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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
9/90

夜が明けて

御読み頂きありがとうございます。

ここから第一章「獅子騎士編」です。

どうぞよろしくお願い致します。

 燦々と降り注ぐ朝日の中、一人の男が眠っていた。

 名をクロノという。


 クロノが眠っている場所は森の中であったが草木は一本も生えていない。

 そこは確かに『裁きの大森林』の中心より少し海辺に近いところであったが、何故かその場所を始点として真っすぐに海まで草木の生えないむき出しの大地が続いていた。




 「……むうぅ。」

 うららかな太陽の日差しを浴びて徐々にクロノの意識が浮上していく。

 寝返りを打ち、頭の下にある温かく柔らかい感触に頬ずりをするとその柔らかい何かが一瞬震えたような気がしたが覚醒しきっていないクロノは気にしない。




 半覚醒の意識の中、クロノは思考する。

 あったかいなぁ。起きたくないでござる。ちゃんと寝たのなんか何日ぶりだろう?

 最後に寝たのが『ワールドクロニクル』にログインする前だから……何日だ?

 いろいろあったから覚えてないな。告って振られるわ、転生したら森の中だわ、モンスターに追いかけ回されるわ、ダリアに会うわ、アルレシャは龍になってビーム出すわでほんといろいろ……。

 そういえば俺、吸血鬼になったんだっけか。レア種族でステ高いのはいいんだけど特性がなー。

 まあ何とかなるだろ。てきとー。あー考えるのもめんどくさい。ずっと寝てたい。

 こんなに天気がいいんだから寝坊しても許される。うん。問題ない。

 ほんとぽかぽか日和で……。




 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!溶ける溶ける溶ける!!!灰になって土に還るぅぅぅぅぅ!!!死因が寝坊とかマジ笑えないから!!!問題ありまくりだから!!!」




 がばっと体を起こし、立ち上がったクロノは滑り込むように木陰へと駆け込んだ。




 「ってあれ?全然溶けてない?むしろ元気ハツラツなんですけど。」



 クロノは体のあちこちを隈なく確認するもおかしなところは一つもない。

 俺、確かに『吸血鬼(ヴァンパイア)』になったよな?あれ?夢オチ?



 クロノは木陰から日向にさっと手を出し入れしてみるが痛みもなければ手が灰になるようなこともない。



 「ゲームの時とは違うのか?」

 余談だがクロノは既にこの世界を現実であると思っている。数日間の苦境の中で死にかけ、何回も激痛に呻いたことを考えればクロノはこの世界を現実であると認識するほかなかった。ゲームの世界に飛び込んだのかゲームにそっくりな異世界に迷い込んだのかそれは分からないがとにかくこの世界で生き残ることを考えようと自分を納得させたのである。




 「……むむむむ。」

 クロノは難しい顔押して腕を組む。




 『ワールドクロニクル』での『吸血鬼(ヴァンパイア)』は転生かダリアイベントのどちらかによってなることが出来たが、ステータスの上昇値に多少の差異こそあれ『種族特性』に違いはなかったはずだ。


 『吸血鬼(ヴァンパイア)』の『種族特性』は主に四つ。

 夜になるとステータスが上昇する『月の加護』、各種状態異常を無効とする『不死者の憂鬱』、聖属性を持つ攻撃による被ダメ増大・教会などの一部施設への侵入が不可となる『聖性拒絶』、そして日光を浴びることで大幅なステータスダウン、特殊状態異常である衰弱付与による継続ダメージを受ける『血の呪縛』である。

 しかし見たところ『血の呪縛』の効果は表れていない。




 ――どういうことだ?




 「あのっ……。」

 首を傾げるクロノに戸惑ったような声がかかった。


 声の方をに目を向けるといままでクロノが眠っていた辺りに一人の少女が座っていた。

 少女は踊り子に似た恰好をしており、ビキニの様な上下に天女の様な羽衣、水色や青、群青など海で翼を形作ったかのように折り重なった薄い腰布を左右から垂らしている。身に着けている装飾品にも同じ色の羽根飾りが施され、少女のショートボブの青髪と相まってまるでその姿は水精霊のようであった。




 「……ほわっ?」

 少女に見惚れて変な声が出たクロノは慌ててげふんげふんと咳をして誤魔化した。



 「だいじょうぶですか?お体のほうはもうよろしいのでしょうか?」

 青い髪の少女は心配そうにクロノを見つめてくる。その上目遣いにどきりとさせられてしまったクロノであったがいそいそと少女の正面まで来ると少女同様に地面に座った。




 「もしかして助けて頂いたのでしょうか?」

 「いえいえ。よくお眠りになられていたのでとくになにもしておりません。ただ硬い地面では寝づらいと思いまして膝枕を……。」

 「――ッ!」

 クロノは少女の返答に息をのみ、絶句した。




 こんな可愛い子に膝枕だと!?しかもこの少女の恰好!しかも寝ているとき柔らかい何かに頬ずりしたような!!?

 クロノは少し前のことを思い出し咄嗟に鼻を摘まんで天を仰いだ。





 「ど、どうかなさいましたか!?やはりなにかまずいことでも!?」

 「ひぃや、だいひょうぶでふ。」

 クロノは天を仰ぎながら答える。

 少女に欲情して鼻血が出そうなどといえるはずもない。





 「はっ!まさかお体を冷やされて風邪でもひかれたのでは!?」

 そんなこととも知らず少女は顔を青くすると立ち上がり、天を仰ぐクロノの額に自分の額を当て熱がないか確かめ始める。



 「ひょ!?ひょれは……!!」

 健全な男子であるところのクロノに可愛い女の子にそんなことをされて平然と心を保っていられるはずもなく……。

 少女の行動に顔を真っ赤にしたクロノはついに耐え切れず目をくるくると回し倒れた。



 「あぁ!!そんな血が!?……ひ、【回復(ヒール)】!!」

 倒れ込んだクロノに一層顔を青くした少女は慌てて【回復(ヒール)】をかけるのだった。








 「それでは気を取り直して……。」

 少女の【回復(ヒール)】を受け、鼻血の止まったノインは改めて話を始める。



 向かいあったクロノと少女は何故か二人とも正座をしている。



 「あの、本当にだいじょうぶでしょうか?まだお顔が赤いまm……。」

 「いえ、大丈夫です。何も問題ありません。」

 心配そうにしながら再び立ち上がろうとする少女を食い気味で制してクロノは話を続ける。

 少女はまだ気になるようであったがクロノに言われると諦めて再び正座した。




 「とりあえず……俺はクロノといいます。あなたのお名前をお伺いしてもいいでしょうか。」

 少女は一瞬ぽかんとしたかと思うと見る見るうちに顔が曇り、涙目になった。



 「うぅ……わたしのことをお忘れですか?」

 えぇっ!?なんか地雷踏んだ!?誰!?こんな可愛い子まったく記憶にないんですけど!?

 少女は目尻に涙を溜めて悲しそうな表情でクロノを見つめた。




 「うぅぅ……ア、アルレシャですぅ……あなた様の忠実な僕、アルレシャですよぅ……。」

 「うぇッ!?まじで!?」

 アルレシャ!?確かに起きた時、いつもクロノについて宙を泳いでいる筈のアルレシャの姿が見えなかったのは事実だ。しかしこの美少女がアルレシャだって?

 クロノは目を擦ってもう一度少女を見る。

 

 ――うん。美少女だ。見紛う事なき美少女だ。



 「あのー俺の知っているアルレシャはもっとこう魚魚しい感じだったと思うんだけど……。」

 クロノの言葉にアルレシャを名乗る少女ははっとした様子で説明をしだした。




 「あっ!人の姿であったから分からなかったのですね!実は主様(マスター)の力の高まりによってわたしも成長したようで人の姿をとれるようになったのです!」

 アルレシャは嬉しそうにクロノに向かってそう話す。



 ――レベルの上昇で人化が可能となったということか?

 クロノは『転生の書』を取り出しログを確認する。




 ――【アルレシャ】が特定条件を満たし、【半人化】を習得しました。

  【半人化】が【書庫(アーカイブ)】へ登録されます。




 特定条件というのが気になるがどうやら話は本当のようだ。




 それが分かってから見てみると体のあちこちの装飾はアルレシャの特徴を上手くデフォルメしているように見えるし、何より髪飾りの装飾だと思っていた青い羽根の様なひらひらは耳が発達したもののようである。




 「なるほど。確かにアルレシャのようだ。」

 「はい!あなた様の第一の僕、アルレシャです!」

 クロノとアルレシャはいつもお世話になっております、いえいえこちらこそなどと地面に手をつき合って挨拶する。




 「しかし正直何が何やら分からないことが多すぎる。お前の分かる範囲でいいから説明してもらえないか?」

 クロノはアルレシャに向かって問いかける。

 アルレシャはそうですね、というと話し始めた。




 「オークキングの攻撃を受け、意識を飛ばしたわたしですが主様が吸血鬼の方に咬みつかれた辺りで実はうっすら意識を取り戻していたのです。そのとき主様の体に変化が起こり、同様に自分にも変化がおこったのです。」

 アルレシャは思い出すように言葉を紡ぐ。アルレシャのいう変化とはおそらくクロノの吸血鬼化であろう。ゲーム通りだとしたら現在クロノの髪が白銀に変化し、瞳は赤く染まっているはずだ。




 「アルレシャ。俺の目は赤くなっているか?」

 「はい。とても鮮やかな赤色です。髪も前の黒髪も凛々しくてよかったですが今の銀髪も超然としてかっこいいです!!それにn――。」

 アルレシャが赤く頬を染めながら鼻息荒く熱弁する。アルレシャの賛辞で背中が痒い。

 長くなりそうだったので先を促す。



 こほんと気恥ずかしそうに姿勢を正すとアルレシャは話の続きをし始めた。



 「そこでわたしはこれでもう一度主様(マスター)のお役に立てると自分に【回復(ヒール)】をしようとしたのですが、吸血鬼の方が主様に手を翳した瞬間何かしらの契約が結ばれ、一気に魔力が流れ込んで来たのでそれを制御するので手一杯でそれどころではなくなり……。」

 アルレシャは申し訳なさそうに身を竦める。



 しかしクロノにはアルレシャのいった言葉の方が重要であった。



 「待て待て待て!契約?なんだそれは!」

 あの時ダリアは何と言ったか、確か『対価は貰うぞ。』だったはずだ。間違いない。

 しかしイベントの吸血鬼化が契約だったとしてなぜあれほど魔力が増幅された説明がつかない。

 吸血鬼化してステータスが上昇したとしてもあんな大魔法をぶっ放せるほどクロノもアルレシャもMPはない。



 「はい。契約の内容はわたしにはわかりかねますがおそらくそちらのアイテムが契約の楔となっているようです。」

 アルレシャはそう言うとクロノの手を差した。




 「それ?」

 クロノは差された自分の左手を見る。

 その薬指には金文字で細工された銀色の指輪が……。




 「うおおおおおおおおお!!!『永久の指輪リング・オブ・エターナル』じゃねえか!!なんで!?ほわい!?」

 ついぞ相手に渡されることのなかった『永久の指輪リング・オブ・エターナル』がクロノの指に嵌っている。



 考えろ!いま自分の指に『永久の指輪リング・オブ・エターナル』が嵌っている事実、吸血鬼化イベント、契約、増大した魔力。




 そこから導き出される結論は――――。




 あれ?俺、ダリアと『永久の指輪リング・オブ・エターナル』で結ばれてね?




 おそるおそる『永久の指輪リング・オブ・エターナル』に施されている神言語で彫られた金文字を見る。





 『クロノ×ダリア・S・ブラッディバレンタイン』





 「のおおおおおおおおおおおおお!!がっつり結ばれてる!!」



 『永久の指輪リング・オブ・エターナル』はある意味呪いのアイテムと言ってもいい。破壊不可・装備変更無効のアイテムだからだ。

 そして手渡した瞬間にその効果を発動する。



 このことから相手に効果知らせずに指輪を渡す『結婚詐欺』、『ワールドクロニクル』で認められている【略奪(スティール)】系スキルによる事故的な指輪の取得、通称『略奪婚』など一部のプレイヤーから仕様変更の要請があったのは事実だ。



 しかし運営は個別の対応はしたものの大幅な修正は行っていなかった。まさか運営の怠慢の皺寄せが自分に来るとは……。




 今回はおそらくイベントのアイテム消失、つまりダリアによる対価の回収によって『永久の指輪リング・オブ・エターナル』の所有がダリアに移り、それが『永久の指輪リング・オブ・エターナル』を手渡したと判断されたのだろう。



 

 うん。今更だけどこんなアイテム相手が渡して来たら引くよね。ドン引きも納得だ。





 「主様(マスター)なにかわかったのですか?」

 アルレシャが真剣な表情で問いかけてくる。




 「あぁ、えぇと、どうやらダリア……あの吸血鬼ことだけど……と魂的に結びついてしまったというか……。」

 クロノはなんと説明していいか窮してそう答えた。




 「魂の結びつき……。ではわたしと一緒ですね!?ということはダリアさんは主様(マスター)の第二の僕ということですね!?」

 「えぇ!?どうしてそうなったの!?」

 アルレシャが嬉しそうに妹分が出来たと喜んでいたのでクロノは詳しく説明するのを諦めた。




アルレシャには天然魚介系ヒロインとして今後頑張ってもらいたいと思っています。

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