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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち
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第123話 強い槍、硬い鎧

side ギルドランキング『93位』フォード・スレッドマン


 雇った冒険者共から集まってくる情報は、腹立たしいものだった。

 割りのいい裏仕事をしなければ食っていけないような小物共に大した期待はしていないが、だからこそ数を集めたのだ。

 それを……


「最初に指揮官を任命した者がパーティー共々脱落、さらに他の者共も次々と不意打ちで……役立たず共め、完全に翻弄されおって」


 表通りは冒険者ではなく買収した衛兵などの戦わぬものに見張らせている。

 そちらで大きく動いていればすぐに場所を特定できる。であれば、敵側は見通しの悪い裏路地や物陰を通るしかなく、そこを多人数で洗い出せば追い込めるはずだった。


 だが、その洗い出しの冒険者が各個撃破されている。

 それも、増援に囲まれる前に場所を変え、背後から短時間で仕留められているらしい。

 それでいて怪我人ばかりで死者はなく、それが却って復讐心より危機感ばかり募らせて士気を下げている。


「腐っても転生者ってわけか……それに、やられたやつの話を聞く限りじゃもう一人いるな。それも相当強いやつ……それが本物の従者か」


 『破砕槍』の名で呼ばれるこの転生者は自ら打って出ようとする気配はない。

 それは事前の打ち合わせの通り、敵を追い込んで一騎討ちに持ち込むまでがこちらの仕事だとして、それまでは本当に何もしないという意思表示だろう。

 くっ、だがこれでは、街から逃げられでもしたら……


「宿に立て籠もってるやつが従者じゃないとなると、面倒だな。ただの取り引きのためにブツを見せてただけってんなら、義理立てて助け出す必要なんてないしな。放っておいて逃げ出すかもしれねえな」


「ならばどうする! 街の外から俺の子飼いの戦力を呼ぶには時間が……」


「……チッ、あんま使いたくねえが、ダメ元であれやっておくか。オッサン、ちょっと通信アイテム使うから静かにしてくれ」


 そう言って、小型の通信用術式が刻まれたピアスに触れる『破砕槍』。

 こいつはこいつで何かするつもりのようだが、忘れたのか。


「おい、言っただろう。ここは盗聴対策で通信アイテムなんぞ使えんぞ。使えたとしても傍受の危険も……」


「あ、もしもし……ん? オッサン、通じたぜ?」


「……何だと?」


 思念波の対策で壁に施された結界が、いつの間にか機能を失っている?

 だとしたら、それはつまり……


「……っ! 既にここが!」



「探知系の対策は万全だったけど、逆に厳重すぎて見つけるのは難しくなかったわ。外見はただの民家に見せてプロの結界で護られてるとか、その気で探せば大分不自然よ」



 突如、何かのアイテムを通したらしき声と共に壁が爆砕される。

 街中での延焼を考量したのか爆炎は控えめだが、壁の破片が散弾のように部屋の中を飛び交う激しい爆発だ。

 しまった、既にこんな破壊工作まで!


「チィッ! 出てこいやこのアマ! こんな小細工で俺を……」


「先に依頼で小細工したのはそっちでしょ」


 煙の中から連射される魔法射撃。

 それらは全て、爆煙で視界を奪われた『破砕槍』へと一方的に降り注ぐ。


 さらに、追い打ちをかけるように撃ち込まれたのは実体を持つ鉄の矢の群れ。

 トラップのようにワイヤーにでも繋がれていたのか、時間差のない一斉射撃。

 しかも、それらは着弾と同時に鏃から光を放ち、魔法を解放する。


「ぬおっ!?」


「室内爆破での面攻撃、意識外からの連射、実弾からの麻痺矢毒矢炸裂矢、そして……」


 矢の放った魔法の光を目隠しに素早く駆け込んできた小さな影。その手は、『破砕槍』の懐深くに宛がわれ、一撃でその身を壁向こうまで弾き飛ばした。


「五発分、ゼロ距離【斥力打法(ダイレクト)】。これでも無傷でいられる?」


 マントで土埃を払いのけながら顔を見せたのは、ここまでの一連の攻撃をしてのけたとは思えないような年若い少女。

 おそらくは……『破砕槍』が言っていた、転生者の『従者』。

 ここまでの奇襲を食らっては、あの『破砕槍』も……


「この……クソアマ! テメエいきなり俺を殴るとはいい度胸じゃねえか! 痒かったぜおい!」


 生きていた……それどころか、身体を守る防具に僅かな傷こそついているものの、土埃や煤で汚れてはいても血の一滴も流してはいない。

 全くのノーダメージ……信じられん。


「チッ、『飛び道具無効』や『魔法無効』は外れか! しかもダメージなしなんて面倒な!」


 短剣を構えながら跳び下がって距離を取る襲撃者の少女。

 『破砕槍』は少女に向かい、急襲の御礼だというかのように爆発で撒き散らされた小石をいくつか握り込み、それを大きく振りかぶって投げる。


「おらっ!」

「そんなの……くっ!?」


 投げられたのはごく小さな小石。

 少女は牽制だと考えたのか敢えて大きく避けることはなく、マントを翻すことで小石を弾き飛ばそうとしたが……小石はその見た目からは想像できないような威力を持ってマントごと少女を背後に押し飛ばす。


「どうした従者! 俺を倒しに来たんだろ?」


 『破砕槍』は今度は足で床に転がっていた置物を蹴り飛ばす。


 先程の小石とは比較にならない重さを持つ大理石の塊だ。

 少女は小石の威力を思い出したのか置物を大きく回避しながら、腰の何かを操作する。


 だが、その置物こそ本当に牽制だった。

 『破砕槍』は大きく踏み込み、二つ名の由来となっている短槍を振り抜く。


「っ! 【斥力壁(シールド)】!」

「んなもん効くかよ!」

「くっ、【失敗率証明(ミッシングワン)】!」


 パリンと、空中に展開された魔法結界が一撃で破られる。

 少女は障壁が破られた直後、一瞬で破られたとはいえ盾の役割を果たした力場で僅かに逸れた槍の隙に滑り込むように直撃を避ける。

 短槍でありながら、ウォーハンマーを超える破壊力で敵の盾も鎧も破砕して再起不能にさせる負け知らずの決闘者。


「さあ! 次はどうするつもりだよ! 逃げずにこっちに来てくれたんなら都合がいいけどよお!」


 そうだ、これこそ期待していた働きだ。

 対人戦闘において負けを知らぬ転生者『破砕槍』。

 これだけの猛攻を受けても傷一つなく、単なる小石一つを致命的な凶弾に変えるこんな男に勝てる者は誰も……


「【握った 祈った 投げた】……【乱数調整(ダイスロールテスト)】」


 直後、僅かに残っていた土煙の向こうからまたも飛来する何か。それは先程『破砕槍』が投げた小石とさして変わらぬ大きさの小さなもの。飛び方も軽く、何であれそれほどの殺傷力はないように見えたが……


 それは『破砕槍』の頬を掠め……鎧に亀裂が入るような音と共に、その頬に深い切り傷を刻んだ。

 先程までの攻撃で傷一つなかったこの男の顔に、紛れもなく深い傷を……


「ふむ、テーレさんには気配を消して待っているように言われましたが、こうなっては仕方ありません。テーレさん、下がってください。プランBです」


 それをやったのは、いつからそこにいたのかわからない黒衣の男。俺が依頼でターゲットとして指定した、転生者の男。

 二人の転生者が相対する。『破砕槍』は、自身の頬に付いた傷を信じられないように、指に付いた血を見ながら怒りに震えている。


「て、てめえら……よっぽど不意打ちが好きらしいな。この俺の顔に傷を……」


「では今度は正面から行きましょうか。【乱数調整(ダイスロールテスト)】」


 再び放たれる何か。

 今度はハッキリと見えた……サイコロだ。それが、手から離れると同時に魔法の光を宿し……


「うぐあっづ!?」


 俺まで巻き込むような大規模な爆発を起こした!?

 咄嗟に逃げようとしたが遅れ、転げ回る。

 熱い熱い熱い熱い! 焼ける焼ける燃える燃える燃え……


「うぐっ、はあ、はあ……いや、燃えていない……幻覚の炎の爆発、だと?」


 幻覚の炎から出た途端に熱さが引いて助かったが、まだ身体が熱を錯覚して発汗を続けている。あのままだったらショックで気絶していたかもしれない。肉体的ダメージは低いが、炎を下手に使えない場所で相手を無力化するには有効な技だろう。

 だが、『破砕槍』はその炎をものともせず、地面に転がったダイスを踏み潰して前に出る。


「うぜえんだよテメエ! 俺をコケにしやがって!」


「二発目からは避けもしませんか。となると、一回目は何故通ったのでしょうね……とりあえず、試行回数を増やしてみますか。【乱数調整(ダイスロールテスト)】」


 さらに連続で投げられるダイス。

 『破砕槍』はそれを避ける仕草も見せず、その度に発動する種々の魔法に怯みもしない。

 激しい閃光にも僅かに目をしかめる程度、威力が抑えられているのか小規模になった爆発に関しても見向きもしない。弾かれたダイスが異様な重さで床にめり込むことがあっても、全く意に介さない。


 全くの無傷。

 最初の一発がまぐれで通ったとしても、そんな幸運は何度も通じない……いや、全くの無傷、だと?


「ほ、頬の傷が……」


「……何だと?」


「ふむ、なるほど。少なくとも『干渉不可能』ではなく『ダメージ遮断』の部類ですか。回復系は通るようですね」


 攻撃の中に治癒魔法でも混ぜてあったのか、『破砕槍』の傷は確かに治癒している。

 目眩ましも物理的な鎧を貫通する幻炎も効かない相手に、相手を有利にする回復効果だけが通ることがわかった。それだけなのに……黒衣の男は、満足そうに笑みを見せた。


「さて、順序が後先逆になってしまいましたが、これに関しては先に冒険者の方々を差し向けたあなた方とお相子ということで。話し合いに入りませんか? 丁度、こちらも二人、そちらも二人ですし」


 たった今、苛烈な攻撃を加えてそれをほぼ無効化されたとは思えないような友好的な笑みを浮かべながらそう宣う男。

 最初に攻撃を仕掛けてきた少女もその隣に身構えながら立ち、自分から攻撃をしようとする気配はない。


「話し合い、だと?」


「はい、何事も平和的に解決できることが一番です。テーレさんの強い要望でこのような強気な登場と相成りましたが、これはあくまでも『私たちとの敵対は不利益が大きい』という主張の証明のためとしまして、根本的に私たちが敵対する理由はありません。信仰する神々が不仲なのは事実かもしれませんが、だからといって我々まで不仲になる必要はありません。あなた方の信仰する戦女神はディーレ様のことを嫌っているそうですが、寛容なディーレ様は特に敵対せよという決定を下してはいませんので。私たちの個人的な対立の名目として神々を持ち出すのは極めて不信心なことです」


 つまり、先程までの行為はあくまでも『示威行為』。

 自分たちを追うのをやめないのなら、いつでもこちらの居場所を突き止めてこうして奇襲を仕掛けてやるという意思表示。

 『財力と権力でいつでも指名手配できる』というこちらの立場に対する、必要経費として、それだけのために、こちらの差し向けた冒険者を返り討ちにしてこの拠点を爆破した?


 確かに、理屈は通っているように聞こえる……だが、つい数分前まで殺し合いも同然のやり取りをしておいて、それを『友好的な話し合いのための準備』と割りきるこいつの精神性は普通ではない。


「お互いに、このまま乱戦からの決着に入るのはあまりよくない結果でしょう。『破砕槍』さん、あなたの能力を完全に理解できたわけではありませんがいくらかの推測はできました。このまま戦闘に入ればそれが的中し、あなたに致命傷となる可能性もあります。しかし、決着まで戦闘を続ければこちらも大怪我をするかもしれません。どちらにとってもリスクの高い展開ですが、あなた方が停戦を受け入れてくださらなければなし崩し的に発生する事態です」


 つまりは、半端な結論は求めていない。

 ここで依頼を取り消し、自分たちを狙うのをやめろと……そうでなければ、今すぐに殺し合いに戻るしかないと、二択を迫っている。


 もしそうなれば、この場で身を守るだけの力もない俺が真っ先に死ぬ……だが、こいつらの姿勢は明らかに『交渉次第で妥協してアイテムはこちらに譲ろう』という選択がない。

 あるのは、交渉が『決裂』した瞬間に攻撃を再開し『破砕槍』を打倒するという確定した方針だけ。


「テメエら……俺を倒せるとでも?」


「さあ、どうでしょうね。何せ推測が当たっているかどうかは試さないとわからないので。しかし……少なくとも、まぐれであれ幸運であれ、あなたが『負ける可能性』を自覚しているのではと思っているのは確かです。あなたが私とテーレさんを同時に相手にして確実に勝てるのなら、こうして話を聞く必要はありませんから」


 『転生者』の最大の武器は神々から与えられる転生特典と呼ばれる反則級の能力。

 だが、もしもそれが攻略されてしまっていたら転生者と転生者での戦闘では圧倒的に不利を強いられる。

 それ故の駆け引き。たとえ、見つけたという攻略法がブラフであったとしても、この場での交渉では十分に通用する。


 あるいは、本当に先程までの攻撃でこの無敵の男の弱点を……


「……ふん、そうやって、有利に立ったつもりか。テメエらは一つ、大きな勘違いをしてるぜ?」


「と、言いますと?」


 『破砕槍』がピアス型の通信アイテムを指で小突き、そのモードを切り替え、外して地面に投げる。

 すると、拡声モードとなった通信が、大音量で部屋に響く。


『ちょっとやめて! いや、髪掴まないで!』

『観念しなさい! 逃がさないわよ!』


 聞こえてきたのは二人の若い女の声。

 一人が、もう一人に無理矢理押さえつけられて暴れているような様子が……まさか……


「『破砕槍』、貴様……商会の宿を、襲わせたのか? なんということを……」


「ふん、うっせえなジジイ! 俺はギルドの中での地位とかあんたの立場とかどうでもいいんだっての! 文句言ってくるやつは誰だってぶちのめしてやれるんだからな!」


 凶行と言う他ない。

 冒険者と商人、ギルドと商会という信用と信頼で築かれた関係を壊しかねない行動を身勝手にも……


「さあ、女を返して欲しいなら……(おとこ)なら正々堂々、一対一の決闘で決着付けようや。その従者は景品だ、俺が勝ったら例のアイテム共々差し出してもらうぜ?」


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