第27話 「扉が熱い」
side ラクタ
にいちゃんからは、あのアーリンって人を呼んできたら安全なところへ逃げていいって言われてたけど、オレは無理を言って隠れて見てた。
我慢できなかったんだ。
見たかったんだ。この街をこんなメチャクチャにしちまいそうな大事件を、自分の目で見たかったんだ。
そしたら……
『バリアン・クレバール!』
……クレバール。
誰も知らないオレの本当の名前と同じ。
父親は死んだって聞いてた。
でも、直接見たわけじゃない。母親が死んで、父親も落盤で死んだから誰も養ってくれないからと鉱山から追い出されただけだった。
でも、この目で直接見て、直感した。父親は生きていた。
「父ちゃん……父ちゃん、なのか? 生きてたのか?」
戦ってるところに飛び込もうとしたときには、冒険者のおっちゃんに引き留められたけど、ようやく離してもらえて、倒れてる父親のところへ駆け寄る。
「オレだよ……アリス・クレバールだよ……こんな小汚くなっちゃったけど、わかる?」
「アリス……アリス……! そんな……死んだのでは……」
ボロボロだけど、起き上がってオレを見つめるとうちゃんは、オレの中に誰かの面影をみたようだった。
いや、誰の面影かなんてわかってる……オレは、目が母親そっくりだって……いつもそう言っていたのは、今目の前にいる、父ちゃんなんだから。
「バカヤロウ! 死んでなんていねえよ! 母ちゃんが死んで追い出されただけだよ!」
涙がポロポロ出てきて止まらない。
父ちゃんも図体ばっかりでかいのに、同じように涙を流してやがる。
「お、俺はお前が死んだって聞いてたんだ! 深いところの仕事をやってる間にあいつと一緒に寒さで死んだって、そう思ってたんだ!」
まだ元に戻り切ってないでかい身体で抱きしめてくる。
でも、苦しくない。こんなふうに優しく抱きしめられるなんて、母親が死んだときからなかった。
「ヘッ、ばっかみてえ。どっちも死んだと思ってただけなんてよう」
「ああ、探してやれなくてすまなかった。俺を見つけてくれて、ありがとう」
違う、オレは見つけたわけじゃない。
オレはただ、何が起きるのかを見にきただけだったんだ。
「これは偶然……」
「いえいえ、偶然よりも幸運と言うべきでしょう。ラクタさんが私を快く案内してくださったからこそ、こういった事象が成立したのです。つまり、善行の末の幸運、ディーレ様の加護でしょう」
「にいちゃん……」
悪い転生者を倒したにいちゃんが父ちゃんの腕に触ってる。他の人にやってたみたいに、操られてたのを戻してるみたいだ。
さっきまで戦ってた相手とは思えないような、優しい手付きだ。
「あんた……俺は盗賊の頭だぞ。打ち取って名をあげようとか思わないのか?」
「そんな無粋はしませんよ。第一、国の法律はともかくこの街では盗賊は合法でしょう。ここであなたに手を出したら生きて街を出られませんよ」
「だったら……」
「はい、まずは盗賊団の皆様に号令を。間接的に命令を受けて動かされていただけの方はそれで止まります。まだ洗脳が残っている方も拘束しておけばゆっくり解呪できるでしょう。全ての憂いを除いてからは存分に親子の語らいを再開してくださって構いません」
にいちゃんは戦った後だっていうのに、もう次のことを考えてた。
あの悪い転生者もずっと手玉に取られてたし、やっぱりすげえにいちゃんだ。
「そうだな……とうちゃんたちを操ったあいつにも仕返ししてやらなきゃいけねえしな。よし、さっそく玉でも潰してやるか!」
「おお、娘よすまない。女らしい教育も与えてやれずに……」
いや、なぜ泣くし。
って……あれ?
「にいちゃん、そういえばあの悪い転生者どこいった?」
side 小柳宗太
「くそっ! あの野郎……次こそはぶっ殺してやる」
魔法を使ってなんとか喉に空気を通して声を絞り出しているが、苦しい。だが、逃げきるにはどうしても『絶対命令権』が必要だ。
「くそ、もっと速く歩けよ……」
持っていた魔法薬を使ってなんとか歩けるように回復させた騎士のリーナに支えさせて、坑道の奥へと歩く。念のためにと手に入れていた逃走用アイテムが役に立った。
「ソウタ、まだ、歩くのか……なんだか、暑い……」
「文句言うな……隠し通路から、外へ逃げるんだ。今度は、もっと手駒を集めて、遠くから矢の雨を降らせてやる……それで終わりだ……」
無理に魔法を使い続けていたせいか、気力が尽きそうだ。
意思の命令が肉体へ届いていないようにも感じる。能力で誤魔化していた精神への負担が一気にぶり返し始めているのか頭痛も酷い。だが、逃げ切れば俺の勝ちだ。
奴自身に能力が効かないのなら、もう直接対面してやる必要はない。もっと深く潜って、もっと準備をして……今度こそ、殺してやる。
「そこの壁だ! 表面の布を外すと金属の扉がある! その先が隠し通路だ!」
「だけどソウタ、こっちは……」
「口答えはしなくていい! さっさと開けろ! 命令だ!」
「うっ、くっ……ソウタ、だめ、扉、熱い……」
くそっ、何で命令に逆らおうとするんだ!
扉が熱いくらいで文句を言うな! 痛みで能力が弱まってるとでも言うのか!
捕まったら俺は嬲り殺されるかもしれないんだぞ! さっさとしろ!
「リーナ・タングルス! 命令だ! 今すぐ、扉を、開けろ!」
「ぅ、ぅぁあああ!」
扉が開かれる。
やった、これで逃げられる。
自由な場所へ……
「……え」
開け放たれようとした扉の隙間から、風が中へと吹き込むのを感じた。
リーナは扉が熱いと言っていた。あれが、扉を動かす手が火傷するという文句でなかったのなら……もし、隠し通路の先に既に火の手がまわって酸素がなくなるまで燃え尽きていたのなら……
俺は知っている。
日本で勉強した知識の中で、そういう現象があった。
「バックドラフト……」
開け放たれた扉から放たれた爆熱が俺を襲った。
side 狂信者
グラリと、地下空間が揺れました。
「地震ですか!? いえ、この熱気……坑道のどこかで、爆発が起こったようですね」
通路の奥から炎が吹き上げているのが見えます。
鉱山の内部と言っても、盗賊団のアジトに改装されているこの周辺は可燃物が大量にあります。
先程の衝撃で天井が崩落するのが先か、それとも酸素が燃やし尽くされるのが先かといった所ですか。
「何だってんだ! せっかくあいつから解放されたってのに!」
「すぐに逃げんぞ! 縛り上げたやつは担いでいけ!」
「ダメだ! あっちはもう炎で通れねえ!」
混乱が盗賊団の方々に広がっていきます。
しかし……
「狼狽えるんじゃねえ! それでもてめえら、ラタの盗賊団か! 火攻めくらいで取り乱す腰抜けがいるか!」
クレバール氏……いいえ、バリアンさんの怒声が、場を一気に鎮静しました。
一瞬の静寂。これを無駄にしてはいけません。
「皆さん! おそらくこれは、小柳さん……逃げた転生者の最後のあがきというものでしょう。彼は、負けたときのために、このアジトごと敵を抹殺するために爆発物を用意していたのです。しかし、それならこの火事や爆発には必ず彼が逃げるための安全な脱出路と時間が用意されているはずです! つまり、善行の行動をとれば我々は脱出できる、これはそういった状況なのです!」
まあ、自爆覚悟であったなら話は別かもしれませんが、圧倒的に有利な状況にあった小柳くんがそのような手を取るとは思えませんし、もしも逃げ場がなかった場合にしても『逃げ場はないので諦めてください』などと言うことに意味はありません。
挑戦しなければ生存確率がゼロに近いことは間違いないのですし、生存の道があるという前提でいち早く行動を始めるのが最善でしょう。
おや、クレバール親子は何故かすごく複雑な表情で私を見ていますね。
『妙な期待を持たせるな』というような表情には見えませんが、状況分析について何か異論があるのでしょうか。
確かに現状推測でしかありませんが、状況から考えても小柳くんが爆発物を使ったという判断が妥当だと思うのですが……彼の最後の抵抗を予測していなかったことを責められているのでしょうか?
まあ、今この場で何かを言うつもりはないようですし、詳しい話は後で暇ができてからとしましょう。
「ラクタさん、いえ、本名はアリスさんでしたか。アリスさん、バリアンさん、お二人がいればこの坑道の中にわからない場所はないでしょう。できるだけ早く外へ逃げられるルートへの誘導をお願いします。私はまだ操られている方々に呪紋を刻みますので。暴れられるよりただ動かないだけの方が運びやすいでしょう」
「お、おう……」
「にいちゃんは……ホントに大悪党だぜ」
なんでしょうか、まるでサラッと自分の罪を他人に被せた人間を見るようなその視線は。
さて、盗賊と冒険者の方々はバリアンさんに任せるとして、私は私のすべきことをしましょう。
「テーレさん、放置してしまい申し訳ありません。疲弊しているように見受けられますが、お怪我はありませんか?」
視界の端で見ていた限りでは、テーレさんはターレさんの光輪をどのようにしてか投げ返して勝利していたように見えましたが、そのために魔力を大量に消費したという所でしょうか。
アーリンさんが既に治療行為を済ませているようなので問題はないのでしょうが……
「うん……平気。ただ、激しい動きはちょっときつい」
「そうですか。ではおぶりましょう。脱出には急を要しますので」
しゃがんで背中を向けると、テーレさんは驚いた風に返答します。
「いやいやいいよ! 別にちょっと走るくらいなら大丈夫だし! むしろ遅くなるでしょ!」
「確かに最終的にはテーレさん自身にも走ってもらうかもしれませんが、背中である程度休んでもらった方が楽でしょう。なんなら眠っていても構いません。少なくとも、火の激しくなる脱出直前に無理がたたって躓くよりは体力を温存しておいた方がいい。幸運にも、私はほぼノーダメージでテーレさん一人くらいなら全く辛くはありません」
鼓膜は片方破れましたがね。
走るのに問題はないでしょう。この非常事態では誤差です。
「え、いや、でも……」
「その子恥ずかしがってるし、私が運ぼうか? 私も体力余ってるし」
アーリンさんは本当に体力の余っていそうな余裕の態度です。バリアンさんとかなりの激戦を繰り広げていたように思ったのですが、あれでも全力ではなかったのですか。
まあ、アーリンさんには戦後の回復をお願いするために余力を残しておいてもらうつもりだったのでいいのですが。
しかし、アーリンさんが体力を残しているとしてもテーレさんを任せる気は全くありません。
「まだ伏兵が残っているかもしれないので、アーリンさんは両手を開けて不測の事態に対応できるようにしていてください。それに……私が、テーレさんを背負いたいのです。それで最後の一歩が間に合わなくなったとしても」
おや、どうしましたお二方。変な顔をして。
私は何か変なことを口にしたでしょうか?
まあ、正当な理屈もなく感覚だけで言葉を選んだので支離滅裂なことを言っているのかもしれませんが。酸素が少なくなってきたのか、うまく頭が回りません。
「わ……私が一緒にいたら、不幸になるかもしれないよ? こんな状況で運が悪かったら、落石とかで死ぬかもしれないよ?」
「気を付けます。あ、怪我人のテーレさんを盾にする形になるのはマズいですね。とりあえず、このスータンを上から羽織ってください。防刃ですし、フードもありますし」
「そうじゃなくて! 私なんかのためにリスクを負って……『疲労や傷なんて無視して走れ』って命令すればいいって言ってるのよ。なんなら、あんたを背負ってあんたより速く走ることだってできるんだから」
「しかし、それをやると後が辛いでしょう? 今は無視できても、必ずどこかで反動が来るはずです。なので却下です。最悪の場合はそう命じる必要があったとしても、可能な内は私が背負います」
「なんでっ!」
「テーレさん。先程までの会話は小柳くんの魔法でどこまで耳に届いていたかわからないので、もう一度言います」
テーレさんの手を握ろうとすると、その手が少し離れようとしますが、構わずさらに手を遠く伸ばせば、簡単に届きました。
ふむ、呪いがどうのという話がありましたが、実際に触れてみたところで大したことはありませんね。
ただの柔らかい、少女の手です。
まあ、精神年齢で言えばテーレさんの方が遥かに上なのかもしれませんが、振る舞いを見るに天使という種族の中ではまだ子供の範囲でしょう、おそらくは。
「テーレさんの成り立ちが特別なことは聞きました。それが、一般的な基準で言うところの不幸や悪という性質に大きく傾いていることも。そのために、テーレさんがターレさんのような考え方をする方からは嫌われることも」
きっと、ターレさん以外でもテーレさんのハンデキャップを知れば、隔意や嫌悪を示す人はいるでしょう。そして、テーレさんもそれを私に知られたことで、嫌われたと思ったかもしれません。
しかし……それは、見当違いです。
むしろ、テーレさんの在り方は……狂おしいほどに、好ましい。
「故にこそ、私はテーレさんに幸福になってもらいたい。あなたの行う善が悉く偽善であったとしても、そうあろうとする心は本物です。あなたの善い部分が全て、宝石に似せたガラス玉のようなものだったとしても、それを諦めずにひたむきに磨き続けた末の輝きは、ただ偶然に生まれた天然の輝きよりも素晴らしいものだと思うのです」
私は最初にディーレ様に能力を望まないと言いました。
しかし、今の私は違います。
いえ、考え方が変わったわけではありませんが。
チート能力などでなくともいいので、テーレさんに一緒に居てほしい……私は幸運にも、私にとって最高の転生特典を、最も素晴らしいものを得られたと考えています。
「仮にですが、テーレさんとの旅路を選ぶことでもっとも困難な受難の道に踏み込むことになるとしても私は後悔しません。他の転生者は全て敵? 最悪の転生特典? ええ、いいでしょう。望むところです。女神ディーレの名の下にあらゆる試練を踏み越えてみせましょう」
意志の力で本質に抗い、心の力で逆境に打ち勝つ。優れた者、数の多い者、勝算の高い者をそうでない者が客観的な予想を覆して乗り越える。その不自然な結果を生み出すための努力にこそ、知性の意味があると私は信じています。
そうでなければ、世界には根本的に救いがありません。
人の魂が、知性が、習性や本能という本性に従うだけの機構ではなく、水が高い場所から低い場所へと流れるように決まりきった結果を出すだけの絡繰りではなく、その現実に苦悩し奮起できる自我を持つものである意味がありません。
「『そう生まれついたから幸せになれない』、そう指差されたなら一緒に異を唱えましょう。何かが違う者なりに幸せになろうとして、それを否定する世界があるのならば『それなら世界の方が狂っている』と主張しましょう。正常者を僭称する多数派主義者の方々に、堂々と異議を申し立てましょう。神々が私たちの破滅に賭けるなら、賽の出目が腐るまで抗いましょう。諦めて言われるがままに不幸せになるなんて、死ぬほどつまらないですからね」
テーレさんを引き起こし、半ば強引に背負います。
言葉による返答はありませんが……軽い身体ながら、力強く私の身体に掴まって、走りやすく身を任せてくださいました。
「では、参りましょう。無事に生還してこその凱旋です」
side リックス・ノーツ
なんかすごいことになってる。
「山火事だ! このままだと森まで広がるぞ!」
「急げ! 水瓶でも桶でも何でもいいから水運べ! リレーするぞ!」
「おい、今のあいつ確か盗賊の……」
「んなこと言ってる場合か! 支部長命令だ! 今夜に限り盗賊との争いは禁止! とにかく一人でも多く消火に加われ!」
タイミングから考えて、きっと狂信者くんと関係あるのだろうけど、それを抜きにしてもこの街の盗賊と冒険者ギルドの仲ってこんなに良かったっけ?
前から上層部と盗賊団の内通とか癒着って噂もあったけど、それどころじゃない気がする。
いや、そんなことは後回し。
この火事はボヤ騒ぎどころの規模じゃない。ギルドからでも火が見えるくらいの規模だ。
下手をすれば、この街にとって致命的な被害になる。
「ちょっと地図かして! 報告されてる火元はここと、ここと、ここ……やっぱり、鉱山の中からの発火……誰か、こことここにも人を回して! これから火が出てくるかもしれないから先に引火しそうな建物を壊して! ああもう、人が足りない! 消火に手一杯で延焼を止める方に手が回らない!」
関係あるのかないのかは知らないけど、力の強い冒険者はみんなどこかに行ってる。彼らならすぐに火を何とかできるかもしれないのに、これじゃあとにかく水を運べる人たちが消火するしかないけど、一番の火元が鉱山の中じゃ根本的な火消しができない。
「誰か雨降らせられる人とかいない……よね。雨乞いの儀式なんて大魔術、今すぐにできるわけないし……」
魔法で雨が降らないなら、本当に偶然で雨が降ることを祈るくらいしか方法がない。
それも、地下まで染み渡るような大雨だ。
「もう、神様でも魔王でもいいから何とかして!」
「ギルドさん、これ使って! 万能薬の魔法薬! 薄めても効くやつだからからみんなで!」
愚痴っていたら目の前にたくさんの薬瓶がドンと置かれた。
確かにかなり良質の魔法薬に見えるものが、数十本。魔法薬は魔法の効果を特殊な溶媒に封じ込めた貴重なアイテムだ。
それも、負傷の種類に関係なく治療が可能な『万能薬』は火傷だろうと建物の倒壊とかの打撲だろうと区別なく処方できるこの状況では本当にありがたい品物。
冒険者か錬金術師が秘蔵の薬をこの非常事態のためにギルドに提供してくれるということだろう。
「ありがとうございます! 後でお礼はギルドから支払われますので!」
「それより、さっき雨って言ってたけど、雨を降らせたいの?」
「はい、できるなら! この際、海水でも何でもいいので!」
って、聞かれたから答えちゃったけど、そんなことを言われてもどうにもできないし、困らせちゃうだけか。
「じゃあ、とにかく雨が降ればいいんだね。じゃ、ちょっとお願いしてくるから待ってて!」
「はい! できるだけ早くお願いしま……はい?」
今、変な会話しなかった?
顔を上げたら誰もいないし。幻聴……? いや、魔法薬は確かにここにある。
誰だか知らないけど、水の魔術を使える人でも探しに行ってくれたのかな。
いや、そんなことより今は仕事!
私はギルドの役員として人員を動かすのが仕事なんだから、私が止まっていたらみんなが混乱して火を食い止められなくなる。
書類に向き合い、地図から火事の被害を予測する。
どこに何人向かってもらえばいいか。夜中だから寝てる人はどれくらいて、逃げ遅れる可能性のある人はどこにいるのか……一秒でも早く、無駄のない指示を出さないと!
「おい……奇跡だ! 雨だ! さっきまで雲もなかったのに急に雨が降り始めたぞ!」
……え?
このタイミングで?
「すげえ雨だ! 転ばないように気をつけろ! どこからでもいいから水をどんどん汲んで火にぶっかけろ! この幸運が続いてる内に消すぞ!」
いきなりの大雨なんて、ないわけじゃないけどそんな頻繁にあることじゃないのに……もしかして、さっきの人が……でも、いきなり大雨を降らせることができる存在なんてそれこそ……
「……はは、まさかね」
机の上には、さっきの会話が幻覚じゃなかったことを示すようにバスケット一杯に詰まった魔法薬の瓶が鎮座していた。
「敵対の意図を気付かせる前に致命打を与えるべきです。
保護色で隠れたまま首を掻き切るべきです。
毒の杯で自由を奪うべきです。
部屋に閉じ込めて外から火をつけるべきです。
大勢で囲んで石を投げるべきです。
殺し屋を雇って差し向けるべきです。
建物の支柱を切って押し潰すべきです。
濡れ衣を着せて信用を奪うべきです。
踵の腱を絶って足を奪うべきです。
喉を潰して助けを呼べなくするべきです。
目を潰して抵抗力を奪うべきです。
笑顔で近付いて背中を刺すべきです。
手段など選ばず生命活動を停止させることだけを考えるべきです。」
火責め、伏兵、包囲、バックアタック、投石、毒手、喉潰し、拠点爆破、濡れ衣……アーリンさんに言ったこと大体全部やってる有言実行狂信者。




