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8 婚約者(シアルトside)

 その日は魔塔での研究中、僕は急に父上から呼び出されて、驚きながら王都の屋敷に瞬間移動した。


 ーーもしや家族に何かあったのか?そうでなければ緊急の連絡など、今まで一度もされたことがない。


 そう思い焦りながら屋敷に着くと、父上が普段と変わらない様子で僕を待っていた。


「おお、シアルト、随分と早かったな」

「父上、どうされたのですか」

「うん、とりあえず落ち着け。そんな大事ではないんだ。ただ今日はお前に、シャールトン公爵のところの令嬢を紹介しようと思ってだな」

「……は?」


 ……嫌な予感がする。まさか…


「お前の婚約者としてだ」


 父上はにんまり人の悪い笑みを浮かべてそう言った。


「…了承しかねます。では」


 すぐさま断ると、僕は踵を返す。


「お、おい、待て。シアルト、このまま婚約者をつくらなくていいとでも思ってるのか!?」


 その言葉につい、足が止まる。


「お前は、早ければ早いほどいいだろう。…まだ婚約が決まったわけじゃない。とりあえず顔合わせだけだ。それにこれは、向こうからきた話なんだぞ。ほら、シャールトンの現当主は私の学園時代からの親友だと前に話しただろう?どうもあいつは娘に過保護すぎるようでだな…」

「……そんなの、余計にだめじゃないですか」

「おい、いいから話を聞け。もうあと半刻もしないうちにチャールズが来るんだ。……これは公爵家同士の付き合いでもある。お前には長男の義務として、なんとしてでも行ってもらうからな」


 ……これは厄介なことになったな。断ると、それはそれで面倒なのが目に見えている。


「……わかりました。顔を出せば、それでいいんですよね」

「ああ、愛想良くな!」




 ーー父上が僕に婚約者を早くつくらせようとするのもわからなくはない。それだけ、僕のことを心配してくれているのだ。

 

 僕は歴代、優秀な魔法師を数多く排出してきたウィルフォード公爵家の中でも、圧倒的な魔力量を持ってこの世に生まれた。

 そしてそれは成長するにつれて増すばかり。いつのまにか、帝国一と言われるほどになっていった。


 だがそれはつまり僕にとって、魔力過多の症状に悩まされる地獄の日々を意味していた。

 魔法をどれだけ使えども、湧いてくる魔力が体内を蝕む。常に頭痛と吐き気がして、普通に暮らすのも困難だった。


 このいわば魔力過多症はその症例の少なさから治療法もなく、手掛かりとなる文献さえほとんど見当たらない。両親は公爵家の権力で帝国内外から医者や魔法師などの専門家を呼んでくれたが、徒労に終わる日々が続いた。


 そんな中僕が10歳になって、ある程度この世にある全ての魔法を習得してしまった頃、自分自身でなんとか魔力過多を抑えるための回路をつくり、その魔法陣を体に組み込むことに成功した。

 これのおかげで随分症状は軽くなったが、とはいえ魔力の通る回路をただ置き換えているにすぎない。頭にはいつも霧がかかっているようで、体調がいいときなんてない。


 そのせいで僕の精神は常に不安定で、苛立つことも多い。もともとの性格も相待って、基本的に他人に興味もなく、僕はいつも無表情で無愛想だ。こんな状態では、公爵家を継げるわけがない。僕は早々、家督を次男のイヴァンに譲ることにした。


 そして僕が閨教育を受ける年頃になって、魔力過多に対する、あるひとつの大きな解決策が見つかった。

 魔力は、体液を通じて中和することができる。


 つまり、そういった行為をすることで、僕の多すぎる魔力をいわば無効化できるのである。


 だがそれにはふたつ、条件があった。


 まず、双方の魔力量が同じくらいであること。もし相手が少なすぎた場合、僕の魔力に当てられて、魔力中毒を起こしてしまうからだ。

 つぎに、お互いの魔力の相性がいいこと。相性が悪いと、魔力が反発して暴走してしまうらしい。

 つまり、相手によっては命に関わる危険になりかねないのである。


 最善の解決策が見つかったところで、それは全く役に立たなかった。

 だから両親も、わかってはいただろうに、僕にこのことを伝えなかったのだろう。そもそもこの世に、僕と釣り合うほど魔力量の多い人など存在しないからだ。


 とはいえ両親はそれで諦めたわけでは全くなく、半ばこちらの意見にお構いなしに、僕の婚約者探しに必死になっていた。

 もしそんな理想的な女性がいたなら、ふさわしい時期が来たらすぐにことーーつまりそういった行為に移れるように。


 だが僕自身はそんなことはとっくに諦めていて、体に組み込んだ魔法陣の改良に全力を注いでいるのだが…。


 そうして僕は、これから起こることなど考えもせず、やれやれ、面倒ごとが増えたと頭をかいた。

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