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勉強の時間です。

ざっくりとした説明回。ほんのり長いです。

 豪華な扉の奥にいる魔王。あまりのテンプレ、お約束だ。

 僕はあんぐりと口を開けて(猫だから可愛いはず)返事も出来ないでいた。


『どうした?小さき王よ。我の言葉がわからぬ訳ではなかろう』


 なによりプレッシャーがやばい。

 今までの魔物は怖かったけど、たぶん魔物ルールが働いて身が竦むことはなかったんだけど……

 本能的に、目の前の巨大なドラゴンには勝てないと感じている。動けない。


『ふむ。まだ赤ん坊であるし、この姿だと息が苦しいか……仕方ない』


 そう言うやいなや、ドラゴンの身体が極彩色に激しく発光しだす。

 眩しさに目を細めていると、巨大なドラゴンは消え、光の中から人間の姿をした女性が現れた。身体のラインが見えないゆったりとした白い服を着ている。


『どうだ?これならまだ話せるだろう?』

『あ、うん。大丈夫、です』


 黄金色の髪を、複雑に、豪華に結んだ髪型は迫力満点だ。顔は彫りが深いラテン系美人。


(凄い!No.1キャバ嬢みたい)

『失礼な事を考えてないか、小さき王よ』

『滅相もないです』


 危ない危ない……鋭いなぁ。


『……産まれて間もないが、やはりとんでもない魔力量だな。それに、魔法も使いこなせている』

『やっぱり変なのかな?』

『普通なら、魔法は精神年齢が深く関わっておるからな。どんなに才能があろうと赤児のように未熟なら下級魔法さえ使えないはずだ』

『えっと、僕、実は転生者なんだ。だからだと思うなぁ』

『……なんと、そうであったか……ふむ、それなら納得がいく。だが肉体の精神年齢に引っ張られているようにも見受けられるな』

『あぁ、僕もそんな気がしてたんだよね。なんか子供っぽい思考と口調になっちゃうんだよ』

『なるほど』

『ねぇねぇ』

『なんだ?』

『ところであなた誰ですか?』

『な、なんと!?』


 美人さんだから驚く顔も様になるなぁ、羨ましい。まぁ猫は全部の動きが可愛いけどね!


『我の事も知らずにのうのうと会話していたのか、小さき王よ……』

『はい。ごめんなさい』

『いや。いや。構わん。転生者だろうと、産まれたてならば仕方がなかろう。ならば、どこまで知っておる?』

『なにをですか?』

『己のこと、世界のこと、我のこと……様々だ』

『そうだね……この世界には魔法がある!』

『然り』

『この世界には魔物が居る!』

『然り』

『ここは洞窟!』

『……正確には迷宮(ダンジョン)だが。まぁよい』

『僕は魔法が強い!』

『然り』


 あと可愛い猫の姿、と他人に言うのは流石に恥ずかしい。


『……だけです!』

『……うむ。理解した。むぅ、何処から話すべきか』


 困ったように美人ドラゴンさんが顎に手を当てて考える。


『あ、じゃあドラゴンさんのことがまず知りたいです!』

『我か?……よかろう』


 居住まいを正して、凛々しい雰囲気の鋭さを増す。


『こほん。我は『最果ての霊峰』の主……終焉の天龍(テロスオセロス)である!!』


 声があまりに大きくて思わず《侵入禁止区域》の最大出力を出してしまう。

 で、数秒待ったけど、続きはない。


『……終わり?』

『うむ』


 どうやらコミュニケーション能力が残念な方のようだ。

 でも名前と肩書きの仰々しさからして、強くて偉い魔物なんだなぁと悟る。


『じゃあ、テロスさん。僕はどんな魔物なのかな?』


 これもとっても知りたい。


 だって何ヶ月もこの……『最果ての霊峰』かな?を、彷徨っているけど、同族らしい魔物に全く会えないんだもん。

 カリィノ(僕)も可愛いけど!他の猫も見たいんだよぉ!


『我が名はテロスオセロスであるぞ……良い質問である、小さき王よ。小さき王は言うなれば、原始であり頂点の魔物だ』


 え……なにそれかっこ良い。


『我も含めて通常の魔物は親が必ず存在する。我の親など数万年前に死んだがな……だが、小さき王は根本が違う』

『ある一定の場に想像もつかないほど莫大な魔力が溜まり、心臓部たる『魔始石』が生まれる……小さき王だと額のものであるな。それが意思を持ち、受肉したのが『王』と呼ばれる、始祖の魔物である』


 ほー、石だけに意思ってか!

 ごめんなさい。


 なるほどね。僕が産まれた時に親が居なかったのはそういうことだったんだ。


『やっぱり、始祖って強いの?』

『当然である。我でさえ肉体の構成に使われている魔素は7割強といったところだが、『王』は10割全てが魔素で完成している』

『……それが凄いのかどうか、僕にはわからないんだけど』

『単純に言えば、万物の根源である魔素だけの身体ということだ』

『僕の身体にはこの世にある普通の物質がちょびっとでも無いってこと?』

『然り』


 ほえー、うんうん、なるほど。

 それなら確かにご飯も必要ないわけだ。万物の根源なら仕方ないよね。よくわからないけど。


『うん、色々とわかってきたよ。次はねー……』

『では、ひとまず世界のことを話そう』

『はーい。……よいしょ』


 僕は丁寧にお座りしてるのが辛くなったので、お腹を地面に付けて座る。いわゆる箱座り。


『……。この世界の名は『ムッターマド』。形は球状である。一周はおよそ6万キロメートル、最大の高低差は2万と千メートルほどで、大陸が六つに分かれている』


 うーんと、ちょっと地球より大きいのかな?


『一番大きな大陸には人間や亜人が住み、二番目に大きな大陸には龍族が、三番目には精霊が住む。大きさが四番目以降には魔族が住む。魔物はどこにでもいる』


 へぇ~、そんなに場所ごとにハッキリ分かれてるんだ。


『僕たちが居る大陸は何番目の大きさですか?』

『最も小さい、六番目だ。そして最も険しい大陸とも呼ばれている……らしい』

『らしい?』

『うむ……我は産まれた時からこの大陸というか、この迷宮というか、この部屋からすら出たことが無いのだ』


 部屋という表現が果てしなく奇妙だなぁ。そして生粋の自宅警備員とは恐れいった。


『じゃあ何処でそんなに知識を?』

『雑魚の魔族を遣わせて情報を集めさせた。この部屋の前に立っている……はずの奴らだ』


 ああ、なんだ。『悪魔さん』のことか。ホント残念な人たちだね、可哀想でもあるけど。


『小さき王よ、他に聞きたいことはあるか?』


 テロスさんは屈み、なるべく顔の距離を近付けてそう訊ねてくる。うーん、猫視点の美人。悩ましい。


『いやぁ、実を言うとまだまだあるんだけど……もういいや』

『ほう?何故だ』

『だって、全部知っちゃったらつまんないでしょ?これから世界を周るのにさ』

『……もしや、この迷宮を出るつもりなのか?』

『え!もしかして駄目だったりするの?』


 異世界の猫探索の夢がァ!


『……ふ、そんな訳はない。我としては、安心したというべきか』

『え、なんで?』

『それもまた当然である。強力無比な『王』が産まれたとなれば、本来なら迷宮の主である我はその座を退かなくてはならなかったからな』

『いやいやいや!僕、そんなことしないよ!』

『ああ、我もしたくない。産まれたての赤ん坊と死闘など、我の誇りが許さん』


 テロスさんともし闘っても、勝てる気が全然しないんですけどね。瞬殺される自信がある。


『テロスさん、もしかしてその気だったの?』

『テロスオセロスだ。うむ、我の全てを託してから主の座を譲るつもりであった』


 いやぁ……僕が主になったら、ここに辿りついたヒトがかなりガッカリするよ。だってこんな大きな玉座に僕だよ?猫だよ?


『そっか。でも、僕、この世界を全然知らないから、知りに行くよ』

『……我が教えてやっても、良いのだぞ?』

『それって又聞きだよね』

『ぬ、ぬぅ……そうだが……』


 僕のことを赤ん坊、産まれたてと繰り返すテロスさんの心境は、子を心配する親と似てるのかな。


『テロスさんが見てない世界を、直接見て、楽しんでくるね』

『……うむ』

『それで、たまに帰ってきて、どんなことを体験して、どんなものを見たか教えてあげる!』


 ポカンというか、言葉の意味を頭で噛み締めているような表情。こんなのも似合うんだから、美人はお得だね。


『……ふっはっは!それは、それは。小さき王、楽しみにしてもよいのだな?』

『うん!勿論!』


 そう笑顔(猫は目でモノを語るんだよ!)で返すと、テロスさんは僕を抱き上げる。


『では、一番大きな大陸……リューノルガ大陸に行くか?我なら魔法で一気に転移させる事が出来るが』

『うん、そこが良いな。お願いします!』

『……何十年、何百年でも待っておるからな。必ず、旅の話をしにくるのだぞ?小さき王よ』


 ……あ!そうだ、今こそ名乗るべきじゃないか!


『そういえば、まだ僕の名前を言ってなかったよね……僕はカリィノ。猫だよ』

『……カリィノ、だな。憶えたぞ』

『……絶対に帰ってくるからね、ありがとう!テロスさん!』


 我の名はテロスオセロスだ……と言われた次の瞬間、僕は何も無い大空に投げ出されていた。


 眼下にはリューノルガ大陸とやらの、「全貌」が見えている。


 ……どんだけ高い所に転移させたの?馬鹿なの?煙なの?


 僕は脳裏に浮かぶ美人ドラゴンさんに溜め息をつき、苦笑しながら、自然な重力に身を任せることにした。

『王』:人間界では存在すら疑われている幻の魔物。姿形は定まっておらず、魔物のヒエラルキーの頂点に立っているとされる。


『タナトス』:討伐レベル測定不能。全身黒躯で、角と翼を生やす魔族。百年に一度ほどの間隔で人々に死という形の絶望を与えている。存在が確定されている魔族の中でも最悪の存在の一つとされる。


『終焉の天龍(テロスオセロス)』:世界の始まりと共に産まれた魔物。この世の終末を始める存在。人間界の御伽噺にたびたび邪神や救世主として登場し、空想上の魔物、もしくは魔族とされる。

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