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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
五章:『穢れ』多き英雄譚

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第144話 悪魔の森

side 狂信者


 『鎧悪魔』と私たちが呼称しているものは、実の所は『取り返しの付かないところまで悪魔に汚染された人間』です。


 悪魔と遊べば悪魔になる。

 上手く利用しているつもりでも、その相手を利用することへの快楽を憶えてしまったことが自らを歪めてしまう。あるいは、悪魔のやり方を間近で見続けることで影響を受けるということもありますか。

 どちらにしろ、この世界において『悪魔』とはその大部分が変質した人間霊であることを考えれば、表現の自由はあっても本質的には『性質や存在が悪魔に近くなる』と考えていいでしょう。


 そうでなくとも、彼らの肉体は無理な身体能力を実現するために酷使されボロボロなのだそうです。私の魔法も身体強化を行えば負担がかかるというのは一緒ですが、彼らの場合は負担に耐えるべき鍛えられた肉体の下地も負担を減らす配慮もないため、悪魔が去れば物体としての形を保てず塵になってしまうほどに酷い状態だとか。

 つまり、彼らは生物としての天寿をもはや使い切ってしまっている。私の【過剰回復(オーバーヒール)】でも救うことはできません。


 ならば、せめて浄化して差し上げるのが彼らへの手向け。

 恨みはありませんが、敵として打ち倒すことに躊躇いはありません。


「周囲には他の個体はなし。視界共有や同時攻撃は考慮の必要なし。問題は……間合いのみ」


 テーレさんから聞いています。

 新型の『鎧悪魔』には、テーレさんとの交戦時にはなかった武装があると。その予備動作や射速も予習済みです。


 新武装は、左腕内部に仕込まれた杭撃ち銃のような射出武器。樹に刺さった弾から、杭の正体は鉄の鎧を貫けるように炭素で硬化した骨片のようなもの。

 弾速はクロスボウより少し遅い程度、最装填には最低五秒。

 威力はそこらの矢より高いものの、それは純粋に骨弾の重さによるもの。貫通力を上げるために鋭く研ぎ澄まされているというわけでもありません。


 つまり……


「なんてことはありません。一発撃たせてあげればいい」


 修行で得た今の私の反射神経と魔法の発動速度、そして身体能力があればこれが最適解でしょう。

 左手をこちらに向ける鎧悪魔さん。おそらく、『離れていればまず射撃攻撃、近付けば格闘攻撃』とプログラムされている。であれば、まずはこちらが接近すれば……


「ガッ!」


 どん、と一発。

 発射のタイミングを見極めて【石化(カースロック)】で防御して杭を弾きます。肩に当たりましたが、テーレさんの防具強化と私自身の魔法による質量増加でびくともしません。攻撃のタイミングがわかりやすいとはいえ中々にヒヤヒヤしますね。


 と、それはともかく……いくらスリリングでも、同じ賭けを二度するつもりはありません。


「次の射撃まで5」


 【石化】を解いて大きく踏み込み接近。

 あちらも、二度目の射撃より前に接近されることがわかったのか拳を構えます。しかし……元々、不相応な怪力を振り回すだけの戦闘スタイル。その構えは狩りで見たリザさんの構えと比べればあまりに粗雑。


「4」


 ヘルメットのバイザーに向けて軽い石化拳ジャブ。

 鎧悪魔の頭は仰け反りましたが、人間ならば隙ができるべきこのタイミングで身体が関係なく攻撃を続行しているのがこの敵の危険なところ。事前にそれをテーレさんから聞いて知っていた私は幸運でしたが、他の方はここで攻撃を受けているかもしれません。


 私の場合、顔面を攻撃したのは隙を作るためではなく、『隙間』を広げるためですがね。


「3」


 首関節、プレートの隙間を鎖帷子で保護している部分。無防備ではないとはいえ、最も耐久の低い部分です。そこを……【石化(カースロック)】で硬化した手で、襟首を掴む要領で親指を突き込んで握りしめます。そして同時に、左腕も強く掴み、引きつけます。

 後は、そのまま体勢を崩し、鎧の背後へと伸ばした足を勢いよく振り戻すことで足下を崩す。


「ゴガッ!」

「2……【浄化(デトックス)】!」


 倒れた瞬間に貫通した喉から内側への魔法注入。

 【点火】と【石化】を同時発動する【焼石(ジオサーマル)】と同じ要領で、石化したままの指先から『浄化の光』を放出。

 鎧の内側からの浄化光は、悪魔の力によって生物としての形を保っている『中身』を本来の姿に正し、その活動を停止させていきます。


「ゴ、ゴ……ガ……ギ、ガ……ゴ……」


 倒れたまま、ダラリと脱力する鎧悪魔さんの四肢。

 さらに浄化光の放射を続けると、鎧の隙間からサラサラと塵が流れ出て行き……最後には、最初から中身などなかったかのように、抜け殻となった鎧がバラバラに地に落ちました。


「い、今のは……」


 一連の流れを後方から見ていたキャシーさんが、驚いたようにこちらを見ています。まあ、なるべく静かに速やかに鎮圧するために少々ずるい技を使いましたからねえ。

 『仏骨掴みからの大外刈り』とか、今みたいに体重をかけて人間にやったら命に関わるのでよい子は真似してはダメなやつです。戦場と言えどあまり褒められた攻撃法ではないので誤魔化しておきましょう。


「やはり、思った通りですね。どうやら私は、彼らとの相性がいいようです。一人あたり三秒では、集団相手は厳しいところですが」


 物理攻撃で鎧を砕いて内側に浄化魔法を注ぎ込む。

 他の方では鎧に空けた穴や罅に上手く浄化魔法を当てなければ効果が薄くなりますが、私の場合は石化した腕を直接武器として鎧を貫き、そのまま浄化してしまえばいい。

 他にも格闘や法具(トーテム)を使った白兵戦に強い方がいれば同じことが出来るとは思いますが、ともあれ油断しなければ一撃で倒せるというのは大きい。


「次からは、初撃の射撃攻撃はテーレさんに妨害してもらいましょうかねえ。そうすればより効率化できます」


 敵は高々百体、極論を言えばこれをあと残っている鎧悪魔全てにやれたのなら、問題はほぼ解決できます。

 まあ、それ以前に相手は一体でいることが少ないかもしれませんが……


「一対一なら傷を負わず倒せるとわかれば、テーレさんに足留めしてもらうなり地形を利用するなりして一対一に持ち込むだけですし、問題ありません」


 とりあえず、今は場所を移すのが先決かもしれませんが。

 情報共有が行われているのならここに集まってくるでしょうし、テーレさんに新しい場所の連絡も……


『マスター、聞こえてる?』


「『おっと、テーレさん。丁度、浄化に成功したところです。これから移動しようかと思うのですが……』」


『ああ、それだけど。あの隠し通路の出口の所に行ってくれる?』


「『大丈夫ですが、いいのですか? あそこに留まると敵側に通路がばれてしまうのでは?』」


『心配ない。そっち行ったらすぐに合流して移動するから』


 テーレさんは砦の中の方々と話を付けてくださったようですね。声の調子からしても、悪くない結果だったようです。


「『わかりました。では、キャシーさんを連れてそちらへ向かいます』」


『あ、そうだ。なら、先にキャシーに確認しといて。念のためにだけど……乗馬の経験あるかどうか、合流するまでに把握しておきたいから』







side テーレ


 砦の中の人間との『取り引き』は、大体上手く行った。


 『陣営関係なく人間の避難を受け入れてほしい』っていう要求にはさすがに反発もあったけど、中には既に鎧悪魔との交戦で仕方なく共闘を選んだ人間も何人かいたから、橋が落ちていたという情報とマスターの推測を元にした理論、それに私自身の交戦経験の誇張で『全員で協力しなきゃ死ぬ』ってイメージを押し付けてひとまずの協力態勢を作らせた。


 まあ、即席だから長続きはしないけど、それも防衛戦が一週間や二週間続けばの話だ。目の前に具体的な『共通の敵』がわかりやすく用意されている今なら、とりあえずは協力しておこうということにできる。長期戦になれば糧食の不足とかが問題になるけど、そこは『私たち自らが街に救援を呼びに行く』といって早期解決を約束してゴリ押した。私たちを邪魔するのなら『代わりに危険な伝令をやってくれるってことだよね?』と脅した部分もあるけど。


 まあ、何はともあれ私は任された仕事をひとまずはこなしたわけだ。そして、思わぬ拾いものもできた。


「なるほど、軍馬ですか……それも二頭」


「最初の混乱の時に砦に逃げ込んだのがいたらしくてね。潰して肉にするよりも私たちに使わせた方がいいだろうって」


「ありがたい……これなら、彼らに追われても速力で逃げきれます」


「うん、そういうこと。キャシーはこっち乗せるよ。マスターは一人でもある程度乗れたよね?」


「はい、アーク嬢に教わりましたので。それに、軍馬として訓練されているのなら乗り手が乗りやすいように走る訓練はされているでしょう」


 ほんと、まさか魔法そっちのけでジャネットから乗馬を習ってたのがこんな形で役に立つとは。確かに、こういうときに生き残ることを考えたら、移動手段として馬が使えるかどうかで大きく変わるけど、私がいれば二人乗りはできるし趣味技能になるかと思ってた。さすがに三人乗りはできないし、今回は二人で別の馬を使う必要があるんだからマスターが馬に乗れるっていうのは大きなプラスだ。

 キャシーがいれば周辺の地形もわかるから連れていくのが一番だけど、さすがにキャシーを一人で馬に乗せて逃げられるようにするわけにはいかない。必然的に私がキャシーと一緒に馬に乗ることになる。


「さすがに夜になったらあっちの索敵能力がこっちの感知能力を超えるから、早い内に距離を取りたいわね。雨が降っているとはいえ、昼と夜とじゃ明るさが大違いだし」


「そうですね。しかし、砦に敵が集まるように動いてもらうには少し待たなければならないのでは?」


「ああ、それね。それなら大丈夫よ……もう、鎧悪魔たちは砦に集まり始めてるから」


「……と、いいますと?」


「ちょっと交渉ついでに仕込みしておいたのよ。砦の連中としても、多少囲まれておいた方が緊張感あって仲間割れとかする余裕なくなるでしょ」


 別に、わざわざ悪魔を集めるために貴重な魔力を消費して魔法を仕込んだわけじゃない。

 単純に、私が常備している『天使としての気配をより入念に隠すマジックアイテム』を交渉の間は止めておいたってだけだ。


 私の気配はあの悪魔としても納得できないような扱いを受けている鎧悪魔たちからすれば、自分たちより邪悪な本質を持つくせに天使の気配を纏って良い子ちゃんぶってる裏切り者の気配。敵愾心を煽られる気配だ。

 私の正体露見を防ぐために作った気配を誤魔化すアイテムがあるからこの森の中にいても鎧悪魔は私に集まっては来ないけど、砦の中では気配を敢えて隠さなかった。鎧悪魔からしてみれば、私という許せない存在が砦の中にいるようにしか思えないだろう。


「さ、鎧悪魔は勝手に砦に集まってくるわ。私たちは街へ急ぎましょ。最低でも夜までに身を隠せる場所まで行かなきゃならないんだから」


 生憎と、私は優しいタイプの天使じゃない。

 砦は任せた、鎧悪魔の情報も渡した、救援要請という希望も与えた。だったら、後は彼らがちゃんと仲間割れとかせずに約束通りに協力して防衛すれば何とかなるだろう。今あそこにいる人数では多分足りないけど、森の中から逃げ込んでくる人間もちゃんと受け入れて味方として一緒に戦えば、なんとかなるはずだ。


 もしそれで、最後まで所属やら階級やらのくだらない内輪揉めがやめられなくて全滅したなら、その時はその時だ。そこまで人間同士の争いが好きならその結果として死ぬのも本望だろう。


「早く馬に乗って。もたついて流れ弾食らってもつまんないでしょ?」


 ここは戦場。

 敵の策や味方の裏切りで死んだなら、それは死んだ方が悪い。それがまかり通る場所……絶対的な正義が消え去り、悪意が美徳と成り代わる世界。そして、私という『不幸の天使』がより善良な人々に相対的な幸運を与えるのによく利用した環境だ。言わばホームグラウンド、それは人間体の今だろうと変わらない。

 敵軍だろうが味方だろうが、生き残るために利用できるものなら何でも利用させてもらう。それだけのことだ。







side ???


 聖なる者の歪な気配。悪魔の神経を逆撫でする存在の気配。


 擬人型悪魔兵が興奮し、砦に集まろうとしている。

 自動操縦のために組み込まれた基本命令を無視するほどの強い欲求……あるいは怒り。


 高位の神官が何か『悪魔寄せ』のような儀式を行ったのか。

 この状況で防衛拠点の中から……


「悪魔兵を一手に引きつけて、他の人間を逃がすつもりか……それとも、悪魔を一カ所に集めて脱出する気か? 無駄なことを」


 全くの無駄だ。

 確かに近場の悪魔兵は多少集められる。包囲にも穴が空くだろう。しかしそれは、砦周りの狭い範囲だけだ。

 だが……まさか、悪魔が送り込まれた百体で終わりだとでも?


「命令だ……森の生き物を全て殺せ。鳥だろうが、動物だろうが、もちろん人間だろうが……全てだ。殺し尽くせ」


 誰一人として逃がさない。

 この『悪魔の森』からは。





 『仏骨掴みからの大外刈り』……くれぐれも絶対に真似しないでください。下手すると死にます。

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