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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
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冒険者ギルド

間違いがあったので訂正しました。

ヴォルクの属国領化は百年前ではなく、四百年前です。

申し訳ありません。

 「『ヴォルク』が『カルスタン帝国』の属国領だって!?」

 クロノは驚きながらルトナに問い返した。


 「そうよ?もう四百年も前から『ヴォルク』は帝国属国領だって決まってるじゃない。何を言ってるの?」

 ルトナは怪訝な表情でクロノを見る。



 いやいや何を言ってるんだ。『ワールドクロニクル』では獣人国家『ヴォルク』は確かに存在していた。

 それが四百年前から『カルスタン帝国』の属国領だと?

 何の冗談だ?



 「く、詳しく説明してくれ。」

 クロノは混乱する考えをまとめようと続きを促す。


 「はあ?だから『ヴォルク』は約四百前、聖暦三六〇〇年頃にカルスタン帝国に取り込まれて以来ずっと帝国属国領じゃない。子供でも知ってることよ?まさか知らなかったの?」

 クロノは今度こそ唖然とした。

 クロノがプレイしていた『ワールドクロニクル』の世界は聖暦三五〇〇年のファンタジア大陸を舞台としていた。聖暦三六〇〇年が四百年前と言えば今は聖暦四〇〇〇年頃となる。



 「……ちなみに今、聖暦何年だっけ?」

 「……聖暦三九九八年よ。ほんとに知らなかったのね……。どんだけ田舎で暮らしてたの?」

 ルトナは呆れたように言うと再び溜息をした。

 しかしクロノにとってみれば笑い事ではない。ダリアが平然と存在していたことからとんでもない勘違いをしていた。まさか『ワールドクロニクル』の時代から五百年も時間が経過しているとは……。



 これの意味するところそれはクロノの持ち得た『ワールドクロニクル』の知識が役に立たないかもしれないということだ。


 「ちょっと大丈夫?青い顔をしてるわよ?」

 ルトナが心配そうな表情で覗きこんでくる。アルレシャもクロノの様子を気にして不安げにしている。



 「だ、大丈夫。ちょっと情報の違いに混乱していただけだから……。」

 「まあ人里離れて何百年も暮らしてたのには驚いたけど吸血鬼族みたいに人と関わらずに生きてきたならそれも仕方ないのかもね。大丈夫!分からないことは私が教えてあげるわ!」

 ふんすっと鼻息を荒げて使命感に満ちた瞳で胸を張るルトナにクロノはついつい苦笑してしまった。



 「そうだね。もしも困ったことがあったらルトナを頼ることにするよ。」

 「そうそう。私に任せなさい!その様子だと旅に出てからそんなに経ってないんでしょ?とりあえず街までいきましょう。助けて貰ったお礼に私が案内してあげるわ。」

 意気揚々と張り切るルトナに連れられ、クロノ達は一路『ミスタン』へと向かうのだった。






 ――『ミスタン』の街は城壁に囲まれた中規模な街だった。

 ルトナによると海沿いに『カルスタン帝国』本国から抜ける時の中継地点となっているとのことで商人などの出入りも多く、活気がある。

 街には様々な種類の獣人達が揃い踏みしている。

 犬耳、猫耳、狐しっぽ、リスしっぽ、牛角、ロバ耳、蛇の鱗にウサ耳、あれはタヌキ耳だろうか?

 一日見ていても飽きないバリエーションである。もともと獣人国家であったことの名残であろう。



 街の中には問題なく入れた。

 クロノが吸血鬼族であることを咎められるかと思ったが特に何もなかった。吸血鬼族に対する悪感情の原因は教会の古い教義によるもので敬虔な信者ならともかく今の時代そんなことを問題とする人はいないとのことだ。


 むしろ門番からは物珍し気に見られ、興味津々といった様子で質問をされたので正直誤魔化すのに苦労したくらいだ。



 「さて、先に用事をすませてもいいかしら?」

 街に入ったところでルトナが振り返り、クロノ達に訪ねてくる。

 ぴこぴこと動く猫耳が愛らしい。



 「俺たちに特に用事はないから大丈夫だよ。どこにいくの?」

 「冒険者ギルドよ。フォレストウルフの討伐依頼の完了報告をしようと思って。」

 そういえばルトナは『ミスタン』を拠点としている冒険者だった。街道にも討伐依頼のために出てきていたのだろう。

 確かにフォレストウルフの死体などもアイテム袋を使って回収していたな、などとクロノは思い出す。



 ルトナが冒険者ギルドに行くならばクロノ達も冒険者ギルドに登録をしてもいい。

 どうせ旅をすることになるのだから冒険者の方だった都合がいいし、都市に入るのに煩雑な手続きをしなくていいというのも大きいからだ。身分証明がないというのは何とも心許ない。

 クロノは一応ギルドカードを持っているが五百年前のギルドカードなど出して下手に騒ぎになるのも嫌なので素直に再登録しようと思う。



 「よし!じゃあ俺達も一緒に行って冒険者登録をしよう。」

 「分かりました。主様!」

 クロノがそういうと物珍しそうにあたりを見回していたアルレシャもにっこりと笑ってクロノと手を繋いできた。

 街中で美少女と手を繋ぐなど女子に対する耐性のないクロノにはレベルが高い。

 クロノは気恥ずかしさに頬を赤くした。




「……あなた達ってそういう関係?」

 ルトナはジト目でこちらを見てくる。


 「い、いやいやそんなことは……。」

 「??アルレシャは主様の従者です!」

 クロノは恥ずかしそうに顔を伏せたがアルレシャは何もわかっていない様子でハイッと元気に天に手を突き上げている。



 「まあとりあえず冒険者ギルドに行きましょう。」

 そんな様子にルトナは苦笑しながらクロノ達を促す。クロノ達もそれに続いた――。




 「――ここよ。」

 歩いていたルトナが指し示すのを見てクロノ達もそれを見た。

 冒険者ギルドは五百年前から何ら変わりない様子で建っていた。こういう建て方は伝統的なものなのだろうかともクロノは思う。


 西部劇の様な扉を開けて中に入ると外観と同じく中も見慣れた冒険者ギルドそのものだ。

五百年前と同じく柄の悪そうな男達が昼間から酒を嗜んでいる。



 「じゃあ先に完了報告と素材の買取を済ませてくるから少しここで待っていて。」

 ルトナはそういうと小走りで依頼カウンターの方へ駆けていった。



 「とりあえず座って待とう。」

 時間がかかるだろうクロノはアルレシャに声を掛けると酒場の側に用意されていた席に座った。



 「おい。あれ――。」

 「ルトナが――!」

 「――――吸血鬼――、人魚も――――?」

 「―――。なかなか――――――――。」



 酒場でたむろしていた男達がこちらの方をちらちらと見ながら話しているのが聞こえる。

 ルトナも吸血鬼や人魚は珍しいと言っていたのでそのためだろう。


 まあ気にしていても仕方がない。

 そんな風に思いながらクロノがアルレシャと今後の予定について話していると一人の男が席を立ってこちらに近付いてきた。



 「おい。兄ちゃん。」

 「……なんですか?」

 男は熊の様な巨体で鎧をつけている。男が立った席にはその身の丈ほどもありそうな大剣が立てかけて在り、戦士職なのだろうことが伺えた。男の顔には無数の傷があり、額には小さな角が二本生えている。巌の様なその風貌はヤクザかというくらい厳つい。



 そんなヤクザ風の男を警戒しながらクロノは返事をする。

 アルレシャは男が恐いのか椅子を寄せてクロノの手を握って来た。



 「お前さっきあの猫娘と一緒にいたな。お前らどういう関係だ?」

 「別に。どういう関係でもあなたには関係ないのでは?」

 威圧的な男の物言いにクロノは棘の混じった言葉で返す。

 これはテンプレコースに入ったということだろうか。



 「あん?礼儀がなってねぇな。まあいい。忠告しといてやるよ。あの女には近づくな。お前らもどうせ旅人だろう。迷惑をかけられたくなかったらとっととこの街を出て他の街に行っちまうこったな。」

 「はい?それこそあなたに指図される覚えはありませんよ?」


 クロノの返答に酒場の緊張が一気に張り詰める。

 イベントだとこのままいちゃもんをつけられて戦闘に突入するところだろう。

 クロノはどうやって相手を爆散させずに戦闘不能にするか考えていたが、戦闘になることはなかった。




 「――ちょっとあなた何をしているの!」

 吊り目をなお吊り上げたルトナが帰って来たからだ。


 ルトナが厳つい男をその鋭い視線で威嚇するようにキッと睨みつけると男は苦々し気にルトナを見る。

 ルトナの猫耳としっぽがピンとなり、毛が逆立っているのが分かる。


 しばらく二人はそうやって睨みあっていたが男の方が舌打ちして引き下がった。




 「ちっ!どうなってもしらねぇからな!そこのお前夜道には気をつけろよ。」


 男はそんなお約束の捨て台詞を吐くとテーブルに立てかけてあった大剣を手に取り、外へと出ていった。

 酒場にいた男達は関わり合いたくないとでも言うように視線を逸らしている。




 「ごめんなさい。一緒にいればよかったわ。本当にごめんなさい。」

 ルトナは申し訳なさそうにクロノ達に謝罪する。



 「いいよ。そもそも絡んで来たあっちが悪いわけだしルトナが謝ることはないよ。」

 クロノはルトナが気にしない様になんでもない風に答えた。



 「でもっ……。」

 「それより早く冒険者登録をしてしまおう!ほらアルレシャもおいで。」

 ルトナはまだすまなそうにしていたがクロノは強引にその手を取って進む。


 「あ、待ってください。アルレシャも!アルレシャも!」

 アルレシャはそういうとテーブルを立ち、クロノの腕をとった。

 

 「ちょ、ちょっと!」

 ルトナは焦ったように声を掛けたがその声とは裏腹にクロノに従っている。



 あんな風に言っていたのだから気を付けないとな、俺達も、ルトナも。

 ヤクザ風の男を思い浮かべながらクロノは思う。


 とりあえずパーティー登録をして一緒にいれば問題ないだろう。そうしよう。

 そう決意するとクロノは受付嬢に声を掛け、冒険者登録を行うのだった。

 







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