たれると、戦場は静かになった。
イオは深く息を吐きながら、コクピットの中で呟いた。
「……守った。俺が……」
少年は、勝利の安堵と、自らの兵器の恐ろしさを──同時に噛み締めていた。
――
──あの一戦を境に、イオ・セラムの名は、部隊内外で広く知られるようになった。
基地防衛の直後、彼とモナークは前線へと駆り出された。
機体の性能は元より、イオ自身の反応速度、判断力を見た兵士は冗談めいて噂した。
「連合のエースだ」と。
──しかし、壕を煮やした帝国軍がついに動いた。
フォルミカ連合の要衝に向けて、前例のない規模の大攻勢。
空は黒く染まり、レーダーには百機単位のヴェスパが映し出された。
「……モナーク、出撃します」
イオは深く息を吸い、操縦桿を握る。
モナークが、地を蹴って空へと駆けてゆく。
イオはただ一機、獣のように飛び回り──撃ち、斬り、殲滅した。
数十機の敵機が地面に横たわる。
味方の損害は思ったより少ない。
“いける”──そう思った刹那。
空気が、変わった。
静寂すら感じさせる戦場に、鈍く重い振動。
遠方から、巨大な機影が滑るように接近してくる。
「あれは……」
背面から伸びる、巨大なレールガン。
黒金の装甲。禍々しいセラミックブレード。
すべてが重厚にして異形。
(あれが、噂に聞いていた“悪霊”か)
識別コードが表示された。
〈GR-01 アクラーブ〉
敵将、ガルバルド将軍機。
不吉な噂の絶えない帝国のエースが、ついに現れた。
これまでのクローン兵たちとは比べ物にならない。
そう思った次の瞬間、背部から伸びるレールガンが火を吹いた。
轟音。空気が圧縮され、モナークの左腕部シールドが吹き飛ぶ。
機体が揺れた。だが、止まらない。
加速、旋回、逆噴射。斬りかかる。
刃と刃がぶつかり、スパークが宙を裂く。
「こいつを倒せば、勝利は近い──!」
血のような夕焼けの空を背に、二機の影が交錯する。
一瞬の隙を突いて、イオは対人ガトリングを敵のカメラアイに全弾放つ。
刹那、アクラーブがモナークの機影を見失う。
「これで決める!」
尾を引く閃光。
そして、静寂。
アクラーブの胸部が崩れ落ちる。
やがて機体全体が断末魔をあげ、地に伏せる。
しばらく、イオは何も言えなかった。
──勝ったのだ。
積み上がる敵機の残骸の中、震える拳を握り、彼は呟く。
「勝った……! 悪霊を倒したぞ!」
彼の雄叫びと同時に、コクピットに衝撃が走る。
訳のわからぬままモニターを見ると、モナークの左腕が遠くへ飛んでいくのが見える。
その背後──倒したはずの敵機の残骸が、微かに動いていた。




