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モニタリング!魔王令嬢 ※田舎育ちの魔王の娘が普通の人間として社会で学ぶ~帝都で暮らす愛娘を魔王と幹部が極秘観察してる件~  作者: えむ@毎晩10時更新中


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蛇の杖の行方

メアリと別れてからすぐに帰ると、酒場の机で勉強を始めた。


今日は通りが見える窓の傍らでノートを埋める。


そのまま仕事に入れるように、すでにウェイトレスの格好には着替えてある。


(来年から定員が半分……)


どうにも集中できない。不安で押しつぶされそうだ。


(合格なんて無理なんじゃないだろうか。もう村に帰りたい……)


珍しく、ため息が出た。


(だめだ。元気出さなきゃ。もうすぐ仕事だし!)


エミリーは伸びをした。上の窓に青い空が見える。


さらに背を伸ばすと椅子ごと後ろに倒れた。


間が悪く、そこに客が2人入ってきた。


「い、いらっしゃいませ!」


一人は中肉中背、魔術師が持つ杖を持っている。


もう一人は大柄な男だ。どこかで見た覚えがあるような気がする。


「まだ準備中かね」


「いえ。もうやってます!飲み物ならすぐに」


「エミリーさんはどちらに?」


明らかに初めての客に名前を呼ばれてエミリーは戸惑った。


とはいえ、刑場の騒動があってから彼女を見に来る客が一定数いるのも事実だ。


いわばローカルな有名人である。


「私です」


「ギルドの張り紙を見てね」


「?」


「ほら、蛇の杖の」


「ああ!」


蛇の杖に心当たりがある者に報奨金を出すと書いてたことをすっかり忘れていた。


(そいうえばそんなもの出したなあ)


「あの杖について聞きたい」


「オジさん!何か知ってるの?」


男は咳ばらいをした。


「失礼。私は甲式魔術学校で指導をしているナウシズという者だ。こっちはギルダー」


「よろしく。ん?嬢ちゃん、どっかで見たと思ったら試験の時の」


さっきから見たことがあるような気がしていたが、エミリーもようやく思い出した。


門前払いを喰らいそうになった時、助け舟を出してくれた魔術学校の警備員だ。


「あっ。その節はどうもありがとうございました」


この人のおかげで受験できたのだ。


結果として受験できなかった方が良かったと思う瞬間もあったが……。


ギルダーは少し驚いた。


あの日の少女とは思えないほど堂々としている。


「ここで働いてるってことはまだ受験生か」


丙式魔術学校は基本的にバイト禁止だ。


「はい。それより!蛇の杖のこと知ってるんです?」


「ああ。あれは私が金貨60枚で買ったものだ。隣の質屋でな」


60枚!?


随分と値上げされたものだ。


ただ、いろいろと学んだ今にして思えば金貨1000枚でも安いかもしれない。


「仕事柄、珍しい魔法具を見つけるとついつい買ってしまうのだ。あの杖を質に入れたのは君?」


情報提供の張り紙を出しただけなのにそこまで言い当てられるとは。


頭の切れる人なのかもしれない。


「そうです!今どこに?将来的に金貨60枚払うので返してください!」


どう考えても有り金全て払っても足りない。だが言わざるを得ない。ママの形見だ。


ナウシズは落ち着いた声で言った。


「返せない。というか私も取り上げられてしまったのだよ。あの杖がレガリアであることを君は知っていたか?」


「一応は」


そもそもレガリアという言葉を教えてくれたのはあの杖だった。


「あれがどれほどの力を持つものか知るべきだ。君には扱いきれぬ代物だ」


さきほどからエミリーを見たところ魔術師とは到底認められぬ魔力しか持たない。


ごく一般的な受験生だ。


「分かってます。そんなことは。元の持ち主の大切な物なんです」


知らない人に、エミリーはあまり探られたくないのでぼかした言い回しをした。


ナウシズの眉がぴくりと動いた。


「ほう。元の持ち主とは?」


「先に、さっきの私の質問に答えてください。杖はどこに?」


「私の研究室にあったが金で買いたいと言われて断った。すると騎士が押しかけてきて、召し上げられてしまった。今はマインツ卿がお持ちだろうな」


摂政マインツ。杖は手の届かない彼方へ流されてしまっていたようだ。エミリーは膝が震えた。


「そ、そんな……」


身分の違うマインツには会う事すら困難である。


そもそも彼は帝都から出て行ったばかりだ。


エミリーは呆然自失でつぶやいた。


「ああそうだ。情報提供者には銀貨10枚でしたね。教えてくれてありがとうございます」


カウンターの奥のマスターは二人に帰れといわんばかりの、鋭い視線を送っている。


「銀貨の支払いは結構。杖の出所が確認出来ただけでも収穫だ。後日改めてお話をお聞かせ願いたい。お連れしたい方がいる。今日は邪魔をした」


営業が始まった。


今日は珍しくウェルターだけが来店してバーボンを呑んでいる。


客足は鈍い。出征後、酒の値段も暴騰している。


「今日はお一人さま?」


エミリーは声をかけた。


「ああ。おかわり良いかな?」


「はい。あの、ジュリアと喧嘩?」


「いいや」


「こないだ依頼って極秘なんだよね?でも話だけでも聞かせてもらえないかな」


「ん~。エミリーは口が堅いほうだったかな?」


酔っているようだ。


「それを本人の目の前にして聞くの?」


ウェルターは少し笑った。


「内緒だぞ?実はな、あの依頼はニコラ様がエミリーに依頼したようなものなんだ」


やっぱりそうだったのか。


「私買いかぶられてるよね。なんの力も無いのに」


「さあ?でもまあ。適任ではある。エリザベート様はご存じかな」


「こないだの火事で亡くなった」


マインツと反目していたという王妃である。皇子の後見人と母が争う事など珍しい事ではない。


だが限度というものがある。


「彼女は皇子を帝位に就けるまではと、摂政殿が何をしても目を瞑ってこられた」


「よく分からない。皇子ってマインツって人に護られてたんでしょ?」


ウェルターは周りを見渡してから言った。


「いつでも殺せる立場ではあった」


「まさか」


権勢欲が強いとは言われているが、帝位を奪うほどの力はないと思っていた。


「私もまさかとは思うがな。それで王妃は皇子を護るために別のプランを考えた」


「摂政とかいう偉い役を交代させるの?たとえばニコラ様とか?」


ウェルターは少し驚いた。


「妙な事を思いつくなエミリーは。だが違う。皇子が大人になるまで別の皇帝を立てて、摂政の権限を弱める」


「皇位継承者って他に誰がいるんですか?」


「先帝の妹君、ユーリ様だ。彼女は帝都民に絶大な人気を誇っていたが行方不明になっていた」


「ユーリ様?」


帝国民ではないエミリーには馴染みのない名だ。


エリザベートは女帝を擁立しようとしたということか。


「エリザベート様はユーリ様と仲が良かった。良かったからこそ……」


「それが、こないだの火事につながるの?」


ウェルターは再び周囲に注意を払った。


「酒場で言いたくなかったが。依頼と言うのは皇女の出迎えだ」


「ええっ!帝都に帰って来るの?」


「しっ。声が大きい。摂政が居なくなってガラ空きの帝都に乗り込んでくる。そのまま議会で摂政を糾弾する。そのための委任状を有力者から集められたという。とはいえ、この情報を持つのはニコラ様だけだ。極めて安全な依頼と言えよう」


エミリーは苦笑いをした。今までも安全な依頼しか受けていないつもりであったが。


今までの自分の運の悪さを考えると、ニコラだけが情報を持っているという話は間違っていそうだ。


漏れていて、何なら待ち伏せされてそうだ。


「ごめんね。私頭が悪いのか言ってる話の半分も分かってないけど、お姫様のお出迎えってこと?」


「そうだ」


「なんで私が?」


「ニコラ様いわく、ユーリ様の元には正義感を持ち、高いモラルを持った次世代の人々を集めておきたいらしい。人は染まるからとおっしゃられていたが……」


「正義感?高いモラル?そんなの無い。だから買いかぶりって言ってるんだよ……」


もう田舎に帰りたくてたまらないのに。


受験の厳しさに心が折れそうなエミリーはうつむいた。


==============


アグラットの出陣の準備は念波で各地の眷属を呼び寄せる方法だ。


集合場所も指定できるし、エミリーをモニタリングしながらでも出来る。


「なんか、エミリー様、自分の意見をしっかりと言えるようになってきてません?」


「そうだな。帝都に来た頃は泣いてばかりだったが」


剣の魔将軍は出陣しない。魔王を護るためにずっとここで待機するつもりだ。


「……子供の成長は本当に速いですね」


剣の魔将軍が思い浮かべたあの子供も立派な剣士になっていた。人間の成長は早い。


「人間の物差しでいえば、エミリーは精神的に余よりもはるかに成長してしまった気がするわ」


寂しくも頼もしくもある。


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