体操服
「――誰か、私の体操服知らない?」
体育が始まる前の休み時間。
桐渓さんがみんなに尋ねた。
が、誰も答えようとしなかった。
桐渓さんが困ってる。僕が探さなきゃ――。
そう思ったとき、男子達に肩を掴まれた。
「畠中くん~、早く行かないと次の時間遅刻しちゃうよ~?」
ここでコイツ達の言いなりになったら、僕が桐渓さんを見捨てたことになってしまう……。
「あ、あの、僕、トイレに行きたくて……」
僕がそう言った瞬間、男子達の表情が曇った。
「……あっそ。じゃあ俺ら先に行ってるからな」
男子達はそう言って、先に行った。
――さっきの男子達の表情からして、桐渓さんの体操服はトイレにあるのかもしれない。
そう思って、僕は急いでトイレに向かった。
全部の個室を見ても、桐渓さんの体操服はなかった。
掃除用具入れのロッカーを開けると、水が入ったバケツの中に体操服があった。
名札を見ると、桐渓と書かれていた。
「うわ……」
せっかく見つけたけど、体操服は水浸し。
これじゃ返しにくいな……。
とりあえず余分な水分を絞って、桐渓さんに知らせることにした。
教室に戻ると、桐渓さんが丁度教室から出てくるところだった。
「あっ、桐渓さん!」
僕が呼び止めると、桐渓さんは足を止めて僕の方を見た。
「畠中くん?もう行ったんじゃなかったの?」
「そんなことより、あの、これ……」
僕が体操服を渡すと、桐渓さんが少し目見開いた。
「これ……どうして?」
「あの、トイレに置いてあって……」
なんだか申し訳なくなり、僕は桐渓さんの顔を見れずにいた。
「……そう。ありがとう」
「でも、体操服は水浸しだし……」
「大丈夫よ。先生には体操服を忘れたことにして、見学させてもらうから」
なんで桐渓さんは、こんなに強いんだろう。
それなのに僕は……。
そして、授業開始のチャイムが鳴った。
「畠中くん、早く行かないと先生に怒られるわよ?」
「え、あ、うん……」
桐渓さんのことがすごく気になるけど、僕は渋々グラウンドに向かった。




