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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
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街を目指して

 とりあえず浮かれているアルレシャは放っておこう。



 『永久の指輪リング・オブ・エターナル』の能力は相手のステータスの一割を自分に付与するというものである。

 ダリアの性能はステータス平均十万超というもの。付与は一万超となる。これはカンストキャラクターのフル装備のステータスに比肩しうる。



 しかし昨夜アルレシャが放った一撃は明らかにレイドボス級の本気の一撃に相当する威力だった。

 つまりはステータス十万級の攻撃である。こうなると計算が合わない。




 「ふむ。不思議だ。明らかに予想の十倍以上の威力なんて……。」




 ――ん?なんか引っかかるぞ?



 十倍?もし付与されたステータスが本当に十万ほどだったとしたらどうだろうか。

 ならばダリアのステータスはどうなる?ステータス平均百万以上だ。



 それこそレイドボスを越えて超級レイドボス並みのステータスである。

 通常はありえない、



 しかしこのことで一つ思い出されることがある。




 『黄昏の扉事件』だ。




 あの時運営はなんといっていただろうか?

 そう『ダリアは神の怒りより呪いを受け、弱体化しました。神の祝福は失われました。』ではなかったか?

 そして『永久の指輪リング・オブ・エターナル』の解説文。

 『このアイテムを持つものは神の祝福を受け、永遠に一つとなる。』




 つまり神の呪いにより失われた神の祝福が『永久の指輪リング・オブ・エターナル』によって再び与えられ、ダリアが元の力を取り戻したのだとしたら?





……………………。






…………これはとんでもないものを世に解き放ってしまったのではあるまいか。






 クロノの背筋に冷たいものが伝う。どうしよう。




 「そういえばダリアはどうしたんだ?」

 力を取り戻し、そのまま去っていったのだろうか?

 クロノは何気なくつぶやいたがアルレシャがそれに反応した。




 「ダリアさんならちょうどわたしが目を覚ましたときに去っていかれましたよ。そうそう伝言を頼まれていたのでした。『いまはまだそのときではない。時が来たら再び見えよう。』だそうです。そういえばダリアさんが愛おしそうに主様(マスター)を撫でていたのはダリアさんも主様(マスター)の僕になったからだったのですね。」

 うんうんと勝手に納得しているアルレシャ。

 ダリアが自分を撫でていただと!とまた鼻の奥が熱くなったクロノであったがいま重要なのはそこではない。




 「しかし『まだそのときではない』か……。」

 どういうことか分からないがいつか再び自分の前に現れるということである。

 また会いに来ると言っているならこれ以上は考えても仕方ないか……。





 クロノは思考を放棄し、勢いよく立ち上がった。

 この世界が現実だとしたらこれから生きるためにすることは山ほどある。こんなところで立ち止まってはいられないのだ。



 

 「とりあえずいつまでもここにいるわけにもいかない。まずは近くの街まで行こう。」

 「はいっ!」

 そういうとクロノはアルレシャに手を差し出す。

 アルレシャは嬉しそうに手を取って返事をする。






 ここに星使魔導士(アストラル)クロノとその星獣アルレシャとの旅が始まったのだった――。









 ――始まったのだがしかし……。





 「……ここどこだ?」

 クロノは何度目かになる愚痴を呟く。



 クロノ達は海沿いに『試練の大森林』を抜け、東を目指していた。

 『ワールドクロニクル』は菱形をした『ファンタジア大陸』を舞台としたゲームであり、北方が険しい山脈で囲まれた魔王の統べる『魔族領』、東方が魔法学園を要する魔術国家『ファルシア王国』、南方が科学技術に特化した『カルスタン帝国』、西方が商業国家アルカス、獣人国家ヴォルク、ドワーフの国ガンテスなどを含む西方国家連合体『エルクニア連合』、中央が世界樹の森を中心とした妖精族・エルフの国『セントラル王国』で構成されている。



 いまクロノたちが向かっているのは獣人国家『ヴォルク』ある。『ヴォルク』は『エルクニア連合』の最南端に位置し、『カルスタン帝国』・『セントラル王国』と接する中規模国家だ。



 クロノの知識に従えば海沿いに南へと森を抜け、東に進めば小さな村が存在したはずだった。

 しかしその村があった場所は何もなく、人の影すらもなかった。



 そのためクロノ達は森に生えていた果物で飢えを凌ぎながら途中見つけた街道を進んでいたのである。




  「街道があるということは人の行き来があるということです。このまま進めば遠からず街に辿り着けます。もう少しのしんぼうですよ!主様(マスター)!」

アルレシャが健気にも慰めてくれる。



 本当にアルレシャには感謝するばかりだ。自分一人なら今頃どうなっていたことか。

 そう思いアルレシャの頭を撫でてやるとアルレシャは嬉しそうに目を細めた。





 ちなみに現在クロノは装備を変更している。

 アルレシャが『空間潜行』で『倉庫』に接続できたのには驚いた。



 アルレシャも何故かはわからないがやってみたら出来たということだ。アルレシャの天才ぶりに頭が下がるばかりである。




 装備を変更した理由は簡単で、もともと戦士職であったクロノには剣で戦う方が慣れていたからだ。

魔法も魔法剣を装備すれば問題なく使えた。



 そんな訳でクロノは初期装備のローブの下に防御性能の高い服とナイフを二本、そしてショートソードほどの長さの魔法剣を装備していた。

 クロノが転生前に使用していたものなので性能もかなり高い。

 この装備が取り出せたのは本当に僥倖であったろう。




 魔法といえばアルレシャはダリアの影響を受けたのかかなり頭がいい。クロノよりも一つどころか三つも四つも上等ではないかと思うほどだ。

 アルレシャはオーガキング戦でのように自分で『創造術式(クリエイト)』を構築し、行使してしまっている。


 アルレシャからその話を聞き驚愕したクロノだったが、『空間潜行』による『倉庫』への接続同様なんかやってみたらできました、とあっけらかんと笑うアルレシャを見てクロノは早々に理解することを諦めた。




 ただアルレシャの構築した『創造術式(クリエイト)』は『書庫(アーカイブ)』に登録されているようで一部はクロノにも行使可能であったため、今後の魔法開発にはアルレシャを頼ることになるだろう。




 「そうだ、アルレシャ。今度から【星神回帰アストラル・リグレッション】と大規模殲滅魔法は禁止な。」

 「えぇ!?」

 アルレシャが悲しそうな声を上げる。

 頭が良くなっても天然なのは治らないらしい。





 「アルレシャ……。あんなの不意に使ったら間違って街が一つ消えてもおかしくない。相手に合った適切な魔法を使うように!」

 クロノは溜息を吐きながら厳命する。

 アルレシャの方はせっかく主様のお力になれると思いましたのに……、としゅんとしていた。







 「――きゃぁぁぁぁ!!!」

 そんなやり取りをしながらしばらく街道を二人で歩いていると不意に悲鳴が聞こえた。

 悲鳴が聞こえた街道の先に目を凝らすと人がモンスターに襲われているのが見える。




 第一村人である。とりあえず助けたほうがいいだろう。




 「アルレシャ!助けに入るぞ!」

 「はいっ!」

 そういうが早いかクロノとアルレシャはモンスターに襲われるその人影に向かって駆け出した――。










 ――――。

 モンスターはフォレストウルフで数は三十程度だった。

 クロノやアルレシャにとってはなんてことはなかったが一般人が一人で相手にするには脅威だろう。



 アルレシャは先程の言葉を守って低級の魔法しか使っていない。

 後で褒めてやらないとな。



 クロノは残ったフォレストウルフが逃げていくのを確認して後ろを振り返った。




 「あの……。助けてくれてありがとう。」

 フォレストウルフに襲われていたのはいかにも冒険者というような風体をした少女だった。

しかし何故かその右手だけ騎士のものであるかのような紅の立派な籠手をつけており、それが冒険者の服装とミスマッチで酷く際立っている。

 獣人族であるらしく、短い天然パーマの掛かった赤髪からぴょこんと猫耳が覗いており、しっぽはゆらゆらと不安げに揺れていた。おそらく人に勝気な印象を与えるだろう吊り目で整った容姿も今は申し訳なさそうに俯かせている。



 「なんてことないさ。それより怪我はないか?」

 「大丈夫。一応これでも冒険者だから。」

 怪我を案じるクロノに赤髪の少女は気を取り直して胸を張り答えた。慎ましやかな胸をどうだとばかりに張る姿が何とも微笑ましい。

 しっぽもへなへなとなっていたのが一変して自らを誇示するかのようにぴーんと立っている。




 「私はルトナ。ルトナ・オールホワイトよ。冒険者をしているわ。あなたたちは?さっきの戦闘からみるとかなりの腕利きみたいだけど……。」

 「俺はクロノ。同じく旅の途中。んでこっちが……。」

 「はいっ!アルレシャと言います!主様(マスター)の従者をしています!」

 これはアルレシャと打ち合わせていた設定だ。『ワールドクロニクル』でも人化できる召喚獣などいなかった。そのため悪目立ちしない様に主と従者ということにしている。まあアルレシャが主様(マスター)と呼ぶのを止めさせられなかったというのもあるが……。



 「従者ね……。もしかして貴族のお坊ちゃん?」

 「いや従者と言ってもお目付け役みたいなものだよ。と言っても里から出てきたからどちらも世情には詳しくないんだけどね。」

 貴族と詐称した、などといわれてはいけないのでとりあえず誤魔化しておく。

 ルトナも貴族かと警戒している様子だったし、このほうがいいだろう。



 「そうなの。それにしても吸血鬼族と人魚族の組み合わせなんて珍しいわね。人魚族はまだしも吸血鬼族なんて初めて見たわ。」

 ああ、そういえば吸血鬼族は聖魔法に対する弱性や教会などへの侵入不可から邪悪な存在として教会から迫害を受けて多くは人里離れた場所に隠れ住んでいるという設定があったな。

 これはあまり人に知られない方がいいかもな。




 「お伽噺の吸血鬼は日の光に弱いなんて言うけど結局お伽噺はお伽噺ということかしらね。」

 まあ日光に弱いのは事実なんだけど……。それは言わないでおこう。なぜ自分に『血の呪縛』の効果が表れないのかは分からないがデメリットではないのでとりあえずおいておこう。



 「まあお伽噺だからね。そういえばここから先にいけば街があるのかな?実を言うと迷ってしまってここが何処か分からないんだ。」

 適当に流して本題を切り出す。街がここから遠ければまた野宿生活だ。




 「行き当たりばったりね。ちょっとあなたたちのことが不安になったわ……。街はここから半刻ほどの所にあるわ。『カルスタン帝国属国領ヴォルク』の『ミスタン』という街よ。」

 「…………はい?」



 溜息を吐きながらルトナは答えたがクロノはその言葉に目を丸くしたのであった。




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