↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
六章:祀ろわぬ『御使い』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/828

番外編:夢想したので再会します④

side 狂信者


 はてさて、夢というのは奇妙なもの。

 見ている間には違和感を覚えずとも、起きてみれば摩訶不思議な世界観だったというのはよくあることです。


 そもそも、この世界では列車というものは中央地域のごく一部でしか実用化されていませんし、これから雪が降り始める時期だというのに田園地帯が深緑というのも妙な話です。


 他にも思い返せばおかしいことはいろいろありましたし、ライリーさんが私を客観的に見ておかしい状態だというのは当然と言えば当然でしたね。

 何より、テーレさんの立ち位置がそっくりそのままライリーさんに置き換わっていたことが明らかに夢としても異常でしたし……まあ、それに関してはライリーさんが意図的にその位置に転がり込んだのですが、それは置いといて。


 事の発端は、『永遠の停戦地』から次のスカウト現場へ向かう途中、移動手段として便乗した商隊(キャラバン)で出会った、一人の転生者さんでした。


「ニャハハ、本当にこんな大事になるとは思ってませんでした……うん、笑い事じゃなかったね、ごめん。反省してます」


 その名を、安酉(アトリ)さん。

 色褪せるほどに使い込まれたマントを着込んで小柄な体格には不釣り合いなほど大きな鞄を背にし、おそらくアーク嬢とそう変わらない十七か十八歳という年頃でありながら(しかも転生特典も全く戦闘向きではないにも関わらず)一人で放浪の旅をしている、旅の芸術家(アーティスト)。

 チョコレート色の肌は遺伝や日焼けマシンによるものではなくインスピレーションを求めて東方の『無神領域』にある砂漠を放浪した結果だとか。


 今は反省して伏せていますが、常に輝きを探して瞳孔がちょっと開いてるタイプの美少女です。


 最初はお互い、転生者だとは知らなかったのですが、お互いに目を見た瞬間に何か感じ合うものがあり、会話が弾んでいった末、彼女が地球で私も知る有名な美術作品の作者だったことが発覚し、お友達になったのですが……


「これまでも何人か転生者の人と会ったって言うから、つい……」


 実はアトリさん、旅の目的の一つに過去に出会ったことのある転生者の方を探すということが含まれているとかで、複数人の転生者の方と会ったことがあるという私の話を聞き、私の記憶を覗き見ることを決めたとか(普段からそれらしい話を聞く度にその方の記憶をこっそり覗いているそうです)。


 そのために用いたのが、『同じ夢を見るスープ』……という彼女の転生特典『特殊な効能を持つ料理を作る能力』で調理したアイテムでした。

 彼女はその料理スキルを活かしてキャラバンでは料理番をすることで移動費用を浮かしていたそうで、そんな彼女からすれば私の分だけ少し特別な隠し味を加えるなど造作もなかったとのこと。夢を共有し、明晰夢への慣れと予めその効能を把握しているというアドバンテージから私の記憶を想起させて調べ物をしようとしたそうです。


 まあ、これだけならば彼女のプライバシー侵害、『知りたい』という願望のちょっとした暴走で済むわけですが、問題は私の中にライリーさんがいたことです。


 アトリさんは夢の中で私が最も油断する相手……つまりテーレさんに成り代わることで私に質問し、これまでに遭遇した転生者の記憶を聞き出そうとしたそうです。もちろん、テーレさんは同じ夢を見てはいないので何も影響を受けませんし、一番穏当な方法で後遺症も何も残らないはずでした。


 しかし、ライリーさんがテーレさんのポジションに成り代わろうとするアトリさんの干渉を感知し、とっさに先回りして妨害。さらに、どこからか紛れ込んだ思念による招かれざる客……おそらくは、『私の知る転生者』を調べようとしていたアトリさんの思念によって引き寄せられた小柳さんの夢が混線し、私の夢をベースに四人の精神が相互干渉する奇妙な夢になってしまったと。


 しかも、自称であれ夢魔(インキュバス)であるライリーさんに対して、アトリさんは多少明晰夢に慣れているだけの夢世界の素人。とっさの妨害によって収まろうとしたポジションから弾き出されたアトリさんは夢が不安定となり、『悪夢』を見てしまうことになりました。

 それにより、連鎖的に私たちの記憶(トラウマ)も励起され、あのような夢になってしまったということです。


 そりゃ、小柳さんも迷惑がりますよねえ。

 ライリーさんはライリーさんで、自分が余計なことをしなければとへこんでいますが、私はライリーさんもアトリさんもさほど悪くないと思います。強いて言うのなら、夢なんぞ覗かなくても普通に聞いてもらえればよかったのですが。


 ちなみに、ライリーさんが私に『これは夢だ』と言わなかったのは、それが覚醒を促す行為になると同時に精神に最も大きな隙を作ってしまうことになることから、覚醒後に影響の残るような攻撃を警戒したそうです。まあ、アトリさんと夢を共有していたことを考えれば強引な回線切りは危険なので悪い判断ではなかったと思いますが。


「で、警戒したライリーさんと夢の制御を失ったアトリさんが互いに夢からの覚醒を遅らせることとなり、私は水をぶっかけられても起きないほどの深い眠りに陥り、目覚めると心配したテーレさんによって原因を突き止められた犯人(アトリさん)がギチギチに縛られていたと」


「ニャハハ、ワタシも寝てる間にこんな縛られたのは初めてだよー。ねえ、これ解いてくれない?」


「申し訳ありませんが、テーレさんが頭を冷やして戻ってくるまではそのままです。何やらとても怒っているみたいだったので」


「そだねー。ホントに心配したみたいだし、仕方ないかー。あーあ、まさか聖職者が精神に夢魔なんて飼ってるなんてねー。次からこれやめよかニャー」


「そうですね、ライリーさんが優しくてよかったですよ。次からはまず普通に質問してください」


「ニャハ、そうするよー。さすがにもうコリゴリだし」


 そう言いながら、縛られた身体でゴロゴロと床を転がるアトリさん。一応、この馬車は目覚めない私たちのための病室兼今回の事の発端であるアトリの尋問室ということになっているのですが、私が何か『仕返し』をするとは思わないのですかねえ。

 懲りているという割りには笑顔が絶えませんし。


「でも、助けてくれてありがとにゃ。あの夢、今でも時々見るから辛かったしにゃぁ。これからは大分楽になる気がするにゃあ」


「そのことですが……あれは、どういった状況の記憶なのですか? 答えたくなければ構いませんが、どうにも不可解なので気になったのです……あれは、あなたが『死んだとき』の記憶ですよね? しかし、あれは日本ではない。おそらく、地球でもありません。『この世界』で死んだ記憶です。そして、あの少女は……夢の中のあなたは、おそらく別人でした。この世界に転生してきてから、一度死にかけたか死んで蘇生されたというわけではなさそうですし……」


 これが成立する最もストレートな仮定は、一応成り立っているのですが、それがシステム的に可能なことなのかどうか……そして、もしもそれがよくないことであったのなら……


「……推測ができてるなら、ストレートに訊けばいいよ。夢見をよくしてくれた相手に隠すようなことじゃないし」


 転がって仰向けになりながら、私に首を差し出すように無防備に答えるアトリさん。

 いつでも覚悟はできている、そういうことですか。


「アトリさん……あなたは、少なくとも二回『転生』をしていますね? 一度目はこの世界か、とてもよく似た世界から、私の前世と同じ地球へ。そして、地球からこちらへ。地球での若き芸術家としての成功も……一度目の転生特典によるものですか?」


 テーレさんに聞いたことがあります。

 転生者は、基本的にまた違う世界に記憶を引き継いだ転生者として生まれ落ちるというようなことはできないと。こういった形での転生は一度きり、それが終われば記憶も能力も全て抹消され、世界も時も曖昧な世界の隙間を通っていわゆる『輪廻の輪』に近い概念に帰ると。

 しかし、私の推測通りだとすれば……アトリさんは、何らかの方法でそのルールをくぐり抜けて、記憶を持ってこの世界へ舞い戻った。


 そう……あるいは、そのどうしても会いたいという転生者に再び出会うために。


 それを訊くためにテーレさんに席を外してもらったという部分もあります。ルールの裏をついたのか、あるいは少々ズルいことをしたのかわかりませんから。

 しかし、アトリさんは私の推測に対してニンマリと口許を歪ませ……


「ニャハハ! 惜しいけど、半分外れ。ワタシが二回『生まれ変わってる』っていうのは当たりだけど、転生者としてっていうのは外れだよ。ニャハハ」


 そう、ケラケラと笑いました。

 心底楽しそうに、そして、初めて自分の秘密を明かせる相手を見つけたかのように。


「強い未練があると稀にあるらしいニャ……本当に、ただ魂の浄化が不十分で『前世の記憶』が残ったまま、それだけが他と違うまま別の命に生まれ変わることが。ま、ワタシは新しい身体の記憶力がちょっとよかったから『ありえない記憶』の見分けがついたけど、普通は記憶があっても『変な夢』で終わるかニャー」


「それは……盲点でした。なるほど、確かに昔から、単純に神々や天界を介さずに『前世の記憶』を持つというのは多々ある話ではあります。それらは実証されていないという話も多いそうですが……そもそもが、世界が一つではないとすれば『不正確な情報』と判断されたものもよく似た別の世界の記憶だったのかもしれませんねえ」


「かもニャァ。だから、転生特典で芸術チートしたってのは間違い。ま、赤ん坊の頃から意識ハッキリしてた分、たくさん勉強できたのは間違いないけどニャ。丁度、親の仕事もそれ系で教材もたくさんあったし、たぶん『生まれる前』から芸術系に興味あったからニャ。そんで、白血病で死んだら知ってる世界の神様がいて、知ってる世界に転生させてもらえた。ただの偶然にゃ」


「『美の女神』ことイディアル様ですか。あなたを選んだのは意図的だったのですかね」


「違うかニャー、なんか現世に新しい宗教画(肖像画)が欲しいから、芸術家やってて早死にしたワタシを選んだだけらしいし。注文品仕上げたら後は好きにしろって言われたから好きにしてるけど」


「それはとても『美の女神』として至極真っ当な理由ですね。つまり、あなたに派閥意識や神々への対立への参加の意図はないと」


「ニャハハ、全くない! そういうしがらみはあんまり作品に持ち込みたくないし」


 それだけしがらみを嫌うアトリさんが、どうしても探したい転生者の方ですか。それは、興味がありますねえ。


「では、とりあえず敵味方はないようですし、お訊きしましょうかね。そんな自由を愛するあなたがそこまでして探しているというのは、どんな方なのですか?」


「ニャハハ、実を言うと……顔も名前も、憶えてないのニャ。ただの生まれ変わりの記憶なんて、一つ二つ強烈なことをハッキリ憶えてられてりゃいいもんなのニャ。ワタシが憶えてるのは、村が盗賊に襲われて死んだことと……彼が、ワタシの料理を美味しそうに食べてくれる………『何でも食べられる』けど、ワタシの手料理を何よりも美味しいって、褒めてくれたことくらい」


 アトリさんは僅かに目を細めて、半回転して床の方を向きました。頭を下げる代わりなのか、あるいは顔を隠そうとしているのか……私も、わざわざひっくり返して確かめるほど無粋ではありません。


「『何でも食べられる』って能力の転生者を、知らないかニャ? ワタシは性格も、顔も、名前も、何もかも変わって、あっちが見てもきっとわからない。ワタシも、どこかで見かけても、きっと彼のことがわからない……前世でも探そうとしてみたけど、能力しか思い出せないし、名前も日本人っぽかったくらいしかわからなかったから、どうにもならなかったニャ。会ってもなんにもならないことはわかってるけど……この世界、この時代に転生できたんだから、せめて一目くらい会いたいのニャ」


「それで……『料理を作る能力』を授かったのですか?」


「ニャァ……もう一度、もっと美味しいもの作るって言った気がするからニャァ……」


 ……はあ、世界の壁を越えても忘れられない約束のためにやったなどと言われては、何も責められないでしょうが。

 どうしてこうも、私が旅の中で出会う方々は好ましいにも程があるのやら。世界が愛おしすぎて狂ってしまいそうですよ、全く。


「わかりました。残念ながら私はお目にかかったことがありませんし聞いたこともありませんが、探す伝手はあります。紹介状を書くので、クロヌス地方の中央都市クロヌスへ行ってみて下さい。あなたの能力ならば、いくらか兵糧の用意してもらうだけでも調査料として十分な仕事になるでしょう。それに、丁度今頃あちらでは休戦地の方々の受け入れで料理スキルの持ち主は大歓迎でしょうしね」


「……ん、わかったニャ。宮仕えは好きじゃないけど……本当に言うこと聞くかどうかはこの目でそいつを見てから決めさせてもらっていいかニャ? 悪用できない能力じゃないし、貴族への忠誠とかないからニャ」


「その旨も紹介状にはしっかりと書かせていただきます。あくまで戦力ではなく報酬ありきで能力を貸していただくためにご招待したと」


「うん……助かる。会えてよかったニャ、狂信者ちゃん」


「はい、こちらこそ会えてよかったです。『芸術家』アトリさん」


 電車旅ではありませんが、合縁奇縁も旅の醍醐味。

 ガタゴトと揺れる馬車の旅も、よいものですねえ。




 なお、この後お別れまで、世間話から始まった『ガリの実は何故美味しく食べられないか』という議論が白熱し三日三晩に渡った末、アトリさん共々テーレさんから強くお叱りを受ける結果となりました。

 気の合いすぎる友人というのも考えものかもしれませんねえ。





 『何でも食べられる転生者』……

 盗賊に襲われた村……

 手料理……


 はい、ということで次回から日暮さんの勧誘開始です。

 『日暮蓬』という転生者に憶えがなければ第54部《転生したので炎上します》辺りをもう一度読むことをオススメします(露骨な誘導)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どこかで火の玉食べて燃えちゃった誰かが居たような居なかったような……
確か居たよね、万物捕食の転生者。 尽きない空腹は村娘の家で食べた手料理でしか癒せなくなってた彼か…
あっ、あの村娘、、、 そゆこと(;_;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。