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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第十五章 決戦前夜 二本場『ボッチ飯』

挿絵(By みてみん)


「ところで話は変わりますが、真琴さま。ご夕食はいかがなさいますか?」

「夕食かぁ――今日は自炊する時間もないし、ピザでも取ろうかと思っていたけど……」


 そういえば、真琴さんはメイドを付けずに、寮で一人暮らしだと言っていた。


 自炊か……

 わたしも女性として、料理のひとつも覚えるべきなのだろうか? そうすれば、この前の『関サバ爆発事件』みたいな失敗もしなかったでしょうに。


「そうゆう事でしたら、コチラでお召し上がっていってくださいませ――よろしいですよね、お嬢様?」

「え、ええ、そうね。構わないわよ」

「お嬢様のお許しも出ましたので、是非に、是非にっ!!」


 珍しく自分の主張を全面に出して、強引に真琴さんを夕食へ誘うつばめ。こんな彼女を見るのは珍しい。


「そ、そうゆう事なら、お呼ばれしちゃおうか――」

「かしこまりました」


 つばめは真琴さんの方へ一歩踏み出し、かぶり気味に返事を返した。

 その勢いに思わず仰け反(のけぞ)る真琴さん。しかし、そんな真琴さんへつばめは更に詰め寄り、言葉をたたみかける。


「では、築地の鮮魚を買い占め、すきやばしから三郎を呼んでお寿司を握らせましょう。いえ、それとも炎の料理人、富徳(とみとく)を呼んで満漢全席に致しますか? あるいは――」

「ちょ、ちょっと、つばめ……どうしたの? さっきから少しおかしいわよ」

「はっ!? コレは失礼致しました」


 一歩下がって、深々と頭を下げるつばめ。


「しかしお嬢様……わたくしは嬉しいのですよ」


 そう言って頭を上げたつばめの瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


「嬉しい?」

「はい。お嬢様が中等部からこの学院に入学して、早五年。自室にご友人が訪ねて来るなど一度もございませんでした。――そんなボッチのお嬢様が今宵、初めてご友人をお招きしたのです。こんな嬉しい事はございません」


 嬉しそうに、ハンカチで目尻に溜まった涙を(ぬぐ)うつばめ。


「ちょっ、や、やめなさい、恥ずかしい……というより、誰がボッチですか? 誰がっ!?」

「へぇ~、響華さま。ボッチなんて言葉、よく知ってましたね?」

「先日、南先生に教わりました。ちなみに、トイレの個室で一人食べる食事をボッチ飯と言うのですよ。その際、利用する人の少ないトイレを使うのが作法です」

「知ってます」


 そう……先日わたしは、人気(ひとけ)のない特別棟のトイレで、まさにその『ボッチ飯』をしようとしていた先生に出くわした。


 なんでも、学食は目の毒だし、職員室では気が抜けない。何より、その日持参した食事は匂いが強いので、誰も居ないところで食べたかったそうだ。


 無論、トイレで食事など許せるはずもなく、わたしは先生を半ば強引に生徒会室へと誘った。


 ちなみにその日、先生の持参した食事というのは、カップ焼きそばと呼ばれるインスタント食品。

 確か商品名は、『響け! 日新焼きそばユーフォニアム』――だったかしら?


 話には聞いた事があったけど、お湯を入れて三分で料理が出来るのを見るのは衝撃的だった。

 その、初めて見るカップ焼きそばを先生に少し分けてもらったけど、感想は……

 ま、まあ、とりあえず、美味し不味いは置いといて、とにかく暴力的な香りと強烈な旨味だった。


 先生曰く、この安っぽい味が、時々無性に食べたくなるそうだ。

 確かに、あの強烈な旨味成分は、何度か食べているとクセになるだろう。


「そう、そのボッチ飯ですよ、お嬢様っ!」


 と、今度は、そんな回想をしているわたしへ詰め寄って来るつばめ。


「このままご友人が出来ずにいたら、来年の今頃は一人寂しくトイレでボッチ飯を食べているのではないかと、わたくし心の底から心配しておりました」

「誰がしますかっ、そんなことっ!!」

「真琴さま――ウチのお嬢様は、強がっておりますが、実はとても寂しがり屋なのです。そのうえ素直でもありませんが、何卒(なにとぞ)これからもお付き合い、よろしくお願い致します」

「だ、たからっ! 恥ずかしいからやめなさいっ! あなたはわたしのお母様ですかっ!?」


 涙ながらに真琴さんの手を取り懇願するつばめの背に、わたしは勢いよく荒げた声をぶつけた。


 すると――


「響華さま、今のはナイスツッコミですっ!」

「お嬢さま、今のはナイスツッコミですっ!」


 声を揃えて親指を立てる、つばめと真琴さん。


 な、なるほど……これが先生のよく口にする『ツッコミ』なのか。


「欲を言えば、『お母様ですかっ!?』ではなく『かあちゃんかっ!?』もしくは『オカンかっ!?』なら完璧でしたが」

「それは欲張り過ぎですよ、真琴さま」


 ふむふむ……お母様ではなく、かあちゃんかオカン――ではなくてっ!


「ああもぉ~っ、話が進みませんっ! つばめっ、献立は任せますから、用が済んだのなら下がりなさい!」

「いえ、本題はここからでございます」


 そう言ってつばめは、Wクリップで束ねられた数枚のレポート用紙を取り出した。


「お嬢様に言われておりました、北原忍さまの調査結果でございます。忍さまの男性恐怖症の原因となる事件の概要が、ようやく分かりました」


 差し出されたレポートを受け取るわたし。


「あなたにしては、随分と時間がかかりましたわね?」

「申し訳ありません。なにぶん時間が経っておりましたし……なにより、北原家の方で事件の隠蔽を行っているようでして」


 事件の隠蔽……?

 何か北原家のスキャンダルに繋がる話なのかしら? いや、それ以前に、あの北原家が隠蔽している情報を調べ上げるとは、さすがつばめだ。


 わたしは、椅子に座りレポートを捲ると、椅子ごと隣へ移動してきた真琴さんが横から覗き込む。


 あまり行儀が良いとは言えないけど、まずはレポートに目を通すのが先決。わたしは、彼女の行為を黙認して、レポートに目を落とした。


「事件が起こった場所は、大阪中央体育館。日時は四年前の――」


 まるでわたしの見ている所が分かるかのように、レポートの解説をして行くつばめ。


 しかし、そのつばめの言葉が頭の中を素通りして行くほどに、レポートの内容はわたしを驚愕させるモノだった。


 そんなわたしの隣では、あの真琴さんですらも、思わず息を飲んでいる。


 そう、そこに書かれている内容は、あの真琴さんですら言葉を失うほどに驚くべき内容なのだ。


「その日、大阪中央体育館では、全日本学生空手道選手権の全国大会が行われていました――」


 四年前の大学空手全国大会――

 そう、そこは……わたしと先生が、初めて会った場所なのだ……

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