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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
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第九局 大事件発生! 02

 弁護士先生の言葉に、驚愕するオレ――


 ゆ、誘拐……だと?


 今朝――

 ついさっきまで一緒にいて、色々話しをしていた響華さんが誘拐された……?


 オレは集中して、弁護士先生の話し声に耳を傾けた。


「はい……こちらの話しを総合すると、犯人はサングラスを掛けた二人組み。運転手が車を離れた二~三分の間に車へ侵入。身を隠し二人が戻るのを待ち伏せし、車に乗り込んだ所でナイフを使い脅迫。運転手に車を河川敷まで移動させ、そこで運転手に暴行。その後、運転手を置き去りにして、響華さんを車で連れ去ったと思われます」


 なんだと……?

 オレがのん気に見送っていた時には、すでに犯人が車に乗り込んでいたのか……


 話しを聞いているうちに、オレの血の気がどんどん引いて行く。その間にも弁護士先生の話しは続いていた。


「……はい、はい、マスコミ対策と犯人を刺激する事を考慮して、警察は介入させません。引き続き捜索はSSの方で行って下さい」


 弁護士先生の話しは終わったようだ。このオバハンから、これ以上の情報は聞き出せそうもない。


 そう思い席を立っ――。


「どこに行くつもりですか?」


 部屋を出て行こうとするオレを呼び止める学長。


「どこって、決まっているでしょう。探しに行くんです」


 そう言い切るオレに、弁護士先生は冷ややかな目を向けた。


「捜索は西園寺家のお抱えのSS――シークレットサービスが行っています。そちらに任せなさい……それよりあなたへの話しは終わってません」


 シークレットサービスだと……?


 それって確か、要人警護専門のボディガードだろ。

 所詮は警備会社じゃねぇか! そんなのに任せて大丈夫なのか?


「でっ、話しってなんですか?」


 苛立ちをなんとか抑えながら聞き返すオレ。


「運転手の話しでは、響華さんから一緒に登校する事を誘われたそうですね? 何故、断ったのですか?」

「特に理由は有りません」

「理由もなく断ったと……聞いた話しによると、南先生は空手の有段者だそうですね?」

「それが何か?」

「もし、あなたが一緒に登校していたらどうでしょう? あなたなら、犯人を確保出来たんじゃありませんか?」


 ぐっ……た、確かに……


 確保出来たかどうかは分からないけど、響華さんの一人くらいなら逃がす事は出来ただろう。


「聞いての通りです学院長……学院側にも責任の一端があるのは明らかです」

「しかし、それはあくまで結果論でしか有りません。実際問題として、南先生が同乗したからと言って、今回の件が必ずしも防げたとは言い難いですし――」

「この場合、防げたかどうかは問題ありません。生徒が自宅に訪問したのであれば、教師はそれを無事に送り届ける義務があると、私は考えてます」


 お、おいおい……

 この状況で何を言ってるんだ、こいつらは――


「ちょと待って下さい! こんな時に何を言ってるんですかっ!?」

「こんな時に……? あなたこそ何を言っているのですか? こんな時だからこそ、責任の所在をハッキリさせなくてどうしすか?」


 お前ら、こんな時まで責任の擦り合いかよっ!


「付き合ってられるかっ!」

「探しに行く事は許しませんよ」


 再び出て行こうとするオレを、再び学長が呼び止める。


「どうしてですかっ!?」


 オレの問いに、今度は弁護士先生が口をはさんだ。


「当たり前です。あなたのような、ちょと腕っ節が強いだけの人間が出て言っても捜索の邪魔になるだけです。それに、犯行の手口や手際から考えてもプロの可能性が高い」

「プロ……?」

「そうです、単に営利誘拐や変質者とはワケが違います。しかも、誘拐されたのが世界屈指の大財閥のご令嬢……犯人の意図がまだ分からないこの状況で、相手を刺激するような事になったら、どうするつもりですか?」


 たしかに、弁護士先生の言いたい事は分かる。

 でも、人が動くのは……いや動かすのは理屈じゃない。


「だからって、ここでジッとしていろって言うんですか?」

「その通りです。素人のあなたが動いて、もし万が一の事があったら、あなたはどうするつもりですか?」

「だったら、クビにでも何でもすればいいでしょう!」


 こんな事、身代わりのオレが言う事じゃないけど、姉さんだってこの状況なら、きっと同じ事を言ったはずだ。


 しかし、その『クビ』と言う言葉を、学長は鼻で笑った。


「クビ? 笑わせるわね。あなたのような新米教師のクビなんて、いくつ飛ばしても、追い付きはしないわよ」


 くっ……このクソババどもっ!


「ならば、私のクビも掛けましょう」

「じゃあ、私のクビも一緒に掛けちゃいましょうかね」


 クソババどもにオレの我慢が限界を突破しかけた時、ゆっくりと入り口ドアが開いた。


 そして、その場に居た全員の目が入り口へと集中する。


 そこに立っていたのは、二人の女性……

 一人は見知った顔の緑先生。しかし、オレの目は、その後ろに立つ女性に釘付けになっていた。


「み、美琴……さん……?」


 オレは、その女性に見覚えがあった。


 オレがまだこの街に住んでいた頃。

 隣の家に住んでいた、幼なじみのお母さん――つまり、真琴ちゃんの母親こと、東美琴(あずまみこと)さんだ。


 最後に会ったのは四年前。その頃と全く変わっていない容姿――


 いや、オレが中学生の頃、

『真琴ちゃんのお母さんは若くて綺麗で羨ましいな~』

 なんて思っていた頃から変わっていないんじゃないか?


 まさにバケモノか不老不死か……とても高校生の娘がいるようには見えないぞ。


 ――って、いやいやいやいや! そんな事より、なんで美琴さんがこんな所に……?


 オレのそんな疑問に答えてくれたのは、驚きに目を見開く学長先生だった。


「り、理事長……ど、どうしてこちらに? 今日は朝から、理事会の慰安旅行に行かれていたのでは……」


 り、理事長ーっ!?

 美琴さんが、この学院の理事長なのかっ!?


「一色先生から連絡を受けて、急遽キャンセルしてきました――それより学院長。このような事態が起きているのに、私へ連絡がないのは、どうゆう事ですか?」

「い、いえ……わざわざ理事長の手を煩わせるまでもないかと……」

「それを決めるのは私ですっ!」


 美琴さんの登場に、すっかり萎縮してしまった学長先生。


 しかし、ここにはそんな事に全く動じない、腹と面の皮がブ厚いオバハンがもう一人いる。


「お久しぶりですね、東理事長」

「これは平先生――お久しぶりです。確か西園寺さんの入学の時にいらして以来ですかね」


 お互い顔には笑顔を浮かべいるが、目が笑っていない……

 てゆうか、部屋の温度が5℃は下がった気がするぞ。


「ところで東理事長? 先ほど妙な言葉が聞こえたのですが、私の空耳でしょうか?」

「妙な言葉とは?」


 ここで弁護士オバハンは目を伏せて、口元にイヤミな笑みを浮かべた。


「自分のクビを掛けるとかどうとか――まさか本気で仰っているワケではないのでしょう?」


 そんなイヤミな物言いに、美琴さんは同じように目を伏せて一拍おくと、ニッコリ笑って顔を上げだ。


「いいえ、本気です。南先生は優秀で、私が最も信頼する教師の一人ですから」

「なっ!?」


 その言葉に、オレとオバハンズは目を見開き驚愕した。

 そして一人だけ驚かずに、ニコニコ笑って拍手をしている緑先生……


 って、美琴さん――それはいくら何でも、姉さんを買いかぶり過ぎだよ。


「南先生っ!」

「は、はい!」


 いきなり美琴さんから話しを振られて、慌てて背筋を伸ばし返事をするオレ。


「西園寺さんの居所に心当たりはあるのかしら?」

「心当たりはありません……でも、当てと考えはあります」


 そう言い切るオレに、美琴さんは口元へ笑みを浮かべた。


「そう――なら行ってきなさい。責任は私が取ります」


 とても懐かしい、そして優しい笑顔……

 昔からオレは、この美琴さんの笑顔が大好きだった。


「はい!」


 この笑顔に答えるためにも、そして何より響華さんとの約束を守るためにも、必ず見つけだしてやる。


 そう――響華さんと約束したんだ。何かあったら絶対に助けに行くって!


「失礼します」


 そう言って、頭を下げながら美琴さんの横を通り過ぎようとしたとき――


「頑張ってね、トモくん」


 小さな声でそう言った美琴さんの顔を、驚き顔で思わず振り返るオレ。


 しかし、そこにあるのは相変わらずの笑顔……


 でも、トモくんって……?

 美琴さんが、姉さんではなくオレの事を呼ぶ時の言葉だ。


 美琴さん、もしかして――


 そう思った時、今度は背後から掛かる小さな声へ、更に驚愕するオレ!


「私の将来も掛かっているんですからね。クビになったら責任取って養ってもらいますよ。ト~モ~くん♪」


 って! 緑先生もぉ~っ!?


 ちょとちょとっ! いったい、誰がどこまで知っているんだよっ!?


「何をしてるのですか南先生。早く行きなさい!」


 美琴さんの声にハッと我に返るオレ。

 そうだ、今はそんな事より響華さんを――


「はいっ!」


 オレは美琴さんの横をすり抜けて廊下に出ると一気に走りだした。


 しかし、美琴さんの登場で全てが繋がった気がする。


 学院の改革を進めたい理事長派。その理事長の推薦で赴任した姉さん。

 そしてその理事長が、美琴さんだった――


 美琴さん……

 姉さんに某少年誌の『グレート・ティーチャー・O』の真似事でもさせるつもりか? 確かに性格は似ている気はするけど。


 そんな事を考え、思わず笑みがこぼれた。


「じゃあ、とりあえずグレート・ティーチャー・お姉ちゃんに少し手伝って貰いますか」


 そんな事を独りごちりながら、オレはジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出した。

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