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Monochrome―化物剣聖と始原の熾天使―  作者: 勝成芳樹
第三章―二人の異変―
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ピースが揃ったパズル

風邪ひいてて遅くなりましたごめんなさい


あらすじ

敵将、討ち取ったりーッ! した

 弟が完全に動かなくなったのを確認してから、俺は仰向けでその場に倒れた。絶望の権能と活性で解毒と治癒を進めているとはいえ、体は未だにボロボロだ。正直、最後の一撃を繰り出すのもギリギリだった。


 濃縮付加が使えなかったとはいえ、俺を此処まで追い込んだあの兄弟は相当な脅威だった。兄と弟、どちらかに最初から全力で掛かられていたら、俺は今頃その辺に散らばる死体のひとつとなっていた。


 首を動かして戦況を確認してみると、俺が抜けた上に一角を戦場にした所為で一部ゾンビの突破を許し、かなりの量の被害が出ているようだった。だが、エルの援護が止まらずに飛んで来ていたらしく、それ以上の被害は出ていない。


 あの二人がエルを長時間拘束出来るとは微塵も思っていないが、数十秒でも拘束されてしまえばもっと被害が出ていただろう。俺の役目は戦奴が引き継いでくれていたようだし、この場所で始末出来たのは幸いだったと言える。


 この場所からは他の戦線の様子は見えないが、凄まじい魔力の奔流を感じる為、既にリディアさんとオリヴィアさんが援護を再開しているのだろう。戦線が崩壊していないかが心配だが……多分大丈夫だと思う。多分。


 となると、俺の役目は大体終了か……。もう休んでも良いよね。


「チコ殿! 無事であるか!?」


 完全に脱力して体の治癒に専念して暫く経った頃、エウヘニオさんの声が遠くから聞こえて来た。顔を向けると、数人の騎士に守られたエウヘニオさんが駆け寄って来るのが見える。どうやら心配して見に来てくれたらしい。


 軽く体を動かしてみたが、毒がまだ残っているのか、それとも疲労なのかは分からないが、反応が多少鈍かった。しかし痛みを感じたりする事は無かった為、動いても問題は無さそうだ。


「やぁ、ベグメビロさん」

「エウヘニオである! ハァ、無事で何よりなのである」


 立ち上がって迎えると、エウヘニオさんはホッとした表情でそう呟いた。普段は何の感慨も覚える事のないそれだが、今は何だか無性に嬉しく感じる。死、という物を明確に意識した後だからかもしれない。あ、顔がニヤけそう……。


「戦況はどうなってます?」

「この辺りは被害が少ないのであるが、他の場所では驚異的な強さを持った怪物の襲撃で戦線が乱され、万単位の兵が打ち取られたと報告があったのである。その怪物も、帝王殿とリディア殿が屠ったらしいのである」

「そうですか」


 エウヘニオさんの言う驚異的な強さを持った怪物は、悪魔兄弟を除いたあの気配の事だろう。戦線を乱された上に熾天使の二人が足止めされた所為で被害が大きくなったようだ。


 精々が数百の被害しか出ていない此処と比べると、その被害の巨大さが良く分かる。うん、あの二人を此処で屠れて本当に良かった。


「今は戦線の再構築も完了し、進撃を再開していると聞いているのである!」


 戦線が崩れてさえいなければ、徒に被害が拡大する事も無い。あのピンクゾンビが厄介だが、現れ始めてからかなりの時間が経っている。既に対処法が各所で編み出されているだろうし、このまま状況が変化しなければ、俺達の勝利は揺るがない。


「それは何よりです」

「うむ。前線は既に安定している故、チコ殿は休むと良いのである」

「そうですね……そうしますか」


 エルシエラは循環系魔法を使うだけなら問題ないとは言っていたが、まだ不確定要素である絶望の権能を使った以上、これ以上戦う≒循環系魔法を使うのは避けたい。此処はエウヘニオさんの言葉に甘えて後方に下がる事にした。






「伝令、伝令!」


 エウヘニオさんと一緒に陣の天幕に戻って休んでいると、大声を上げながら少年が走り込んで来た。騎士に静止されて立ち止まった少年は乱れていた息を軽く整えると、この場で最も地位が高いエウヘニオさんに一礼して報告をする。


「本陣より、作戦を最終段階へと移行、との事です!」

「うむ、確かに受け取ったのである」

「ハッ!」


 鷹揚に頷いたエウヘニオさんに少年は一礼し、そのまま天幕から出て行った。エウヘニオさんも立ち上がると、傍らの騎士に何やら命令をし始める。姿形はあの筋肉馬鹿なのに、こうしているとちゃんと侯爵子息に見えるから恐ろしい。


 俺が遠い目をしていると、命令を出し終わったらしいエウヘニオさんが声を掛けて来た。


「チコ殿、いよいよあの裂け目を封印するらしいのである。某は様子を見に行くが、チコ殿はどうするのであるか?」

「そうですね、護衛も兼ねて同行しましょう」

「フハハハハ! 剣聖が護衛とは、某も安心なのである!」


 本調子じゃないんだけどな……。


 天幕を出るエウヘニオさんに苦笑しながら続き、裂け目が良く見える場所まで移動する。遠目から見た包囲網はかなり小さくなっており、密度の高い魔法の弾幕が零れ落ちるゾンビを片端から虐殺していた。


 その状態が暫く続いた後、強大な魔力が裂け目の周りで渦を巻き始めた。恐らく、オリヴィアさんが魔術を発動させたのだろう。その規模は凄まじく、リディアさんが絶対零度空間を作り上げた時を遥かに上回っている。


 普段はエルの特大魔法の魔力も感じないエウヘニオさんも、肌で変化を感じ取っているようだ。口を半開きにして、食い入るように裂け目を見つめ続けている。


「何やら圧倒的な力を感じるのである……」

「それだけ大規模って事ですよ、あの裂け目は」


 何せ、世界の間を越える裂け目だからな。


 強大な魔力はやがて裂け目の真上へと収束して行き、眩い光を放ち始める。その光はどんどん強くなって行き、やがて目も開けられない所か手で目を覆わなければならないほどになった。


 瞼越しに手の骨を観察する事数秒、フッと光が途絶える。ゆっくりと目を開けて見ると、世界は何事も無かったかのように元の色を取り戻しており、パックリと開いていた裂け目は痕跡も残さずに消滅していた。


 戦場だった焼け野原に、微かなそよ風の音が聞き取れるほどの静寂が広がる。誰もが目を限界まで見開き、さっきまで確かに存在していた醜いゾンビを生み出す裂け目のあった場所を見つめていた。


「終わった……のであるか……?」


 隣に立つエウヘニオさんがポツリと呟く。前後して陣や遠くの包囲軍にざわめきが広がって行き、程無くしてそれは天地を揺るがすほどの大歓声となった。


 兵達は武器や盾を打ち鳴らして騒ぎ、陣で救護や給食を担当していた者達は飛び跳ね、負傷兵達は痛みを感じさせない笑みを浮かべ、兵を率いる貴族や将軍達はホッと胸を撫で下ろす。形は違えど、全員が勝利を、死の脅威を追いやった事を喜んでいる。


「フハハハハ! フハハハハハハ!! 終わった、終わったのであーーーるッ!!!」


 隣のエウヘニオさんも笑いを何時もより増やして飛び跳ねている。侯爵子息の威厳は何処かへ吹き飛び、完全に年相応の青年になっている。まぁ、あれだけの軍勢を後方から全て見ていたのだ。それが消えたのだから、我を忘れて喜ぶのも無理はない。


 俺も無事にこの戦いを乗り切れた事にホッとしているし、胸の中は歓喜の想いが溢れている。だが、喜びを発している楽観的な所の裏で勘に近い何かが絶えず警鐘を鳴らしている事が、俺の心に一点の染みを作っている。


 ――本当にこれで終わりなのか?


 ――あの二人は本当にエルの足止めの為に出て来たのか?


 ――そもそも敵の狙いは何なのか?


 ――強い相手を送り込めるのに、ただただ雑兵を送り込む事しかして来なかったのは何故なのか?



 ――――雑兵との戦いで目立つ奴は、一体誰だ?



「エウヘニオさん、ごめん!!」

「え? ち、チコ殿ぉぉぉ!?」


 フッと浮かんだ不安の答えを見つけ出した俺は、身体強化を付加して飛び出した。もしも俺の予想が当たっていたとしたら、時間は殆ど残されていない。


 目的地に向かう間に、頭の中で次々とパズルのピースが繋がって行く。絶対に無関係だと思っていた物が、あるひとつのピースを基点にして関連を浮き彫りにする。


 何故ブラスは濃縮付加を扱っていた?


 何故魔王級の竜はあの日に王都を狙い、更に濃縮付加まで使っていた?


 何故存在を秘匿しなければならないレグロが魔闘大会に出る事が出来た?


 何故今までの敵は帝国単独で相手取れた?


 何故今回の敵は共同で当たらなければならない規模になった?


 ――インバジオ帝国内に、裏切り者、或いは内通者がいるから。


 そいつがブラスに濃縮付加を授けて俺を殺そうとした。


 そいつが魔王竜を唆して王都を滅ぼそうとした。


 そいつがレグロを手引きした。


 そいつが帝国単独で相手取れるように位置や規模を調整した。


 暴論かもしれない。杞憂かもしれない。落ち着いて考えれば、もっと筋の通る説が浮かぶかもしれない。それでも俺の勘は、それが正しいと判断して俺を突き動かした。


 俺が導き出した考えは、敵の狙いが脅威となる強者の排除だという事。例えば剣聖の俺、SSランク冒険者の学園長、イラーナさんや学園の生徒達――そして熾天使。


 そして今、最も消耗している熾天使あの裂け目を消す為に大量の魔力を使った帝王のオリヴィアさんだ。そして濃縮付加は帝国の秘匿技術に近い物。これが関連していないとは思えない。


 杞憂ならそれで良い。今はただ、この世界が滅びるのを防ごうと尽力しているエルの妹、オリヴィアさんの絶対の安全の確保が最優先だ。


「見えたッ!」


 気配を辿った先にいたのは、消耗した様子で膝を付いているオリヴィアさん。それに手を差し伸べようとしているのは、インバジオ帝国の軍服を着た男。


 服の下に暗器を大量に仕込んだその男は、一般の人間と区別が付かないほどまで気配を抑え、極自然な動作で袖から何かを取り出し、オリヴィアさんに近づける。


「クソがッ!!」


 この距離では俺が到達するよりも早く、あの手に握られているナイフがオリヴィアさんの首を切り裂いてしまう。()()の身体強化では間に合わない。


 ――濃縮付加を使うだけで動けなくなるだろう――


 だからどうした。俺が動けなくなるのと、オリヴィアさんを失うのと、どっちが拙いか、そんなのは分かり切っている。


 魔力を集め、身体強化を濃縮する。筋肉がブチブチと千切れ、普段とは比べ物にならないほどの爆発的な力が足に宿る。これなら、間に合う。


 地を吹き飛ばし、ナイフとオリヴィアさんの首の間に手を差し込む。そして冷たい感覚が手を貫通したのを感じながら、男の手を握り潰して地面に叩き付けた。同時に、鉄の味のする液体で口内が満たされる。


「ぐおッ!? 何だぁ!?」

「ガッ!?」

「貴様……?」


 男の戸惑いの声を聞きながら血を吐く。体中が悲鳴を上げているように痛み、魔力が体を食い破ろうと暴れまわっている。


「お、おい? 貴様、大丈夫か?」

「……に……逃げ……」

「何? 何を言っているんだ?」


 膝を付いた俺の後ろにいるオリヴィアさんに必死に逃げろと伝えるが、彼女は怪訝な表情をするだけだった。しかし、その表情も何時の間にか立ち上がっていた男の一言で厳しい物に変わる。


「あぁーあ、剣聖様にはやっぱりオミトオシかぁ」

「……貴様、何者だ?」

「あぁ? 敵だよ敵、帝王様。そんな事も分からないのか?」


 ニヤニヤと意地汚く笑う男――フェルナンが、悪魔兄弟に似たおぞましい気配を放ち始める。その圧力は悪魔兄弟の比ではない。次の瞬間に殺されていても納得出来ると思えるほど濃密な気配が、目の前の男から叩き付けられている。


「ッたく、俺もツイてるぜ。熾天使一人と、ついでに剣聖を殺れるとはなぁ」

「誰が……ッ! ゴボッ」

「ハッハッハッハッハ! 天下の剣聖様は不調かァ?」


 言い返そうとするが、血が喉の奥から昇って来てまともに話す事すらも出来ない。口から血を大量に垂れ流す俺を見て、フェルナンは愉快そうに笑った。


 ……これは無理だ。今の俺では太刀打ちなんて夢のまた夢で、それはオリヴィアさんも同様。周囲に味方は存在せず、逃走も出来そうにない。詰んでいる。


 やはり戦闘の前にフラグを立てたのが悪かったのか。出来れば回収せずに叩き折ってエルの言い掛けた事を聞きたかったのだが、それは叶えられそうにない。


 だが、最低でもオリヴィアさんは逃がす。帝国という巨大な戦力を持つ彼女が生き残れば、今後の戦いでも大きな戦力を動かせる筈だ。彼女を残して俺が生き残るよりもよっぽど良い。


 何より、エルの妹を殺させる気はない。


 動かない体に鞭打ち、背中に背負う剣を抜く。体を動かすだけでビキビキと痛みが奔り、今にも力が抜けそうになるが、気合でそれを抑え込んで震える剣先を突き付ける。


「ゴホッ……お前の、相手は、この、俺だ」

「貴様……」

「おう来いよ。一瞬で終わらせて、後ろの熾天使もぶっ殺してやるよ」

「ほざ、け」


 背後のオリヴィアさんに目配せをした後、目の前のフェルナンに剣を突き出す。予想通りあっさり避けられたが、代わりに攻撃方向を限定出来た。


 右手側から突き出された短剣を腕で受け流し、肩を貫通させる。そのまま筋肉に力を入れて固定し、体を捻って刀身を真っ二つにへし折った。


 それに動揺する事無く振り下ろされた鎌状の剣を左手で払い、己の剣を捨ててフェルナンの右腕を掴む。そのまま引き倒そうとしたが、本性を現したフェルナンは俺の力でもビクともしなかった。


 ニヤリと笑ったフェルナンが俺を軽く突き飛ばす。それだけで俺の体は簡単に傾き、右腕と左手の力を失った俺は成す術無く倒れ込んだ。


「おやおや、もうおしまいかァ?」

「ぐ……ァ……」


 気力だけで上半身を起こす俺に小型のボウガンのような物を向け、フェルナンが嘲笑を浮かべる。その照準は俺の額に向けられていて、ブレる気配は微塵もない。対して俺は腕を持ち上げる事すらも出来ず、避けるなんて夢のまた夢。詰んだ。


 一応、オリヴィアさんはこの場所から遠く離れていて、既に誰かと合流しているらしい。後は自分達で何とかしてくれ。俺はもう無理だ。


「中々のもんだったぜェ剣聖……せめての情けだ。一撃で殺してやる」


 あぁ、そうかい。


 最後にボウガンの先端を睨み付けてから、俺は目を閉じてそれが頭を貫く時を待った。





















「……間に合い、ましたか」

「……ぇ……」

「今は私に眠っていて下さい。すぐに終わらせますから」


 そうか。それなら任せたよ、エル。

次回予告

「さて、よくも私の妹と未来の旦那様を傷付けてくれましたね」




どうやら日間ランキングに乗せていただいたようで、感動に打ち震えてガクブルたけし状態に陥っております。

今後とも頑張って行きますので、皆様応援よろしくお願いいたします。

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