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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
三章:異常なる『正常者』

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第81話 『自己保存』

side 狂信者


 まず始めに、これはルビアさんとテーレさんがサンプルの分析を行っている間の暇潰し、雑談のようなものです。


 人間は何故、他の動物より賢いのか。

 その答えの一つとして地球で提唱されていた説の一つが『器用な指』があることだと言われています。


 肉体に対する脳の大きさでは人間よりもイルカが勝ると言われています。

 では、何故イルカは捕食者に襲われながら道具も武器も作らず生きていく道を選んでいくのか。その答えとして言われているのが、彼らには『器用な指』がないということ。


 人間は知能が高く、さらに幸運にも四本指と親指が向かい合い複雑な作業に向いた構造の手があるからこそ、道具を作り家を作り作物を育て備蓄を確保し、他の動物たちとは一線を画する存在になった……のではなく、複雑な作業のできる手があったからこそ、脳が発達し高度な社会を築けるほどに知能が上がったという説があるのです。

 まあ、私はそこまで言うほど人間が特別な存在に進化したとは思っていませんが。


 とにかく、その説に従うのならもっと高度な作業が可能な生物なら、例えばほぼ完全不定形でありながら一部分だけ弾力性を持たせ指のように扱うことのできるスライムのような存在なら、もっと高度な知能を獲得しうるのではないかと私は思うのです。


『と、言うことなのですが。ライリーさん、そのスライムボディを人間型以外の形にするというのはできそうですか? 慣れれば人類未体験の領域に立つ天才になれるかもしれませんよ?』


『いや、そもそもわたしのこれってわたしがスライムになったわけじゃないよ? このゼリーが勝手にわたしの形を真似するようになっただけだからね?』


 ふむ、それもそうですね。

 ライリーさんはあくまで精神体は人間の形ですし、それがアイデンティティに繋がる重大な要素だというのなら簡単に変えられるものではないでしょう。


 しかし、だからといって無駄な試みとは思いませんがね。

 器と中身は相関するもの。器を定義することでこそ輪郭を得て意味を持つものもあります。

 知性もまた、例外ではないでしょう。


 私が気になるのは、『人間(ヒト)』という器を選ぶ彼らの精神もまた『人間(ヒト)』の形を意識するかということです。

 おそらく、元々は不定形な群体である『彼ら』ですが、それなりに素早く走る、私の足払いを躱すという進化を見せてきたのですから、より身体を動かし慣れてきていると見ていいでしょう。


 このまま行けば、その内に表情や言葉まで自由に操れるようになってもおかしくありません。それが自らの生存と繁栄に有益であると判断すればすぐにでも……


「彼らの進化が先か、それとも解析が完了して対策が完成するのが先か、あるいは……」


 ここが分岐点、ですかね。

 昨日は暴力的解決が容易だと見栄を切りました。少なくともあの段階では嘘ではありませんでしたし、嘘のつもりもありませんでした。

 しかし、このまま行くと四日後までに力業では手の付けられない事態になってもおかしくありません。そうなる前に……


「さて。そろそろですね、ライリーさん。ミッション開始です」


 使用しますはルビアさんにお願いして分けていただいた培養用の寒天ブロック。そこにライリーさんのスライムボディから株分けしたカビを入れたもの。

 遠隔操作の依り代たるスライム・ライリーさんの分身といったところですかね。本体を使わずに分身をわざわざ作ったのは、もしもの時のためです。


 見定めましょう。

 この事態をいかに終息させるべきかを。







side テーレ


 サンプル採取の時、命綱として頼りにしていたコットンの毛が急に使えなくなったのはかなり危なかった。

 けれど、そのおかげでわかったこともある。


「やっぱり、意思伝達に干渉する強い波動……いわゆる『思念波』みたいなものが常に発生してるわね。これで情報を共有して群体として学習しつつ、同じく思念を利用するコットンの羊毛操作を妨害していた。妨害の方は偶発的な混線だろうけど」


 『思念の波』というのは、実の所それほど珍しいものではない。


 そもそも、私たち『天使』の敵である『悪魔』だって本質的には精神だけの存在だ。

 彼らが人間に語りかけるとき、その声は空気を震わせているわけではなく思念を直接心に送っている。それを言葉として理解できるほどはっきりと受け取るには元々の波長が近いか調節するかしないといけないけど。

 逆に言えば、その波を乱してしまえば思念で情報共有する同種族であっても交感は困難になる。


 コットンの思念を発する羊毛で土蔵の中を外の思念から隔離して解析していることが他の感染者に伝わるのを防いでいる。

 そして、その中で実験してわかり始めたこともある。


「血管が黒く変色して浮き出る症状……これは、単純に血液中に黒い粒子が大量に混ざり込んでいることが主な原因ね。そして、肉の部分は血を完全に抜くと変化なし。さらに、この黒くなった血液を新鮮な血液に混ぜると、すぐに真っ黒になる……つまり、これが根本的な原因。病原体そのものみたいね」


 血液が黒くなると一口に言っても、全身の細胞から肺に集まる古い血液は黒くなるし、乾燥すれば赤黒くなる。こうしてサンプルを見るまで確証は持てなかった。


 けれど、これでわかった。

 この病原体は、肉体を変化させてその結果として血液を黒く変えるのではなく、血液中に居座る黒い物体だ。

 そして、それは感染者の口内に染み出し、噛みつきによって直接血管に入り込むことで次の人間の血液に侵入する。


「黒色化血液を水に希釈すると血液に混合しても反応しなくなりました。おそらくですけど、これは塩分濃度や鉄分が常に一定以上でなければ生存できません。血液や体液以外の液感染や空気感染の心配はほとんどしなくていいと思います」


 ルビアも分析を手伝ってくれている。

 流石は魔法知性学の微生物分野専門だけあって、限られた時間の中で調べることが適切で無駄がない。

 専門分野は違っても流石は『癒し手』の一族、ココアの娘だ。


「感染方法が限られてるなら、問題はどうやって治療するべきかってことね。全身の血を抜いて濾過するわけにもいかないし……」


 問題は相手の病原体だ。

 これは『ウイルス』ではない。元からこの世界ではあまり馴染みのない概念だけど、それはそもそもウイルスというものがあまり脅威ではないからだ。


 ウイルスは一定以下のサイズの病原体。

 魔力を利用することのないほどの極小の微生物。無神領域ならばともかく、この西岸地方ではそもそも『魔法を使えない微生物』なんて脅威にならない。


 生物が無意識に行っている体内の改変で有害なウイルスは増殖する前に停止する。

 それを突破するのは極少範囲であっても魔力を使い、その改変に対抗する細菌以上の病原体だ。

 一つ一つの菌は弱くとも、それが集まって方向性が揃えば体外まで影響を与えるような魔法を発現する。


 欲求は原始的だからその大抵はより遠くに自分達を拡散させたり外部からの治癒魔法に対抗したりって現象に限られる。

 けど、今回の場合はそれが人間の肉体を操って積極的に新たな繁殖先を求めたり、思念を発して互いに交感したりするという現象を見せている……それを可能にしてしまうだけの力があるということだ。


 それだけの力があれば、普通に治癒魔法で体内から駆逐しようとしても根絶は難しいだろう。

 現に、このサンプルとして採取した肉塊の一部にルビアが魔法を使ってみても完全には処理できなかった。これなら、物理的に排除するかルビアが実験でやったみたいに生存できる環境そのものを奪うしかない。

 問題はその環境というのが生きた人間の血液の中ということなんだけど……


「血液が黒く染まるほどの繁殖力、凶悪すぎる」


 いくらなんでも、私の『不幸』で変異したとしても、一日二日でこうはならないはずだ。


 さすがに、この性質とも長い付き合いだ。

 私の性質は『不幸を生み出す』わけじゃなくて『不幸が集まってくる』というタイプ。

 世界規模で貧乏くじを押し付けられる立場を約束されていると言い換えてもいい。


 どこかで起こるべきことが偶然目の前で起きるだけであって、どこにもなかった病原体が変異で生まれてくるようなことはそう起こらないはずだ。


「なんの予兆もなしに自然発生するような代物じゃないはず……」


 それに、この魔法の出力、増殖が目に見えるサイズということは……


「細菌じゃなくて、真菌?」


 細菌よりもさらに大きく、その分だけ魔法の出力も高く、複雑な影響を与えるようになる微生物。

 けど、そこまでになるともはや生物の肉体に依存しなくても生存や繁殖が容易になるように周囲の環境をある程度改変し始めるから、むしろ反発をさけるために生物の身体は避けるようになる。

 だから、この世界では病原体として認知されることはまずない。


 けれど、その本来は『病気』ではあり得ないはずの魔法出力が人間に寄生する形で発揮されているとしたら……


「魔本と同じ……術式を再現する『真菌(カビ)』?」


 まさか、そんな……


「あ、ああー!! それです! この拡大図!」


 私の呟きに対して、ルビアが声を上げて自らが模写した病原体の菌の図を私に見せつける。

 ルビアの眼鏡は彼女用に調節された倍率を変えられるマジックアイテムで、ルビアはそれを顕微鏡の代わりとして死んだ菌の細胞を観察していた。

 そして、その図が……


「これ、研究の参考書で見た魔本のカビの細胞図に少し似てるかもと思ったんです! 変異してますけどこれ、同じ種類じゃ……あれ? テーレさん?」


 確かに、同種と判断できるものだ。

 そうかもしれないと思って見なければわからない程度にだけど、菌として進化で変わりにくい部分は一致してる。

 とても、一日や二日で変異するとは思えないくらいに、変異してるけど……


「えっと、テーレ……さん? 私、何か間違えましたか?」


 ああ、そういえば、この村に来る前から、すぐ側にいて、ずっと私の『不幸』に当てられていてもおかしくないものがあったはずだ。


 不定形のゼリーを『人間の形』にすることで身を守ることを憶えて、その状態で何週間と私のすぐ側にあり続けた魔本カビの培地。

 しかも、この村に入る直前……この私の手でうっかり踏み潰して、胞子を四散させてしまったかもしれないもの。


 スライム……ライリー。


「う、ううん! 何も間違ってないから! そう、きっとこれは自然発生した新種ね! 大発見よ! この事件を無事解決したら発見者としてあなたの名前が残るわよルビア・ショコラティエ!」


「ほ、本当ですか!」


「うん、だからこの発見にケチ付けられないように犠牲者を出さずに解決できるように頑張りましょう! 追加調査とかされないくらい完璧にね!」


「は、はい?」


 ディーレ様……もし私のせいで世界が滅んだらごめんなさい。

 全力で頑張って解決するので、どうかご加護を。







side 狂信者


 さて、ライリーさんの方は上手くやっていますかね。

 互換性があればいいのですが……


「最も安易な解決法は厳しくなっていますが、最も平和的な解決法が実践できるかどうかはライリーさんの頑張りにかかっています。まあ、私も用意を進めなければなりませんが……」


 ルビアさんからお借りした魔法知性学の本も今日明日中に読まなければなりませんね。

 自動翻訳されるといっても固有名詞が多いのは専門書の辛いところです。ルビアさんに要点を説明してもらえれば早そうですが、彼女には解析に集中してもらいたいですし。


 ここもいつまで安全に研究ができる環境かなどわかりませんし……おや?

 何やら手がむず痒いですね。手袋の下ですが、汗のせいではなさそうですし、見てみますか。


「これは……」


 手袋を捲ると、手の平に黒いシミが。

 接触した防護服は外に捨てたはずですが……そういえば最初に感染者に襲われたときに、職員さんに触れていましたね。

 あの時は何もなかったはずですが……僅かに胞子でも付いていましたかね。


「ああ、なるほど。外の思念と遮断されていると言っても土蔵の中なら有効範囲というわけですか。隔離されて身動きも取れず、近くにある仲間の反応に対して必死に救難信号を発したと」


 この二日間、全く気付かなかったほど小さな胞子を活性化させるほどの思念を発しているというのなら必死の状況での意志力とは大したものですね。

 さて、さすがにこのまま血液に侵入されても困りますし……


「試してみますか……【点火(マッチ)】」


 幻炎を点火し、手の染みを覆い尽くします。

 物理的破壊力はないものの、錯覚により火傷を負わせることもできる幻炎の灯火……命のない無機物相手には虚仮威しにすらならないものですが、物の試しということで……


「……熱っ、いや、冷たい?」


 サラサラと粉雪が……いえ、氷の粒のようなものが落ち、シミが消えました。


「なるほど、『自己保存』の魔法ですか。これは面白い現象です」


 これなら……感染者の皆さんを救えるかもしれませんねえ。





 主人公でなければ黒幕を出し抜いて『俺は機に乗じて絶大な力を手に入れたぞ!』とか言い出しそうな暗躍ムーブを始めている狂信者。

※あくまでも彼はこの問題を『解決』するために手を尽くしているだけです

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