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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
五章:『穢れ』多き英雄譚

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第141話 大量生産の悪夢

side バルマー・ヘントリクス


 雨雲と共に、不気味な『鎧』の群れが木々をなぎ倒しながらこちらに迫って来る。


 我々の目的は、『真紅の剣』を名乗る盗賊団が独自のルートから手に入れた新兵器の入手……押収だった。

 表向きの任務は盗賊団の殲滅となっていたが、それはあくまで主目的の過程。冒険者と共に盗賊団を討伐し終えたら、邪魔者のいなくなったやつらのアジトに隠された新兵器をゆっくりと確保するはずだった。


 少なくとも、三百兵の軍を率いる作戦指揮官としての立場では、それだけの比較的簡単な任務だとしか聞かされていなかった。件の新兵器についての情報は少なかったが、少なくとも荷馬車も使わずにバックパックで持ち運べるような手軽な品物ではなく、稼働にはまだ組み立てや調節のための時間が必要であるため、予定通りのタイミングで仕掛ければ脅威にはならないと、そう言われていた。


 だが、それなら目の前の光景はなんなのだ。

 あの邪悪な気配を放つ鎧の群れは、あの鎧こそがその新兵器か、それに関わるものではないのか。

 それ以前に……何故、それらが砦の中ではなく、我等の部隊の背後から現れるのだ。盗賊団はほとんど砦に入っているはずなのに、誰があれを着ているというのか。


 考えられるとすれば……


「古いアジト……まさか、囮と言われていたあちらに……」


 だとしたら、最悪だ。

 おそらく、囮に騙されていると偽装するために送り込んだ見かけだけの部隊は既に壊滅している。やつらはよりにもよって、こちらが狙っていた新兵器を護るために人員を集めるのではなく、兵器起動のために必要な最小限の人員以外を囮として、アジトを空の荷馬車と共に移した。そうすれば、その新兵器を移送するための時間を節約して組み立てだか調節だかのための時間に回せる。

 こちらはその策にまんまとかかったわけだ。


「くっ……第八部隊! 機動力を優先し哨戒戦専用の三小隊を即編制! 可能なら足留め! それができずとも敵の情報は持ち帰れ!」


 マズいのは、砦に籠もっている盗賊団とあの鎧の集団との間で挟撃される構図になること。

 ここは森の中、こちらの部隊が撤退できるルートは限られている。しかも、元来た道はまさに鎧の来る方角。交戦を避けて逃げられる道はないに等しい。少人数のパーティーを組んで森の中を移動するのに慣れた冒険者達には可能かもしれないが、我々は遅れる者を見捨てながら逃げるわけにはいかない。


 経験上、このように作戦で大きなイレギュラーが発生した場合には『こんなことは依頼書に書いていない』とばかりにまず冒険者が逃げ出すものだ。やつらをあてにすることはできない。


 まずは腕を信頼できる部下に小隊を指揮させ、やつらの戦力を探る。その間に、こちらは軍を整え撤退の選択肢を考慮して指示を出す。

 第八部隊の部下に死んでこいと言うつもりはない。あくまで哨戒戦。まともにぶつかり合うのではなく、攻撃を当て逃げして撹乱するように反応や攻撃方法を確認する。その引き際を見極められる者を選んだ。


 こちらの陣が動いている間に、視力を強化し哨戒戦の戦況を把握する。

 相手は正体不明の新兵器とのことだが、こうして見れば外見は完全にただの不気味な全身鎧。あの中に盗賊団の下っ端が詰まっているとするなら、身体強化や防御力向上の効果が付与された量産鎧か。確かに素人が装備一つで木々をなぎ倒せるような怪力を得られるとなれば、それはそれで強力な兵器だ。

 しかし、それでも素人には変わりがない。


 プロの撹乱、熟練された連携、本物の殺意を受ければ戦場の恐怖にすぐにまともに動けなくなる……


「……なあっ!」


 見える。

 強化した視覚が、より遠くからであるからだろうが、第八部隊の部下たちよりも全体的に鎧達の動きを捉えている。だか、それは予想したような素人の動きではない。


「に、逃げろぉお! そいつらから……」


 百の鎧が、完璧に同時に動く。

 最前列が膝をつき、二列目が腰を落とし、三列目が直立のまま。

 同時に掌を前に構え、何か杭のようなものを高速で撃ち出す。

 遅れながらやっと、やつらが木々なぎ倒しながら接近してきていたのは、示威行為などではなく射線を遮るものを取り除くためだけの行為だったと気付く。


 それは、どれだけ訓練した軍隊にもできないであろう、本当の一斉射撃。多角攻撃により敵を撹乱しようとした第八部隊の選択は悪くなかった。だが、それはあくまで人間相手の話。


 あれは人間などではない。

 あの鎧の中身は、人間とは程遠い。


 訓練を積んだ兵士が、経験を積んだ部下が、その想定を超えた、訓練で到達できる次元を超えて一つの意思で動いているかのような鎧の群れに撃ち抜かれ、蹴り飛ばされ、引き裂かれ、蹂躙される。既に死体となった兵士でさえも執拗に、まるで一定以下の大きさの肉塊になるまで壊し続けろと命じられているように。


 そして、そいつらは目の前の獲物を蹂躙し終わると、こちらを向く。


 そのバイザーの奥からは、不気味に輝く赤い瞳が、血に飢えた獣のようにこちらを見ていた。


「て、撤退! 撤退急げ! 総員、もたついたら死ぬと思え!」







side テーレ


 高い場所から見ればより遠くが見える、雨が迫り多少周囲が暗くても、その程度は設計段階で想定内だ。


「やっぱり、改良されてる! 複数個体が全く同じタイミングで時間差なしの連携とか無駄にハイテクだし!」


 遠見のために空に上げていた『黒い光輪』を回収。

 周りの暗さにまぎれてそうそうこの距離から見つかるとは思えないけど、あっちの感知能力が視界に限るかはわからないし、必要以上の時間宙に浮かせておいてもいいことはない。


 今はとにかく、距離をとることだ。

 あんなの、私たちが多少強くなっていても馬鹿正直に戦う相手じゃない。選ぶべきは逃げの一手だ。


「一応、気配を隠すための術式も仕込んであるけどあの感じだと一体にまぐれで感知されても全部に伝わりそう……マスター! 一応聞くけど、軍の連中とか助けに行くとか言わないわよね!」


「はい! さすがに民間人の護送中に無理に前線に立ち寄ろうとは思いませんよ!」


「なるほど! 生きてるうちに拾っといて幸運だったわ! キャシー、あんた流れ弾で死んだりしないでよ? あんたが死ぬとこいつ、あっちの兵士とか助けに行くとか言いかねないから!」


 『民間人の護送中は戦力としての前線参加義務なし』……屁理屈みたいだけど、確かに一応筋は通る。

 別に『敵についての重要情報を握ってるかもしれない幹部の捕虜』でも構わないけど。


 こいつは独特な価値観で行動しているけど、少なくとも『一人と百人が死にかけていてどちらかしか助けられない』ってなったとき、無条件で百人を選ぶタイプじゃない。それはそれで『善』なのかもしれないけど、こいつの場合は『先に一人の方に助けるという約束をしたらまずその一人を助けてから他の選択肢を考える』という考え方をしているらしい。あちらは軍人の兵士で戦う覚悟があってここにいるのだろうというのもあるかもしれないけど。


 思わぬ幸運だ。少なくとも今は、このキャシーという『護送対象』を放棄する気も、抱えたまま前線に飛び込むつもりもないらしい。


 当のキャシーの方は状況が掴めていないらしく、私に担がれたままになっている。

 単純に重りを抱えて走るだけならマスターの方が速いかもしれないけど、今回は人間、それも治した直後の怪我人だ。担いだまま走って与える衝撃とか痛みを考えればスキルの多い私の方が速くて安全だ。


「あ、え、何が……」


「何がじゃないっての! 鎧っぽい悪魔みたいな気配のするゴーレムもどき! あんたらの奥の手かなんかでしょうが! それが砦を包囲してる軍を外から襲ってんのよ!」


「え、なっ!? あれが、動いてる!? そんな、まだ調節が全然だったはずじゃ……」


「動いてるもんは動いてんのよ! てか、クロヌスまでどう戻ればいいのやら! 馬と国道が使えないなら三日か四日はかかるわよ!」


「テーレさん! この周辺の地理ならそれこそ土地勘のありそうな方がいるのでは?」


「……キャシー! あんたこの辺の道案内とかできる?」


「で、できる! だからもう少し前が見えるように持ち直してくれ!」


「テーレさん、お願いします」


 ちなみに、今のキャシーの態勢は私の後頭部に臍が当たるような感じで、左右に伸びた首と膝を腕で固定する形で担がれている。いわゆるファイアーマンズキャッチというやつだ。

 カーリーの時には小さかったから手で持ったり背中に乗せたりしたけど、自分と同等以上の体格の人間を持って走るときにはこれが一番速い。色気はないけど。


 首の方を持っていた手を少し緩めて顔の方向を前へ向かせる。初めてくる場所だし、さすがの私の『万能従者』も知らない地理は知らないから、さっきまではっきり見えていた太陽の向きとか馬車で移動した距離感覚とかで座標を大まかに見積もってたけど、ここらの地理に詳しい人間が見れば私たちには同じようにしか見えない場所でも、遠くの山とか植物の生え方とかで位置がすぐわかるだろう。


 最近ここに拠点を移したばかりらしいし、あんまり期待はしてないけど……


「お、おい! どこへ向かってる! この先をまっすぐ行くと崖だ! こんな速さで突っ込んで飛び降りでもする気か!?」


「あっぶな!」


 とりあえず、拾った捕虜が無能じゃなくてよかった。







side 狂信者


 私は、前世においてついぞ『霊感』というようなものを体感した記憶があまりありません。まあ、忘れてしまっただけかもしれませんが。今生においても、私はあまりそういった五感に変換されない次元での霊体の探知というようなものはあまり得意ではありません。【万物鑑定】などのアクティブな手段を使えば多少どうにかなりますが。


 しかし……そんな私でも、差し迫る気配はなんとなく感じるといえば感じます。

 これがテーレさんの言う『悪魔の気配』に類するものなのでしょうか。いえ、違うかもしれません。


 少し前から、ぶつかり合う金属の音や叫び声、馬の嘶きや魔法と思わしき爆発音などが微かに耳に届き始めています。これが無意識下で処理されていたものが『気配』のように感じられたのかもしれません。

 まあ、わかることといえば……


「戦線は混乱しながら拡大中……隊列も陣形も大きく乱された軍が散開して逃走をはじめ、それを追走する鎧軍団と各所で戦闘になりながら、その範囲がこちらに迫っている……というところですか?」


 先ほどから何度か『黒い光輪』による空撮で戦況を確認しているテーレさんに確認を取ります。

 木々に遮られてばらばらになった細かい人間の配置はわからないでしょうが、テーレさんの焦りから状況が『砦前の陣地で軍と鎧軍団が拮抗』というような状態ではないというのはわかります。

 対して、重々しい表情のテーレさんからの返答は……私の想像よりも、少しばかり芳しくないもの。


「もっとひどいわ……どうやら、手柄ほしさか鎧に追い込まれてか、隠し通路から砦の中に乗り込んだ冒険者がいたみたいね。そのおかげで、砦の中も大混乱。そして、外の兵士が混乱している機に何とかできると思ったのか開門して外に出たはいいけど……あの『鎧悪魔』は、そこらへんの敵味方が判別できるほど賢くないみたいね」


「……なるほど、もしかしたらその部分の調節を省略して起動してしまったのかもしれませんね。となると、この混乱の広がり方は……」


「軍兵三百人、盗賊百人、冒険者三十人、鎧悪魔百体……総勢約五百三十人の大乱闘ってところかしらね。まったく、人間ってやつは……こういう時くらい、まずは明らかに敵な鎧悪魔相手に団結するくらいの判断力見せなさいっての」


 テーレさんの口調から察するに、盗賊と冒険者がとっさに区別できずに味方であるはずの冒険者に切りかかる軍人さんやその逆、あるいは混乱の中同陣営の中で争う者なんかも見えたのかもしれませんねえ。

 もう、こちらまでポツポツと雨脚が追い付いてきていますし、本降りになっているらしきあちらでは視界も悪くなっているでしょうしね。


「本格的に乱闘に巻き込まれる前にもっと離れるわよ! こんな戦っても名声にも功績にもならない戦場なんて生き残り以外の勝利条件なんて全部無視! マスター、ライリーとの合流は? あの中に混ざってたりする?」


「いいえ、感覚的にそこまで近くではありません! もしかしたら、囮といわれていたもう一つのアジトの誰かかもしれません!」


 私とライリーさんは、私の中にライリーさんの本体がいなくてもある程度の距離までは互いの存在を感知できることは、治療院でルビアさんの精神に潜入してもらってから馬車で少し距離が空くまで交信ができたことから確認できています。正確には、ライリーさんがいつもスライムボディーを動かす時に分けている分身のようなものを取り込んだゼットさんと互換性があるため通信ができるようなものですが。

 どこで合流するというのは大雑把にしか決めていませんが、それもある程度接近すれば勝手に戻れるという安心があるためです。


 しかし……


「今回ばかりはライリーさんの敵意感知が欲しいところですね! 空撮だけではなく多角的に戦況の広がりを知りたいところです!」


「ほんとね! 市街地戦は想定してたけど森だと視界通りにくいし厄介だわ!」


熱感知(サーモグラフィー)を追加してみては?」


「いいわねそれ! ちょっと重くなって滞空時間落ちるかもだけど!」


「なんかよくわからんが余裕だなお前ら! あとそこ! 右に曲がって吊り橋だ! そこが通れればかなり近道……」


 キャシーさんが不意に声を止め、私たちにも聞こえ始める異音。

 雨音でも、金属音でも、生物の声でもない音。

 それでいて、何が起きているかを連想できなくはない、冒険者が旅をしていればよく聞くありふれた音を特別大規模にしたような……


「……キャシーさん、つかぬ事をお聞きしますが、その吊り橋が使えない場合、他に近道はありますか?」


「……いくつか、あるにはあるが……どれも、大きめの川とそれに削られた急な崖に渡された吊り橋を通る必要がある。冒険者だろうと、専用の装備なしに強引に突破するなど……それこそ、空を飛ぶか水の上でも走れないと無理だ」


「仮に、その吊り橋すべてが使えない場合は?」


「どうやっても、川と逆方向、つまりは戦場の中を抜けるルートしかない。だが……」


「……わかってるわよ。あんたを責めるつもりはない……どうやら、鎧悪魔を送り込んだやつは最初から砦の味方を救出するために敵軍を追い払おうとか、そういうつもりじゃなくて、この川と鎧悪魔の軍団の壁で、ここにいる人間を皆殺しにするつもりだったみたいね」


 森を抜けて見えた、キャシーさんの宣告通りの深い谷間に流れる川と……激しく燃え盛る吊り橋。

 これは、無理やり通ろうとしても途中で落ちてしまうでしょう。それに、川の上流からも焦げた木片らしきものが流れてきていることを考えると、他の橋もほぼ同時に点火されたのでしょう。


 つまり、盗賊団を砦に追い込んで袋の鼠にしたつもりだった我々は、さらに大きな罠にかかっていたというわけです。


「……少し休憩して、作戦を立てましょう。乱戦真っ只中を通り抜け、中央都市へ無事帰還するための作戦を」


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