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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』

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第22話 『浮気封じの呪紋』

side 狂信者


 この世界に来て、初めての夜。

 ご先祖様の受けた仕打ちに関して正当な怒りを告白するアーリンさんに誠心誠意の謝罪を行い、そのご厚意によって争いを免れたすぐ後のことです。


 騙して誘い出したお詫びにと魔法を教えてもいいと言ってくださった彼女に、私は答えました。


「ではアーリンさん。その精神操作への耐性、できれば術に陥った後に使用しても解呪できる魔法を教えていただけますか?」


「え、即決? 最初の魔法はちゃんと考えて決めた方がいいって言ったばっかりだよね?」


 アーリンさんは私の返答までの思考時間の短さに驚いたようでしたが、私としてはよく考えた結果です。

 具体的には、この世界に『魔法』が存在すると知った時から最初に習得すべき魔法の一つだと考えていたのですがね。


「もちろん、ちゃんと考えたからこそです。理解したので習得するのです。今現在、そしてこれから先を見据えた上で一番必要であり、高い練度が望まれると考えたためですが」


「普通は一番に治療の魔法がくると思うけど……理由を詳しく聞かせてくれる?」


「はい、実を言えば推測が大部分なのですが……」


 私がした説明は、あの段階では証拠もない推理推測ばかりで理解しがたいもののようでした。


 何しろ、要点をまとめれば『あの爆発は事故に見せかけた殺人未遂の可能性がある』『もしそれが転生者同士の対立に起因するのなら自らに疑いのかからない暗殺法として選んだはず。ならば、その能力は原因を追及されても身代わりを立てられる精神操作なのかもしれない』というだけでしたから。


 しかし、アーリンさんは真面目に話を聞いた上で、真剣に考えて答えてくださりました。


「確かに……ご先祖が戦った時の話で、そういう『人を操る転生者』がいたって話を聞いたことはあるし、『測定結晶(ステータスクリスタル)』が爆発するなんていうのも偶然より人為的なトラップだったってほうが納得できるわね。でも、細工をさせるなら力で脅してもいいし、確証はないでしょ?」


「はい、その通りです。しかし、もしも全くの見当違いだとしても構いません。私が何らかの精神操作を受けるということは、私を見捨てられない立場にあるテーレさんにとって致命的な状況になります。ですので、そのための対策は極力早く手にしておくべきだと考えています。私が敵対勢力なら、確実に戦闘力の低い私を狙いますし、テーレさんを戦力として欲するなら私を操ることを思いつきます。私なら、そうします。本気で敵対するなら、まずそうするべきです」


 他の冒険者の方々はモンスターを相手にすることを目的に魔法を習得するならば純粋に戦闘に役立つ治癒魔法が適切でしょう。

 私もそうするのが合理的だと思います。攻撃力より生存力、生きてさえいられれば経験を積んで強くなれるのですから。


 しかし、敵対勢力として『人間』を想定しなければならない私とテーレさんの場合は、まず敵対者がどうやって攻めたいかを考えなければなりません。


 というか、正直に言えば転生特典として『人間を操る能力』を選ぶ転生者がいないとは思えませんし。精度を度外視すれば転生特典以外の魔法でも原理的には精神干渉が可能でしょう。

 自身の思考への干渉を常に想定しながら行動方針を思索するのは面倒です。対策は早ければ早いほど、この世界で過ごした時間も関わった人間も少ない今の内が一番いい。


「はあ……ま、確かに精神干渉ができるやつを敵に回したときに『誰が操られて裏切ってるかわからない』ってだけで疑心暗鬼になってパーティーが自滅することもあるからね。信頼関係を保つためにそういう手を持っておくのも大事だわ」


 あと、これはアーリンさんには言いませんでしたが、信頼関係のためというよりは、テーレさんに命令をしなければいけなくなったときのことを考えた結果でもあります。

 その命令が私自身の意思から発生したものであるという確信、というより保証が欲しいという意味ですが。


 この世界においてテーレさんの行動に責任を負うべきは私です。

 ならば、『その時は操られていたのかもしれない』などという逃げ口上は前もって封じておくべきです。それが、確実な自分の意志を確信した上で命令をすることこそが、彼女への誠意となるはずです。


「いいわ、転生者の相手を見据えてるならそれに見合った秘伝の呪紋(ルーン)を教えてあげる。その代わり、本当に敵対する転生者が現れたら教えてくれるわよね?」


「もちろんです。おそらく私とテーレさんへの対策は十全だと思われますし、武力介入はとても助かります。あなたが操られて敵側で現れるという失笑を誘うオチでなければ」


「はいはい、わかったわかった。その仮想敵の転生者が本当にいるかどうかがハッキリするまでは警戒して目立たないようにしておきますよっての」


 大変助かる返答です。

 おそらく、アーリンさんはこの街の冒険者の中で単騎戦力では最強クラスと見えます。

 彼女にはこの世界において飛び抜けた能力を持つと噂される転生者を前にして強がらずに余裕に振る舞える強者の風格がありますし、隙がありません。彼女が味方だと確定できるならかなりの戦力的余裕ができます。


「では、とりあえずは『測定結晶』の爆発の原因が確定するか、あるいはどちらかがこの街を出て行くまではそうしておきましょう。できれば、私とアーリンさんが交流しているというのも他の方に極力気付かれないようにしたいですし。警戒を解く場合も自然な形で同盟解除になります」


「だったら付きっきりで魔法を教えるってわけにはいかないね……本当に魔法が習得できるかは才能もあるから、それで教えられるかはわからないよ? とりあえず、簡単な魔法でテストしてみよっか。才能がありそうなら基礎だけ教えてあげれば自主練でどうにかなるかもしれないし」


「ふむ、そうですね。簡単な魔法というのは……」


「【点火(マッチ)】……『指先に小さな火を灯す』って魔法。魔力の流れを意識して、指先に集中させて、火をイメージして変換する。それだけ」


 アーリンさんは指を立ててその先にほんの小さな火を出現させて見せます。それは幻のようなもの、狐火に似たもので、空気の流れに敏感な小さな火に特有の不規則な揺れがない不思議な火です。


「意識、操作、変換ですね。確かに基本として必要な要素を揃えた最小単位の手順で魔法の行使を自他共にはっきりと認識できる、とても合理的な魔法です。イメージとしては、指を蝋燭に見立ててそこに火を灯す、ということですか?」  


「そゆこと。とにかく意識を指先に集中して、魔力をそこに集められればいいよ。後は火種を移してあげるから、魔法の出力を調節する感覚と、イメージを持続するコツを憶えて」


「なるほど。火というのは他の火種から分け与えることができるという先入観(イメージ)できっかけを作るわけですね。では、お願いします」


 意識を指先に集中。

 魔力というものが呼吸により取り込まれ、それが出て行くときに知性体の精神活動に反応して現象化するエネルギーだというのなら、火がつくのは実際にアーリンさんの火種がこちらの魔力を燃やして維持されるのではなく、蝋燭が火を移した後には次の蝋燭が燃え続けるという知識や経験から来る予測をイメージとして重ねたもの。

 つまり、実際に火を灯すのはやはり私のイメージです。


 要するに、肝要なのはできると信じること。

 ならば、大丈夫ですかね。疑うことと信じることはわりと得意分野だと思っているので。


 そもそも、この世界には神様が現存しているのですから。神秘の存在は当たり前に信じて然るべきでしょう。

 この身体そのものも、ディーレ様が作り直してくださったもの。それも一つの魔法と言えるでしょう。つまり、私がここに存在し、思考していること自体が、私の肉体そのものが神秘の証明です。


 指先にアーリンさんの指先が近付き、熱を感じます。

 ふむ……こんな感じでしょうか。


「なるほど、このような感じで……うぉ(ワッツ)っ!?」


「全身発火!? どんなイメージしたらそうなるの!?」


 何はともあれ。こうして、幸運にもそれなりの魔法の才能があったらしく、私は初めての魔法の習得に成功しました。








 そして、現在その成果は今の私を十全に助けてくれています。


「森の精霊が気に入った男性を女神に奪われないようにするために作ったという伝承を元にした『浮気封じの呪紋(ルーン)』。魔法の精神干渉への対抗手段では敵の術式を解析して中和や破壊を行うのが一般的だそうですが、それらを介さない転生者の能力に対抗するために考案された、術式ではなく術の対象者に働きかけ、情動に作用するものです」


 操られていることすら自覚せず、自分の意思で命令通りの行動をとっているとさえ誤認させるという強力な能力は、魔法での操作よりも魅了に近いものでしょう。

 美の女神の与える能力にはピッタリです。


 ならば、それを振りほどくにはその魅力を感じる部分を麻痺させればいい。千年の恋も一度冷静にさせて、冷ましてしまえばいいのです。

 真実の愛ならば表面が冷えたところで内側からまた熱が溢れて来ましょうが、外から一瞬にして熱を与えられただけの付け焼き刃の愛など一度冷水に浸けてしまえばそれまでですから。


「まあ、これには副作用として特殊な能力によらない異性のアプローチに対しても無感動になってしまい、たとえ熱烈なディープキスなどをされてもそれを性的な行為と認識できなくなったり、一時的に不能になったりする効果もありますが……テーレさんには後で謝っておきましょう。こっそりと魔法を練習していたのは秘密だったので」


 テーレさんのキスをキスと認識できなかったのは彼女に魅力がなかったわけではなく、私が魅力を感じられない状態だったので全面的に私に非があります。

 しかし、あれで呪紋(ルーン)が十分に実用レベルにあることがわかったので結果的には幸運だったと思いますが。


「な……なん、で……」


「おっと小柳さん。息が苦しいのなら無理に喋る必要はありません。疑問はわかりますよ。テーレさんを操ったときに私ができることを聞き出したのでしょう? 私が魔法を使うなど知らなかったと言いたいのでしょう? はい、言っていませんから。少なくとも、ちゃんと形になるまで黙っているつもりでした」


 たとえ、敵対する転生者がいなかったとしてもですがね。

 知らない内に魔法使いになっていてビックリさせてみたかったというのもありますし。


「そん、な……」


「テーレさんの立場からすれば、目的によっては私を魔法などで操って主従関係を実質逆転させるのが一番効率的ですからね。信用していないわけではありませんが、相談もなく全てを一人で決めるようになってはいけません。もしも失敗しても、責任は私にあるべきです。もっとも……あなたには、仮にも主であることへの責任という考え方はよくわからないかもしれませんが」


 少なくとも、盗賊の一部を切り捨てて、私にテーレさんの本性を見せつけるために殺させる捨て駒にするなどという行為の責任はそう簡単に取れるものとは思いません。


 もっとも、彼らに関しては私にも非がないとは言えません。

 テーレさんの様子がおかしいと感じてすぐに彼女に呪紋(ルーン)を使用していれば起こらなかった事態ですから。

 こちらの耐性は性質上、常に発動し続けるのは精神的にあまりよくないため再洗脳されるのを警戒して敵の正体が確定するまで泳がせようとしたのがまずかったですかね。


 しかし、やはり一番の責任を追及されるべきは、やはりそれを画策した小柳くんでしょう。


「ちなみに、先程の私への攻撃の言動からして支配の条件が『真の名前を呼ぶこと』であることは正解だったようですが、これに関しては推理に際し少々ズルをしています。ギルドの記録に本名ではなく『異名』が登録されているアーリンさんが狙われなかったこともありますが、彼女の話によると過去の転生者の持っていた能力の中に、『真の名前を奪う』という能力者がいたそうなので、類似した能力かもしれないと思っただけです。伝承の中には対象を操るために『真名』を必要とするという例は数多くありますから」


 少なくとも、この世界において『真の名前』を術式に組み込んで攻撃対象を固定する呪いがあったという話もノーツ女史から聞きました(というより、私が異名を登録名にできると教えられた時に『隠し名』についての由来も教えてもらいました)。


 西遊記に登場する『名前を呼ばれて応えると吸い込まれてしまう瓢箪』のようなものがこの世界にも存在するという可能性には誰でもごく自然に思い至るでしょう。


 なので、転生特典としてそういったものを用いる敵対者を想定し、『異名』として固有名詞となり得る造語や必要以上の意味や思い入れを持つ言葉を避けて、職業名である『狂信者』をそのまま使用させていただきました。

 実際の所、呪紋(ルーン)が効いているようなので少々警戒過剰だったかもしれません。


 まあ、『異名』については私のアイデアではないのかもしれませんがね。過去に『真名』に関わる能力を持つ転生者がそれを悪用していたとするなら、本来は各種手続きに必須な本名の記録を免除できる『異名』というシステム自体が有力な人間をそういった能力から護るために作られたものかもしれません。

 小柳くんのように能力を悪用する転生者がいなかったとは思いませんし、そう考える方が順当でしょう。


 それに、実は『リックス・ノーツ』が本名ではないというノーツ女史がギルドの様子が最近おかしいと洩らしていたのも判断材料としては大きなものでした。私の動きを操作するのに一番便利な立場にいる彼女に能力が及ばなかったのは彼女の本名を街の誰一人として知らなかったからだと推測できましたから。


 真名の定義が戸籍ではなく自己認識であったのなら、『自分の名前と言えなくもないけれど真の名前とはまた違う』という状態にある彼女には効果がなかったとしても不思議ではありませんし。


「小柳さんが芋づる式に名前を手に入れ支配した人間がこの街にどれほどいるかわかりません。しかし、この鉱山の内部に関しては煙に紛れてほとんどの方に呪紋(ルーン)を施させていただきました。一部の方には入り口へ向かっていただいたので、外から流入もほぼないでしょう。つまり、ここにいる方のほとんどは既にあなたの能力への耐性を持っています」


 アーリンさんは女性冒険者チームを相手にしても優位を崩していませんし、ターレさんを無事送還したらしいテーレさんには肩に触った時に呪紋(ルーン)を使わせていただきました。

 盗賊の方々は七割ほどが精神操作の影響から脱し、残りの三割の方を押さえ込んでいます。


「洗脳による人海戦術に頼るあなたは、皮肉にも敵対した私が解除手段を持っていたことで用意した戦力をまるごと敵に回してしまった。あなたが一度操った人間全員の名前を憶えていたとしても、その名を全て呼ぶ前に蜂の巣にされるでしょう」


 既に、手の空いた盗賊の方々は小柳くんに矢を向けています。彼が何か不審な行動をすれば、すぐにでも避けきることは困難な量の矢が飛来するでしょう。


「小柳さん……私は、命で償えとは言いません。赦されるかどうかは保証できませんが、降伏していただけるとお互いにとって最善の結果が模索できると私は提案します」


 人が死んでいる以上、何らかの重い罰があるのは間違いありませんが。

 しかし、第二の生を大切にして生き延びることを優先するなら、それが現状最善の選択肢、今ここで選ぶべきことだと思います。


 小柳くんは、何故か私を睨みつけます。

 まるで理不尽なものを見るように、憎しみの感情を向けます。


「ふざ……け、るな……絶対、命令、権により、命ずる」


 おそらく、魔法で最低限の呼吸を確保して、それでも絶え絶えな声で呟くように声を吐き出す小柳くん。しかし、その声は誰にも聞こえないであろうか細いもの。

 そんな声で誰に『命令』するつもりなのかと思った直後……小柳くんは、私の予測していなかったことを口にしました。


「『小柳宗太』に命ずる……限界まで力を引き出して、やつらを、皆殺しにしろ!」


 彼の目に残るのは生存の意思でも、支配欲でもなく、自分を裏切った者へ向けるような壮絶な殺意だけでした。


 『浮気封じの呪紋』。

 精神操作無効化、および完全魅了耐性術式(一時的不能化)


 だからと言って、いきなりディープキッスされたり(トコ)ドンされたりしても無反応を保っていて違和感を持たれない(というか心配されない)のはこの狂信者の性格のせいであって魔法の効力とは無関係。

 もちろん『信仰』は魅了ではなく心の内から溢れるものなので影響を受けていないです。性的欲求が押さえられた分そちらへ欲望が転化されたとかではなく、素の性格があれなだけです。

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― 新着の感想 ―
あー 無抵抗で嬲られるべき相手が反撃してきた時って爆発的な憎しみ感じるみたいで壮絶に醜い顔するもんなあ 顔が赤黒く膨れ上がったみたいになって顔のパーツがギュッと真ん中に集まるの 母親思い出して凄くしっ…
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