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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


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第51話:山道の戦い



 兄は、一直線に紗夜の首を取りに来る。


 妹は、凪から一度も視線を外さない。


 音を置き去りに兄が迫る。


 紗夜は刀の柄を握り締め、正眼に構える。


 臆するものを置き去りにした踏み込み。


 身体を反らして、刀を避ける。


 その反動のまま、拳が振り抜かれる。


 後ろに下がっていては間に合わない。


 頭を前に下げることで、空気を切り裂く音が通り過ぎる。


 紗夜と兄が交錯した。


 凪と妹の戦いも始まっている。


 弾丸のように撃ち出される水弾を凪が迎撃する。


「あは」


 間隙なく飛んでくる水弾。


 それを防ぐ凪。


 凪の表情は動かない。


 だが、風の密度がわずかに落ちる。


「早く捨てないと……終わるよ」


 妹の水弾の早さも、数も増していく。


 次第に凪の迎撃が間に合わなくなる。


 すり抜けた水弾が、紗夜の死角へと滑り込む。


「っ!」


 刀を振り抜きながら、紗夜は無理やり軌道を捻じ曲げる。


 兄は皮一枚を犠牲に、さらに踏み込む。


 距離が、消える。


「――っ」


 恐怖がない。


 ……違う。


 これは、知っている異常だ。


 ――凪と、同じ。


 刀で斬りかかる。


 避けられる。


 踏み込まれる。


 紙一重で躱す。


 でも、踏み込みが鈍る。


 殺し合いの最中、視線だけが噛み合っていた。


「まだ、壊れないの?」


 風の密度が落ちる。


 一発。


 二発。


 三発目を、落としきれない。


 その一発が紗夜に命中した。


「くっ!?」


 刀を振り下ろす態勢で崩れる。


 兄はその隙を機械的に処理する。


「がぁっ!?」


 脇腹に兄の拳がめり込む。


 押し出された空気が肺の中で爆発する感覚。


 膝が、勝手に折れる。


 そこに迫りくる蹴りを後ろに転がり、なんとか避ける。


 追撃は水弾に阻まれてこなかった。


 痛む脇腹を片手で押さえ、口に広がる鉄の味を吐き捨てる。


 距離が開く。


 視界の端で、凪が膝をついた。


 ――まずい。


 このままでは、守りきれない。


 加速する思考で状況を判断する。


 劣勢。


 このままでは、削り切られる。


 状況を変えるには……。


 痛む肺を無理やり押し開く。


「りこをどうするつもり!」


 凪の風が揺らめく。


「あの子、りこって言うんだ」


 妹は楽しそうに、攻撃を止めて水をゆらゆらと漂わせる。


「答えなさい!」


 妹を鋭く見据える。


 だが、兄からも視線は外さない。


 水が意識を持っているように、動きを止めた。


「あは!そんなの決まってる」


 球体だった水が、刃の形に歪む。


「私たちと同じで――実験動物よ」


 口は笑っているのに、目は今にも泣きそうだった。


 不意に狂気の笑顔が抜け落ちる。


「ねぇ」


 その声は、無感情。 


「どこまで壊れると思う?」


 目だけが、泣いていた。


「――どこまで、壊されると思う?」





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