第十局 ハッキング 01
送信っと――
走りながら作成したメールを姉さんに送信する。
長年使い込んだガラケーだ。簡単なメールなら手探りで作成出来る。
とりあえず、荷物を取りに一度職員室へと向かったオレ。
しかし、職員室の前で意外な人を発見――
「おにい……じゃなくて南先生っ!」
おいおい、職員室の前でお兄ちゃんは勘弁してくれよ。
「どうしたの真琴ちゃん、まだ授業中でしょう?」
「先生が呼び出されたから心配で……何かあったの?」
いや、心配はありがたいけど、職員室の前で待ち伏せなんて――
と思ったが、職員室を覗くと授業中ということもあり、中は無人だった。
立場上、あまり誉められた行為ではないけど、ちょうど良かった。
「ちょと待ってて……」
そう言って真琴ちゃんを廊下に残し、オレは職員室に入った。そして自分のロッカーから、バックを取り出すと、すぐに廊下へと戻る。
「これ、約束のブツ」
そう言って、バックからナプキンで包んだ大きめの箱を取り出した。
「えっ? これ……お弁当? 本当に作って来てくれたの?」
そりゃあまぁ約束だからね。
でも……
「ごめんね。急用が出来て、すぐに行かなくちゃいけないから、オレは一緒には食べられないけど――」
そう言って、包みを手渡した。
しかし、真琴ちゃんの表情は晴れない。
「急用って何……? 大丈夫なの?」
真琴ちゃんにこんな顔をさせるのは辛いけど、今は急がないと。
「大丈夫だよ、ちょっと出掛けてくるだけだから」
オレは、そっと真琴ちゃんの頭を撫でた。
「帰ってきたらちゃんと話すから。それと、早く授業に戻りなよ」
そう言い残して、再び廊下を走りだす。
「ちょ、お兄ちゃん!」
背後から聞こえる真琴ちゃんの声――だから、ここでお兄ちゃんは勘弁して下さい。
そんな事を思っていると、握っていた携帯が震えた。
メールの着信で発信者は姉さん。中を確認すると、ディスプレイに表示されたのは『OK』の二文字。
さすが姉さん、仕事が早い。これで仕込みはOKだ。
オレは角を曲がり、階段を駆け上がる。目指すは4階、視聴覚室だ。
走りながら再び携帯を操作するオレ。最近の発信履歴から目的の名前を探し出す。
探すのは『九連正純』という名前。
以前、ガンオタサイトのオフ会で知り合ったのだが、結構気が合って、その後も連絡を取り合っている。
しかも、コイツにはとんでもない特技があるし――
程なくして、お目当ての名前を発見。すぐにコールをする。
しかし、こんな時間に起きているか? 夜型人間だからな、アイツ……
そんな心配をよそに、コール5回で電話が繋がった。
『もしも……』
「良かった、起きていたか?」
『ああ……てか、昨日は徹夜でアキバに並んでいたからな。今、帰って来たところだ』
相変わらずのニートぶりだな、コイツは……
『でっ、何の用だ?』
「手伝って欲しい事がある」
『ダメだ、シェルリがオレを呼んでいる』
シェルリ……? あぁ、今日はマックスフロンティアの限定ブルーレイBOXの発売日か……
しかし、その程度なら想定内だ。
「とっておきの情報がある」
『一応聞こうか?』
「GのOVA、劇場化の話しだ」
『何っ! OVAというとUGか? 情報元はっ!?』
よし、食いついた!
更にオレには、さっき姉さん経由で仕込んだ切り札がある。この勝負貰った!
「サンナイツの人事部長様からの情報だ。まず間違いない……しかも、関係者オンリーの試写会チケットが手に入る予定がある」
試写会チケット……
これがさっきメールの内容。姉さん経由の仕込みだ。
『何だっ? 何をすればいいっ!? 今のオレは、北の軍事基地にハッキングして、核を自爆だってさせるぞ!』
「んな事させるな!」
しかし、欲望に忠実な奴は扱いが楽でいい。
自分で言っていたが、コイツの特技はハッキング。自他共々に認める天才ハッカーだ。
『じゃあ、何をすればいい? オレに頼むという事はハッキングなんだろ?』
「話しが早くて助かる。ハッキングを手伝って欲しい」
『侵入先は?』
「Nシステムのデータが見たい」
自動車ナンバー自動読取装置、通称Nシステム。
日本の幹線道路に警察が設置する、自動車のナンバープレートを自動で読み取る装置であり、そこを通過した車両は全て記録される。
『Nシステムと言う事は、管轄は警視庁の刑事課か……』
「出来るか?」
『それは問題ない。この前一度入ったばかりだからパスも分かる』
「入ったってNシステムにか?」
『ああ、ウチの一番上の姉貴に頼まれてな。なんでも旦那が浮気しているみたいだから、足取りを調べて欲しいって』
人の事は言えんが、そんな事の為にわざわざ警視庁にハッキング仕掛けるか普通……
『結果は真っ黒。残業中のはずの旦那の車は、ホテル街に消えて行きましたとさ――』
「それは、後が大変だったろ?」
『いんや、姉貴に報告する前に旦那に報告したからな――おかげで、欲しかったリリカルフェイトのDVDBOXがロハで手に入った』
コ、コイツは……
まぁ、敵に回すと恐ろしいが、味方にすれば頼もしいと思っておこう――




