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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』

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第13話 ディープ

side 狂信者


 さて、テーレさんは単独でお出かけ中です。

 おそらく、クエストのための準備を万端にしているのでしょうが……いつもならそろそろ帰ってくる頃なのですが、今日は少し遅いですね。


 いつも通りのパターンでは、私が依頼の受注と冒険者講習を終えた頃にぴったりと迎えに来て私を回収していくのですが……


「テーレさんに限って、滅多なことはない……と、思いたいんですがねえ。冒険者としては、こういう場合には仲間に想定外の事態が発生したと想定して動くべきなんでしょうねえ」


 まず前提として、取り越し苦労だったらそれはそれでいいのです。

 ただ、テーレさんが道端で重い荷物を持ったお年寄りを助けているというのなら、それでいいのです。私が心配性なだけであれば、それが一番です。


 しかし、こう言っては何ですが、テーレさんが私から目を離すのは相当滅多なことではない気がするのですがね。テーレさんの張りつめ方はまるで赤ん坊を育てるシングルマザーのようですし。

 それがいきなり、なんの連絡もなく私をこれだけ放置するというのも不自然な話です。


 ……うむ、ここはやっぱり大事をとって、何か悪いことがあったと考えて動きましょう。


「すみません、ノーツ女史。確かギルドでは緊急時用の書簡受け渡しサービスがありましたよね? その封筒を一つ、頂けますか?」


「はい、有料ですがそれでよければ……何かあったんですか?」


「いえいえ、おそらく杞憂の類だとは思うのですが」


 テーレさんはこの世界に来た最初の日に倒れた時以外、本当に私から目を離そうとしませんから。


 寝るのは私より遅く、起きるのは私より早いほど。夜中に私が起きた時にはすぐに気付いて目を覚ます始末。

 私を本当に赤ん坊と思っているのではないかと思うくらいですが、実際自衛の能力では親子以上の差があるので間違った対応ではないのでしょうね。ギルドの講習は保育園代わりといったところでしょうか。


 では、ノーツ女史は保母さんですかね。

 実際、あの水晶の爆発した時の反応は預かっている子供が怪我をしたときのような慌てようでしたね。


「クックッ……」


「どうしました?」


「いえいえ、すみません。ちょっと思い出し笑いを。それにしても、相変わらずノーツ女史は優しいですね。いつも私に何か異常がないかと気にかけてくださる。大抵の方はしばらくすると私が奇異な行動をとっても『いつものこと』と気にしなくなるのですが」


「奇異な行動って、わざとやってるんですか? ていうか自覚あったんですか?」


「いえ、そういうわけではないのですが。私自身は極めて真面目に合理的論理的に振る舞っているつもりでも、周りから見ると何故か奇異な行動に見えてしまうことが多いようで。おっと、先程の思い出し笑いは違いますね。あれは不意に我慢できなくなってしまっただけです。いきなり笑うのは目の前の相手に失礼ですし」


 案外、私は私自身が思っているよりもノーツ女史に心を開いてしまっているのかもしれませんね。

 ギルドの他の方々は視線が刺々しいといいますか、どこか警戒を解けない雰囲気がありますし……いえ、私が少々人見知りというか選り好みをするタイプというのもありますが。


 私はなまじそういう雰囲気を感じ取りやすいタイプであるせいなのか、それを隠したり偽ったりする人間との交友は苦手です。

 まあ、他人の顔色を見て生きてきたというだけで特技と呼ぶようなものではありませんがね。


 ノーツ女史のように本当に私を心配してくれていると感じ取れる方は好ましいですが、表面だけの好意や陰湿な敵意は率直な嫌悪よりも嫌いです。

 私の力不足で叶いませんでしたが、アーリンさんのようにシンプルに殴り合いがしたいと言ってくださる方ならお友達になりたいのですがね。


「なんで私を見て思い出し笑いをしたのかがすごく気になるところなんですけど……気をつけてくださいね。冒険者の中には、元々ケンカ自慢や傭兵上がりで荒っぽい人もいます。全員がそうだというわけではありませんが、難癖を付けられて突っかかられることもあり得ますから。特に狂信者くん、あなたはその………テーレちゃんといつも一緒にいるでしょ? それに、モンスター討伐数もテーレちゃんの方が大分多いし、私はそれが戦闘訓練を兼ねたクエストだからって知ってるけど、他の人から見たら……」


「なるほど、言われてみればそうですね。まるで私がテーレさんの弱みでも握って寄生で冒険者をした上で、普段から無理やり彼女を侍らせているようにも見えるかもしれませんね。ああ、だからですか。最近、一部の冒険者の方からも険しい視線を向けられているような向けられていないような妙な感覚がしていたのは」


 テーレさんも私を講習が終わったらすぐに回収しようと思うわけです。

 そして、今日はそのテーレさんが現状いない、と……


「これはあれですね。心配すべきはテーレさんの方ではないかもしれません」


「……っ! 後ろ!」


「了解です」


 テーレさんとの訓練が役に立ちました。

 とっさに回避すると先程まで私がいた所へ剣が振り下ろされていますね。危うく大怪我をするかと思いました。


 しかし、こういう場合の机や椅子の修理代というのは全てあちら持ちにしてもらえるものなのですかね?

 こちらからも反撃をした時点で『ケンカによる器物破損』となりこちらにも弁償義務が発生すると言われたら余計な出費でテーレさんに怒られてしまうかもしれません。


「チッ、避けやがった」

「イライラする……」

「こいつ……殺す」


 おっと、剣を振り下ろした人に加えてさらに二人……いえ、さらにギルド付属の酒場から二人来て五人ですか。

 いきなりですが、テーレさんがいなければこうなるのが必然だったと考えればテーレさんが初めて私を無防備に放置したタイミングでこうなるのもまた必然ということですか。しかし、これは困りましたね。


「ちょ、やめなさい! ギルド内でケンカなんて! しかも武器を使って」


「うるせ「お聞きください!!」」


 ノーツ女史が言うことは正しいですが。今は逆効果でしょうね。下手をすれば、ノーツ女史へも矛先が向きます。

 ここはとりあえず、誠実に弁解しましょう。



「私はテーレさんを真剣に愛しています! 今は弱く護られてばかりですが、いつか強くなり彼女の助けになりたいと日々精進しているところです! テーレさんをかけての勝負はもう少しだけお待ちください!」



「うっせえ死ね!」


 何故でしょう。今の一言だけ妙に強い意志が籠っていたように感じました。

 まあ、言われたとおりに死んで差し上げることはできないので回避しますが。


 しかし、うーむ。ダメですか。

 コボルトさんの方がまだちゃんと話を聞こうとしてくれた気がしますね。コボルトさんは話を聞こうとしてくれたというより怯えない私を警戒していたというべきかもしれませんが。


 いや、本当に。

 コボルトさんの方が警戒心がありましたね。


「ところで、危ないですよ」


 テーレさんとの戦闘訓練はちゃんと憶えてますから。

 〖リリスレッグ・スータン〗が防刃性能を持つと言っても骨が折れるといけないので、縦振りの剣は腕で刃の進行方向の側面から受けながら回すように衝撃を逃がします。防げましたが結構痛いです。

 痛みはともかく、回した手で剣を振り下ろした腕を巻き込んで引っ張ります。目的は態勢を崩すことです。でないと……


「なにやってんの!」


 ギルドに飛び込んできたテーレさんのドロップキックが後頭部に当たって致命傷になりかねなかったので。

 体勢を崩したおかげで顔の横に当たって下手人の損傷は脳震盪と左顎骨の粉砕で済んだようです。あの爆発での損傷が一夜で治る世界ですし、これくらいならすぐ治るでしょう。

 命に別状がなさそうでよかったよかった。


「テーレさん。焦ったのはわかりますが今のは危ないですよ。危うく死人が出るところでした」


「そんなことより! ケガはない!?」


「はい、この装備のおかげで。ご心配かけて申し訳ない……テーレさん?」


「どうしたの?」


 ふむ、見た目には変化は見られませんが……何か、様子が違う気がしますね。

 頬が少し赤くなっているようにも見えますし。どこかでケンカにでも巻き込まれたのでしょうか。


「テーレさん、何かありましたか?」


「別に? 何もなかったけど?」


「いえ、どんな些細なことでもいいのですが。道で困ってるお婆さんを助けたとか、道中に買った焼き鳥の焼き加減が絶品だったとか。何か予定外の出来事があったのなら詳細は伏せたままでもいいので概要を教えてください」


「何にもなかったって。それより、あなたはなんでこんな四面楚歌やってるわけ?」


 四面楚歌。

 そう言えば翻訳によって私には適切な意味の四文字熟語として認識されていますが、テーレさんや周りのギルド役員さんにはどう聞こえているのでしょうか。


 こちらの世界の同意の諺にでも置き換わってるのか、単純に『周りを敵だらけにして』というような文章に置き換わっているのか……いえ、今考えることではありませんか。どうにも私は気になることがあると意識がそちらに寄ってしまっていけない。

 今は弁解の時ですかね。


「私が優秀で可愛らしいテーレさんの紐だと誤解を……いえ、今のところ誤解ではないのですが。私がこの世界で独力で稼いだお金はほとんどありませんし。とにかく、私が最低な寄生虫だということで排除しようという話になったようなのです」


「そう……つまり、この人たちは、私をあなたから助けて正義の味方気取りで寝取ろうとしてるわけね。ふーん……だったら」


 おや、テーレさん。

 私の顔に何かついていますか? そんなに見つめても顎の下から剥がしたりできませんよ?

 ん? 頬に手を当ててロックしていますね? もしかして、私今から首をコキッとやられるのですか?


「諦めなさい、性欲の権化共」

「うむっ?」


 え、何でしょう?

 首コキではないようですが、妙に顔が近いと言いますか、完全にゼロ距離を越えてマイナスに突入しているようにしか思えないのですが。


 物理的に言葉にならないのですが、テーレさん、息ができないのですが。口腔に何か熱いものが侵入しているのですが。というかこれは……


「……これでどう? 文句あるならかかってくる?」


「「「………………」」」


 ……なんでしょうね、この沈黙。

 おそらく一番渦中にいるはずの私が一番状況を理解できていないのですが。


 というかテーレさん、そのお顔は……


「ふふ、じゃ、帰ろっか」


 …………本当に、何があったんですかねえ?


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の方で暴行やら窃盗は普通に犯罪みたいな話してたのに 何もしてないのにいきなり背後から斬りつけてきた輩に対してのギルド嬢の認識がケンカってどうなってんだよ
[良い点] ファッ!?
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