魔法が凄いです。
深い微睡みの中にいた。
僕は、誰だ?何だ?
……ユウジロウ?そう、雄二郎。僕は、物集女雄二郎。
確か……死んだ。
そんで、生まれ変わって。
生まれ変わって?
ああ、神様に会ったんだ。
何に生まれ変わった?
そうだ、猫だ。
地面が冷たい。身体も冷えている。体は軽いのに、動けない。
「……にぃー(……ここは)」
声を出してみると、高くて細い鳴き声が漏れる。大きな声は出せない。子猫の鳴き声だろう。
周りを見渡してみると、そこは暗い洞窟のようだった。
子猫として転生した訳だから、親猫でも居るのかと思ったけど、姿が見つかる気配は無い。
立ってみようとするがそれ以前に体が上手く動かない。
ええいどういうことだ!
「にぃー!(ぐぬおー!)」
ジタバタしてみても、脚に力が入らない。しかし身体を見てみると、しっかりと四足動物である猫の足であった。
ジタバタしてる子猫の僕可愛いだろうなぁ。
(……はっ!?そう言えば、僕が猫になってしまったら、鏡でもない限り、舐めるようにして全体像を見れないじゃないかぁー!)
……うーん、まぁ良いや。他の猫を探して、堪能するまでだ。
とにかく今は。
「にぃー!(動けぇー!)」
動かなければ何もできねぇ!
それから疲れるまでジッタバッタともがき続けた。
######
転生してから三日くらいが経った。うん、多分、三日目。
三日も経ったけどお腹は空かない。きっと魔物ルールだからだね。
今では自由に歩き回れるようになったんだけど……この洞窟、怖過ぎる。寒いし。
太陽の光が全然入らないのか、すごく暗い。猫目のお陰で、暗くても見えなくはないが。
最初に目が覚めた所は安全地のようだけど、ここでは少し場所を離れるとあなたラスボスですか?と言いたくなるような魔物が沢山いる。
例えば、えーとね。
『コォォォォ………』
……今、安全地を横切った、全身に素材のわからない鎧を纏った目測で身長五メートルはある鬼いさん。体格も超マッチョ。
まぁ、あれは序の口なんだよ。
他には、そうだね。
『ギャバハハハハハハハ!!ブゥバァァァアアアアアア!!!』
……今、鬼いさんを雑魚のように、いとも容易く手の大鎌で両断していった、天井を素早く這う大妖怪っぽいもの。姿までは怖過ぎて見てない。というか速くて見えない。
「なぁー……(どうしよう……)」
はぁ、と猫らしくない溜息をつく。
あと色々試したけど、言葉は喋れなかった。声帯が言葉を話すのに適していないんだろう。
神様に言われるがままに(猫を希望したのは僕だけど)転生したはいいが、何をどうすればいいのかわからない!
外に出ようにも、あいつらを始める魔物が恐ろしくてどうしようもない!
(……そういえば、神様。この猫が強くて珍しい種類だって言ってたなぁ)
近くの岩に向かって猫パンチを放ってみるが、柔らかい肉球がぷにゅんと岩に触れるだけだった。
そりゃあそうか。立って歩くのに苦労したのに、力が強い訳がない。
(うーん……じゃあ、力じゃなくて、魔法が強い魔物なのかな?)
魔法、ね。
物集女という自我を持ってこの方、魔法なんて使ったことないっすよ。だって普通の人間だったもの。
今なら魔力みたいなものがあるのかな?
「にゃー!(うぉー!)」
声を出して全身で力んでみる。やっぱり何も無いか、と思ったら。
(お?)
身体の中で、熱い液体が巡る感覚があった。これがもしかして魔力なのかな?
魔力(仮)を意識して、今度は魔法を使えるかどうか試してみよう。
(えーと、どうしようかな?水でも出してみようかな……水、水、水水水ー……)
うーんと念じていると目の前の空間に水が生まれて、ポシャっと地面に落ちた。
「にぃー!(おぉー!)」
今のは魔法、だよね?
……おお!すげえ!初めての魔法だ!
ふむふむ、次はどうしよう。火も出せるかな?
同じように火が出るように念じると、小さな火がボッと現れた。熱気が来るかとビクっとしたが、自分の魔法は熱くないようだ。どういう原理だろう。
いや、でも。感動というより。
「……にゃー!なぁー!にゃー!(……すげー!生まれて三日でこれは、凄いだろー!)」
きっとこの猫は天才だね!将来有望!僕だけど!
それと、言ってることと鳴き声が一致しないのも虚しい。
……いや、でもこれは楽しいなぁ!他の魔物たちが居なければもっと楽しかったけど!
ふふふ。魔法は想像力さえあれば色々と自由に出来そうだ。
僕の妄想力を最大まで発揮するぞ!僕は、中二病だ!うおお!
「なぁー!(やってやるぞー!)」
その日はずっと魔法を使い続けた。魔力切れなんてものがあるかと思ったけど、その前に睡魔が僕の瞼を閉ざした。
######
生まれて一ヶ月くらい……かな、大体だけどね。僕はまだ安全地に留まっていた。引きこもっているとも言う。
お腹は空かない。ほら、きっと魔物だから。
まだ子猫なんだけど、僕はもうこの異世界ですることの五割は終わったと思う。
「ほあー……可愛い……」
何故なら魔法の鏡(マジックミラーではない)を作りだし、僕の姿を舐めるように眺めることに成功したからだ。
この猫は僕じゃない。この猫の名前は「カリィノ」なんだ。この世界ではそう名乗ろうかな。猫として名乗る機会があるかは別として。
カリィノの姿は黒を基調として、尻尾の先が金色の猫だ。これらは分かっていたんだけど、魔物たる証拠を一つ見つけた。
額に縦に長い菱形の宝石が埋められているのだ。
これは、僕の魔力の源なんだろうと予測する。
ここを意識すると簡単に魔法を放つことが出来たからだ。
それと言葉を話せるようになった。言葉を話せる声帯を魔法で創りだした。これでもし人間と会っても話が出来る!
まぁ、たまに猫の声が聞きたくなってわざと解除するんだけどね。
「さて……もうそろそろ外に出たいなぁ」
一ヶ月も魔法の練習をしていた所為で、子猫が少し歩き回れる広さくらいの安全地が、六畳ほどに広がってしまっていた。
だってまさかブラックホールが作れるって思わなかったし……流石に死ぬかと思った。
「ブラックホールも作れる僕が!その辺の魔物に負ける訳がない!」
可愛いは、無敵なんだよォ!
意を決して一歩二歩と安全地から足を出せば、ほら、来たよ。奴が。
『ギャギャババババハハハハ!!ギャびびびびああああああ!!』
「ぬりゃああああ!」
僕は全身からかき集めた魔力を額に集中させて、一気に解き放つ!僕……いやさカリィノになら、やれる!
「は、か、い、こ、う、せ、ん!!」
大妖怪さんに向けて編み出した魔法を放つ瞬間「ああっ、やっぱり一撃必殺にしといた方が良かったかなッ」と思ったけどもういいやビィィィイイムぅ!
カッ、と暗い洞窟内が眩い光で満ち、やがて光は収束する。
パラパラと崩れた天井から石片が地面に落ちてきていた。
「やった、ね……」
疑問の余地は無い。
だって、僕の「はかいこうせん」が洞窟の天井に穴を開けてるからね。
これが、異世界の太陽光か。
えーと。感動?