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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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水中迷宮


「――はあああっ!!」

ルトナが振り下ろした剣が巨大な蝙蝠のような魔物――ジャイアントバット――の翼を斬り裂く。その後ろでアルレシャが魔法を放ち、上空を飛び回る残りのジャイアントバットを撃墜していた。


「殲滅する」

そんな声と共にアルレシャが叩き落したジャイアントバットに止めを刺す為飛び出して行ったのは水中迷宮を攻略するに当たって雇い入れたエルフの少女――ベール――である。ベールは紅白の双剣を手に落ちて来るジャイアントバットを舞うようにして仕留めていく。

長いクリーム色の髪は戦闘の邪魔となる為か今日は三つ編みのようにして纏めた髪に髪留めを使って後ろで結んでいる。装備はクロノがベールに買ったものだが出会った時のような貫頭衣ほどではないにしろかなりの軽装である。これはベールが重い装備を嫌がったためである。最初はそんな軽装で大丈夫かと心配していたクロノであったがベールのその舞踏のような戦闘スタイルを見て確かに軽装の方が向いていると理解する。


縦横無尽に剣を振るうベールは本人が自負していた通りかなりの腕前であった。


逃げるように飛んできた最後の一匹であるジャイアントバットをクロノが斬り払い、戦闘が終了する。クロノは剣に付いた血を払うと剣を鞘へと仕舞った。





ベールと出会ってから四日、クロノ達は現在水中迷宮の十階層を進んでいるところであった。この階層まで来るとルートの分岐もあり、最初の階層の方ですれ違っていた冒険者達ともほとんど出会わなくなっている。

迷宮攻略はというと順調といっていい。クロノの『ワールドクロニクル』時代の知識が役に立っていることもあるがやはり一番大きかったのはベールの存在であろう。ベールは前衛として紅白の双剣を見事に操り、襲い掛かってくる魔物を鎧袖一触に切り伏せていた。前衛が増えたことにより殲滅スピードが増し、他の冒険者よりも格段に早く階層を進むことが出来ている。ここに来るまで数刻と掛かっていない程である。


 問題であったアルレシャの【水中駆動(スイミング)】習得も初日で完了した。十階層までは使う機会は少ないものの十分に活躍してくれている。ちなみにクロノとアルレシャは力をかなり抑えて探索をしている。全て二人でやってしまってはルトナ鍛錬にならないからだ。今後はルトナやベールが慣れた後に少しずつ制限を解いていくつもりである。




 「大広間までもうすぐだ。そこで休息を取るつもりだからもうちょっと頑張ってくれ」

 戦闘を終え、周りに集まって来たメンバーに対してクロノは迷宮の構造を思い出しながら言う。集まって来たメンバーはそれぞれに了承の言葉を口にする。クロノ達はここまで一気に下って来たためほとんど休憩らしい休憩を取っていなかったのだ。



 「しかしここまで正確な情報を持っているとは意外です。童貞野郎」

 「まあいろいろな。それよりその呼び方は勘弁してくれ」

 ベールとクロノはこの数日を通して多少気安い関係になったといえるが、ベールのその毒舌は相変わらずであった。クロノはベールの言葉を曖昧に流す。迷宮の構造を知っているのは『ワールドクロニクル』の知識があるからだ。どうやって調べたかと問われれば答えられないところである。



 そんなことを話しながら敵を屠り、進んでいくと通路の先に大きく開けた空間が現れた。

南支部から入るこのルート通称南ルートは十階層にセーフティーエリアが存在する。この大広間がそれだ。ここにはどういう原理かモンスターは出現せず、大広間の中に入ってくることもない。『ワールドクロニクル』同様の仕様なのは冒険者ギルドで確認出来た。下の階層を目指す冒険者もここで準備を整えて先の階層へと潜るらしい。このセーフティーエリアはルートごとにある階層が異なっており、東支部から伸びる東ルートならば五階層、西なら十五階層、北なら二十階層といった具合だ。



 クロノは大広間を見回す。この数日で幾分か慣れた感のあるくすんだ白い岩で作られた大部屋である。壁には光苔が生育しているため周りを見回すのもそれほど苦ではない。幸いか他のパーティーはおらず、そこにはがらんとした空間が広がっていた。

 クロノ達はその壁際に皮の敷物を置きその上に腰を掛ける。いくら他の冒険者が利用しているといっても湿気が多く床にも光苔が生えている。このような休憩のための装備は必須であった。



 「とりあえず今後の方針について話したいと思う」

 「今後の方針ですか。このまま先の階層に進むのですか?」

 アルレシャの問いかけにクロノは首を横に振る。クロノは今回これ以上、下の階層に潜るつもりはなかった。



 「じゃあここで引き返して今日の探索は終わり?」 

 ルトナが少し残念そうな顔で言う。最近この数日の探索の結果ルトナはコツが掴めてきたのかだんだん動きが良くなっていた。ルトナ自身もその成長を実感しているのだろう。もう少し探索を続けたらしい。



 「いや、今回は階層主に挑戦しようと思う」

 「でも十階層はセーフティーエリアがあって階層主はいないと聞いたけど?」

 ルトナが不思議そうな顔で聞き返す。アルレシャやベールも同様の様子だ。

 階層主とは迷宮内の一定の階層で出現するボスモンスターである。この水中迷宮においては五階層ごとに出現し、階層主は確かにこの南ルートの十階層は階層主がいないということになっている。



 水中迷宮においてボス部屋となるのは中央にある主塔と周りを囲む外郭塔を繋ぐ通路の途中にある水中都市の部分である。半円の巨大な空間で大型のボスも出現する。



 ルトナはおそらく他の冒険者から情報収集を行っていたのだろう。しかし実はこの十階層は階層主がいないのではなく階層主のいるエリアに入れないというのが正しい。この階層では水中都市へ続くルートが扉で固く閉ざされているのだ。

 そのことを説明すると再びメンバー達は首を傾げる。



 「入れないんだったら戦うことも出来ないわよね?」

 そう言って疑問符を頭に浮かべるルトナにクロノはアイテム袋から水晶を取り出す。水晶は光苔の放つ灯に照らされて虹色に煌めいていた。


 「それは何です?屑野郎?」

 「これは十階層の水中迷宮に至る扉を開ける鍵だよ」

 水晶をまじまじと見つめるベールにクロノは答える。ベールはその言葉に目を丸くした。ルトナも驚きを隠せないようだ。ただ一人『倉庫』から『空間潜行』によって水晶を取り出して貰ったアルレシャだけはへーそういう風に使うものだったんだ、という反応だ。『倉庫』の中身を見ているアルレシャからすればそこまで驚くことではないのかもしれない。



 「なぜそんなものを持ってるの!?」

 「これもいろいろと事情があると思ってくれ。大丈夫。悪いことをして手に入れたわけじゃないさ」

 再びクロノは曖昧に流す。ルトナは胡乱な目つきでクロノを見ている。これはエクストラダンジョン解放のためのオークションイベントで手に入れたものだがベールがいるいま、それを正直に明かすことも出来ない。


 「まあとりあえずは階層主についてだ。階層主は――」

 それを誤魔化すようにクロノは水晶の話をここで打ち切り、階層主についての説明をすることにする。ルトナは渋々といった様子で話に参加する。ベールの方はクロノが何を言っても話はしないと思ったのかすぐに切り替えて階層主についての説明に耳を傾け始めた――。






 ――ガコン!

クロノが水晶を扉の前へ翳すと大きな音を立てて扉のロックが解除される。二重の扉がゆっくりと音を立てながら上下左右に開いていく。通路の損壊によって浸水している可能性もあったためクロノは【水適応アダプテーション・ウォーター】の魔法をかけていたがどうやら通路内に浸水はないようだ。まあ『ワールドクロニクル』ではこの後の水中都市の部分が完全に水没エリアとなっていたはずなので魔法をかけておくこと自体に問題はない。



 水中都市まで続くこの通路は水中都市同様にガラスのような素材で覆われており、ここから水中都市の部分や上のアルカヴィルシオを見ることが出来る。


 水中都市に目をやるとクロノの記憶通り半円の上部が破損しており、中が浸水しているのが分かった。しかし長い年月の間で破損が進んだのであろう。記憶では上部に人が通れるほどだけ開いていた穴は今では半円の三分の一ほどまで大きくなっている。最早穴というには大きすぎるかもしれない。地面に当たる部分の建物はそこから入った水の影響を受けてかボロボロになって廃墟の様相を呈している。




 クロノ達は周りを警戒しながらも水中都市の入り口まで辿り着く。水中都市についてはこの数日五階層を頻繁に行き来しているため他のメンバーも最初の内は物珍しさから騒いでいたものの今では大して驚いた様子もない。クロノ達は水中都市と通路を繋ぐ魔法結界を抜けて中へと入っていく。魔法結界はゲートのような形をしており、虹色の光を放っている。壁という訳ではないのだが水を通さないようで通路まで浸水することはなかったようだ。


 魔法結界を潜るとすぐに水が体を包む。がらんとした廃墟の群れは何とも言えない寂しい印象を与えた。 クロノ達は警戒を高めつつ、都市の中央部まで進む。周りは廃墟ばかりで生物がいる様子もない。


 都市の中央部まで来たところでクロノは首を傾げた。通常なら既に階層主が出現していてもおかしくないはずである。




 「いないわね。階層主」

 クロノの言葉を代弁するようにルトナが呟く。警戒は緩めていないが拍子抜けしたという様子だ。クロノも同様の感想である。

 クロノは思考する。水中都市の上部の破損により階層主が外に出てしまったのではないか?しかし階層主は一般にそのエリアから動くことはない。階層主が存在する空間は魔力の多く留まっている空間であるからだ。それを捨てて階層主が動くということは考えにくい。だがこの状況どうだ。階層主どころか他の魔物さえもいない。普通ならば魔物に遭遇していてもおかしくないはずである。



 ふとクロノの思考に何かが引っ掛かった。クロノはがばっと顔を上げると辺りを見回す。そのときクロノの視線の端で青い線の揺らぎが過ぎった。



 「みんなアルレシャの周りに集まれ!!アルレシャ全方位障壁展開!!」

 そう言って怒鳴るように叫ぶとクロノもアルレシャに近付き周りに障壁を展開する。ルトナとベールは慌てて障壁の中へと入り込む。




 次の瞬間、青い線が障壁の周りで無数に蠢き、弾けるようにしてクロノ達を紫電の嵐が襲った。



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