9.野盗の襲来
港町を出て、ユーリ達は隣町を目指した。
トーマスに、旅をして、腕を磨こうと言われたからだ。
確かに、勇者に目覚めていないし、腕も未熟。
あの店の毒もあの大男がいなければ、避けられなかった。
出来れば、体内の毒を浄化できるぐらい、浄化魔法を強くしたい。
ピロリーン
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メインクエスト
野盗から町を守れ
報酬:名声値200、ラッキー値100
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え?もう?少し休みたいとのユーリの心の声は叶わない。
「今夜は隣町に泊まろう。路銀は余裕があるし、ゆっくり休むといいね。それとも、家を借りて、しばらくこの辺りで魔物を倒してもいいな。どうするユーリ。」
「あ、ごめん。ぼっとしていて。そうだね。とりあえず、宿にしよう。」
「分かった。」
少し残念そうだが、我慢して欲しい。二人で家を借りるなんて、新婚みたいじゃない。それは、ちょっとね。
トーマスは好きだけど、まだ、早いと言うか……。
頭の中に彼とのキスが浮かび、慌てて妄想を消した。
黒馬の男とすれ違った。ついさっきは芦毛の馬。すれ違う馬に乗った男が気になった。ユーリは、それを小さな声でトーマスに伝える。
「ねぇ気がついた?今の馬の男。」
「何?」
「あの男の手首の刺青、さっきすれ違った男と一緒だった。」
「嫌な感じがするね。」
「もしかして。」
この辺りで有名になっている野盗団が居る。彼らは体に同じ刺青をしているらしい。
ドクロに狼の印。
「町に知らせに行かなきゃ。」
「あの大男、連れてくれば良かった。ごめんね、ユーリ。」
「私も同じ意見だったんだから、謝らないで。」
「でも、もう日が暮れる。町に警備隊がいればいいんだけど……。」
「とにかく、行こう。」
馬に鞭を入れて駆け出すが、目の前に騎馬の男達が立ちはだかった。
「お嬢ちゃん達、そんなに急いでどこに行くのかなぁ?」
前に3騎、後ろにも3騎。
「もう日が暮れるから、町に急いでいるの。どいてよ!」
「どいてよ。だってさ。へへっ。どけねぇなぁ。」
「俺らと遊んでくれよ。」
こいつら、こっちが子どもだと思って。
「ユーリ、火を。」
「分かった。」
剣を抜いて、火を纏わせる。
「おやぁ、お嬢ちゃん、やるじゃないか。」
「おや、怖い怖い。今どきの子は怖いねぇ。お仕置が必要かなぁ。」
「ユーリ、行くよ!」
「うん。」
両手に持った剣を思いっきり振り抜く。剣に纏った炎が、トーマスの風に煽られて、炎の風となって男達を襲った。
驚いた馬が立ち上がり、男達をふるい落とす。
開いた道に大急ぎで馬を進め、トーマスの風魔法を馬にかけ、全速力で駆ける。
「追え!」
「殺せ!!」
最近覚えた雷魔法を背後の馬に落とす。ピシャン!と言う音と共に、光が走る。
町まではあと少し。見えた!
「野盗が来る!門を閉めろ!!」
門番が大急ぎで門を締め、警備隊が櫓の上で、弓を構える。ユーリとトーマスも彼らに加わった。
ゆっくりと近づく騎馬の男に目がいく。右目に刀傷のある男。間違いない。牙狼族の頭領。
「伏せて!」
トーマスの声に全員が身を伏せる。伏せ損なった数人が、櫓から吹き飛ばされた。風魔法。強すぎて、ユーリの火魔法はかえって味方を傷つけてしまう。
門の扉は丈夫だが、ギシギシと怖い音をたてていて、もうそんなに持ちそうにない。
「それぐらいにしておけ。」
低い声が門の外から聞こえる。この声は彼の。
「また邪魔が出やがった。」
櫓の上から少しだけ顔を出せば、やはり剣聖。
牙狼族の頭領の風魔法をいとも容易く、盾だけで防いでいる。
「凄い。」
隣でトーマスも顔を出していた。
「牙狼族だよな。それなら討伐しても構わないわけだ。」
「ふざけんなよ。」
「俺はいつでも大真面目だ。」
「もしかして、お前、剣聖のジハードか?」
「よくわかったな。」
ジハードは剣を抜いた。大剣を片手で握る。全身から立ち上る覇気に、腰を抜かす野盗達。
ジハードが無造作に剣を振り回すだけで、牙狼族が倒れていった。頭領一人になるのに、ほとんど時間がかかっていない。別格の強さだ。
「あとは、お前だけだな。」
「くっ。」
頭領は、砂を巻き上げるように風魔法を放ち、部下を盾にして、地面に落ちている剣をジハードに向かって投げつけた。
しかし、ジハードの一撃は、巻あがった土煙を押し戻し、飛んでくる剣を跳ね返し、盾になっている部下共々、頭領の首を切り飛ばした。
「人間離れしてるな。」
「うん。」
お互いに声が震えている。ジハードの強さは桁違いだ。彼から逃げられるなんてありえない。
青ざめて見下ろすユーリ達に目を向けると、ジハードが声をかけた。
「おい、ガキども、町を離れるなら一言言ってからにしろ。探しただろうが。」
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クエスト達成
剣聖ジハードが仲間になりました。
ジハードの助けを受けて町を救いました。
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あ、あのクエスト、まだ続いていたんだ。