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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』

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第21話 『謎推理』

side リックス・ノーツ


 遡ること、約半刻。


「あ、アーリンさん! あなた宛ての緊急の手紙がありますよ!」


 狂信者くんが始末書と一緒に渡してきた有料書簡の封筒。その宛先であるアーリンさんは呼ばれたことに驚いたようにこちらに目を向けた。


「緊急? 誰から?」

「えっと、それが……」


 大声では言いにくい。

 何故なら、これを私に預けた人物こと狂信者くんが、クエストで何かヘマをしたか何かわからないけど、ギルドの上層部が血眼で探しているらしいからだ。


「ふーん、読んでもらってもいい? 私、読めないから」


「あ、失礼しました。では読み上げますが……いいですか?」


「うん、緊急ってことは急ぎなんでしょ。いいよ、読んでみて」


 普通、重要な用件の連絡をギルドに預ける場合、直接用件を書いた文書を文字の読めない仲間に向けて送るということはほとんどない。

 文字が読めなければ誰かに代わりに読んでもらう必要があるけれど、そうすれば情報が漏洩するからだ。


 何気ない内容に見せかけた暗号にすることもできるけど、文字そのものが読めない人物と共有できる暗号はパターンが少ないし、それを読み聞かせたり脇から聞き耳を立てたりするだけでその内容のパターンはすぐに理解できるようになってしまう。

 そして、暗号を事前に決めておくことができない別のパーティーのメンバーに向けての文章ではそれすらもできない。


 だから、普通なら緊急でも『どこそこで直接話そう』というようなことが書いてあるのだけど……文字数からして、これは直接用件を書き込んであるように見える。

 冒険者は競争が激しく、出元のわからないものを持ち帰ることの多い仕事だ。スケジュールが漏洩するだけでもかなりの危険が伴うのだから、こういうことをするのは初心者らしいミスか……あるいは、その危険を度外視しても急を要する案件か。


 狂信者くんが私を選んでこれを頼んだのは、私を信頼してくれてるってことかもしれないけど……こんな状況になっている以上、内容によっては彼の信頼に応えることは難しいかもしれない。

 もし、内容が悪巧みへの勧誘とかだったら、その部分を隠さなきゃいけないかもしれない。アーリンさんも異名持ち、優秀で有望な冒険者だ。下手に事件への関与を疑われて未来を閉ざすわけにはいかない。


「では、読み上げますね。手紙の内容は……」


 一応、簡単に蝋で折った合わせ目を固められて封をされた状態になっている紙を開けて、中を見る。

 すると、そこに書いてあったのは……


「『洗脳能力のある敵が現れた可能性があります。お手数ですが、精神攻撃の耐性を万全にしてギルドで待機していただけると助かります。また、場合によっては街全体が敵に回るという可能性もあるので、手を退く場合は事前にノーツ女史に言伝をお願いします。

 追伸。もしできるのならノーツ女史の保護もしていただけると助かります。彼女にはお世話になったので』」


 洗脳能力……?

 そういえば、彼がこれを書いたのは他の冒険者に絡まれた直後だ。

 もしかして、あの時から既に何かが始まっていて、彼はそれを感知していた?

 それに、今のこのギルドの状況ってもしかして……


「誰か! アーリンさんって人はいないか! にいちゃんが大変なんだ!」


 ギルドに誰かが飛び込んできた。

 子供、それもいつもはスラムにいるような身汚い格好をしている上に、火事の中から助け出されたかのように煤だらけだ。

 でも……


「なるほどね……『ギルドで待機』ってこういうこと。アーリンは私よ」


 その様相は、明らかに事態が平常じゃないことを示していて、一瞬で何もなければ信じるのが難しい狂信者くんの手紙の説得力を引き上げた。

 その予定調和のようなタイミングは、それこそ女神ディーレの加護かもしれないと感じた。







side 小柳宗太


 わからない。

 いや、状況は不完全だがわかっている。


 格闘家のアルノダがアーリンって敵のドルイドにすり替わってた。そして、俺を後ろから襲った。

 冒険者から貢がせた物理耐性のコートがあったからよかったが、そうでなかったら死んでいたかもしれない。そう思うくらいの衝撃だった。


 だが、わからないのはなんでそんなことができたかだ。


 いつからだ。

 いつから対策を取っていれば、根回しをしていれば、こんなことができる?


「さて、テーレさん。こちらの方へ。大丈夫ですね? 聞こえてますね? 小柳くんの影響を取り除くにはどうしたらいいのでしょうか。とりあえず、この世界に来てから受けた命令をすべて解除すると言うべきでしょうか?」


「ぐっ……くっ……【静寂(サイレンス)】!」


 息がまともにできていないから言葉にならないから、口から出るのは単純なうめき声だけだ。

 だが、それが『魔法』と組み合わされば話は別だ。


「……テーレさん!」

「っ! 耳が……何も、聞こえない」


 何とか痛みを堪えて立ち上がってる。

 大丈夫だ……コートの効果もあって、まだまだ重大なダメージにはなっていない。

 これなら、勝てる。


「なるほど……やはり、魔術系の魔法。それも、空気の振動、つまり音に関するものに特化して修得していますね。命令するべき相手を選択して、その人物だけに声を届かせたり、逆に音を相殺して私からの命令の一部を遮断していましたか。まあ、今は私に命令権を奪い返されまいとしてテーレさんに遮音結界でも張りましたかね。どんな命令をしても私の方が権限が上なら上書きされてしまいますし」


 この世界に来て、最初に覚えた魔法。

 相手との距離を無視して命令する、特定の相手にだけ命令を聞かせてその内容を悟らせないようにする、能力の欠点を補うために用意していた魔法を看破された。

 だが、それがどうした。


「現地人に不意打ちさせて勝った気になってんなよ……そいつは今、俺の女達の相手で手一杯だ。それに、盗賊共も俺の支配下のやつらが集まって来た。こっちに弓を向けてる暇はない。そして、てめえの特典の従者は動けない……つまり、てめえに身を守るものは何もない! 俺がテメエを倒せば終わりだ!」


「ふむ、つまりは一騎打ちというわけですか。それは好都合です。テーレさんの支配権を取り合うのは不快にさせてしまいそうですし、先にあなたを無力化した方が楽でしょう」


 目の前の転生者は平然と、転生特典でも何でもない鋼の警棒を抜く。


 あいつの従者にやつの装備や能力については全部喋らせてある。装備の格はこちらが段違い、格闘技の経験はあるらしいがこっちにはさっきも俺を守った衝撃を大幅に緩和する防具がある。負けようがない。


 だが、何故だ……。

 なんでこいつは……全く、負けるつもりがないんだ?


「小柳さん、私は実は少々怒っています。自分でも珍しく貴重な感覚ですが。テーレさんに自殺させて欲しいなどと言わせたことを。彼女に、望まぬ殺しをさせたことを」


「ふん、従者を寝取られた怒りで勝算もわからないってか……なら教えてやるよ! 俺がそいつにした命令は『本性を隠すな』、それだけだ! てめえを犯そうとしたのも、盗賊を殺したのも、そいつが普段からやりたくてやりたくてしょうがないと思ってただけだ!」


 さあ、失望しろ。

 その絆ごっこを今すぐやめろ。

 俺に操られて悪事を働いてたと思っていたのが、そいつの本性が見えただけだったと知って絶望しろ。


「今ならまだ間に合うぞ! 今謝れば、約束通りにターレが従者になる、そいつは俺が有効活用してやるよ! そいつは支配でもされなきゃいつ裏切るかもわからない最悪の転生特典だ! てめえだって、そんな性根の腐った汚い本性を持った女とこれから一生この世界で生きていくなんて御免だろうが!」


 ターレの目的は従者というポジションを奪うことと、前の従者の心を壊して治らなくすること。そのために、わざわざ幸運の女神の眷族でありながら、美の女神についたやつだ。


「そんな女! 心の中で見下して来てるに決まってんだろうが! そんな欠陥品の転生特典より、従順なターレの方がいいだろうが! ついでに教えておいてやるよ! 幸運の女神は天界の嫌われ者だ! 俺だけじゃねえ、他の転生者も全部てめえの敵になるぞ! それが嫌ならターレを選べ! そうすりゃ美の女神に守ってもらえるからな!」


 さあ、選べ。

 俺の思い通りに動け。

 そんな歪な主従関係なんて捨てちまえ。


「そいつの腹の中は真っ黒だ! てめえに都合のいい好意やら同情心やらは持ってねえ、心の底から利用することばっかり考えてやがる! 死体と返り血の中で嗤ってた時の醜い姿がそいつの本質なんだ! わかったか!」


 さあ、証明しろ。綺麗事なんて意味がないってことを。

 能力と関係のない信頼や絆なんてものは、ただのまやかしだってことを。



「素晴らしい! やはり、あれはテーレさんの本質でしたか! ああ、女神ディーレに感謝を! テーレさんという天使に出会えたことを心から、魂から感謝します!」



 ……は?

 なに……言ってんだ?


「ふ、ふざけんなよ! なんで喜んでんだよ! てめえの天使は殺しが大好きで主人を壊そうとするクソ女だぞ! なんでそれを……」


「何故といわれても、綺麗ではないですか。それだけの悪徳を秘めながら、それだけの悪性を持ちながら、それだけの背徳を求めながら、彼女はあなたの干渉があるまで天使として努めて模範的であり続けたのです。模範的であろうとし続けたのです。それこそが、彼女の『善きものであろう』という意志の証明。狂おしいほど美しいではありませんか」


「なん……だと……?」


「ああ、私は感動しています! 彼女が呪われていながら立派な天使であれたということ自体が、性悪説的な本質的悪を抱えた人間でも『善くなろうとする心』を持つことが正しいという証明です! そしてその意志の強靱さの証明です! このことだけはむしろあなたに感謝したいほどです!」


「く、狂ってやがる……」


「先程も言いました。他人に狂っているなどと言うべきではありません。さあ、それよりも始めましょう。私は改めてテーレさんが欲しくなりました。形式的にはではありますが、あなたから彼女を取り返すことで今度は私から彼女を能動的に求めたという既成事実としましょう!」


 何でだ……あいつの士気を下げるための言葉だったのに、どうして俺が圧されてる?

 くっ、こうなれば……


「我が神、美の女神イディアルの名の下に命じる!」


「能力ですか?」


 狂人は俺の行動を妨害しようと、走り寄りながら石を投げてくる。

 だが、そんなことで能力発動を止めることはできない。俺のコートの防御術式が障壁を展開して自動で石を弾く。


 さっきのドルイドの馬鹿力ならまだしも、この程度の軽い攻撃なら俺に直接届くこともない。

 あいつの警棒だって……


 コツン


 いや、何かが当たった?

 弱々しいが、石が障壁を越えてた? いや、すり抜けたのか? いや、軽すぎる、これは石じゃなくて……木の実?


「『その程度の速度』なら、障壁が反応しないと判断します」


 狂人は目の前に来ていた。

 振り上げた警棒は、案の定障壁に阻まれて届かない。

 だが……こいつは、全く諦めていない。


「『絶対命令権』を行使する! 俺に屈服しろ、『■■■■』!」


「その『名前』は前世のもの。既に返上しました」


 開いた口に何かが押し込まれる。

 何か……いや、こいつの手だ!

 ゆっくりと、障壁の作動しない速度で這うように……


「うっ! グッ……ャメ………!」


 こいつまさか!

 嘘だろ!?


「あなたが私からテーレさんを奪ったように。私もあなたから転生特典というものを奪いましょうか……その、声帯ごと」


 ヤバい、こいつマジで喉奥の肉を素手でえぐり取るつもりだ!

 死ぬ! 転生特典の能力がどうこう以前に、そんなことをされたら死ぬ!


「大丈夫です。この世界には治癒の魔法もあることですし、きっとすぐに処置すれば治りますよ。元通りに話せるようになるかは知りませんが、少なくとも命は助かるでしょう。おそらくは」


 このイカレ野郎!


『お、おぉぉおお!』


「うおっと!」


 とっさに発動した音魔法で出したデタラメな大音量に手を引き抜いて飛び退く狂人。

 死は逃れたが、喉がまだおかしい。引き抜かれるときに傷付いたか……いや、違う! 気管が腫れ上がってきてる! 呼吸が……!


「あがっ……こ、こ……こひゅ……」


「うーむ、軽くクラクラします。鼓膜が片方破れたようです。まあ、片方残っているので問題ありませんが。さて、小柳さんのその顔は何をしたのかという顔ですね。まあ、隠すことでもないので教えてさしあげましょう」


 狂人は必死に呼吸をしようとする俺の目の前に、俺の口に突っ込んだ右手の爪を見せる。


「テーレさんとの採取クエストで薬草の中に混ざっていた毒草のペーストです。鑞で爪の表面に付けておきました。あなたは魔術系が得意なようですから、体内からの干渉には弱いはずです。ちなみに毒の効果は汁が粘膜に触れると瞬く間に腫れ上がるというもので、死にはしませんが大変辛いそうです。まあ、あなたは呼吸器の粘膜なのでこの場合は命の保証ができませんが」


「な……な、ぜ……ひゅ……」


 何故、俺の『命令』への対策を済ませてある?

 何故、俺の能力が効かなかった?


 なんでこいつは、こうも全てを先読みしたように動けるんだ?







side 狂信者


 とりあえず、小柳くんはひとまず無力化成功と見ていいですかね。


「さて、魔法の同時発動は少し難しいそうですし、先程の咆哮でさすがにテーレさんの魔法は解けていますかね。テーレさん、命令です。『この世界で受けた命令を全て取り消して、自由に動いてください』」


 しっかりと肩に触れ、確実に聞こえるように声をかけます。


「……あ! 聞こえた! 動ける! 自由に動ける!」


 テーレさんも自由を取り戻したようですし、あちらの相手をお願いしても良さそうですね。

 今は戸惑っているようですが、冷静になって行動を起こされては厄介です。


「ではテーレさん。話すべきことはたくさんあるかもしれませんが、状況が状況ですしそれは後回しにしましょう。そして、いきなりの仕事で悪いのですが、ターレさんが自暴自棄になって『天使』の力で暴れられても困ります。彼女と話を付けてきてもらっても?」


 私の『お願い』に困惑するテーレさん。

 まあ、どれほど聞こえていたかどうかはわかりませんが、あれだけ小柳くんが信用するなというようなことを口にした直後ですし、それを無視して仕事を頼む私は少し奇特に見えるかもしれません。


 しかし、この仕事はテーレさんが適任なのです。

 テーレさんも、味方であるはずのターレさんに裏切られ謀略に嵌められた直後ではありましたが、指示がすぐに理解できないほど心を乱してはいませんでした。あるいは、悪意に慣れ親しんだその精神の強さがテーレさんの強みなのでしょう。


「……わかった。それは、『強制送還』もありってことでいい?」


「お任せします」


 テーレさんは色々な言葉が喉元まで出かかったようですが、それをぐっと抑え込んで自身の仕事に向かってくださいました。

 いろいろと言いたいこと、弁解したいことなどあるようですが、それらはことが済んでからしましょう。


「さて、お待たせしました小柳さん。あなたは何故と問いかけた。おそらく、この状況に運ぶまでの諸々の準備について、いつから用意していたか、そしていつから予期していたかといった辺りでしょう」


 さすがに爪に塗っておいた程度の量では完全に気管が塞がるかはわかりませんし、音の魔法は空気の魔法。慣れてくれば小さな隙間からでも最低限の呼吸はできるようになるでしょう。

 彼にはできることなら自分の口から降参の意思表明をしてほしいところですし、気道確保を待ちながら彼の疑問に答えるとしましょうか。


「はい、実を言えばあなたの攻撃は予測できていました。あなたの能力がおそらく『相手の真名を名指しすることで命令に従わせる』という能力だということも」


「……! か……」


「疑問はごもっとも。別にターレさんが裏切って情報をリークしていたわけではないのでご安心を。推理推測臆測予想といったレベルの話です。しかし、幸運にも的中したようなので、今更ながらに推理を披露させていただきます……私は、あなたが最初に私たちを攻撃してきたタイミングから、あなたたちの存在に気付いていました」


「な……ぁ……と……」


「もっと具体的に言えば、あの瞬間! あの『測定結晶(ステータスクリスタル)』の爆発から、私はあなたの存在を確信していました! 迂闊でしたね小柳さん、ターレさん。あの時もっと確実に私を仕留められるようにしておけば良かったのです!」


「………………ぁ?」


 おや、ここに来てとぼけますか。

 あまりしらを切る必要のないタイミングだと思いますが。失敗した作戦など自分のものだと認めたくないということですか。


「まず、冒険者ギルドに行く過程でテーレさんの行動から、転生者同士が潜在的に敵となりうることは推測していました。そして、あの爆発。聞けばあのような事故は誰も一度も見聞きしたことがない危険なものだと。では、あれは人為的な攻撃と見るべきです。おそらく、『転生者の能力を測定すると壊れる』というアイテムの弱点を突き、その壊れるタイミングで爆発するように手を加えさせたのでしょう。さらに、あの時のテーレさんは不調を来し、反応が著しく遅れた。あまりにタイミングが合い過ぎています。これはつまり、爆発を仕掛けた誰かが同時にテーレさんにも攻撃を仕掛けたと見るべきです。となれば、敵対者はそういった攻撃ができる能力がある。そこで、既に能力の可能性はある程度絞れました」


 『測定結晶』の爆発自体が『爆弾としての機能を与える』といった系統の能力の可能性も考えましたが、それにしてはチート能力というには爆発力が半端だったのでそれは棄却しました。

 聞けば、故障や人為的な改造を考えればエネルギー的には出せない威力ではないそうなので。


 そして、テーレさんへの攻撃では周りに誰もいなかったのにも関わらず、魂が肉体から離れかけるほどのダメージを外傷なく負っていました。


 爆発の細工とテーレさんのダメージが同一能力に起因すると仮定すれば、おそらくそれは精神操作や精神干渉と呼ばれる類の能力でしょう。

 それも、この世界に降り立ってから私とずっと一緒にいたテーレさんが攻撃を受けているとすれば遠隔攻撃が有力だと考えました。あの時点では、あくまで可能性の一つ、仮想敵の能力候補の一つでしたが。


 そして、爆発の後に残る疑問。

 私の安全に過剰なまでに気をかけているテーレさんがあの事故に関してだけは原因究明や責任追及をしないことにも違和感を覚えずにはいられません。


 まるで『あの爆発に関して干渉・追及しないように』と無意識下で命令を受けていたかのようにすら感じられます。

 彼女が私を爆発から守らないように、そして爆発から手がかりを辿って下手人を見つけてしまうという危惧をしているかのようにです。


 そうなると、能力は人間を条件付きで操作するタイプであり、ギルドの人間を操って『測定結晶』に細工をさせ、爆発の直前にテーレさんへ攻撃を与え私を守ろうとする行動を妨げていたと見るのが妥当。

 テーレさんと私がこの世界に現れるタイミングと場所を完全に把握しうる内通者が天界においてテーレさんの周囲にいた者の中に存在したという可能性も考慮しておくべきでしょう。


 まあ、能力が『洗脳』であることがはっきりと確定したのは今日になってからなのですが。


 テーレさんが私の命令に必ず従わなければならないというのなら、私が『遅れてきた理由』を尋ねたとき、それがどんな些細な理由であれ答えなければならないはずなのに、テーレさんは『何もなかった』と言いました。


 テーレさんは私に噓をつけないので、テーレさんの主観では本当に『遅れる要因は何もなかった』ということになっています。

 しかし、それは物理的な時間経過とテーレさんの主観が矛盾しています。


 だとすれば、敵対転生者の能力は時間異常が発生するタイプの能力か精神干渉による記憶や認識の改竄が可能なものだと考えられます。

 そして、時間異常の発生しなかった『測定結晶』の事件を考えればおそらく後者、しかも『対象者に違和感を持たせずに操ることができる能力』と見るべきでしょう。


 だとすれば後は、洗脳が可能になる条件を特定するのみ。


 アーリンさんから教えて頂いた過去の転生者の能力から転生特典の性能(スペック)の『相場』を見極めた上で、参考にされるであろう地球上のフィクションの能力から発動条件を見定めれば難しい話ではありません。

 『直接接触』『直線的な視認や光線の投射』『体液交換などのマーキング』『相手に傷を与える、または傷を受ける行為』『対象者の毛髪や血液の入手』『そして特定の呪文(ワード)の入力』のどれかか、それに近いものであろうと推測するのは容易なことです。


 後は、その内状況に即したもの、つまりテーレさんに対して条件を満たすことができる能力。

 しかも短期間で街一つをほぼ掌握でき、なおかつ私やテーレさんを攻撃する際には策略を必要とする程度に達成失敗があり得るであると考えれば、可能性の高い発動条件は絞れます。


 また、テーレさんの場合、天界と通信する機能は私の要望に対応して搭載されていなければおかしいはずです。


 であれば、あの爆発の際、この世界に来たばかりでそれらの条件を満たす可能性の低かったはずのテーレさんには、その通信機能を利用した遠距離攻撃を仕掛けてきたという可能性も当然考慮して然るべきです。

 そこまで考えれば、テーレさんの弱点となり得る機能が敵対者に漏洩している。当然、テーレさんの転生特典としての性質を把握しているターレさんも警戒するべきです。


 まあ、情報が集まって能力が確定するまでは軽い疑心暗鬼に近い状態になりましたがね。


「最初の夜、『測定結晶』の爆発の傷も癒えぬ内にアーリンさんが来たときには彼女が犯人かと思いましたが、どうやら違った様子なので彼女を信じました。彼女は真正面からの戦いを好み、罠で相手が死ぬのを好まない誇り高い戦士のような方だったので。そして、彼女には推理が当たっていたときのために、テーレさんにも内緒で一つ魔法の基礎を教えていただきました」


 ちなみに、アーリンさんが姿を現した時には『あ、詰んだ』と焦りました。テーレさんは動けず、私は抵抗できるだけの力がなかったので要求をそのまま呑んで動くしかありませんでした。しかし、それは魔法の習得という新たな幸運につながりました。


 私自身の胸に描いた呪紋(ルーン)

 テーレさんに脱がされかけて危うく見つかりそうでしたが、こっそりと自分自身に使用し練習していたのです。


「対精神操作用の秘術。アーリンさんの御先祖の森の民が転生者に攻め入られた折に、その反則的(チート)能力の数々に対抗しようと考案し、次こそは勝つためにと現在まで研鑽された精神操作系能力対策術式、対魅了完全耐性付与呪紋『浮気封じの呪紋(ルーン)』です」


 先程は誤解させるような言い回しをしてしまいましたが、バルザック氏には洗脳されていない冒険者を探して説得してきてもらったわけではないのです。

 彼には、呪紋(ルーン)によって洗脳が解けて混乱している彼らに状況説明をして欲しいと頼んだだけなので。


「さあ、あなたの企みは最初から全てお見通しということです。大人しく罪を認めてください」


 小柳くんは、息も絶え絶えながらに、声はなくとも感情の限りに口を動かしました。

 あまりに強い思いが込められていたせいか、音は全く出ていないのにその口の動きから何が言いたいかがはっきりと伝わってきました。



「(その爆発は俺のせいじゃねえ!)」



 嘘には見えない強い意志。

 これはつまり……あー……


「あら…………これは失礼を。いわれのない誹謗中傷を浴びせてしまい、申し訳ありませんでした」


 答えは合っていましたが、途中式がどこか間違っていたようです。

 これはお恥ずかしい。やはり私は、探偵役には向いていませんかねえ。


 33分探偵並みの迷推理を披露する狂信者。

 途中式が根本的に間違っているはずなのに解答が正解というテストなら×を付けられる珍解答ですが、現実ならば偶然でも問題が解決できればそれが正解です。


 ちなみに、狂信者の思考を時系列に沿って説明すれば


・測定結晶爆発

「何者かに命を狙われている!」

 ↓

・アーリンに土下座&魔法講座

「『悪い転生者』がいるのなら対策をしておかなくては……」

 ↓

・コボルト群団襲来

「もしやこのお婆さんは操られているのでは?」

 ↓

・テーレ乱心

「やはり敵の能力は精神操作!」

 ↓

・ターレ訪問

「テーレさんが時間経過を認識していなかったということは精神操作を受けていたはず。なのにそれを一切可能性にも挙げず単なる暴走と説明するターレさんはおそらく(クロ)ですね」


 さすがに最初の命の危機が味方のうっかりミスでのフレンドリファイアだったとは想像の範囲外。

 しかし結果を見れば塞翁が馬となっているので最初の爆発は『幸運な結果』です。狂信者の理屈としてはですが。


 

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― 新着の感想 ―
うーん幸運の女神の信者ww
最初の大前提が違うとわかってるのにここまで自信満々で合ってるせいでこっちが間違えてるかと思った
うーん ピタゴラスイッチww
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