遺跡探索
「ルトナ!いったん下がって!アルレシャ!ルトナに回復を!」
そういうとクロノはグールから攻撃を受けたルトナを庇って前に出た。
ルトナを追撃しようとするグールを魔法剣で切り伏せて、その脇から迫っていたスケルトンを牽制する。
ルトナの傷はアルレシャの【回復】のおかげで癒え、問題ないようだ。
クロノ達は南の森を抜け、目的の遺跡を探索していた。
ルトナは素早い動きで相手を翻弄しながらロングソードでとどめを刺すというスピード重視の剣士といった戦闘スタイルだった。
獣人族であるだけあって動きはしなやかで、剣の腕もなかなかだ。
クロノとルトナが前衛で敵を倒し、アルレシャが後方で魔法での援護や回復を行うといった形で遺跡探索は順調に進んでいた。出てくる魔物もそこまで強くなく、数も少なかったので初めてパーティーを組んだとは思えない程の戦果であった。
しかし遺跡をあらかた探索し終わり、グールとスケルトンを十体討伐するという依頼も達成してそろそろ引き上げようかというところで問題が起きた。
小部屋で戦っている途中で床が崩落し、モンスターハウスに真っ逆さまという事態に陥ったのである。
低レベルダンジョンだからと油断していたのがいけなかった。
ルトナが聖水をまいて魔物が近づいてこれない様にしているのが横目に移った。
倒すこと自体は問題ないのだが囲まれているため、ルトナのフォローが追い付かない。
ルトナはスピードタイプのため今のように囲まれた状況だと十全に力が発揮できないでいるのだ。
アルレシャの【回復】で何とかなっているものの時間を経つにつれルトナの動きが悪くなっているのは明白だ。
遺跡の中ではアルレシャも下手に大きな魔法を出せない。
――ちょっと試してみるか。
クロノは現状を打破するため考えを巡らすと斬りかかってくるスケルトンを蹴り飛ばし少し後ろに下がる。
「【召喚】【星精】!」
クロノの周りの空間が瞬いて、六つの光の塊が躍り出た。光の塊には妖精の様な羽根が生えており、クロノの周りをパタパタと舞っている。
「【標的固定】、――【星光撃】!」
クロノ達を包囲している輪から飛び出した魔物を『星精』の攻撃が貫く。
【召喚】【星精】はアルレシャが魔法構築を出来ると分かった時に開発した魔法だ。
この魔法は複数の『星精』を召喚し、攻撃を行うものである。
ちなみに【自動迎撃】という魔法もついており、迎撃も可能だ。
某ロボットアニメを参考にしたであろう『創造術式』が存在したのを思い出し構成してもらった。
クロノの趣味が多分に含まれているのは否定しない。だってロマン兵器って憧れるじゃないか。
『星精』は複数召喚であるため、ステータスが低い。魔力はクロノから供給・補填されているもののその容量には限界があり、それを一気に使うような攻撃を行うと消えてしまう。敵の攻撃を耐久以上に受けた時も同様だ。
しかし今回はその攻撃力の低さと全方位対応の能力が有効だ。
これなら遺跡を崩して生き埋めなんてこともない。
『星精』がレーザーの様な光の攻撃で魔物を殲滅していく。
四方に飛び交うレーザーは数に勝る魔物をものともしない。
「あなた魔法も使えるのね。それにしても見たこともない魔法だわ。」
「まあ、魔法剣士だからね。」
ルトナは呆れと尊敬の入り混じったような眼差しをクロノに向ける。
ルトナは魔法には疎い様なので適当に誤魔化しておく。
「ほら、もうすぐ全滅だよ。とりあえずここから出る方法を考えないと。」
「そうね。それにしてもこんなモンスターハウスにたまたま落ちるなんて普通ならk――ッ!?」
――ガコン!――
床が沈み込む音に慌てて振り返る。
何か考え込むようにして歩いていたルトナが罠を踏んでしまったのだ。
ルトナが青い顔して床の罠を見ているが問題はそこではない。
罠の発動を受けて天井のブロックが落ちてきている。
――間に合えッ!!
クロノはそれを見ると瞬時に駆け出し飛び込むようにしてルトナを腕に抱き、落ちてきたブロックの範囲の外側へ横倒しに倒れ込んだ。
ズウゥゥゥゥゥン
大きな振動が響いてブロックが床に落ち、砂埃が上がって視界が見えなくなった。
衝撃で部屋が崩れなかったのは幸いだ。
「いやー、危なかった間一髪だったな。大丈夫だったか?」
溜息を吐きながらクロノは腕の中にいるルトナに対して声を掛けた。
ルトナは顔を真っ赤にして上目遣いでこちらを見上げてくる。猫耳はびっくりしたようにピンと立ったまま硬直している。
「な…、」
「な?」
ルトナが何か言いたそうだったのでクロノはさらに顔を近づける。
ルトナの顔がさらに赤くなる。
「な……な、なな……。」
な?何が言いたいんだ?
そこでクロノは唐突に気づいた。
自分の左手にある感触。柔らかい肉感とモフモフとした獣的ななにか……。
――こ、これは!!
「なな、【炎滅の拳】おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「そげぶぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
紅の籠手を纏ったルトナの拳がクロノの鳩尾にめり込み、直後に籠手の魔法陣が光り輝いて爆発を巻き起こしながらクロノを吹っ飛ばした。
クロノは壁までごろごろと転がっていき、べしゃりと音を立てて壁際に倒れ込む。
体からはぷすぷすと黒煙が立ち上っている。
「あぁ!!主様が何故か黒焦げに!?……ひ、【回復】!!」
砂埃が晴れ、無残な姿のクロノを発見したアルレシャは急いで駆け寄って【回復】をかけるのだった――。
「――ごめんなさい!!」
「いや、さっきのはこっちが悪かった!」
ルトナが涙を浮かべながら必死になって謝ってくる。
クロノも慌てて謝った。さっきの一撃には驚いたが女の尻を触る方が悪いに決まっている。
獣人族にとってしっぽは大切な人以外が触れるのは禁忌、という設定もあったはずだ。
ならばなおさらクロノが悪いといえる。
「その、私、力の制御が上手くできなくって……。」
ルトナはぽろぽろと涙を零しながら口籠る。
「ほんとに大丈夫だから!ほらアルレシャのおかげでもうピンピンしてるし!」
ルトナを泣かせたことにさらに慌てたクロノは必死に元気さをアピールする。
アルレシャの【回復】では間に合わず、【高位回復】を使ってしまったことは言わない。どこの世界でも男は女の涙に弱いのだ。
しかしさっきの威力、竜種にも重傷を与えれそうなほどだった。力の制御が出来たらと思うと末恐ろしい。
「でも……!でも!あなたは私を助けてくれたのに私は危うくあなたを殺しかけて……。」
「大丈夫!そんなやわな体してないさ。なんたってあのお伽噺に出てくる吸血鬼なんだからさ。」
おどけて言うクロノにルトナも少し落ち着いたようだった。
まだ申し訳なさそうに猫耳はペタンとしてしまっているがそれは仕方ないだろう。
とりあえずルトナを宥め、クロノ達は大部屋から続いていた一本道を進む。
出てきた魔物も数匹だけで大したことはなかった。
先程の失敗を挽回しようとしているのか積極的にルトナが魔物を倒していく。
一本道を進むと開けた場所に出た。
よく見ると部屋の隅に上へと登る階段の様なものがある。あそこから外に出られそうだ。
「あそこから出られそうよ!」
ルトナがほっとした様子で階段に駆け寄ろうとする。
そのとき【発光】の灯りの影になっているところで何かが動いた。
「――危ないッ!」
クロノはルトナとその影との間に入り、魔法剣でその攻撃を弾いた。
甲高い音が鳴って、火花が飛び散る。
「……チッ!」
ルトナに剣を振り下ろした人物は舌打ちをしながら後ろへと飛び退った。
ルトナを後ろに庇い、クロノは剣を構え直す。
暗闇から現れた襲撃者は襤褸を纏って顔をマスクで隠している。体格からして男だろう。
手にあるのは聖属性が付与されているであろう銀のショートソードだ。
こちらのことを知っているということだ。
「……何者だ。」
「…………どうやってここまで来た?大部屋には魔物がいたはずだ。」
一応問いかけてみたものの答える気はないようだ。
「あんな雑魚全部倒したさ。」
「チッ!あの数の魔物を……厄介な!」
問いかける男にクロノは何でもない様に答える。
この口ぶりだと床が抜けたのも、その下がモンスターハウスになっていたのもこいつが黒幕な気がする。
というかそうだろう。こんなところにいていきなり襲い掛かってくるなんて怪しすぎる。
「お前にはここで死んでもらう。」
男はそう言うや瞬時に距離を詰め、銀剣で斬りかかってくる。
動きから見るとルトナより強そうだ。
「――甘いよ。」
「ッ!!ぐぅッ!!」
しかしクロノからすれば大したことはない。
クロノはその斬撃を余裕をもって避け、男の脇腹を斬りつけた。
痛みに男が呻く。
「試練の大森林」の魔物のように爆散はしない。
アルレシャとペアで買った腕輪の効果だ。
腕輪の名は『決闘の腕輪』。
『ワールドクロニクル』で名前の通り決闘の際用いられていたものである。
主な機能は相手をHP0にしない【手加減】という能力だがクロノが着目したのは『ハンディ機能』だった。この機能はレベル差のある相手との決闘用に作られたものでステータスを下げる効果がある。
これでもし人間相手に戦っても相手をミンチにしなくて済む。ちなみに今のステータス値は全体の五%ほどである。大体の計算だがこれくらいなら相手も容易には死なないだろう。
しかしなんだろう。こうしてみるとかなり人外だ。
フハハ!私はまだ力の一割も使っていないぞ!とかやりたい。まあやらないけど。
「らあッ!」
男が斬られて怯んだ隙を見て前蹴りで男をすっ飛ばす。
男は衝撃を逃がすため後ろに飛んだようだったが衝撃を完全に逃がすことは出来なかったようだ。転がっていった先で膝をつきながら血を吐いている。
「少し大人しくしてもらおうか。」
クロノはゆっくりと男に歩み寄ると気絶させるため柄を男の頭に振り下ろす。
が、その瞬間蹲っていた男が懐から取り出した瓶の栓を抜きクロノに投げつけてきた。
――水?いやこれは聖水だ!!
現在のクロノは吸血鬼の特性『聖性拒絶』によって聖水をかけられただけでダメージを負いかねない。
クロノは慌てて聖水の掛からない位置まで下がった。
しかしその間に男は反転して階段へと逃げ去っている。
やられた、と思うがもう遅い。
追えば追い付けるだろうが罠があった場合が恐い。それに仲間がいる可能性もある。
今はルトナ達を連れていち早くこの場から抜け出すのが先決だ。
そう思ってクロノは後ろを振り返る。
そこにはペタンと腰を抜かして青ざめた表情でいるルトナと心配そうに声を掛けるアルレシャがいた。
ルトナは俯いてまたあいつが、などと何かブツブツと独り言を言っている。
アルレシャの言葉も耳に入っていないようで呆然としたようすだ。
「大丈夫。あいつは逃げていったよ。」
クロノは視線の覚束ないルトナに向かって声を掛ける。
ルトナはびくっと大きく震えるとクロノを見た。
「……ごめんなさい、」
ルトナが震える唇から小さくそう漏らした。
「いや、誰でもあんなところに人が隠れていると思わないさ。」
「ち、違うの……、」
慰めるクロノにルトナは否定の言葉をかぶせる。
その目には涙が溜まっている。
「違う?」
「ち、がうの、違うのよ!わ、私が、……私が全部悪いの!わたしの!わたしのせいなの!」
ルトナは感情を爆発させたように叫び、冷静さを失って子供のように泣いている。
私が、私が、と泣きじゃくりながら繰り返すルトナにクロノは言葉をかけることが出来なかった。




