表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
63/90

くまと子供と大人達と



――裏町。とある寂れた通りの一画。



「うーん……」

「どうしたのロロちゃん?さっきからうんうんうなって。へんなものでもたべたの?」

夕食時、いつもの天真爛漫な様子とは打って変わって何かに思い悩むようなロロに少女――アイナ――が声を掛ける。

椅子にはロロやアイリよりも小さい子供達が四人。年の割りにしっかりしている少年イリオ、主にアイリの家事の手伝いをしている少女メレ、のんびり屋の少年ラニ、末っ子可愛がりされている少女リリィ。

皆ちらちらと食事をしながらロロの様子を気に掛けていたが中々言いだすことが出来なかったのだ。

アイリの言葉に少年少女の視線が集まる。



「もらった」

するとロロはポケットからクロノに貰った金貨を取り出し、テーブルに置いた。

ロロが取り出した金貨にアイリは驚愕で目を丸くし、イリオとメレは頭を抱え、年少の二人は興味深そうに金貨を見る。



「ロロちゃんこれはアウトだよ」

しっかりもののイリオがテーブルの上の金貨を指さしながら言う。



「ロロちゃんどこから盗ってきたの!いいなさい!今ならまだ謝れば許してもらえるかもしれないから!」

アイリの方は今にも卒倒しそうな様子でロロを問い詰める。ロロが自分を含め他の子供達を養うために時にスリなどを行っていることをアイリは知っていた。アイリも何度も止めたのだがロロは子供達の為だとそれを繰り返してきた。それがまさかこんな事になるとはアイリは思っても見なかった。



「いやいや!本当にもらったんだって!仕事の前払いだよ!」

「うそよ!こんな大金をスラムの子供になんか渡す人がいるわけないじゃない!怒らないから話なさい!」

ロロとは同い年であるはずなのについ母親のような口調になってしまうアイリである。しかし今はそれどころではない。これは一大事なのだ。下手をすればロロが奴隷として売られてしまうことも考えられる。

ここに集まる子供達は本当の兄弟ではない。親に捨てられ、路上で生活をしていたロロとアイリが最初にここに住み着き、それから同じような境遇の子供達が増えていったのだ。これはこの苦しいながらも穏やかな生活を崩壊させる危機なのである。

ロロを更に強く問い詰めようとした時、煙突から何かが不意に落ちてきた。



「なんだ!」

「今度はなんなの!」

「ごほっごほっ!」

「ふわあっ!」

「うわあー」

「もくもく?」

舞い上がる灰と埃に少年少女達はそれぞれに感想を述べながら暖炉の方を覗き込む。煙が薄らぎ、そこにあったのは床にこてんと転がるくまの人形であった。




「わぁ!くまさん!」

「こら!リリィ!汚いからやめなさい!」

混乱の中、最初に動き出したのは一番小さいリリィであった。灰と埃塗れのテディベアに目を輝かせて近づこうとするリリィをアイリが慌てて制する。アイリに抱きかかえられたリリィはそれでもテディベアを取ろうとアイリの腕の中でじたばたする。



「汚いとは失礼なのだよ。こんなもの、【清浄(クリーン)】。ほら、綺麗になったのだよ」

 そう言って立ち上がり、自分ごと周囲に魔法をかけて部屋を綺麗にしたくまはパンパンとおしりに付いた埃を払うようにして事も無げに言う。




 「なななっ!」

 「……!」

 「しゃべるくまさんだ!」

 立ち上がり、言葉を話すくまにアイリは何か喋ろうとして言葉にならず、他の子供達は口を魚のようにパクパクさせた。唯一平常運転のリリィはバタバタと手足を動かして大興奮だ。




 「あ、金貨十枚のくま!」

 「マッキーなのだよ!ちゃんとクロノのところで自己紹介しただろう……」

 「ちょ、ちょっとロロちゃん!なんでふつうに話してるの!」

 突然現れた喋るくまに平然と話しかけるロロにアイリは驚いて声を掛ける。他の子供達もロロへと視線を移した。ロロが金貨を持って帰ったり、くまが煙突から飛び込んで来たり、ロロがそのくまと知り合いのようだったりともうアイリからすれば訳の解からないことだらけである。



 「ええっと、その、なんというか……」

 頬を掻きながらロロは昼間の内にあったことをアイリ達に話はじめる。その内容に驚き、あるいは呆れながら子供達はロロの話を聞くのであった――。






 「――くまっきー!」

 「いや、だからマッキーなのだけどね」

 「くまっきー!」

 「あぁ、うん。もうそれでいいのだよ……」

 両腕をバンザイの状態で吊るされたマッキーは疲れた様に溜息を吐いた。マッキーを掴み、にこにこ笑いながら見ているのはリリィである。



 「すみません。マッキーさん。リリィのお相手をしてもらって……」

 「いいのだよ。子供は嫌いではないからね」

 マッキーはアイリだけにはクロノの真意を伝えていた。アイリは信じられないといった風だったが、昨日の出来事を考えれば本当に単なるお人好しなのかもしれないと思っていた。ロロを捕まえた時点でどうとでも出来たからだ。それを確かめるために既に昨晩の内に手を打ってあるアイリである。こういうところがロロとアイリの違うところだ。

 そんなアイリの後ろではイリオとロロが騒いでいる。



 「ロロちゃん今日は絶対僕もついていくからね!」

 「大丈夫だって!こんな仕事よゆーよゆー!」

 ロロを心配して無茶をしないようにとイリオがついていこうとするがロロは楽観的だ。



 「ロロちゃんは何でこんなに能天気なんだよ」

 イリオが手で顔を覆って呻く。苦労人が板についているようだ。その横でロロは腰に手を当て笑っているのだから手に負えない。



 「そもそも昨日あんなに悩んでたじゃないか!」

 「ああ、あれか。いや聞いただろ?クロノの兄ちゃんの呪いのこと。生えるんだぜ!それに燃えるんだぜ!」

 「ロロちゃんそれは嘘だよ……」

 「おいおい、イリオ。クロノの兄ちゃんが俺に嘘つくわけないだろう」

 ロロがクロノに向けるその謎の信頼は何なのかとマッキーは思ったが突っ込まないことにしておく。ただしひとつだけ確かなことはクロノがロロをからかってとても楽しそうだったという事だけである。




 「とにかくそろそろいくぞ!しかたないからイリオも連れていってやるよ!」

 「ちょっ!ロロちゃん!マッキーさん忘れてる!」

 元気よく家を飛び出して行ったロロにイリオがマッキーに鞄の中に隠れているように丁寧にお願いをしてロロを追って駆け出していく。

 アイリはそんな二人を苦笑しながら見送った。






 「メレ。ちょっとリリィのことお願い。おばあちゃんのところに行ってくるわ」

 「大丈夫!まかせてよ!」

 ロロとイリオが通りの向こうまで走り去る騒がしい声が聞こえなくなってからアイリはメレにそう言い家を出た。アイリがやってきたのはすぐ隣に店を構える小さな煙草屋だ。



 「おばあちゃん。迷惑をかけてごめんなさい。ロロ大丈夫かしら?」

 アイリは店の前に来るとそこで店番をしていた老女に謝罪する。老女は煙草をぷかぷかとふかしながらぎょろりとアイリを見た。


 「はん!悪餓鬼のしたことを何でアンタが謝るんだい!まったく厄介事だよ!」

 老女は厳しい口調でそう言う。しかしアイリはこの老女が本当は自分達を心配してくれていることを知っていた。だから昨夜のうちにロロの事について相談していたのだ。



 「で、どうなんだい!バクストン!」

 「いやぁ、どうやら見たところホントにただのお人好しでしたよ」

 煙草屋の脇にある二階へと続く階段から返答がある。そこにはよれよれのスーツを着た中年の男が座って同じように煙草をふかしていた。



 「確かなんだろうね?」

 「ええ。どうやら観光目的みたいで。ウチに都合よく資料があったもんでこっちは探る手間が省けて助かりましたけど」

 「アンタのところに資料がある時点でまともな輩だとは思えないんだけどね?」

 「いやぁちょっとした手違いですよ。手違い」

 男――レッド・バクストンは事も無げに手を振りながら答える。食わせものというのが一番男の印象にあった表現であろう。


 「所長にもいろいろご迷惑をお掛けしました」

 二人の話を聞いていたアイリがバクストンに向かってお辞儀をする。それを見たバクストンは優しく微笑み、その頭を撫でた。


 「大丈夫。保険でメルちゃんが護衛を買って出てくれたし、何かありそうなら僕も動くよ」

 その眼差しは娘か姪でも見るかのようでアイリはやっぱりこの人もいい人なのだと感じる。アイリ達が安全に暮らしていけるのもこの人達の支えがあるからだ。口には出さないがアイリ達のためにことあるごとに影から助けてくれているのをアイリは薄々勘付いていた。それでなければこの裏町で子供だけで生活など出来ようはずもない。


 「ほら!用事が済んだならさっさと帰りな!営業の邪魔だよ!」

 アイリはもう一度二人にお礼を言い家へと帰って行く。これならきっと大丈夫だ。アイリの顔には安堵が広がっていた――。






 「――で、本当はどうなんだい?」

 アイリが去り、そこに老女と中年の男が残された。老女はバクストンに向かって問いかける。



 「いやぁ参りましたよ。ありゃあ何なんでしょうね?」

 「私に聞くんじゃないよ」

 問いに問いで返したバクストンに老女が不機嫌そうに言う。老女の人差し指がタンタンとテーブルを叩く。イライラしている証拠だ。



 「そんなにヤバいのかい?」

 「あれはちょっと深く探りをいれれないでしょうねぇ」

 バクストンの言葉に老女のテーブルを叩く音がさらに早くなる。



 「顔繋ぎの件、僕が引き受けましょう。こちらでも調べたいことがありますから」

 バクストンがそう言うと老女はテーブルを叩くのを止め、吸い込んでいた紫煙をふうっと溜息と共に吐き出した。



 「全く厄介事だよ」

 老女が漏らした言葉は吐き出した煙のように宙を彷徨って消えていくのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ