027話
アクセスありがとうございます。
特に大きな出来事もなく数日が過ぎた。
大学へ行き、講義を受け、昼休みにハジメや政宗と飯を食べる。
政宗は相変わらず筋肉の話をしていたし、美容と筋肉は切り離せないという持論も継続中だった。
喫茶店のバイトも変わらない。コーヒーを淹れ、紅茶を淹れ、スイーツを作り、常連客に弄られる。
そして夜はエニシング……少しずつ狩りをして、お金を貯める。そんな平和な日々を繰り返しているうちに週末を迎えていた。
土曜日……講義はないがバイトの日なので、昼前には喫茶店へ向かっていた。
エニシングの方も毎日少しずつ配信を続けている。初心者の活動日記も、いつの間にか11日目になっていた。
初心者っていつまでなんだろうな?
そんなことを考える。とはいえ、自分ではまだ初心者だと思う。装備も揃っていないし、知識も足りない。運よく力の手袋を手に入れた程度だ。
たぶん装備がある程度揃って、知識がついてからだろうな。今はまだ初心者でいい気がする。
2日ほど収入が渋かった日があり、思ったより貯金は増えなかったが、それでも今日の狩りで目標金額へ届く予定だった。
「今日で買えるな」
新しい薙刀……あれを買えば戦力もかなり上がるはずだ。
そんなことを考えながら喫茶店へ到着する。何となく騒がしい……まだ開店前なのにいつもより店内から聞こえてくる声が大きかった。
「嫌な予感がする……」
木製ドアを開ける。
カラン
ベルの音と同時に飛び込んできた光景を見て、俺は思わず叫んだ。
「おぃ! こんなところで、俺の配信を見るな!」
店内のテレビ……マスターの趣味で置かれている大型テレビ。
そこに映っていたのは俺だった。しかも活動日記のアーカイブ。
月曜日よりさらに人が増えていて、ざっと見ても20人近い。常連客たちがテレビを囲みながら、好き勝手なことを言っていた。
「この狼追いかけてる所好き」
「走り方が初心者なんだよな」
「宝箱出た時の顔が面白い」
「俺この回見た」
なんで見てるんだ。本当に意味が分からない……しかもゲームをやっていない人間が大半だ。話の内容を理解しているのかも怪しい。
唯一、本当に理解していそうなのは昔からゲーム好きだと言っている男性だけだった。年齢はよく分からない……40代後半くらいだろうか? 父さんや母さんと同年代か少し上くらいに見える。
その人だけは普通に解説している。
「これはレアモンスターだな」
「この手袋なら初心者としては良い物だ」
「へぇ」
周囲が感心している風だが、絶対理解してないだろ。
そして何よりの問題は……マスターまでニコニコしながら見ていることだった。
無理だ……これは消せないから諦めよう。
俺はため息を吐いてバックヤードへ向かった。着替えを済ませて戻ると、マスターが穏やかな笑顔で言った。
「フレア君、今日はコーヒーの前に、この欠食児たちに食事を作ってください」
「マスター、いい歳の俺たちに向かって、さすがに児ではないですよ」
「私から見れば、大半の人は子どもですから、児で十分です」
店内から抗議の声が飛ぶ。
「誰が児だ!」
「もう50だぞ!」
「私は孫がいる!」
だが誰も本気では怒っていない……このやり取りも楽しんでいるのだろう。
俺は周囲を見回した。
「アレルギー持ちの人っていましたっけ?」
全員が首を横に振る。好き嫌いはあるが、アレルギー持ちはいないらしい。
「マスター、少し倉庫と冷蔵庫確認してきますね」
「使った食材は、あとで分かるようにメモだけしておいてください」
マルチギアでメモを開く。
常連客は20人……俺とマスターと奥さんを含めれば23人……さらに一部の常連客と俺は1人前では足りない。
「多いな……ここまで多いのは初めてかもしれないな」
倉庫を確認する……パスタがあったが、30人前近い量は作るのが厳しい。
冷蔵庫を開くと、大量の鶏肉を発見した。
「マスター、鶏肉って何かに使う予定ですか?」
大声で聞く。
「夕食に使う予定でしたが、お昼に使うのでしたら別のメニューに変えますから、気にせず使ってください」
許可が出たので、4kgほどの鶏肉を取り出す。さらに卵を20個ほど。ご飯は巨大炊飯器で十分炊かれているので問題ない。
まずはゆで卵15個の準備を始めた。
続いて倉庫から玉ねぎ3個を取り出してから、道中で奥さんへ声をかける。
「葉野菜あります?」
「畑にレタスがありますよ」
「お願いします」
今度はニンジンとほうれん草を回収。
本当に食材が豊富だ。喫茶店でコーヒーと紅茶とスイーツが中心の店とは思えない。
調理を開始する。
玉ねぎをみじん切りにして、塩を振って放置。
ニンジンを千切りにして、ほうれん草と一緒に茹でる。
レタスは洗い、ゆで卵を別々のボウルで冷やす。
そして鶏肉を切り分け、溶き卵へ投入し、そのまま薄力粉を加えて混ぜる。厚めの衣を作り、オーブン皿へ並べていく。業務用オーブンで焼いていく。
「フレア君、揚げずに焼くのですか?」
「さすがにこの人数分を揚げるのは、大変ですし一度しか使わないのに脂がもったいないですからね」
マスターも納得したように頷いた。
卵の殻を剥き、黄身と白身を別ける。黄身を潰して三温糖、塩コショウ、マヨネーズを入れて混ぜてから、刻んだ白身と水気を切った玉ねぎ、刻んだラッキョの酢漬けを混ぜる。
「よし、タルタル完成」
鶏肉には油スプレーを振り再加熱。
お酢とめんつゆと砂糖で南蛮酢も作る。
マスターと奥さんには皿と野菜の準備をお願いして、俺はニンジンとほうれん草で味噌胡麻和えを作る。
焼き上がった鶏肉を南蛮酢へくぐらせ、皿へ盛る。
最後にタルタルをたっぷりとかけて、完成だ。
「チキン南蛮定食ができたから、自分で取りに来てください。自分で来なかった場合は、昼食無しです」
その瞬間だった。
一斉に立ち上がる常連客たち……我先にと皿を運んでいく。
おい! 本当に児じゃないよな?
そんなことを思っていると、マスターが声を上げた。
「それでは、いただきましょう」
「いただきます!」
全員が声を揃えて、そして食べ始める。
チキン南蛮、味噌胡麻和え、サラダ、ご飯……食堂みたいな光景だ。
「ん……? ここ学校か?」
思わず呟いてしまった……すると近くの常連客が笑い、
「先生、おかわり!」
「却下です」
即答した。
だが店内は大笑いだった。
俺はため息を吐きながら、自分のチキン南蛮へ箸を伸ばした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




