本日は祭りです。(前)
……本日は祭りだー!
なんでも今日は普人族の国の建国記念の日らしく、人々は踊れや歌えやの大騒ぎだ。
普段は陰気な雰囲気があるが、それも何処かへ吹き飛んでいる。
普段の営業の代わりに出店が立ち並ぶ大通りはそんな人で溢れ返り、皆、実に楽しそうであった。
出店の中には武器屋や防具屋もあり、在庫品を叩き売りしているようだ。
見ているだけでワクワクしてくるなぁ!
「凄いですねっ、ご主人様!お祭りですよ!」
((こら、ライラ。今は僕しか居ないんだから、ちゃんと念話で話し掛けなきゃダメだよ?))
((あぅ……ごめんなさい。念話、苦手なんですよぅ))
僕はライラの手(というかヒレ?)に抱かれながら、楽しそうな人でごった返す中を流れに任せて進んでいた。
本来ならゴゴも参加するはずだったのだが、ギルド経由で王様に護衛を頼まれてしまったらしい。
最近、亜人の国で活躍する『黒鉄騎』を披露して、繋がりがあるのを見せる意味合いもあるらしいけどね。やれやれ。
ゴゴも随分と渋っていたけど、そんなに祭りに行きたかったのかな?亜人の国でそういうのがあったら連れていかれてあげようかな。
((ご主人様、ご主人様。何か買ってもいいですよね!))
((うん、いいよ。色んなのを買うために少しずつね?))
((はい!))
我らの財政担当のゴゴさんに渡された額は一万ネメア。まぁ、子どもが遊ぶにしたら少しだけ多いくらいかな?
とは言っても、もう悪い人に絡まれてもライラは余裕で対処出来るけどね~。
「むむむ!あそこから美味しそうな匂いがしますよー!」
ライラが可愛い声を上げながら行った先は、魚屋さんの出店だった。丸ごと焼かれたものや、切り身の唐揚げがどっさりと売られている。
気の良さそうなおっさんは近寄ってきたライラを見て、気持ちのいい笑顔を浮かべる。
「おう、獣人さんかい?珍しいな。ウチのはどれも美味しいぜ!」
「はい!えーと、これください!」
あまり迷わずにライラが示した先にあるのは、おっさんの背後にある調理前の生魚。僕はもうわかっていたけどね。
魚屋さんのおっさんは苦笑して頭をポリポリと掻く。
「あー……やっぱ、獣人はこっちの方が好きなのか?」
「いえいえ、獣人全員という訳ではないですよ?私は生の方がが好きなんです!」
「はっはっは!それじゃあ、生の魚を買い上げだな?300ネメアだ」
「……はいっ、丁度です♪あっ、小さいお魚もくれませんか?この子の分で」
「あいよ!」
僕は地面に降りて、受け取った小魚を極小の火属性魔法で上手に炙りガジガジと骨ごと齧りつく。
生きる上では食べなくてもいいんだけど、嗜好品みたいなものだよ。
((それよりも良かったね。魚屋のおっさんが好意的で))
((ああ、そうですね~。あそこまで良い人はこの国では久しぶりな気がします))
生魚に舌鼓を打つライラと念話で会話する。
僕が言ってるのは、獣人の差別についてだ。今のはむしろ珍しい対応と言える。
身体の部位は、
亜人は人間8割、獣2割。
獣人は人間2割、獣8割。
といったところ。人間の特徴が殆どの亜人に比べて、より動物らしい獣人は普人族には忌避されやすいのだ。
まぁ、それもこの国に限った話だけど。
何度かライラを連れて亜人の国のギルドに寄ったけど、そこでは非常に好意的に受け入れられてたからねぇ。
「あっ、アレも美味しそうです!良い匂~い!」
僕も小魚を夢中になって囓っていたら、果物の甘い香りに惹かれたライラがさっさと行ってしまった。
ライラがはぐれることはあっても、僕はちょちょいと魔法を使えば直ぐに位置を特定出来るからなぁ。ほっとこ。
地球基準で考えればライラも立派な中学生。お金の使い方くらい分かるでしょ。力はサイクロンのようなものだけど。
僕は何処からどう見ても人畜無害な可愛い猫だから、こうやって売り子の人の足元に擦り寄って「にゃ~ん」と鳴けば……
「あらぁ!可愛い猫の魔物ちゃんね!ほら、これあげる」
お姉さんから貰った小さく千切られたビーフジャーキーを噛みながら、人波の間をすり抜けて見学する。
猫の視点の高さでは人の足しか見えないので、ちょこっと上空から俯瞰するように《壁に耳あり障子に目あり》を発動しておく。
(お~、みんな楽しそうだねぇ。お、ライラがあんなところまで……あー、そういえば昼過ぎにパレードがあるんだっけ)
何気ないことをつらつらと考えながら人や、街を観光する。
人として紛れられないのは残念だけど、こうして空間を共にするだけでとても楽しいから良しとしよう。
(ライラ、さっきから食べ物系ばっかり買ってるなぁ……太るよ?それと、僕が居ないことに気づいてないよなぁ、アレ)
本当に忠誠があるのかと疑いそうになるけど、あの純粋な少女には無駄な思考かな。
我ながら過保護だなぁと思っていると、明らかに楽しげな人々と違う空気を醸し出す奴らが居た。
あんさんがた、僕からすれば怪しげなオーラがだだ漏れですぜ。
暗い色調の服装に身を包んだ連中は、さりげなく一定の距離をとりながら歩いている。プロの内に入るだろう。
どうやら何か……いや、誰かを捜しているようだ。
(ほほう……ここは僕がしゃしゃり出て、捜されている人を保護でもしようかな~)
やれやれ、厄介ごとには首を突っ込みたくないんだけどなぁ。勘弁してくれよ……みたいな主人公な感じで!ふふ。僕かっこいい。
(さぁて、彼らの捜し人は何処にいるかなぁ?慌ててるから、心拍数が高くて、身を潜ませるようにしてる人……んー……ん、あれかな?)
そう時間も掛からずに、追われているだろう人物にヒットする。
条件に当てはまったのは素朴な格好の少年。帽子を抑えて走っており、時々振り返ったりしている。
そこは奇しくもメリエちゃんを誘拐しようとした奴らを惑わせた下町だった。
しかも、怪しい男たちもその下町に向かい始めている。もしかして存在と位置にはもう気付いていたのかな?
(よぉし、最近はゴゴとライラしか派手なことをしてないから……僕も暴れちゃおうかなー!)
僕は《隠居生活》と《空飛猫》を同時に発動させながら少年の元へ向かう。
と言っても、戦闘機を意識した《空飛猫》だから、この距離だとほんと一瞬なんだけど……小回りが利かないかもだから、むしろ時間が掛かっちゃうかもなぁ。
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「ハァ……!ハァ……!」
奴らが来た、完全に自分の失態だ。
地味な格好で走る者は後悔する。どうして安易に誘い出されてしまったのかと。
その者は、土地に馴染みの無い者ならどちらに進んでいるかもわからなくなる裏道を、むやみやたらに走り続けていた。
寝ている浮浪者の上を「ごめんなさい!」と声を掛けながら飛び越えていく。
しかし、地味な姿の者が進んだ道の先が無いことに気付き、急ぎ引き返そうと振り返る。
「やっと見つけましたよぉ、姫様ぁ」
「くっ……!」
粘着質な声を出し、来た道に立っていたのは普通の格好の男。
だが、話し掛けた内容が一般人などではないことを明確に示していた。
地味な姿の者……姫様と呼ばれた者が、目の前の男をどうすべきか思考を巡らせていると、男の後ろからゾロゾロと似たような男たちが現れてしまう。
「逃げよう、あわよくば倒そう、などとは思わないで下さいね?怪我をさせずに生け捕りが条件ですからなぁ」
「近寄らないでっ!私の近衛兵たちはどうしたのですか!」
「んー?あぁ……あいつらですか?残念ながらですなぁ、最初から俺らの仲間なんですよ」
「そ、そんな……」
「そういう訳で、とっとと捕まって下さいな。依頼人が今か今かとお待ちなんでね」
「……っ」
一分の隙も見せずにゆっくりと距離を詰めてくる男たち。
姫様と呼ばれた者が、いくら後ろを振り返ろうとも、あるのは壁のみ。縋りつこうが何も起きない。
「往生際が悪いですなぁ。逃げないで下さいよぉ、逃げられないんですから」
「い、嫌です!来ないで下さい!」
絶対的な勝利の立場にあっても、男たちは笑っていない。
金の為に、危険を犯している仕事は最後まで気が抜けない。
不測の事態が起こるかもしれないからだ。
「……誰か、誰か、助けて下さい!」
まるで応えるように。
ぶわっ、と一陣の風が起こる。
「にゃおん」
悲痛な叫びに返事をしたのは、気の抜けた猫の鳴き声だった。




