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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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守人



 「【星光撃(アストラルレイ)】!!」

 「【双星撃(バイナリースターレイ)】!!」

 三本の光条がクロノとアルレシャから放たれ、空中に展開した障壁の上に立つベールへと真っ直ぐに飛んでいく。ベールはその攻撃を無感情に見つめながらブラッディソウルを振るった。幾つもの黒い刃に分かれたブラッディソウルが宙を裂き、光の筋へと群がる。クロノ達とベールの丁度真ん中あたりでそれらは交わり、大きな爆発を起こした。



 爆発の衝撃をものともせず、クロノは宙を蹴り、前へと駆ける。




 ――ベールを倒して欲しいのだよ。




 クロノはマッキーの言ったことを思い出していた。マッキーがクロノ達に助けを求めた日、クロノがマッキーとベールを助けると誓ったその日の事を――。





 「――倒すって、そんな!ベールが自分からあんな事をするはずがないわ。何か事情が……」

 「その通りなのだよ。でも、だからこそ……。私も実際にベールに会うまでは確信できなかったのだよ。でも今なら分かる。私はあの術式を受けたことがある」

 思わず声を上げたルトナにマッキーは意外な言葉を返した。神妙な面持ちでマッキーはクロノを見つめる。



 「それは――!」

 「驚くのも疑問に思うのも無理はないのだよ。でもその前にまず私やベールの存在について聞いて欲しい」

 神妙な面持ちで話すマッキーの様子には普段のふざけたものはない。それだけ今からマッキーが話すことが重要な事だと示していた。



 「マッキーやベールの存在ですか?」

 「その通りなのだよ。まず君達は私達をどんな存在、種族だと思っている?」

アルレシャの言葉に肯定をして、マッキーがさらに問いかけを重ねる。クロノはマッキーの言葉について思案する。ベールは森人(エルフ)だ。しかし改めてマッキーがどんな種族かと聞かれれば答えに困る。



 「ベールは森人(エルフ)で、マッキーは……くま?」

 「マッキーについて問われると分からないな。魔法具?ドール系の変異種か?」

 ルトナが自信なさげに答える。クロノも『ワールドクロニクル』の知識にないことについては一般人よりも無知である。推測で答えるしかなかった。



 「全て不正解なのだよ。まあクロノの魔法具というのはある意味で正解とも言えなくもないがね。あとドール系の変異種と言うのが魔物という意味ならばそれは正反対のものだね」

 「全て?ベールは森人(エルフ)だろ?」

 マッキーの言葉にひっかかりを感じたクロノが言い返す。しかしマッキーはそれにしっかりと首を横に振った。



 「違うね。ベールは森人(エルフ)ではない。そもそもベールと私は同じ種族なのだよ」

 「はあ?それこそおかしくないか?ベールとマッキーじゃ逆に違うところを探した方が早いくらいだ」

 クロノ達の頭には最早疑問符しか浮かんでいない。その言葉にマッキーは先程とは違い、こくんと頭を下げて肯定する。



 「その通り。私達の種族は外形に共通点を持たない。私達が同じ種族であるという証明はその発生の根源にこそあるのだよ」

 「発生の根源……?」

 「つまりはどういう事なんだ?」

 説明に焦れたクロノはマッキーに問いかける。ここまで聞いても全く分からないのだからその答えがクロノの埒外にあるのは間違いない。



 「つまり私達は新しい種族なのだよ。私達は元精霊族、現在の種族名を守人族(シルフ)という。」

 「精霊!?」

 「精霊と言うと森人族(エルフ)の王国があるセントラルの世界樹に根差しているというあの?」

 ルトナとアルレシャが同時に驚きの声を上げる。当然だろう。精霊とはそれほど希少な存在だ。かくいうクロノも『ワールドクロニクル』のメインシナリオで数回御目にかかっただけである。そもそも『ワールドクロニクル』でさえ、精霊はプレイヤーの入れない禁域と言う場所に生息するとされており、積極的にストーリーに関わっていなかったというのもある。

 もしクロノが『ワールドクロニクル』で森人(エルフ)の種族キャラクターを選んでいればセントラル王国の精霊の祠にて精霊魔法を解放するための精霊石を四大精霊から受け取るというクエストが発生したのだが、残念ながらクロノの種族は人族であった。



 「元なのだよ。今は守人族(シルフ)なのだよ。」

 「守人(シルフ)……風精霊(シルフィード)じゃなくてか?」

 ルトナとアルレシャの様子に少し困ったようにしながらマッキーは答える。そんなマッキーにクロノは気になっていたことを聞いた。守人(シルフ)という言葉に聞き覚えはなかったが風を司る精霊が風精霊(シルフィード)と呼ばれていたのをクロノは憶えていたのだ。

 風精霊(シルフィード)は『ワールドクロニクル』のクエストにおいて森人族(エルフ)プレイヤーに祝福を施す四大精霊の一角で、火精霊(サラマンドラ)水精霊(ウンディーネ)土精霊(ノーミード)と共に高位の精霊格を持っているとされるキャラクターである。


 精霊族は本来、淡い光のような弱い存在であるという。四大精霊はそのなかで大きな力を持った存在で四属性に特化した個体であるという。



 「よく知っているね。守人(シルフ)の名は風精霊(シルフィード)が基になっているのだよ。というのも最初に守人(シルフ)という種族が創られたきっかけを作ったのが風精霊(シルフィード)であったからなのだよ」

 「……!!待て待て!創られた?守人(シルフ)は精霊から発展したものじゃないのか?」

 なんでもなさそうに言ったマッキーの言葉にクロノは割り込んだ。クロノの考えでは守人族(シルフ)は精霊族から派生する亜種族だと思っていた。人族(ヒューマン)における仙人族(ハーミット)のように『ワールドクロニクル』には一定の条件を満たすメインの種族とは異なる亜種族への発展が可能だったからだ。

 しかし創られたとなればそれは第三者の介入を意味する。そして種族の創造などそれは確実に神に値するものにしか出来ない領域だ。



 「クロノは気付いたかな?そう。私達は偉大なる鍛冶神エルト=ダウ=アルカーシャ様によって創られた生命ならざる生命、神造魔導機械種なのだよ――」





 「――そんな!種族の創造権限はエルト様にはないはずです!そもそも権能の領域が……」

 「よく知っているのだね、アルレシャ。君の正体も私は気になるのだけれどね」

 アルレシャは途中まで言いかけ、はっとなって口を噤んだ。クロノはアルレシャが星獣である事を知っているし、アルレシャ自身から星獣は神々を補佐する役割を持っていると聞いている。しかし他の者からすれば一介の人魚族の娘が神々に対して多くを知っているというのは奇妙なことでしかない。

 マッキーはアルレシャの尋常ならざる力と今の神々に対する見識を結び付けてアルレシャが普通の人魚族ではないと判断したようだった。




 「まあそれは置いておこう。しかし、そう。エルト様は生命の創造に関して権能を持たなかった。それ故に裏道を使ったのだよ」

 「裏道とは?」

 アルレシャは思考を巡らせるようにしてマッキーに問う。神々のことについては門外漢なクロノとルトナは興味津々に顔を寄せた。



 「生命というのは根幹に(アニマ)(ローカス)を有しているのだよ。(アニマ)は存在の肯定要素。つまりは人を人なさしめる情報体、或いは彼我の判別因子とでもいったらいいのかな?世界に存在を打ち込むための楔といってもいい。(ローカス)は身体との結合要素。世界に打ち込んだ楔の座標を物理的身体に固定し、燃料のような形で活動を可能とするものだよ。生命の創造権限とはこの二つの創造或いは改変権限に他ならない。いまアルレシャが言った通りエルト様にはその権限がなかったのだよ。」

 語り始めたマッキーの言葉にアルレシャはふんふんと理解している風に頷いたが、クロノとルトナについてはここで既に訳が分からなかった。



 「それなるとやはりエルト様の権能では……」

 「そこには精霊という存在が大きく関わってくる。精霊というのはそもそも世界の他の生命とは発生原因を異にした偶発的発生存在であり、生命としてあるはずの魄を持たない不完全な存在であるのだよ。故に精霊は物理的な肉体を持たず、生命として容易にかき消されてしまう程弱い。そのため精霊は魔力によってそれを代替しようとした。これが魔法生命としての精霊の起源なのだよ」

 結論に至ろうとするアルレシャを宥めるようにしながらマッキーは話を続ける。最初の説明で既に躓いてしまったクロノとルトナは置いてきぼりの形である。



 「もともと生まれたばかりの精霊は統合善性思念分裂魂形成体という形を取っている。これはつまり人々の願い、希望、その他諸々の善の思念が干渉を起こして偶発的に魂として形成されたものなのだよ。それが魔力を取り込むことによって魔力体としての体を作る。多くは無属性であるけれども年月を経る事によって存在の安定化と共に属性特化される。これが四大精霊などと呼ばれているものなのだよ」

 二人を置いてきぼりにしたまま話はどんどんと先へ進む。クロノは必死に理解しようと耳を傾ける。



 「魔法生命として存在していた私達はただそこにあるだけ、魔力の宿る意思存在に他ならなかった。魔法を行使しようにも術式というのは物理的な事象の顕現であり、存在を物理化することの出来ない私達には術式を行使した魔法の構成は出来なかったのだよ。そこで生まれたのが精霊魔法。物理的身体を持つものと魂を同調させることによって精霊の持つ属性魔力を間接的に魔法へと変換する手法なのだよ」

 『ワールドクロニクル』でも明らかになっていなかった内容がマッキーの口からポンポン出て来ることにクロノは驚きを感じる。ルトナの方は最早理解するのを諦めて、話を流し聞きしている。




 「しかしこの方法には問題点があったのだよ」

 「契約者を介してしか魔法が使えないことですね」

 「その通りなのだよ」

 アルレシャの返答にマッキーは満足そうに頷く。



 「先程も言った通り精霊は善性思念を根源とする種族であるために悪意に弱い。存在の消滅を危ぶむくらいにね。だから争いの場では間に契約者を挟む必要があった。けれども精霊達の中にはその存在故に自分達もその手で人を守りたい、助けてあげたいという思いが強くあったのだよ。ここでやっとエルト様の話が出て来る。精霊達がこの思いを正しく認識したのは創造神様がこの世界を去った後だった。その為精霊達はこの世界に残った神々の一柱、エルト様に相談をしたのだよ」

 ここに来てやっと鍛冶神エルト=ダウ=アルカーシャの話が出てきた。『ワールドクロニクル』においてもたくさんのイベントに出現した馴染み深いキャラクターだ。その人格は誰にでも親しく、人間味のあるものだった。恐らくこの世界でもそうなのだろう。



 「エルト様は悩んだ末に一つの結論へと至った。それが幻器と呼ばれる核となる物質に魂を打ち込む方法、魂錬成なのだよ。」

 マッキーは続けてその核心の部分を説明し始めた。

 魂錬成とは鍛冶神の権能をフルに使って物質に魂を同化させる技術らしい。生命の改変について権能を持たなかった鍛冶神であるエルトは無生物に対して絶対的な権能を持っていた。そんなエルトは苦慮の結果、魂を核たる無生物と融合させ、外装を魔導人形化し、疑似生命を作り出すことを思いついたらしい。

 外装の操作は精霊の魔法生命としての魔力操作能力を流用、外部から魔力を吸収し、活動に当てる魔法動力炉(マギカ・エンジン)なるものを作成したらしい。

 さらには精霊の弱点であった悪意への対策として複数の精霊による分割処理、抵抗力上昇、善悪転換機構(アダプター・システム)なども搭載したまさに魔改造と呼べる仕様であったということだ。迷鍛冶神(クレイジースミス)の名は伊達ではないとクロノは改めて実感する。



 「そしてこれが私の核、幻統器『青燈(フラウエ・リヒト)』。この『青燈』を含めた六つの幻器『六精幻器』が全て機能してこそあの体は最大の効果を発揮する。しかし統率器たる『青燈』を欠いている上にベールはもともと独立した守人(シルフ)原型核(プロトタイプコア)だ。悪意に対する抵抗力が低い。最悪、魂自体が崩壊する。故にベールを倒して、動きを止めて欲しい。そうすれば私が何とかする」

 マッキーは決意を込めそう宣言したのだった。



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