第162話 スタンプカード
side テーレ
この祭りには『スタンプカード』なるものが存在するらしい。
輪投げとかくじ引きとか、そういう『ゲーム系』の屋台で成功した場合のみスタンプが押してもらえる物で、スタンプが50個全部溜まると、この祭りを主催している『組合長』なる人物(あるいはそういう役割の鬼かもしれないけど)に、彼の一存で可能な範囲での『お願い』ができるのだとか。
聞き込みによれば、『お願い』の用途は主に『○○の屋台を作ってほしい』みたいなことで、そのお陰か半丁賭博やらTCGやら、ちょっとマイナーな趣味に対応した屋台もごまんとある。この祭りを楽しんでいる人間には心躍るシステムだろう。
まあ、個人の一存でなんて行ってる以上はそれを聞くかどうかはあっちの一存なんだろうけど、少なくともそのスタンプを貯めれば対面はできるわけだ。その『組合長』が転生者本人ならよし、そうでなくてもこの空間を作り出した転生者に会わせて欲しいと頼めばいい。少なくとも無策に探し回るよりは早道だろう。
まあ、一つの屋台で取れるのは1~5個と決まっているから、50個なんて結構頑張らなきゃ難しいように見えるけど……
「これで……ラスイチ!」
弦を引き絞った指を静かに離し、三十歩くらいの距離にある手の平サイズの『スタンプ5個獲得』の立て札を射落とす。
スタンプカード共有は反則扱いになるらしいけど、これで私一人で50スタンプ達成だ。
「射的屋台で十軒、案外すぐだったわね」
何しろ、山一つが屋台だらけだ。
同じ種類の屋台はいくつもあるし、射的屋台は的の小ささで簡単に大きなポイントを取得できる。そして弓は天使としてよく使った武器だ。このくらい、『万能従者』を使うまでもなく簡単に当てられる。一芸極めていれば同じ種類のゲームでスタンプを稼ぐのは難しくない。
転生特典としての能力使用がここでのルール違反になるかもしれないから、私の素の技術でクリアしやすい屋台を選んだけど、二時間とかからなかった。
「さてと、マスターの方は……」
「テーレさん! 私も50スタンプ貯まりましたよ!」
「おー、マスターも早いじゃん。何の屋台狙ったの?」
「型抜きです。ライリーさん、ゼットさんとの共同作業でしたが」
ちなみにマスター自身の技量だと筋力はともかくコントロールが雑だから軽いものを投げて的に当てたりする輪投げとかが下手だった。だから、てっきり信仰スキルの幸運補正でくじ引きでもしてくるかと思ったけど、使い魔利用の共同作業でクリアしてきたか。
「……それありなの?」
「どうやら最初から共有扱いで一枚の型抜きを買う分には大丈夫なようです。新必殺技『ライリーさん石化血槍ランサーモード』が炸裂して高得点をガンガン稼げました」
そう言って出した手の上で爪楊枝みたいな槍を掲げるスライム・ライリー(種族インキュバスもどき)。
槍はゼットネイバーに変形させたゼリーを『石化』させて作ったものだろう。店で配られるものとは鋭さが違うからやりやすかっただろう。
型抜きで自前の道具を使うのは反則臭いけど、自分の血を混ぜたゼリーを使ってるスライム・ライリーなら爪みたいな体の一部扱いみたいな感じで店員の赤鬼が止めなかったのかもしれない。マスターの『自分の一部』判定ってかなり大雑把だし。
「聞いた限りだとそれ『必殺技』にしては対人性能低いから『合体技』の方がいいんじゃない?」
「一寸法師さんに倣えばおそらく必殺ですよ。本気で対人使用を見据えるのならもう少し工夫が必要だとは思いますが、スライム・ライリーさんもゼットさんも基本不定形なのでちょっとした隙間から侵入して物理的障害物を掻い潜りながら侵入できるのはなかなかに強力かと」
そして、実戦での利用も考えているようだ。またマスターのとんでもない思い付きを実行できる手札が増えてしまった。
まあ、実際役に立ちそうな場面もあるからやめろとは言わないけど。ポイントも早く貯まったことだし。
「ところでテーレさん」
「どしたの?」
「浴衣、お似合いです」
「……そう。別に……似合うかなんて、訊いてないし」
なんとなく、顔を逸らす。
別に、ストレートに似合うって言われて恥ずかしくなったとかじゃないし。
別に、反応を期待してたとかじゃないし。
私は今、店で貸し出ししていた浴衣を着ている。
それほど派手でもない、水玉模様のシンプルな浴衣。『綺麗に着こなせればポイントゲット』って書いてあったから、読み込んであった知識で着付けをして、得点を挙げるために浴衣に合わせて髪を結んで簪を刺してみた。それだけだ。
それに、いつもの服だとポケットとかボタンが弓に引っかかるかもしれなかったから、念のために浴衣のまま射的屋台を廻っていた。
だから、別に見せるために着たわけじゃないし。
「……スタンプ貯まったからもう返すし。別に、ここには仕事で来ただけでこんなの着て楽しむためじゃないし」
「そうですか。これまで携帯電話を放棄したことを後悔したことは特にありませんでしたが、今だけはそのお姿を写真に収めておけなかったことが残念です」
浴衣を借りた屋台へ向かいながらスタンプ欄の空白が消えた厚紙のカードをピラピラさせて、この先の予定を確認する。
切り替えよう。作戦は次の段階へ進んだんだし、遊びは終わりだ。うん。
「とりあえず、ポイントはもう貯まったわね。対面するだけでいいなら片方使えば十分だろうし、わざわざ二人で貯める必要はなかった気もするけど」
「『組合長』が転生者御本人なら、『研究施設』への対抗に協力してほしいというお願いをしてみますかね。ダメで元々になりますが」
「百万ポイント持ってこいとか言われるのがオチよ。ここの『ルール』を能力で管理しているのなら、ここを離れるために能力を解除するしかない。つまり、この祭りを終わらせるしかないんだから。あっちがその気ならルール自体を改変してでも拒否してくるわ」
「おっと、テーレさんこれを。リンゴ飴です」
「え、舐めろってこと?」
「スタンプ充填の満足感で青鬼さんがこちらを気にし始めていますので。お話は食べながらです」
「はいはい」
透き通る赤色の飴を受け取り、表面を舌先で撫でる。
私に読み込まれた知識ではリンゴ飴というのはリンゴを飴でコーティングしているだけで見た目ほど味がよいことはあまりないということだったけど、これは全部飴細工になっていて、ちゃんとリンゴの中まで美味しく作られているらしい。出現過程を考えれば見た目のために味を落とす必要がないからだろうけど。
「テーレさんは、この空間を作った転生者さんの能力に見当がついているのですか?」
「うん。細かい個別設定はまだわからないけど、分類としては『結界系』の『概念型』になると思う。説明が面倒な能力だけど……簡単に言えば、この空間は『敵意』の概念を遮断して、内部での発生まで徹底して防ごうとしている。物質生成も満足感の回収も、そのための過程でしかない」
「ふむ……『結界』というのは『障壁』のような形でのイメージがされやすい言葉ですが、厳密に宗教や魔術での本来の意味で言うのならば『内側と外側を別の属性として定義するもの』。寺院や神社の境界を囲う石畳も、『クマ注意』の立て札で入り口を封鎖された山も、ある意味『結界』が張られた状態と言えますしね」
こういう時、マスターは理解が早くて助かる。
『結界』をただの壁だと認識されていたら余計な説明の手間が必要だった。
今はむしろ、マスターの方が説明しているような感じにも見えるけど、これは互いの認識が一致しているかの確認の意味合いが強いだろう。それにしても……
「『クマ注意』の看板も確かに一種の結界だろうけど、そうやって言うと凄みがないわね」
「凄みなどなくても自然に効果を発揮するのが本来の『結界』というものですからね。『関係者以外立ち入り禁止』などというような張り紙をされた扉や『KEEP OUT』のテープが張り巡らされた場所もそうですが、見張りの警備員などがいなくともなんとなく『中に入ったらいけない』と認識させるだけでも十分に『結界』として機能するものでしょう。そして、それでも強引に踏み入った人間は自分が本来そこにいるべきではない人間であるという認識を与えられ、精神的に弱体効果を受けることになります。空き地で野球をしていてボールがお隣さんに入ってしまったら、その家の方がどんな弱々しいご老人でもお叱りに対して何も言い返せないでしょう? 勝手に敷地に入り込んでいるというのは『悪いこと』だと子供でもわかるのですから」
「たとえがどっかの絵物語にありそうな一場面ね。まあ、わかりやすいと言えばそのとおりだけど」
「逆に、自身の生まれ育った土地や習慣的に趣味で利用している図書館や博物館、あるいは信仰する存在を祀った施設であれば『そこにいる』というだけでその人物の精神には普段よりもポジティブな効果が期待できます。いわゆる『ホームグラウンド』と呼ばれるような認識ですが、これも一つの『結界』です。『結界』とは『界』を『結ぶ』と書きますし、『結ぶ』とは『混ざらぬように隔てる』ということでもありますから。物質的な意味だけでなく、雰囲気や認識、立場や意識という意味での『空気』が混ざり合わないようにするものが『結界』と定義するのもいいでしょう。となれば、ここが『結界』であるのも明らかなことです」
正直ここまで詳しい知識は求めてないというか、私もそこまで理解深くないんだけど。
魔法でも地面に線引いて結界作ることはあっても『機能すればよし』くらいな意識だし。時々思うけどなんでマスターって魔法に関して私の知らないような知識を知ってたりするんだろう。修行の時に例のリザとかいう女から教えてもらったんだろうか。
「今回の場合に注目すべき点に焦点を当てるのなら、『結界とは中に入ると空気が変わるものだ』という表現をした方が捉えやすいかもしれません。郷に入っては郷に従えと言いますが、空気が変われば意識的無意識的に行動も抑止や誘導を受け、行動や精神がその場の『ルール』に同調していくもの。そして、この空間を維持している転生者は外からは黒い球体に見えるほどに遮断性の高い『境界面』を展開し、内部を『祭気分になってしまう空気』で満たすことにより、内側の人々に自身の定めた『ルール』を適用している……その理解で合っていますか?」
概ね正解だ。
三色の『鬼』の存在とか、雰囲気とかの理屈だけでは説明のつかない事象を引き起こしているのは確かだけど、それ以前にここに入ってから受け続けている精神的な影響はその手の集団意識を強力にしたものだろう。
それに、物理的な現象を加味するのならこの能力は……
「『結界系』の『物理型』なら、それこそ障壁みたいに『見えない壁を作り出す能力』になるけど、こっちはそれよりも少し遮断性が低い……強いて言うんなら、『結界の内側にあるものに自分の決めたルールを適用できる』みたいな能力かしらね。それも、強引に物理的な妨害が入るだけじゃなく精神に働きかけてルールを遵守させるような効果まである。だから、設定の自由度はわからないけど、やろうと思えば『俺に逆らうやつは殺せ』みたいなこともできると思う。私たちみたいにここの『空気』に染まり切ってなければ精神抵抗で防げるだろうけど」
「私たちがこの結界にいる間は効果が永続していて、『空気』に染まってしまうリスクも上がっていくわけですか。しかし、転生者の方も人間ですし眠ったり疲れたりするでしょう。能力を半年も発動できるとなれば燃費の良さでは説明がつかない気がします」
「そこはたぶん、『発動し続ける』ってタイプじゃなくて『状態を付与する』ってタイプなんでしょうね。あの最初に戦ったラタ市の転生者も『相手を操る』って能力だったけど人数の上限はない代わりに直接の命令以外では命令変更もできなかったし、一度操った相手への能力が解けてるかどうかすら感知できなかった。あれは相手に『自分の命令に従う状態』を付与するってタイプだったから。疲れることがあったとしてもそれは初めて相手を操る時だけで、一度能力発動に成功しちゃえば後はノーコスト。けど、『浮気封じの呪紋』とかでその状態を解除されたらまた能力を使わないと支配力が復活しない」
発動系能力の中でも、この手のタイプは持久戦に強い。
状態を付与されたものと戦っても転生者本体にダメージが行くことはないし、戦略的に見ても生産系の次に影響力が大きい。
その代わり、直接対決に持ち込めば瞬間的に威力を上げて来るようなことがないから、攻めるならラタ市でマスターがやったみたいにどうにか本体を見つけて襲撃したいところだけど、ここでは戦闘行為がルールに抵触する。
見た感じ『ルール違反=即死』みたいなことはないみたいだけど、転生者が自分限定で『自分に攻撃したものは死ぬ』というルールを付与している可能性も全くないとは言えない。
「なるほど、先程の屋台にあったカードゲームのテキストで言えば『対象に「このカードが表側で存在する限り、攻撃宣言をしたモンスターの攻撃力は1000ダウンする」という効果を与える』という感じですかね。既に付与が完了してしまっている以上、転生者が眠ろうが疲れていようが発動済みの能力の質が落ちることがないと」
「まあ、そんな感じ。この転生特典の特にチートな要素としては、そのテキストをある程度の範囲は自発的に変更できるってことかしらね。このスタンプカードとかのシステムも後付けされたらしいし、最初期には屋台の種類も少なかったはずだから、ここの住人の要望を聞いた転生者がそれに応じて結界内のルール設定を複雑化しているんでしょうね」
「なるほどなるほど、先に踏み込んだ転生者の方々が解決に失敗した理由がなんとなくわかりました。どんな転生者であれ、この世界に対して破壊的な行為を行うことは『敵意』を示すことになります。おそらく、外部から魔法やら爆弾やらを投げ込んだとしても無効化されたのでしょうし……というより、そのために境界面での慣性移動を妨げるようなルールが設定されているのでしょう。ここのルールメイカーたる転生者さんは、『自ら攻撃しない』という条件により攻撃者に対して圧倒的に有利になれるようにルールを設定している。専守防衛を貫く限りは無敵のシェルターというわけです」
この結界は巨大で強力だ。ある意味、この山は隔離された異空間、一つの別世界だと言える。
世界の壁を貫通して作用する能力なんて転生特典でもほとんどないし、内側で発動しようとすれば『黒鬼』に鎮圧されてしまう。こうやってここのルールに従っている間は害を与えられることはないけれど、ルールに逆らおうとすればこの世界そのものが敵に回る。
「だけど、不可解なことがある。術者が疲労しにくいと言ってもこの手の能力は、能力の強度が効果範囲や指定対象の広さに反比例する。たとえば、『結界内で刃物を使って他人を傷つけることはできない』は難しくないと思う……けど、それを『結界内で敵意を行動に移してはいけない』だったら、効果は『その人間の身体が重くなる』とか『傷つけようとした相手のダメージが軽くなる』とか、その程度にしかできないはず。それに山一つを呑み込む効果範囲だってこれだけ明確な効力を発揮するには広すぎる」
「ふむ……能力の設定変更ができるとしても、その総合的な性能には条件があるということですかね。『破砕槍』氏の『特攻対象を選択する能力』もその性能を維持するために『弱点』を持つ必要があったようですし、その総合値が規定されているとなれば……」
「さっきのマスターの比喩で言うなら、レアリティに合うカード性能は『攻撃宣言したモンスターは攻撃力が300下がる』程度のはずなのに、実際に発動してる効果は『攻撃宣言したモンスターは攻撃力が0になる』になってるっていうこと。それに、他にもあの『赤鬼』と『青鬼』による物質と精神への干渉能力なんかも考えると、三大女神の担当転生者だとしてもここまでの出力があるのはおかしい。どんな裏技を使ってるんだか」
三大女神が転生者を降臨させる段階で反則行為をしたって可能性は、考えなくていいと思う。もしもそうやって無理なリソース消費で特別な転生者を生み出したのなら、それがこうやって、信仰拡大に繋がらない能力行使で引き籠っているのはおかしな話だ。この中で信仰を強制して農場のようにしているというのならまだしも、ここには信仰を強制する要素はない。
ここはただ、快適で平和なだけの『楽園』だ……『組合長』とやらが信仰を得ているわけでもない。
「ここの転生者、この世界を創った人間は……本当にただ、『平和な楽園』だけを求めて能力を使っている。もしも、外の世界が燃え尽きてしまうような大戦争が起きたとしても、また戦乱の時代が来たとしても、ここだけは守られるように。『永遠の停戦地』とはよく言ったものね」
外では『魔王認定』が検討されているらしいけど、実際の所『魔王』として認められたところで、どうこうできるものじゃない。この空間は外部に攻撃する機能を持たない代わりに無敵、外の人間への誘因効果というのも、それはこの世界の内側にいる人間たちから漏れ出す『楽しさ』が影響を与えているだけだ。
きっと、『悪い人間』ではないのだろう。
むしろ、この『楽園』からその要を引き抜こうとしている私たちこそ……
「……気に入りませんね。私の個人的な感想ですが」
「……え?」
私はてっきり、マスターが『それなら勧誘は諦めようか』というようなことを言い出すんじゃないかと思っていた。これから『組合長』とやらに対面して、一応事情を話してこの世界から外に出してもらうという流れになるんじゃないかと。『研究施設』を相手するにしても、ここの転生者を引っ張り出すことは必須条件じゃない。マスターの『幸福理論』からすれば、ここは放置しておくべき場所だというんじゃないかと。
「飢えた人に釣り竿ではなく魚を与えるのは、もちろん与える側の勝手です。食べやすく調理して渡すのもいいでしょう……しかし、『危ないから』と刃物の一切までとりあげてしまうやり方は、よくはないと思います。転生者さんがどこまでを理解し、どこまでを掌握してこの状況を維持しているのかはわかりませんが、これが全てその方の意図であるのなら、あまり仲良くはなれないかもしれません」
「ふーん……ちょっと意外。みんなこんなに楽しそうにしてるなら、わざわざそれを否定する必要はないとか言うかと思ってた」
「テーレさん、『楽しい』と『幸福である』ということは必ずしも同一ではありませんよ。まあ、『楽しさ』が『幸福』を生み出すことは否定しませんし、楽しむこと自体を悪いことだとはいいませんが。行き過ぎた『楽しさ』は逃避になってしまいます」
「……よくわかんない」
「そうですね。『テスト前に息抜きのつもりでゲームを始めたら、楽しすぎて夜通し遊び続けてしまった』というようなことを考えてみれば、想像しやすいかもしれません。薬も過ぎれば毒というものですよ。ローマ帝国には満腹になるまで食べた料理を吐き戻してまで新たな料理を食べるという文化があったそうですが、ここのシステムはそれに似ています。ここまで来ると非合理に感じます」
マスターが、私の手からひょいとリンゴ飴を取り上げた。
見ると、リンゴ飴はほとんどなくなっていた。
会話しながらでも無意識に口に運んでしまったらしい。
それだけ美味しかったということだろうけど……いつの間にか本来の目的を忘れて、満足するまで食べてしまうところだった。
マスターは私にほんの少しの『不満足』を残しながら、リンゴ飴を自らの口元へ運ぶ。
「ここには、楽しみを得るために必要なものが十分にある。物質的に飢えることがなく、精神的に飽きることがない。そして、楽しみを阻害するものは排除される仕組みです。それでは、こうして食べ物を分かち合う必要も、新たな楽しみ方を考える必要も、協力して問題に対処する必要もない。争いの原因となる要素が徹底的に排除され、仮に発生したとしてもすぐに失われる。ここには、可能性というエネルギーがありません」
飴を、一口で自らの口に突っ込み、ガリガリボリボリと噛み砕く。
味わってやるものかというように、楽しんでなるものかというかのように。
自らの口の中を破片で傷つけようとするかのように、強引に噛み砕いた飴を呑み込み、残った棒をゴミ箱へ捨てる。
「さあ、『組合長』とやらに会いに行きましょう。私個人の好き嫌いはともかく、お仕事の時間です」
TCGでの比喩が便利すぎて困る。
ちなみに狂信者は従者使役型なので『召喚時に指定モンスターを特殊召喚(このカードがフィールドを離れたときそのカードを除外)』タイプです。




