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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
三章:異常なる『正常者』

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第72話 『妖精界の鍵』➁

side ライリー


 山の中や夜中でなくても、深い霧の中を進むというのは想像以上に怖いものだ。


 自分の足下すら見えないのでは、ほんの小さな段差があっただけでも転んで怪我をしかねない。その恐怖が無意識に一歩一歩の重みを増し、歩幅を狭めて歩みを遅くする。

 そういう意味では、『火で周りを照らして歩く』というのはかなり有効な手だ。


 だけど……


「アルジサマ! そろそろ一回休んだ方がいいよ! これ以上は火傷しちゃう!」


 『自分自身の手を石化させて幻炎を持ち歩く』……あの魔導書を読んで石化の魔法を体得したからこそできることだけど、それでも限度がある。


 石化していても、感覚は鈍感になるだけでゼロになるわけじゃない。

 短い時間ならともかく、もう一時間は続いてる。

 熱は蓄積して『温かい』の範囲を既に超え始めている。


「もう大分進んだから! 少しくらい休んでも大丈夫だよ!」


 アルジサマは早歩きで前進を続けている。

 走らないのは、道が真っ直ぐなことを確かめながら、周りを観察しながら進むため。『知らないうちに方向が変わっている』ということのないように、この世界に隠されているかもしれない『何か』を見逃さないため。


 そのアルジサマが、私の声がようやく届いたのか、足を止める。


 三時間という時間制限の内、三分の一を消費してひたすら愚直に真っ直ぐ進み続け……


「うーむ、これは単純に歩いて出られるタイプのゲームではないかもしれませんねえ」


 あっさりと、これまでの方向性を『否定』した。

 火傷寸前まで熱された石腕から火を消して、意識の問題なのか軽く振って冷ましながら頭を捻る。


「ライリーさん、もう一度最初の方の記憶をお願いします。私が進み始めてからの数分間で視界に収めた像です」


「は、はい!」


 夢魔としての能力の応用。

 記憶を元に夢を作る能力を使った擬似的な写真記憶。

 絶対に使い魔のインキュバスとしては間違った用途だと思うけど、今の所わたしが、危機感知以外で一番頼られている能力。

 記録していたそれを、白昼夢のようにイメージとしてアルジサマの意識に流し込む。

 そして、数十秒して……


「やっぱりです。景色が全く同じ場所がループしています。それに、念のために拾った石を並べて付けておいた目印が目の前にあります。形は全く一緒です。これは道なりに行っても出られませんね」


 ここまでの試みを『失敗』だと結論付けた。


「そ、そんな……じゃあ、どうすれば……」


 わたしが歩いたわけじゃない。

 徒労をしたのはアルジサマ……だけど、元はといえばわたしの存在が『弱み』になったから、アルジサマがこんな不利な勝負を受けることになってしまった。

 一体どうすれば……


「ふむ、では次の手を考えましょうか。勝てるルールではあるそうですし、アプローチを変えてみましょう」


「ア、アルジサマ……?」


「なんですか? 何か妙案があれば遠慮なさらずに」


「そうじゃなくて……あんなに歩いたのが無駄だったのに、落ち込んでないの?」


 一時間、ひたすら早歩き。

 しかもその間は魔法を発動しっぱなし。

 疲れないはずはない。この状況の一端であるわたしに少しくらい不満をぶつけても全く変ではない。それなのに……


「無駄ではありませんよ。『先程までのやり方ではできないようだ』とわかったのです。さて、ならばどうするべきか……とりあえず、真っ直ぐ進んでもループするということはおそらく道を間違えて遭難するということはなさそうですし、今度は火はなしで行きますか」


 彼はただ、前だけを見ている。

 霧で何も見えないくらいなのに、その先を無理やりにでも覗き込むように、真っ直ぐに。


「さて、これが単にマラソン型の運動能力を求めるものや邪魔者の妨害を掻い潜るものでなかったのを考えると、ループする閉鎖空間からの脱出ゲームと考えるべきでしょうか。すると、幻炎を使いながらでは予定のフラグが発生しなかったということも……それか、何かを見落としましたかね?」


「見落としたなんて……火を付けてて何も見つからなかったのに、火を消したらもう霧しか見えないのに……」


 暗中模索、いや五里霧中……と、言うらしい。アルジサマの本来の言語では。

 今はまさに周りが霧だらけだし、何も見えないけど……


「なるほど、さすがライリーさんです。確かにその通り、賢いですね」


「え、え? 賢い?」


「火を付けていたせいで見えなかったもの。それは霧そのものです、これは私の失策でした。最初からヒントが目の前に提示されていたのにわざわざそれを退けてしまうとは。それはアンナさんも黙ってしまうはずです。そこに気付くとは、ライリーさんは頼りになりますね」


 全然そんなことは考えていなかった。

 言われてみれば確かにその通りではあるけど、それは霧以外何もなかったからわかったことであって……いや、それがアルジサマの言う『無駄ではなかった』ってこと?


「思えばこの世界に来たときから風が妙な動きをしていると思っていたはずです。そして……霧があれば、風の動きは目で見える」


 足を止めて、じっと霧を見ている。

 霧を通して、風を見ている。

 そして……


「あ、風が……避けて通ってる場所がある」


「はい、私も見えました。そして……認識できました」


 そこには、一人のお婆さんが座っていた。

 ボロボロのローブを着て、石の上に。

 今までなんで気付かなかったのかわからないくらいに、逃げ隠れせずに。その手に何かを抱いて、俯いていた。


「抱いとくれ……抱いとくれ……この子を、抱いてやってくれんかね?」


 お婆さんが抱いていたものは、赤ん坊だ。

 この赤ん坊にも、今まで気付かなかった。


「ある種の反ミーム性……周囲を満たす霧と風から、『何もない場所』を意識しなければ認識すらできない存在、というわけですか。なるほど、『忘れられたみんなの世界』というのはそういう意味だったわけですね」


 アルジサマは、お婆さんの前に膝をついて手を差し出す。


「もし、お婆さん。その子を抱いて、どうして欲しいのですか? あやしてあげればいいのですか?」


「いんや……儂はもう歩けんで、霧の外まで連れてってやってくれんかね」


「残念ながら、私はどうやったら霧の外へ出られるのかを知らないのです。その願いを叶えるには、霧の外へ出る方法を教えて頂かなくては」


「この子の喜ぶ方へ行ったらええ。そっちが霧の外じゃ」


「なるほど、わかりました。霧の外に出たらこの子をどうすれば?」


「心配はいらん。この子はまだ若い。思い出してもらえれば、そこに帰るだけじゃ」


 赤ん坊を受け取り、大事に抱く。

 そのまま立ち上がって周りを見回すと、一つの方向を向いた時だけ赤ん坊がキャッキャと笑う。


「では、行きましょう。この子の喜ぶ方向へ」


 とことん前向きで、強くて、揺るがない。

 付け入る隙もないほど全力で、ちょっとのことから簡単に壁を乗り越えてしまうアルジサマ。

 わたしは、その姿に……何故だか、ちょっと嫌な気持ちになった。






side 狂信者


 さて、この手の話は地球にもごまんとありますし、予想していたことではあったのですがね。


「子供を抱いてやってくれ……あるいは歩けないから背負ってくれ……子泣きの翁に産女(ウグメ)さん、あのお婆さんもその親類でしたかねえ。困りました」


 頼みは厳密に実行したいところですが『抱いてやる』というのは既に少々無理なので背中に負ぶっている状態です……いやあ、困りましたね。

 一歩一歩がこれほど重いとは。


 『子供や老人を見つけて背負ってやるとどんどん重くなり、驚いて落としたりすると祟られる』という怪異譚は昔からありますが、自身で体験することになるとは思いませんでした。


 『子泣き爺』と呼ばれる妖怪さんは泣くほど重くなるそうですが、この赤子は喜ぶほど重くなる様子。

 しかも、正しい方向へ進むほど喜ぶというのだから重くなるのを止めるわけにも行かず……まあ、泣く子をあやすというならともかく喜ぶ子を泣かすというのは最初から無理な話ですが。


「一番の問題は……この世界の人間の基本ステータスですかねえ……魔力があるからって、基準上がりすぎでは?」


 背負っていて見えませんが……この赤ん坊、体積からしてどんどん大きくなってきています。今現在、おそらく身長3mほどですね。

 いくらこの世界では魔力で肉体が強靭になっているといっても、さすがにこれはキツい。バランス感覚的にも今にも倒れそうです。

 しかし……


「霧が……薄くなってきていますね……ゴールは近い……」


 少なくとも、正しい方向へ向かっていることは確信できています。

 ループしていた時と違って、着実に『霧の外』へ近付いているのがわかります。

 ならば……進むだけ。簡単な話です。


『ねえ、アルジサマ。まだ頑張るの?』


「ライリーさん、どうしました? 何か問題が?」


『アルジサマ……別に、無理して外に出なくてもいいかもしれないよ。アンナがアルジサマの代わりをやりたいんなら、それでもいいかも』


「……確かに、アンナさんは強いですし。そちらの方が効率的かもしれませんねえ……しかし、私は丸投げはあまり好きではないのです。いえ、できないことを無理にするよりは適任者に丸投げした方がいい場面もあるでしょうが」


『……アルジサマがここに閉じ込められても、わたしはずっと一緒にいるよ?』


 おやおや、ライリーさん……ここに来て、悪魔らしい甘言を。

 まあ、極限状態では自分の中の天使と悪魔が争うというような話もありますし、私のようなそういった葛藤が苦手な人間の穴を埋めて、別の選択肢を提示してくださるというのは大事な役ですが……


「ライリーさん。それは無理ですよ……それでは、ライリーさんとの契約も果たせないでしょう?」


 そもそもとして、ライリーさんも外に出る理由があるでしょうに。

 その目的を果たすまで私に使役される……それはいいのですが、それならば私はその目的を果たすことに協力する必要があるのですから、ここで止まることはできませんよ。


「ライリーさん、何故そんな提案を? 私が聞き入れないのはわかるでしょうに」


『…………なんか、眩しいから』


「……そうですか。私が?」


『うん……眩しくて、嫌な気分。わたし、何にもできないのに……わたしだったら、同じようにできないのに。そんな笑いながら……前に進めないのに』


 同じようにできない……というのは、肉体の有無とは別の話でしょうね。


 まあ、言いたいことはわかります。

 ライリーさんの抱いている『嫌な気分』というのが、おそらく劣等感の類だということも。

 だとしたら、言うべきことは一つです。



「そう簡単に……同じようにされてたまりますかって話ですよ。これでも私は、それなりに頑張って前向きに生きてるつもりです」



 才能なんて言葉は嫌いなんですよ。

 努力なんて言葉で自分を表現できるほど、私は何かを目指して生きていなかったんですよ……そこまでの価値を見出せるものと、出会ったことなんてなかったんですよ。

 だから、私が自分を表現するのなら……ただ、笑うしかないほど一杯一杯というだけです。


「私、根はとてもネガティブな人間ですから。だからこそ、前だけを見ないと死んでしまいそうになるんですよ。ひたすら死なないために、私の幸福を見つけるまで死にたくないという願いのためだけに、こう生きることを決めたんですよ。願い続けて、前を向けるようにしたんですよ」


 何故笑うかなんて、そんなもの笑えなくなったら負けたみたいで嫌だからに決まってるじゃないですか。

 笑っていられる内はまだ戦える、まだ生きていられる。私が笑う理由なんて、それを確認し続けているというだけですよ。


『そんな……』


「ライリーさん……流星は、見えますか?」


『そんなもの……見えるわけ、ないじゃん。この霧の中で』


「そうですね。では、まだ負けを認める時ではないということです」


 また一歩、歩を進めます。

 もはや、赤ん坊の頭が大きすぎて前もろくに見えないくらいですが、方向が正しいのなら見えなくても進めます。


「今はディーレ様のおかげで死なない理由がありますが、しかしだからといってまたネガティブに戻るつもりはありません。私も別に大魔導師やら剣聖やらといったものになれるような才能も軍事やカリスマの素質もありませんが……その代わり、できることは何でもやるつもりです。目的達成を最優先とすることを考えるのなら手段とは選ぶものではなく取るものですから」

 

 ですが……そろそろ、問答しながらの進行は限界ですかね。


「ライリーさん……本当に、何もできませんか?」


『……え?』


「何もできないというのならせめて声援だけでもお願いします。そろそろ根性論が物理法則を超えられるかの実証実験段階に入りそうな感じなので」


 そろそろ、もしやこのゲームが『勝てる仕様』だというのはアンナさんの筋力を基準にしているのではないかと薄々感じ始めている頃合いなのですよ。気を抜くと潰れそうです。


『……手段は、選ぶんじゃなくて取るもの。なんでもやってみるべきってこと?』


「まあ、一応リスクやコストの計算はしますがね。しかし……案外、やってみたらできてしまう、ということもありますからね」


 しばしの沈黙。

 まあ、テーレさんに同じことを言えば『できちゃ困ることまでやりそうだから何となくでやるな』と言われそうです。それこそ魔法の習得とか。

 基本こそアーリンさんに教わりましたが、結局の所『何度もやってみたらできるようになっていた』というのが実際の感想ですし。


『なら……やってみて、いい?』


「おや、何か妙案があるのですか?」


『うん……ちょっと魔力使わせてくれれば、多分できる……はずだから。もしかしたら、身体に負担がかかるかもしれないし失敗したら……』


「その時は私がストップをかけます。やってみましょう」


『え、本当にいいの……? 危ないかもしれないのに……』


「魔法の原理は知性体の意志。『現実はこうあるべき』という理想を心の外に出力することです。極端に簡潔に表現すれば『できると思うからできる』、それだけですよ。なら、変に『失敗するかもしれない』と身構えながらやるよりも『試しにちょっとやってみる』くらいでやった方が成功率が高いでしょう。一度できればもう習得したと思えばできるわけですし」


 『できるはず』ということは、何かできるという根拠があるということでしょう。ならば、できそうな気分になったときにやってみるのが一番です。


『………わたしは、まだアルジサマみたいにはできないけど……アルジサマの役に立ちたい。アルジサマの力になりたい……天使よりも』


「それは……天使と悪魔という種族的な対抗心からですか?」


『……わかんない。アルジサマ、こんなこと考えちゃうわたしは悪い子でしょ? 嫌いになった?』


 これは……昨日のルビアさんとの一件の影響ですかね。

 誰がパートナーとして選ぶのに一番合理的か、私が誰を選ぶのか云々という……私としては、ライリーさんは私個人の付属戦力のように認識していたのですが、ライリーさんは『個人』として私と共にあるべきかどうかをどこかで悩んでいたと。

 というのなら……


「ライリーさんとテーレさんの仲が良好ではないのは少し残念ですが……まあ、それはまだテーレさんにライリーさんの詳細を説明していない私が悪いとして。ライリーさんの向上心は大変好ましいですよ。『自身の有能を示す』という幸福論もあるでしょう……それがライリーさんの幸福への道だと思うのなら、躊躇うことはありません。それが私を誘惑することになろうとも、私はあなたを嫌いませんから」


 ライリーさんは私がテーレさんを愛していると知りながらテーレさんとの関係を損なうと、平たく言えば転生特典としてのテーレさんの面子を潰してしまうことを危惧しているのはわかりました。


 それで私のテーレさんへの気持ちが揺らいだら嫌われるかもしれないとは……可愛らしい心配事です。

 仮にも悪魔を名乗るのならもっと堂々と私を魅了すると宣言してもいいくらいなのに。


『……アルジサマ、ちょっとズレてるよね。だからバカってよく言われるんだと思うよ。でも……安心した』


 ライリーさんがそう言うと……不意に、背負っていた赤ん坊が軽くなりました。いえ、赤ん坊のサイズは大きいままですし、これは……


「『身体強化』、ですか?」


『鎧の中では使ってたはずだから……どうやってたか、思い出せなかったんだけど……やれるはずだと思ってやってみたら、できた』


 なるほど、そういえばテーレさんの話ではコインズの街では完全に人外域の膂力で暴れ回っていたとか。

 さすがにそれは肉体への負担を気にしない場合だけでしょうが、これでも十分楽になりました。


「ありがとうございます……流石はライリーさん。本当に頼りになります」


『まだ慣れてないから、あんまり長続きしないかも……急いで、アルジサマ』


「はい、一気に駆け抜けるとしましょうかね」


『うん!』




 速度を上げ、先に進み続けると霧がどんどんと晴れていきます。

 同時に赤ん坊も重くなっていきますが、それでもギリギリ……ライリーさんの強化を受けてギリギリ、足を止めずに進むことができる重さで……ふと、背中の重みが消えました。


 赤ん坊を落としたわけではありません。本当に唐突に、まるで霞にでもなってしまったかのように消えてしまったのです。

 急に身体が軽くなったために、危うく転倒しかけましたが、真正面から柔らかな抱擁によって抱き留められました。


「はい、お兄ちゃんの勝ち。よくできました」


 アンナさんです。

 いつしか霧は完全に晴れていて、場所もレグザル治療院の庭先。不思議なことにあんなにも歩いたのに、ほとんど移動してしません。


「アンナさん……失礼しました、すぐに離れます」


「だいじょーぶ、これは私からだから」


 そう言って、さらに強く抱き締められ……奇しくもテーレさんがされていたのと似た構図で、胸に押し付けられながら、額に柔らかなものが触れました。


「ちゅっ……はい、最後まであの子を落とさなかったご褒美。『妖精界の鍵』あげる」


「『妖精界』……とは?」


「さっきの場所。みんなに気に入られた人にしか見えないお隣さんの世界。人の世界から隠れたくなった時は、あっちに隠れるといいよ。でも、慣れない内はあんまり動き回らない方がいいかな……迷子になったら、こっちの一日でお爺ちゃんになったり、あっちの一日でこっちの何十年も隠れることになっちゃったりするから」


 まるで神隠しや竜宮城のような話ですが……確かに、こちらの日の高さなどを見る限り、本当に一時間どころか数分も経ってないように感じられます。


 要するに……最初に決めた『三時間』はあちらでの数日間、だったのかもしれませんねえ。

 アンナさんがどちらの基準を採用するつもりだったのかはわかりませんが、思ったよりも無茶な条件ではなかったのかもしれません。


 しかし……


「アンナさん、その『妖精界』をよく知るあなたは……」


「ふふ、お兄ちゃん。まだママは帰ってこないし、もう少し遊びましょ? 今度はお兄ちゃんの好きな遊びを教えてね?」


 まだ遊び足りない様子のアンナさん。

 どうやら、まだ遊びは終わらないようですねえ。


 そういえば、『妖精』といえば地球のヨーロッパにはこんな話がありましたか。

 『生まれたばかりの子供を自分の子供と交換してしまう悪戯者の妖精がいる』……そして、中には取り替えられたことに気付かれず人間として育てられてしまう妖精もいるとか。

 つまり、妖精と人間の構造はすり替わっても気付かない程度には『基本的に同じ』なのかもしれませんね。


 そして、テーレさんを『母親(ママ)』と認識するアンナさんが私にしようとしたことは……いいえ、やめておきましょう。

 危うくこの歳になって『取り替えっ子』をされそうになったなどというのは、子供かと笑われそうな話ですし。


 しかし……


「そうだ! お兄ちゃん、今ならちょっと動く遊びでも危なくないでしょ? お兄ちゃんが言ってた『だるまさんが転んで』っていうの教えて!」


 ライリーさんが私を強化してギリギリの『勝てるルール』。


 もしかしたら、アンナさんはこうなることまで理解して、こうすればクリアできるからこそ、このルールでの勝負を仕掛けてきた……単純に、もっと心置きなく遊ぶために、そしてライリーさんとも一緒に遊ぶために誘導していた、なんていうのは、考えすぎですかね。







side テーレ


 私はココア・ショコラティエという癒し手を一族きっての天才肌だと思っている。

 才能の遺伝に浮き沈みがあるのは当然だし、『癒し手』が記憶の継承で技術を維持できるといっても心と心で向き合う仕事である以上、性格により得手不得手があるのはしょうがない。


 その上で言えば、私が見てきた彼女の一族の中で一番『癒し手』に向いた性格をしているのがココアだという話だ。


 いつも余裕のある態度で話のペースを掴み、相手を安心させるのに適した態度を維持できる。

 それはある種の才能だろう。


 そのはずなんだけど……


「ど、どうしたのココア……そんな顔を表に出すなんて」


 憔悴した表情。

 普通の人間なら『疲れているようだ』で済む話かもしれないけど、ココアをよく知る私からすれば異常事態だ。

 能力を使っての診察が疲労を伴うのは知ってるけど、これほどとは……


「……無意識に殺されかけたわ」


「……は? 誰に? あいつに!? そんな、いくらあいつでもそんな考えなしなこと……」


「違う違う……彼の『無意識』に殺されかけたのよ。いえ、触れた私が勝手に死にたい気分になっただけなんだけど……テーレ、彼にルビアを任せてもって話、なかったことにしていい? いいわよね。ていうかやめて、私から提案しておいて悪いけど」


「いいけど……あいつの心、そんなに酷い病気なの?」


 正直、何らかの精神病だと言われることは覚悟していた。


 けれど、それでもココアはどんな『患者』に対しても好き嫌いは言わない。

 治す者が治すべき相手を選り好みするのは恥だと臆面もなく言えるタイプの人間だ。

 そんなココアにここまで言わせるなんて……あいつ、何やらかした?


 仮にも従者の立場といえど、事と次第によっては対応を考える。


 ……けど、もしもの話だけど、ココアの言ってることが単純に『手の施しようもない重い病気』ってことだったら……


「まず、初めに言っておく……確かに、彼の精神には『歪み』があるわ。おそらく発育上での過重(ストレス)を起因とするものね。それを病気と呼べないことはない……けど、もっと根本的なところ、その原因は『病気』なんかじゃない。彼の……彼自身すらちゃんと認識できていない『個性』よ」


 あくまでも『病気』ではないという念押し。

 それはつまり、『治せないものである』と同時に『悪いものではない』ということを意味している。

 だとすると……


「その『個性』ってなんなのよ? あんたをそこまで参らせるような精神の根底に、何があったっていうの?」


 しばしの沈黙。

 ココアは手の甲で目を隠し、少しだけどう表現するかを悩んだようだった。

 そして……私に問いかけた。


「テーレあなた……『完全記憶能力』って知ってる?」





『妖精界の鍵』


 『長野山中の妖怪の楽園』とか『トンネルの向こうの湯屋』とか『名前を付けてはいけないあの場所』とか『9と3/4番線』とかにも調節(チャンネル)次第で入れそうな(アカウント)

 まだファンタジーが壁一枚向こうにある世界ならいつでも隣人たちの住処に遊びに行けるフリーパス。

 

 なお、ティンカー・ベルみたいなタイプの妖精が一般化する前の『妖精』は意外と悪戯(やること)がエグいので使用時には注意。

 

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[一言] 後書きのものはそれぞれ「千と千尋の神隠し」「ゲゲゲの鬼太郎」「SCP」「ハリーポッター」で合ってますか?
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