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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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シャングリラ



 ざわざわと抑えた声で観客達が話している。薄暗い天幕の中、サーカスの開演を待っているのだ。

 そんな中、天幕に灯っていたカンテラの灯りが一斉に消える。その瞬間観客は水を打ったように静かになった。



 そしてそれを確認したように今度はスポットライトのような灯りが四つ。その中に立つのは種族の違う四人の美姫。アラビアンナイトに出て来そうな褐色の人間族の姫は赤と橙を合わせたドレスを、アルレシャと同じようにひれの様な耳をはためかせた人魚族の姫は青と水色のドレスを、背中に白い翼を持つ鳥人族の姫は緑と黄色のドレスを、そして少し背の低い土人族の姫は黒と白のドレスを身に纏い、まるでシンクロしているかのように踊る。



 始めに土人族の黒姫が軽やかなステップと共に中央に躍り出る。すると彼女が踏みしめた大地から新緑が芽吹き、色とりどりの草花がそこを中心としてどんどん広がっていく。観客達は感嘆の声を漏らす。彼女が踊り終えて中央から離れる頃には会場全体が草花に覆われていた。



 続いて躍り出たのは鳥人族の緑姫。彼女がステップを踏むたびに草花が風で舞い散り、観客達を魅了していく。翼を広げ、一際大きく彼女が舞うとその翼から白い羽が零れ落ちる。再び彼女が舞った時はらりと落ちる羽根が鳥へと変じ、空へと舞い上がった。観客達は手を叩いて賞賛の声を送り、それに答えるように緑姫がお辞儀をして中央から下がる。



 代わるように出てきたのは人魚族の青姫だった。舞う彼女と戯れるように水球が幾つも生まれ、徐々に形を変えて魚の形を取る。魚達は先程飛び上がり、編隊を作っていた鳥達のように空へ昇っていき、気儘に泳ぎ始めた。まるで水族館の巨大な水槽のようである。



 そして最後に現れたのは人間族の赤姫。青姫と同じように彼女が舞うと炎が生まれ、今度は編隊を取っていた鳥達と鏡映しに会場を飛び回る。近づいては離れ、時に大きく会場全体を飛ぶ。そしてその中心で鳥達と炎の編隊が交差する瞬間、炎は一気に火勢を増し、燃え上がった。そこから出てきたのは二匹の大きな不死鳥。優雅に、その威容を見せつけるように二匹は踊る。



 そうしているうちに地で踊る姫達は四人とも中央に集まり、くるくると中央を囲むように回り始めた。その動きがだんだん早くなり、それと共に風が巻き起こる。風は勢いを増し、遂には天を衝くような竜巻となった。草花がつられて舞い上がり、気儘に泳いでいた魚達が吸い込まれていく。最後となった二匹の不死鳥が竜巻の近くを撫ぜるように飛ぶと竜巻は炎を身に宿して、赤く燃える。



 観客達があっけにとられるなか二匹の不死鳥は飛翔を始めた。それと同時に中心で渦巻いていた炎が捲れ上がり、その下から捩れた深紅のビロード幕が露わになる。



 空を翔け上がった不死鳥が翼を広げるとその身は花火のように様々な彩りを撒き散らしながら弾けた。するとそれを待っていたかのように捩れた幕が解け始める。それがすべて解けたときには会場の中心に大きな舞台が完成しており、その周りを氷でできた草花が飾っていた。

その舞台の上、空中に浮かぶ一つの人影。



 ファーの付いた深紅のコートにこれまた赤いタキシード。顔の上半分を隠す鳥の様な仮面。道化師スタンチェスカ・スタンチカ・スタンキエフだ。

 スタンはニッと笑って空気を吸い込み、会場全体に響く声で口上を述べ始めた。




 「……レディィィィィス、エェェェェンド、ジェントルメェェェェン!!今日はようこそ我がシャングリラ・サーカスへ!!今宵の口上はシャングリラ・サーカス団長、永遠の道化ことスタンチェスカ・スタンチカ・スタンキエフが務めさせて頂きます!!どうぞお気軽にスタンとお呼びを」

 スタンは大きく腕を広げ、観客を盛り上げていく。スタンの頭上には四方に見えるように大きな幻影のスタンが四人立っている。




 「さて、始めにご覧に入れましたは四人の美姫による演舞で御座います。皆様御お楽しみ頂けましたか?」

 スタンの言葉に観客が大きな声を上げて賞賛を送る。いつの間にか舞台へ上がっていた四人の姫達がその声に応えるようにお辞儀をしている。しかしスタンは難しい顔をして腕を組み、何もない空中を行ったり来たりし始めた。



 「楽しんで頂けましたら重畳。されどされど!!この程度で驚いておられたらサーカスの閉幕までに幾人かの方々は驚きすぎて天に召されてしまうやもしれません」

 スタンが困った困ったと大げさに溜息つく。その動作が可笑しくて観客達からはクスクス小さな笑いが聞こえる。



 「冗談はさておき、このシャングリラ・サーカスではこの後も皆様に楽しんで頂ける多くの演目を御用意しております。どうぞ本日は最後まで御付き合いいただけますようよろしくお願い申し上げます」

 スタンは先程までの様子とは打って変わって真面目な様子でお辞儀をする。観客からは一斉に歓声が上がった。それを聞いたスタンは満足そうに踵を返すとすたりと舞台の上に降り、少し歩いたところで思い出したように足を止める。



 「そうそう!先程の演舞ですが麗しき姫に見惚れた方も多う御座いましょう。しかし、しかし!!残念な事に全員私の妹に御座いまして、もし娶りたければこのスタンもおまけとして付いてくることを重々ご承知なさって下さいませ」

 振り返ってそんなことを言うスタンに観客はいらねーよ!や全然似てねーぞ!などと愉快気に野次を飛ばしている。スタンはにっこり笑っておどけたポーズで応えた。会場からはまたも笑いが零れる。



 「それでは皆様に最高の時を」

 そう言ってスタンが再びお辞儀をすると会場の照明が落ち、闇が会場全体を包んだ――。





 「――す、すごい!すごいです!!主様!!」

 興奮しきった様子でクロノの腕を引っ張りながらアルレシャが言う。確かに凄かった。魔法のある世界でサーカスをやるとこんな風になるのかとクロノは常識を空の彼方に全力投球する勢いである。元の世界のイリュージョニストも裸足で駆け出す非常識っぷりである。



 「あんな精巧で大規模な魔法見たことがありません!」

 「……パナイ」

 ルトナはしきりに感心している。その隣でポカンと間抜けな顔をしてキャラ崩壊を起こしかけているのはベールだ。


 みんなとても楽しそうで何よりだ。サーカスに入ったのは今日一番のファインプレーと言えるだろう。

しかしあのスタンがまさかサーカスの団長だったとは……。意外、というか団長があんなにほいほいと歩き回っていてもいいものなのだろうか。クロノは先程のスタンの何とも自由な様子に疑問を呈する。




 「あ、次の演目が始はじまりますよ!」

 そんなことを考えていたクロノの腕をアルレシャが引っ張り、現実へと意識を戻させる。

舞台端から出てきたスタンとは違う道化役の男が次の演目、『王様と侍女』の名を告げると奥から腰に布を纏った五メートル近い巨人族の男と長く綺麗なベールの布をはためかせた二人の小人族の少女が現れ、お辞儀をする。

 クロノもサーカスを観ることに集中することにした。




 その後、興奮して大歓声を上げるアルレシャと何処で買ってきたのかお酒を飲んでしまいぶっ飛びハイテンションになったルトナ、最早パナイ製造機と化したベールを必死で宥めつつ、クロノはシャングリラ・サーカスを存分に楽しんだのであった。






 その舞台の裏側で蠢く昏き者達の暗躍を知らずして――。







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