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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
五章:『穢れ』多き英雄譚

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第139話 『深紅の剣』

side 狂信者


 『雑草』という品種の植物が存在しないように、『盗賊』という人種は存在しません。

 冒険者として討伐依頼を受けるだけだとしても、相手がれっきとした人間であることは予め覚悟しておくべきでしょう。


 今回の大規模作戦、討伐対象となる盗賊団の正式名称は『深紅の剣』。

 命名者は盗賊団の構成員当人。つまりは犯行声明などでの自称らしいのですが、その由来はリーダーの持つ一級品のマジックアイテムだとか。リーダー自身についてわかっていることは多くはありませんが、元冒険者で単騎戦力としてはそれなりのものとか。

 加えて、他にも無視できない程度の強さの人間が数人幹部として周囲に存在し、さらにその周りを戦闘能力が特段高いとは言えないものの数の多い部下が囲んでいるために冒険者パーティーの単位での討伐は困難。


 加えて拠点としているのが過去に『街』として機能していた廃墟……つまり、この世界において防衛施設として機能する防壁に囲まれ、多少の知恵と技術があれば内部で自給自足が可能な施設だというのだから軍が出張る必要があるというのも頷けます。


 そして、我々冒険者の役割は遊撃と残党狩り……つまり、軍が正面からアジトを攻め、それによって横から洩れる盗賊団の構成員を片付けることなのだそうです。

 例え下っ端であっても安易に取り逃がせばまた徒党を組み、新たな野盗として旅人や商人を襲うこともあるため、情による見逃しは厳禁。見つかれば罰則すらあるとか。


 盗賊団『深紅の剣』のアジトまでの行軍は馬車で国道を通り二日半。

 それまでは敵から攻撃が来ない限り戦闘の予定はなし……というのが、中央都市のギルドで聞いていた作戦内容だったのですが。


 中央都市を出て一日と少し。

 馬車は国道を外れて林の中の目立たない道で止まり、指揮官さんの招集によって馬車から出てきた我々冒険者に対して、事前通告のなかった宣言が成されました。


「ここで、諸君に言っておくべきことがある! 事前に通達した作戦内容は、盗賊団がギルドに送り込んでいるとされるスパイに対して用意された偽情報である!」


 ……つまりは、テーレさんの懸念していたのと少々違う形でしたが、この作戦にはしっかりと裏があったということです。

 新たに通達された情報は、事前のものよりも詳しい……というよりも、新しいもの。

 そして、作戦も新しいものでした。


「我々が今、向かっていることになっている廃墟は既にほぼもぬけの殻、罠であることがわかっている。そのため、そちらには非戦闘部隊を我々に偽装して我々の予定していたルートで送り込んでいる。我らはこれから大回りをしつつ、別働部隊と合流し、さらに二百人の兵士を加えた万全の戦力で『深紅の剣』の本当のアジトに奇襲をかけることになっている。ここから先、作戦を降りるという者は作戦機密の漏洩対策のため拘束させてもらう。そうでなければ、各自この新しい作戦に従って行軍中の道中で準備を済ませておいてほしい」




 山での修行以来、未来のイメージを賽子の形で夢に見ることが少なくなりましたが、お師匠様によればそれは魔法をあまり使わず有り余っていた余剰魔力によるもの……純粋な未来予知ではなく、無意識からの希望願望恐怖感が未確定の未来に影響を与えている可能性があるとのこと。


 魔法の原理的には、ハッキリとしたイメージを持って魔力を吐き出せばそれは望む現象を現実世界に押しつけることができます。

 寝て見る『夢』と起きて叶える『夢』。

 同じ『夢』なら、その境界が魔法によって薄まると考えれば、現実が睡眠中の夢に干渉して未来を示唆することもあるでしょう。

 意識的には整理できていない情報が無意識に整理されてそれが未来を知る術になることもあるでしょう。それが魔力により高い精度を得られることもありえます。


 しかし、それは身も蓋もない言い方をすれば『眠っている間に制御できていない魔力が暴走している』というだけです。

 それこそアーク嬢のように一つの未来に限定して確実に予知できるというのならまだしも、私のように複数のイメージが同時に見えてしまう場合、特に『最悪な未来』がその可能性の中に現れてしまう場合は下手をすると私自身がその悪い未来を引き寄せてしまう可能性があるそうです。

 私の場合は六面体の一側面という形で夢を見ていましたが、逆に言えばそれは確率の低い七番目以降の未来を自ら閉じてしまうことになります。


 世の中には、夢見の才能を活かして神殿などで『巫女』として情勢などを予知する方もいるそうですが、それは訓練を重ねて『悪い未来』を結実させないように上手に未来を探れる方の仕事。

 言うなれば明晰夢の操作に近い、かなりの専門技能です。


 現実との干渉による擬似予知能力は少々惜しくはありますが、私とテーレさんの目的からすれば専門訓練をする余裕はありませんし、リジェネ道のために【常時再生】を使っていれば睡眠中にそうやって消費する余剰魔力は生まれないので今ではそういった夢を見ることはできません。

 予知能力の代わりに自由な未来を手に入れたと思えば安い物です。


 こうして、サプライズな展開に一喜一憂できるというのもありますしね。

 軍の秘密作戦など、初めからそれを知っていて隠すような振る舞いをしていればむしろ怪しまれても仕方がないでしょう。

 予想外の展開ではありましたが、それでよしです。


 さて、ということで私にもテーレさんにもまっさらな新情報ですから、ちゃんと読まなければなりません。

 配られた資料には、『深紅の剣』のより詳しい情報が記載されていました。


 まず、リーダーは個人としての特定が完了し、冒険者としての記録からその戦闘スタイルに関する情報がほぼ確定。

 リーダーの職業(ジョブ)は『死霊術士(ネクロマンサー)』、悪魔を元にした使い魔の使役が得意であったものの、ある時を境に他の冒険者と頻繁に問題を起こすようになりパーティーからも脱退。音信不通となり死亡扱いになっていたそうです。


 有力な説としては、使役契約をしていた悪魔に対して精神抵抗力が十分に強固でなかったために影響が逆流し、人間として必要な倫理観や善意を喪失した疑いがあるとのこと。そして、盗賊団のリーダーとなってからの交戦の記録から現在は強力な悪魔と契約を交わしている可能性が高いため神官系冒険者を急遽増員する必要があったそうです。


 言うまでもなく、神官系の術者は魔法で悪魔を浄化できるため死霊術士の天敵。しかし、逆に単純な物理攻撃では本体が霊体である悪魔への効果は薄いので神官系がいないと戦いは厳しいものになります。その場合は何とか生身の術者本体を特定して直接仕留めるというのが定石になりますが。


 軍の部隊にも当然神官系の魔法が使える方はいるようですが、軍では才能のある神官系は基本的に後衛、回復や治療に割り振られ、敵が霊体の場合は基本的に多少の適性がある前衛や『聖水』を使った攻撃で何とかするのだとか。『軍』は基本的に猛獣のように物理的に人を襲うモンスターや『怪獣』への対処が主な役割であり、冒険者は遺跡探索などで悪魔悪霊が溜まりやすい場所での経験が多いとなれば、そこで向き不向きが出るのも必然でしょう。


 問題は、軍のやり方では討伐が不可能かもしれないと目されている盗賊団のリーダーの方かもしれません。

 いえ、むしろ……


「テーレさん、これが本当のアジト……砦の見取り図ですか?」


「そうね。見かけの規模が小さいけど、地下がある。これなら確かに、この人数を収容できそうだけど……何か、気になることあった?」


「いえ、アジトを砦に移したのはかなり最近、さらに戦力増員もかなりの急募、それでいてこの高い情報精度というのが気にかかりまして」


「……確かに。地下の広さや脱出経路の数も明記されてるし、外からわかる情報だけじゃない。捕まったメンバーか投降者が吐いた?」


 それはあり得る話です。

 しかし、それならば道案内にその人物が連れて来られている方が自然なはず。盗賊団からの投降者は罠だったのなら殺すとでも脅しつけないと情報が信用できないでしょうし。信用できる情報元ならば作戦計画の資料と共に多少の情報源についての言及があってもいい。

 少なくとも、互いに信用しきれていない冒険者と軍の関係を考えれば、情報の確実性を保証して不満を減らすための配慮はあって然るべきです。

 私がそうだったのですから、冒険者の中には詳しすぎる情報を怪しむ方もいるでしょう。


 それに何というか……このままだとマズい気がするのですねえ。

 あくまでも勘や不安の域を出ませんが。擬似予知夢を放棄してもその根本が私の直感だったのを考えれば自分の感覚を軽視すべきではないでしょう。そういったことへの『気付き』の才能が未来を映す夢の元になると考えれば。


「……テーレさん。もしもテーレさんがこの砦の設計者、あるいは改造した滞在者であったのなら、ここに描かれている以外に秘密の抜け道を作れそうな場所はありますか?」


「いくつかあるけど、聞いてどうするつもり?」


「いえ、この資料の通りならこちらは十分な戦力が用意されていますよね? しかも、作戦計画の通りなら初期は降伏勧告からの籠城戦です。基本に忠実に百人相当の盗賊団に対して補給要員抜きにしても三百人の兵隊さん、加えて遊撃戦力としての冒険者三十人。我々冒険者はまずこの抜け道を押さえて軍から逃れようとする皆さんの確保。となれば……」


「……『ここに描かれてない抜け道』も押さえておきたいってわけね。でも、一つならまだしも何ヶ所も丁寧に探してる暇はないわよ? 出口なんて当然隠されてるだろうし」


「隠されているということは、蓋かカモフラージュが『造られている』ということでしょう? ならば、怪しい場所を見つけるだけならなんとかしますよ」


 人が造った物、人工物であるのならば、その材料が周囲にある当たり障りのない草花だったとしても、創造理念や残留思念は残るもの。

 『自然の生態系』という被造物に紛れた『人口の自然』という異物が放つ違和感を見つけ出せる【万物鑑定】とテーレさんの魔法に頼らないスキルでの探索能力ならば、魔法での探索前提で隠されたものだろうと見つけられるでしょう。


「勘違いだったのならそれでいいのです。ただ私が少し道を間違えて武功を立て損ねるだけですから。作戦が予定通りに進めば順当に勝てるはずです。しかし、もしそうならなかったら……」


「……はいはい、命令違反で怒られたら私がフォローしてやるわよ。それに、私もそこまで日和ってないわ。私が参加する作戦なんだから、大なり小なりのイレギュラーはない方がおかしい……そういうことでしょ?」


「テーレさんのせいとは言いませんが、経験則は馬鹿にできませんので」


 何より、こうしてテーレさんと作戦会議できるというのが楽しいのですから。

 未来を知るために今を軽んじるのは味気ない。

 私はテーレさんの呼ぶ『不幸』よりもテーレさんといるこの時間を楽しみたいのです。これから血生臭い戦場に向かうという、この瞬間であっても。


 





side ???


 この世界は歪だ、私はそう確信している。


 砦の地下の暗闇、その中でも私しか知らない暗闇の中を突き進みながら、私の行いについて考える。世間から賛美されることも称賛されることもない、まさに闇の中を進む道だ。

 けれど、光に照らされた世界でしか生きていない人間には見えないものも、私の眼にはハッキリと見える。


 単なる獣よりも人間を優先的に襲うモンスターと呼ばれる生物。

 異世界から持ち込まれる技術によって自分たちでの技術発展を疎かにする科学者達。

 特定の条件を満たすか否かで別の生物かと思わされるほど明瞭に現れる天性の能力差。

 この国をゲーム盤として信仰を奪い合う神々と、それを止めもしない主神。


 この世界は何かがおかしい。

 この世界はどこかが歪だ。

 だから、私達がそれを正さないといけない。

 どんな手を使っても……


「もうすぐ……あと、もう少し……」


 私は役目を果たした。

 手に入れた、腐った貴族連中がひっくり返るような武器を。正しく使えば世界をもっと綺麗にできる奥の手を。

 けれど、それは使うべきタイミングがある。

 あともう少し、ボスがあれを使う時まで、私はこの命を賭してもこれを守り抜かなければいけない。


 そのために……


「……悪いな、『同志諸君』」


 私がここにいることを知らない者達。

 私が同志と呼んできた者達の多くは、明日ここで死を選ぶのだろう。私が投降しろと命令したとして聞きはしない、そうするにはきっと、あまりに手を汚しすぎてしまった……そう、思っているのだろう。私に比べれば大したことはないと言ったとして、理解はしないだろう。


 彼らは犠牲だ。

 この世界の歪さに飲まれた犠牲者だ。

 全てを救うことなんてできない。ならば、せめて犠牲は犠牲として、彼らの死が無駄にならないよう、私は前に進む。


 私だけは生き延びなければならない。

 私だけは……


「ボス……待っていてください」


 秘密の隠し通路を抜け、森へ出る。

 そこに待っていたのは、盗賊団の『同志』の装備に身を包んだ男達が、抜剣して立ち並ぶ姿。


「……これはどういうことだ?」


 身構える。

 だが、こちらの装備は脱出用。下手な武装は手にしていない。そもそも、戦闘などする予定はなかった。

 これは予定外に他ならない。

 だが、では何故こんなことになっている?

 まさか……


「はは……そうか。そうだったのか……私の最後の文通相手は、こっちだったのか」


 剣を構えた者達は何も言わない。

 問答無用。弁解の余地も交渉の機会もない。

 こいつらの仕事は、私という『裏切り者』を処分すること。そうなっているのだろう。


 ……くそったれ。


「わかった、来いよ。三下共……私は諦めない。まだ、私にはやるべきことがある」


 待っていてください、ボス。

 死んでも必ず、あなたのために……





 今まで何度か出ていた『予知夢』は純粋な予知能力ではなく、現実への干渉を伴う魔法です(基本的に制御できていないことを踏まえれば『魔法』ではなく単なる『奇跡』に近い現象)。

 想像しうる最悪の結果を『観測する』ことによって『確定』してしまう危険があるということで狂信者は能力を放棄しました(眠る前に魔法の空撃ちで魔力調節したりするだけなので不可能ではありません)。


 ジャネットやアンナ、あるいはヒトミの魔眼のように『完全な願望なしでの客観予知(改変可能)』や『あえて曖昧に観測する』『解釈の自由度を保つ』というような使い方は天性の才能なしでは難しいので『情報力で勝負する予言者ルート』を捨てて『拳で戦う説法(物理)ルート』になります。


 後書きにて、長文失礼しました。

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― 新着の感想 ―
ヒトミって誰だっけ
[一言] 猫は観測されなければその状態が確定されない。そして死んでいると観測されれば覆せない、だから観測することをやめたってことですね
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