誘拐犯が御用改めです。
「にゃー!(メリエちゃんこっちだよー!)」
「ちょっと、クロ!待ちなさい!待ってってば!」
僕はメリエちゃんが見失わない程度の速さで路地を駆ける。
大通りに出れば、それで誘拐犯は諦めて終わりだと思うけど、折角だからお灸を据えてあげようかな。
『く……あのガキ、なんで今曲がったんだよ』
『おい、ビゴー、お前はあっちから行け!』
『大声出すな、バレるぞ』
『バレてるから逃げられてんだろ!とっとと捕まえるぞ!所詮ガキ一人だ!』
それと猫一匹ね。
どこからか湧いた誘拐犯たちは必死になってメリエちゃんを捕まえようとしている。
だけど一方、メリエちゃんは僕を追いかけることに夢中で後ろの騒ぎにまるで気付かない。
「クロ!今なら一緒にお風呂くらいで許してあげるわよ!」
(いやぁ……ミスダさんなら兎も角なぁ。メリエちゃんは、ねぇ)
僕はパターン化しないように道を行き、メリエちゃんを誘導して、誘拐犯を惑わす。
……うん、そろそろかな。
誘拐犯たちの様子を《壁に耳あり障子に目あり》を使って調べると、見事に散り散りになっていた。僕、凄い。
この辺りは道が細く複雑で、下町といったような場所のようで人が少ない。
だから、僕は安心して魔法を発動する。食らえ!
「《この事件は迷宮入り》!」
ズズズ……と下町全範囲に僕の魔法が掛けられ、時空が歪む音が聴こえる。術者の僕だけだろうけど。
この魔法は簡単に言うと、魔法の名前の中にも含まれているように、指定した範囲内を迷宮化する魔法だ!
迷宮化といっても、迷宮って意味じゃなくて、幻惑の魔法によって迷い易くなるってだけ。そんなに怖い魔法ではない。
うぅ、でもやっぱり下町に住む人ごめんなさい!迷っといてください!
『こっちか……?くそ、行き止まりだとっ』
『ちくしょう、バンボの姿も消えた、連携が取れねぇ……』
迷い易くなるってだけで焦るから、誘拐犯たちはそりゃあもう惑いまくり。
うんうん、上手く混乱してくれてるね。
「クロ!も~、やっと止まっ……あ、もう!だからちょっと待ってよ!」
ここまでくれば僕を追いかけるメリエちゃんに走らせる必要はもう無くなった。
だけどここで捕まったらあいつらとバッタリ鉢合わせなんてのもあり得るから、一応まだ小走りで逃げる。
でも、最終的にはどうしようかなぁ。
このまま宿に帰ってもいいんだけど、誘拐犯をのさばらせるとまた誘拐しに来そうだしねぇ。
……そうだ。
(誰かに代わりに捕まえてもらおうかな?)
しかし、ここで問題発生。
この異世界に警察みたいな治安を守る人がいるのか、ということがわからないのだ。
(誰もが胸踊る、冒険者ギルドは見つけたんだけどねー……)
どうもそこは誇り高い冒険者だけではないらしく、むしろ荒くれ者の方が多そうだった。
というか冒険者ギルドの前で喧嘩が勃発してた。周りも嬉しそうに騒いでたし。
(そんな脳筋な奴らじゃなくて、勇者のようなかっこ良いお兄さんお姉さんが都合良く誘拐犯を捕まえるわけないしなー……)
絶対に不審者を捕まえてくれる人?あー、うー、いー……
「にゃーん」
「クロー?ちょっっっと立ち止まってぇえ?……う~、む~、なんでか微妙に追いつかないんだけどぉ……」
どうしましょうかね。
あ、メリエちゃんはまだ頑張ってね。
……そこでピキーンと天啓が降りてきた。そうだ、あの手があったじゃないか。
思い立ったが吉日。
探知魔法《僕は何処に》を使い、ある場所を見つけ、目的地に定める。
余談だけど『最果ての霊峰』の迷路もこの魔法で調べていた。意味はなかったけど……
(というより、時空魔法が便利だなぁ~。これがあるだけでチート過ぎるよ)
「にぃー(こっちだねー)」
「もー!!いーかげんにしてなさいクロ!!脚疲れてきた!!」
ありゃ、メリエちゃんの精神が限界に近いね。堪忍袋の緒が切れる前にサクサクと行こうか。
目的地に段々と近づくにつれて、僕はわざとメリエちゃん、誘拐犯たちとの距離を縮めていく。
そして緩やかに《この事件は迷路入り》を解いていき、僕たちは大通りへ続く裏道を小走りしていた。
『はぁ、はぁ……バンボ、やっと会えたぜ。もうこれ以上は危ねえ、中止だ!』
『あぁ!?こんなにコケにされて、尻尾巻いて帰れってか!?』
『……そう怒鳴るな、人目が多くなってきた』
『後がないのに、引けるかッ、こうなりゃ捕まえて即行で奴隷にしちまえ』
誘拐犯、総員四名。揃ったね?固まってるね?疲れているね?
それじゃあ、飛んでらっしゃい。
ボンっと音が響き、立ち止まって上を見上げると、誘拐犯四人は仲良く飛ばされている。おー、叫んでるね。コメディ映画みたいだ。
なんてことはない。土属性魔法を応用して、地面を跳ねあげて、飛ばしただけ。これに名前は要らないかな。
そこで僕はひょいと追いついたメリエちゃんに持ち上げられる。
「はぁー、はぁー……クロったらやっと捕まえた~。て、ここに出たのね。お父さんに会えるかな『うぁぁああ……!!』って、今なんか聞こえた?」
メリエちゃんは首を傾げたが、気にせず戦利品の荷物を入れるバックに僕を押し込んだ。
ちっちゃい子猫だからね。入れたくなるのはわかる。
あーっと、誘拐犯たちへ行う魔法はまだある。
今度は重力魔法で四人を固めてから、僕の目の前にある着地地点に穴を開ける。
そして穴に落ちた時に死なないよう、風属性の魔法でクッションも設置。
……そして数秒後、その穴にズボッと四人が入っていった。いえすホールインワン!
どうやら、全員気絶してるみたいだね。死んでないよね?
メリエちゃんの身体がビックぅと跳ねたのがわかる。
「きゃあ!なになになに!?ひ、人が、降ってきた……?」
(ここまでの流れに名前を付けよう。んー……《ゴルフ》でいいや)
「こいつら何者だ……空から降ってきたぞ」
「……不審者には変わりない。捕らえるぞ」
「おう」
「なんなんだ……穴が出来たかと思えば……」
はい。僕たちは今、王宮前に来ています!ふふふ、作戦通り。
誘拐犯たちを穴から取り出しているのは、ゾロゾロと集まった王宮の守衛さんたち。
ごめんなさい、お疲れ様です。
ここに来てるはずのモオゴさんとミスダさんに会えないかなー、と思っていたら。
「あ、お父さん!」
「メリエ!?どうしてここに。それになんだこの騒ぎは」
モオゴさんとばったり。どうやらミスダさんは居ない様子。
「なんかねー、人が空から降ってきて、王宮の門の前に出来た穴に入ったみたいなの。私見ちゃった!」
「……そうか。クロは?」
「バックの中だよ……ってそうそう!クロったらね、酷いんだよー!?あのね、」
「待て!……ああ、その。宿に戻るぞ、お父さん疲れちゃってなぁ」
「じゃあ早く宿に帰る?」
「……そうだな」
モオゴさんは不自然なほど、穴が開くほど僕が入っているバックを見つめてきます。
モオゴさんの僕への警戒心が止まることを知らないようです!
……あれー?




