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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』

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第29話 旅の目的

side 狂信者


 女神ディーレの加護に心からの感謝を捧げます。


 小柳くんの最後の抵抗により発生した火災のどさくさに紛れて荷物を回収しラタ市を脱出したのは良かったのですが、突然の天気雨からの土砂降りには驚きました。


 テーレさんのバックパックに野営用の装備があったものの、疲弊したテーレさんを連れて次の街まで行くには厳しい天候かと思ったのですが、泥で足を滑らせてしまい滑落した先に雨をしのげる廃屋を見つけられたのは本当に幸運としか言えない。


 しかも、どうやら盗賊の方々が非常用の拠点として使えるように備品を整えていたらしく、すぐに火を焚いて暖をとることができましたし。


 まあ、私は深めの泥に落ちて全身泥だらけになりましたが。そのおかげで衝撃も大したことはありませんでしたし、泥を洗い流すきれいな水は雨ですぐに溜まったので問題はありません。


 テーレさんに様態を尋ねると、単純な疲労とそうかわらないので食べて休めば治るとのこと。


 そのため、銀貨を何枚か棚に置いて勝手に交換させていただいた干し肉と根菜の干物、そして割ったガリの実と香草を加えた簡単なスープを作りテーレさんと二人で食べてようやく落ち着いたところです。


 さてと……


「では、テーレさん。提案です、腹を割って話し合いましょう」


「……やっぱり?」


「これまで最小限の言葉しか発せず黙々と食事を進めてきたのは言葉を選んでいたものと思いまして。タイミングとしてはここがベストかと」


 テーレさんは疲労もありましたが、それ以前にいろいろと気まずくて話せないといった様子にも見えました。切り出すのはやはり私の役目でしょう。


「今回のことは、私たちのコミュニケーション不足が招いたことでもあると言えますし、これまでこういった機会を用意しなかった私にも責任があります。私たちの選択次第では失われなかった命もあるのですから」


 私が敵の存在を確定しようとして操られたテーレさんをそのままにしなければ、そしてテーレさんが単独行動をして操られなければ、ああはならなかったでしょう。

 反省は次に活かすために振り返る必要があります。罪への罰や責任の追及というのも重要ですが、最重要とは言えません。


「……わかった。うん、そうだね……もう、ほとんど知ってるんだよね。ターレに言われて。なら、あんまり隠す必要もないかな」


「提案は受け入れられたようですね。では、まず質問したいのですが、小柳さんの干渉を受け始めたのはいつかわかりますか? おそらく彼とターレさんに都合の悪い記憶を忘却させられていると思われるので、答えられない質問をしてしまい悩ませることがないようにしたいのです」


 テーレさんは私の質問に対して目を閉じ、しばし熟考します。そして、十秒ほどで答えを得たようで、目を開きました。


「今日の昼頃、坑道の下見をしてた途中から記憶が曖昧になってる時間がある。多分、その辺りで能力を使われたんだと思う。ターレが関わってるなら天啓……天界との通信で使う念話みたいなものを利用されたのかもしれない、推測だけど」


 なるほど、爆発の件は濡れ衣を着せてしまったようですが、大方の手口は間違ってはいなかったようですね。


「その天啓というのは所謂『お告げ』のようなもののようですが、それは人間にも発信できるものなのですか?」


「『発信』はまずできないはずだけど、通信さえ繋がれば電話みたいに両方向だからターレが仲介して受話器を重ねて置くみたいな感じで私に能力の付加された言葉を届けたんだと思う。天啓は受信側の感度が高くないとはっきり聞き取れないし、そうやって仲介を挟むと音質が悪くなるから誰にでも使える手じゃないけど」


「なるほど、了解しました。つまり、やはりギルドへの到着が遅れたあの時から、テーレさんは彼の影響下にあったと。行動に異常を感じたタイミングとも一致します。ちなみに、空白部分以外の記憶はどうなっていますか?」


「憶えてるよ……うん、全部憶えてる。身体が勝手に動いたわけじゃなくて、その時の自分がどんな考え方をしてどういう行動をしたかも全部思い出せるよ。理解とか共感ができるかどうかは別だけど」


「まあ、そうでしょうね。呪紋(ルーン)を刻んだ盗賊の方々もそういったことを言っていました」


「……試したの? 私が嘘を言えるかどうか」


 おや、念のための確認でしたがそう捉えましたか。

 確かに、嘘が言えるなら『記憶が曖昧でよく憶えていない』と言いたくなる不躾な質問でした。反省です。


「わかってるみたいだし、この際だから正直に言うよ。私は『従者』としてこの世界に存在しているから、『御主人様(マスター)』であるあなたに嘘は言えないし、はっきりと命令されればどんな内容でも逆らえない。あと、相手が今回みたいに『絶対命令権』みたいな能力を持ってて『自分の命令を本来の主人からの命令だと認識しろ』って言われちゃうと精神抵抗力に関係なくほとんどの命令に逆らえなくなる。まあ、あくまで誤認だから所有権の移譲とかは無理だけど、相性は最悪だった」


 能力の相性をここまではっきりと説明できるということはきっとテーレさんは最初から『従者』としての自分の弱点を把握していたのでしょう。

 そして、本来は真正面から攻撃されたなら最初の認識操作自体を直接口を封じるなり聴覚を閉ざすなりして回避できるのでしょうが、今回は味方と思っていたターレさんを介した奇襲で対応が間に合わなかったのでしょうね。


「本来は転生特典の説明として最初に言うべきだったけど、敢えて言わなかった。それどころか、高圧的に振る舞って、言うべき情報も隠してた……ごめん」


「はい、そんな気はしていました。心なしか口調が強かったのは私が偶発的に命令口調になることを防ぐためですね。そして、情報を制限したのは、私の行動を誘導しやすくするため。それで合っていますか?」


「その通りだけど……効果はほとんどなかったみたいね。いろんなパターンを想定してプランを立ててたけど、こんな転生者は想定してなかった……まあ、想定通りだったらバックアップを頼んでたターレが裏切った時点で詰んでたけど」


「そこまで入念な準備をしていたということは、やはり何か具体的な目的があるのですか。そして、そのために私を思いのままに動かす計画を立てていた。その目的というのは……」


「『聖地の創建』。それも、勝手に名乗れるようなものじゃなくて、主神様の神殿の役割をしてる『中央教会』に正式に認められた、中央教会公認の宗教都市としての『聖地』が必要なの」


 なるほど……ノーツ女史からは、名のある神々には都市という規模での『聖地』を持つと講習で習いましたが、女神ディーレについては主神様の直属と言う点では三大女神と同格であるはずなのに『聖地』がないとも言っていましたね。

 そのため、主神様との繋がりが強いというよりも三大女神の勢力から離れて孤立していると認識されているとも。


 信仰こそが神々の力となるというのなら、そういった『軽視される要素』というのは実在としての神々にも弱体を及ぼすことは想像に難くありません。


「『聖地』を創建するには、まず『中央教会』の承認が必要。そして、その承認を得るには、私をコントロールする必要があったと。さすがにテーレさんが『私は天使だから聖地を造れ』と言うのはルール違反なのですね」


「一応、私は転生特典としてくっついてきてることになってるから。主役は転生者自身じゃないと意味がない。だから、段階を踏むことになるけど、まず『中央教会』に認められて領地と都市の統治権を得なければいけない。そして、王侯貴族でもない転生者がそれを手に入れるには、人類に有益な何らかの『偉業』を成し遂げて『中央教会』から『偉業の称号』、いわば勲章みたいなものを五つ以上受け取る必要がある。」


「勲章、ですか」


「そう。流行病の治療法を確立したり、戦争を勝利に導いたり、場合によっては一つの事案を解決することで脅威の撲滅とそのための手段の発明とかで一度に複数手に入ることもある。『偉業の称号』は職業(ジョブ)の条件にもなってて、例えば『教皇』とか『剣神』、『大魔導師』みたいな何人もなれないような職業になるには一定数の『偉業の称号』が必要になる」


 『偉業の称号』……おそらく、私が得た『狂信者』のような潜在能力や才能によるものとは完全に区別される、『行いの結果』を重視するシステムでしょう。

 実力があるのなら人類に奉仕せよ。そして報酬として地位も名誉も手に入る。実に合理的です。


「『聖地』の創建は最終目標だけど、過程として『偉業の称号』が必要になる。そのために偉業の達成とわかりやすい名声が必要だから、まず初めに冒険者として活躍するはずだった。転生者がハーレムを作りたがったり名誉欲に溢れてたりしたら楽だったし、安全に楽していい暮らしがしたいっていうなら徹底的に後方向きに育成してパーティーメンバーに優秀な冒険者を揃えれば良かった」


 ふむふむ……つまり、テーレさんの視点からしてみれば、私の転生は育成ゲーム、かつ名声を高めてランクアップしていくシミュレーションゲームのようなものだったわけですか。

 そして、私はともかく一般的な転生者の方々はロールプレイングゲームのような感覚で活躍を望む場合が多いので、その希望に沿って効率的に有名になりながら力を付けられるようにプロデュースするつもりだったと。


「まさか、転生者が好き好んでこんな固いガリの実を食べるような、美味しい食べ物すら求めない変わり者だなんて想像してないし」


 テーレさんはガリの実が本当にお嫌いなようですね。

 私はかなり好きなのですが。極端に食べにくいだけで、栄養バランスも割と良いようですし。


 しかし、まあ私に粗食の気があるのは認めましょう。

 好き嫌いは理解しますが現状の私にはあまり嫌いな食べ物というのはありませんし、味に対する優劣という感覚もよくわからないので、どうしても安くて栄養的に充実していればそれでよしと納得してしまいますし。


 つまり、テーレさんは私を餌で釣ろうとしたものの、好物を用意できなかったために思惑通りに行かなかったというわけですね。


「最初から正直に言ってくださればよかったと思いますがねえ……」


「ホント、今から思えばそうするべきだったけど、『新しい人生をあげるけど、感謝して神様のために一生尽くしてね』なんて言ったら」


「私はそれで構いませんでしたが」


「……大抵の日本人は『第二の人生はありがたいけど、利用されるのはごめんだ』とかって反発するのよ。最近の人は特に」


「我が儘ですねえ」


 まあ、『神様は人間を救って当然』と認識している人は救いに対価を求められればそういう反応をしますか。

 それで、転生システムはあくまで布教はついでであり、本題は理不尽な死の補償だということになったと。その方が遠慮なく能力を使ってくれて布教になりそうですしね。


「それに……」


「『ディーレ様が女神の中では力が弱いことを知られると、他の女神に改宗されるかもしれない』といったところですか。知名度や小柳さんの発言からすると」


 テーレさんの表情は……『図星』ですか。

 命の恩神を捨てて宗旨換えすると思われていたとは、心外ですね。まあ、今はそうは思っていないために話してくれる気になったのでしょうからいいのですが。


「私の仮定想像空想のレベルでの理解ですが、神々にとっての『聖地』とは貴族にとっての『領地』に近いものですか? そして、ディーレ様は主神様との個人的な恩義によって爵位を持っているものの、領地がない。だから領地を持つ他の女神より立場が弱いと」


「大方その理解でいいよ。強いていうなら、『聖地』は信仰を集める『財源』の意味合いが強くて、同時に信仰を効率的に集積して回収するための機構(システム)でもある。団体に旗印を貸し出して得られる信仰とは桁と安定性が違う」


 なるほどなるほど。

 そういえば、ディーレ様も与えられる能力が他の神々より小さいというようなことを口にしていましたね。それも、神様として使える信仰(リソース)の問題だったのでしょう。


 おそらく、ディーレ様にとっては転生者一人送り込むだけでも精一杯、失敗はできなかったからこそ、ディーレ様に忠実なテーレさんがこの転生での布教を確実なものとするために危険を冒して私と共にこの世界へ降りたのでしょうね。


 確実を期すためには、人柄の保証できない転生者に方向性を任せるわけにはいかなかった。

 だから、テーレさんが舵を取れるように誘導したかったと。


「了解しました。では、聖地の創建を目指すとしましょう。計画はもう練ってあるのでしょう、テーレさん?」


「……ターレから、私の『呪い』のことは聞いてるんだよね。本当に、私の方針に従うつもりなの? 私と一緒にいるつもりなの?」


「さすがに、あまり悪い方法なら命令で止めさせていただきます。お互いのためにも」


「そうじゃなくて……ターレはあんなだったけど、他のもっと純粋で忠実な天使との交換もできるよ。元々、特典を利用して付いてくるのを勝手に決めたのは私だし。転生者にも従者に条件を付ける権利くらいはある」


 ターレさんの言っていた従者の交換については真実でしたか。

 まあ、結論は変わりませんがね。


「では、テーレさん。あなたを正式に私の従者として指名します。あなたの呪いも込みで、あなたの性格の悪さも込みで、一緒にこの世界を生きてみたいのです」


「なんで……わからない。ディーレ様以外はみんな、私の呪いを知ったら距離を置いたのに……マゾなの?」


「さあ、確かに愛の表現であれば痛みも甘受することは否定しませんが……それが理由ではありませんね。まあ、そうですね……なんとなくです」


「……は?」


「なんとなく、テーレさんを見て、一緒に第二の生を歩むと言われて……『それはいいな』と思ったのです。フィーリングというものですかね。そして、ターレさんからあなたについてネガティブな情報を与えられてもそれは変わりませんでした。もちろん今もです」


 決して、同情で一緒にいようと言っているわけではないのですが、ちゃんと伝えられる自信がありません。

 こういった感覚は初めてなので。


「女神として敬愛するディーレ様とは違うベクトルで、私はあなたを愛しているようです。この度の一生は、あなたと共に生きてみたい。ご迷惑ですかね?」


 ああ、手と胸に刻んだ呪紋(ルーン)が何故か、妙に疼きますね。


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