奴隷を購入です。
((……嫌です))
((だから、なんでよー!買ってよー!奴隷買ってよー!))
聖騎士団との模擬戦(やっぱり圧勝だったらしい)を終えたゴゴに拾ってもらって、奴隷を買いに言ってと命令したらキッパリと「嫌です」と断られた。
それこそ「御意」って言うところでしょ!
それで。
奴隷売場(っていうのかな?)のある地下の近くで、念話の応酬を繰り返している訳だ。
路地裏で目立つ鎧を付けた人が、猫を抱きかかえて突っ立っているという奇妙な図である。
((……私がいるではありませんか。それに、奴隷を買うとなると様々な面倒な事が付きまといます))
((僕が面倒見るから!ゴゴは、ほら、命令違反出来るくらいに自立しているし。有名人になっちゃったしさ!))
((……。そうですけど、最低限の主の命令は守っています。知名度に関しては、鎧を脱げばいい話です))
((でも、この前『ドルバム』で兜を取ってたよね?))
((……失策です……分かりました。ただし、私がそれで良いと判断した奴隷だけです。異論は認めません))
((ねぇ、ゴゴって、僕が造ったゴーレムだよね……?))
何はともあれ、無事に奴隷を買うことになった。
ゴゴに行き先を指示して、奴隷売場がある地下への階段を下っていく。
そこでいかにも用心棒といった風な男が一人絡んできたけど、ゴゴが人形遊びのように容易く叩きのめしたので、スルーも同然だった。
強引に売場に入った僕たちを出迎えたのは、意外にもサッパリした雰囲気の大工みたいに頑丈そうな男。
「いらっしゃいませ。あまりあのような荒々しい入店は遠慮したいのですが……貴方様なら歓迎致します」
「……私を知っているのか」
「ええ、勿論。『黒鉄騎』ことゴゴ様ですね?当店を選んで頂き有難うございます」
((……ね?僕の言った通り、有名になってるでしょ?))
「……案内を頼む」
「はい、かしこまりました。此方です」
不機嫌な(ゴーレムが不機嫌ってのも変だけど)ゴゴに雑に肩に載せられて、僕たちは奴隷の居る所に案内された。
すると。またまた意外にも、奴隷が住んでいる鉄格子の中は清潔感があり、奴隷も痩せてたりだとかは見られない。
《壁に耳あり障子に目あり》を使って覗いた時は、たまたま奴隷になる前は位の高かった人なのかなって思ったけど……
((奴隷って、もっと粗悪に扱うんじゃないの?って聞いてみて))
「……奴隷というのは、雑に扱うものでは?」
「ははは!ゴゴ様は昔の時代からやってきたのですか?そうですね、百年ほど前でしたらそんな扱い方もあったかもしれませんが……商品をわざわざ汚す必要もないでしょう?」
あーはいはい。そういうパターンですか、なるへそ。
檻の中は性別でしか分けられておらず、年齢の幅も広い。仲良しこよしって訳じゃなさそうだけど、別段、雰囲気が悪いとかも無いようだ。
((う~む……僕としては病気を抱えていて、誰にも買われず、痩せ細った、幸薄い美少女を買いたいんだけどなぁ。それで回復魔法を施して、美味しいご飯を上げて、心のケアをして、感謝され「ご主人様!一生付いていきます!」……とか言われたいなぁ、ふふ。))
「…………」
……はぐぁ!?げふぅあッ!
可憐な猫らしくないうめき声を出してしまったじゃないか。
((ゴゴ……なんで今、肩を突き上げるようにしたんだい……?しかも二回……身体は弱いんだよ、僕?))
((失礼しました。重心のバランス調整です))
そうだったのか……なら仕方ないね。しょっちゅう肩をブルンブルンさせてしまうんだったら、それこそ僕が根本から調整してあげようかな?
((主は、どのような奴隷を欲しいのですか?))
((そうだねぇ……出来ればさっきのみたいなのが理想だったんだけど。居なさそうだしね、思い切ってゴゴに任せてみようかな?あ!でも女の子がいいな~、男だとむさ苦しいし))
((……………………御意))
ということで。僕は大人しく、泊まっている宿屋で待つことにした。カンニングもしないようにする。
いや~、楽しみだなぁ。僕のゴゴが選んでくる奴隷だから、きっと素晴らしい子に違いないだろうなぁ!エルフっ娘とか?アルビノっ娘とか?ふふ。夢が広がるなぁ!
待つこと一時間。
ゴゴは約束を違えず、女の子……の奴隷を連れてきた。
そして、宿屋の中で説明を受けているところ。
「この子には本当のご主人が私ではなく、主であるということや、私がゴーレムであるということなど軽い説明は済ませてあります。さぁ、自己紹介を」
「え、えと……私は、ライラと申します!こ、こにょ度は!お、お買い上げ頂きありがとうございましゅ!あ、あわわ……」
「主は優しいから、慌てないで。ライラは親に見捨てられたところを奴隷商に拾われ、奴隷となっていましたが、教養があって謙虚な子です。それに可愛らしい」
「私が、か、可愛らしいなんて!あり得ないですよぉ!ゴゴさんのお顔の方が、美しいです!」
「私の顔は主に作られたものですが、有難う。歳は幾つでした?」
「はい!今年で13となります!えと……精一杯頑張りましゅ!あ!す、済みません!う、う~、恥ずかしい……」
「……どうですか、主?ご満足頂けましたか?」
どや顔(表情に変わりは無いが断言出来る)で、僕にそう言い放つゴゴ。ライラは恥ずかしそうに手……?で顔を覆っている。
ライラは可愛らしい声で、可愛らしい喋り方で、可愛らしい仕草をする女の子で……うん、結論から言おう。
ーーペンギンだ。
いや、ね?可愛いよ、それだけは確かに断言出来る。手をパタパタさせる動作は可愛かった。
でも、違うよ!?僕が求めていた可愛さってさぁ!こう、美少女に対する、萌えっとした感じなの!!
「こんな私ですけど……これから、宜しくお願いします、ご……ご主人様!」
……もうなんでもいいような気がしてきたなぁ。
こうして、ペンギンの奴隷(語弊がありそうな言い方だぁ)のライラが旅の一行として加わることとなったのであった。