黒蓮
■ 2024年4月7日。
黒蓮が六本木での生活に別れを告げた日。
家族揃って車に乗り込み、仙台へと向かう。所要時間はおよそ五時間。
その間、窓際に座った蓮は、自分の過去が少しずつ消えていく様子を眺めていた。
(もしかすると、これが最良の機会なのかもしれない……)
◇
中学時代の黒蓮は、二つの理由で一目置かれていた。
一つ目:成績優秀だったこと。彼はあらゆる課題を完璧にこなそうと努力した。
二つ目:六本木で最強だったこと。放課後になると、街の最も危険な裏路地に足を踏み入れ、不良やチンピラを殴り倒していた。
彼が彼ら全員に繰り返し尋ねた質問――それが彼という人間を決定づける問いだった。
「不良やってて、何がそんなにいいんだ?」
右頬の傷跡は、執行者として過ごした日々の記憶だった。
◇
高速道路の看板が、「杜の都」への歓迎の言葉を掲げていた。
「ここが仙台か……へえ」
「そうよ、蓮くん」と母が言った。「今日からここで新しい生活が始まるの。ね、あなた?」
「その通りだ、ママ!」と父が応じた。「早く慣れるといいな。五人で住める広いマンションを借りられたからな」
黒蓮にとって大切なものは四つあった。
父・黒篤。母・黒愛美。妹・黒咲奈。そして愛してやまない愛犬・パン。
◇
十五分後、彼らは新居に到着した。仙台市泉区にあるマンションだ。引っ越しはすでに済んでおり、中に入ると、全ての荷物がリビングに山積みになって待っていた。
「さあ、荷解きの時間だ!」と篤が宣言した。
「ワン……」とパンが声を漏らす。
「パン、トイレに行きたいみたい……」と咲奈が気づく。
「本当ね」と愛美が言った。「蓮、パンを散歩に連れて行ってくれない? ついでに近所も見てきて」
「荷物、手伝わなくていいのか?」
「大丈夫よ、息子。重いものはもう片付けたから。パンとの散歩を楽しんできて!」
「ワン!」
「わかった……行ってくる」
◇
蓮は新居を出て、近所を散歩した。
(パンはかなりやんちゃな犬だ。もうすぐ十歳になるというのに)
リードを引っ張ってあちこちに行こうとする。
散歩の途中で少し道を逸れ、七北田という公園の近くに出た。パンはそこで用を足し、蓮は袋で拾った。
「お前、何食ったんだよ、パン」
「ワン!」
二人は歩き続け、帰り道を探した。
「くそ、携帯忘れた……」
ベンチに座り、夕日が消えていくのを眺める。パンは地面に座り、彼の隣にいた。
「へえ? なんだお前ら?」と声がした。
蓮は横目で見た。ろくでもない風体の男が四人、近づいてくる。
「おい、ガキ。挨拶しろよ」
蓮は動じなかった。
「この公園には、他に絡む相手がいないのか?」
「おい、こいつ喧嘩売ってるぜ、ヒヒヒ」と別の一人が笑いながら言った。
最初の男がナイフを取り出した。
「坊や、持ってるもん全部よこせ。俺らに逆らうと後悔するぞ」
蓮はベンチから立ち上がった。パンは吠える代わりに、座席の上で体を丸めた。まるで当然の展開を待つかのように。
「今日は本当に、俺を怒らせる日じゃないんだよ、バカ共……よりによって仙台に来た初日に」
「新入りか、お前? ならこれから何度も会うことになるな、ガキ。名前は?」
「黒蓮」
「よし、黒蓮ちゃん。全部よこせよ」
蓮はポケットに手を入れた。何かを取り出すように。
「フフフ、言っただろ、素直に出すって……こういうタイプだよ。強がってるくせに、近づくと震え上がる。フフフ!」
蓮はポケットから手を出した。
そして中指を立てた。
不良たちは一瞬、言葉を失った。
「ぶっ殺すぞ、てめえ!」
ナイフが胸元をかすめた。蓮は軽々とかわし、その勢いを利用して、攻撃者の顔面に右ストレートを叩き込んだ。男はその場で倒れた。
残りの三人は一歩後退し、それから一斉に襲いかかってきた。膝蹴りで一人が倒れる。腹部への鋭い一撃で残り二人が崩れ落ちる。
「ひぃっ! 許してください! もう二度と絡みません、誓います……!」
蓮はリーダーのシャツを掴み、怒りに満ちた目で見下ろした。
「なあ、なあ、すみません……! あ、そうだ! 今日稼いだ金の一割をやる! いや、五割だ! 五割やるって誓う!」
「人間のクズが……一つ聞かせろ」
「なあ……レン! レンくん! 何だ、何を聞きたいんだ?」
「不良やってて……何がそんなにいいんだ?」
問いが終わる前に、すでに傷ついた顔面への頭突きが、不良を完全に気絶させた。
蓮は立ち上がり、息を吐いて空を見上げた。
「どうやら……この世界じゃ、永遠に平和は来ないみたいだな。行くぞ、パン」
「ワン!」
蓮が去っていく中、通りかかった少年が一部始終を目撃していた。彼は倒れた不良たちに近づき、リーダーを起こすのを手伝った。
「ありがとうな、友よ」と不良が言った。
「どういたしまして」
まだ痛みに耐える不良は、ナイフの先を少年の背中に当てた。
「こんなことしたくなかったが、お前も渡してもらうぞ――」
ドサッ。
少年はもう一度顔面に一撃を加え、完全に意識を奪った。
「あの男、見たことないな……」と呟きながら、蓮が消えていった方を見つめた。
◇
蓮は家に帰った。マンションはすでに片付いていた。
「蓮くん! 近所はどうだった?」と愛美が尋ねた。
「普通……静かそうな場所だ」
「六本木と比べたら、どこだって静かよ」と咲奈が言った。
「ああ、そうだな」
「もうすぐ夕食よ。その後お風呂に入って、早く寝なさい。明日から学校でしょ」
「うん……」と咲奈はあまり乗り気でない様子で答えた。
(普通の場所だといいな)
こうして仙台での最初の日が終わった。
◇
■ 2024年4月8日
蓮は六時半に起きた。新しいキッチンで朝食をとり、身支度を整える。今日は高校の入学式だった。
「蓮、息子よ、新しい高校への行き方はわかる?」と愛美が尋ねた。
「ああ……わかる。自転車で行く」
「道に迷うんじゃないわよ、バカ兄」と咲奈がからかった。
「ママに中学まで送ってもらえるお前はラッキーだな、この偉そうなチビ」
「ちっ。どうでもいいわ」
蓮は家を出て、自転車で新しい高校へ向かった。早めに着いた――何しろ初日だから――が、すでに校舎の中には人がいた。
彼の新しい生活は、仙台の中心にある清流高校で始まる。
(ふむ、目立たずにいたいなら、ジャケットのチャックはきっちり閉めた方がいいな)
入学式は、ごく普通に進んだ。その後、蓮はクラス名簿を確認し、自分の教室を見つけた。一組四番。
教室はほぼ満席だった。空いている席は少なかったが、蓮は自分がどこに座るべきか正確にわかっていた。
(ふむ……後ろに座れば、不良かサボりだと思われる。前に座れば、ガリ勉だと思われる……)
彼は真ん中に座った。自分より背の低い少年の隣だった。少年は緊張した様子で周りを見回しながら震えていた。少年が蓮を見た。蓮も見返した。
「よう、同級生」
少年はすぐには答えなかった。そう見えただけかもしれない。
「ち、ち、ち、ちわ……」
「吃音か?」
「ち、違う……でもちょっと緊張してる。ここに来るの、初めてだから」
「俺もだ。黒蓮。お前は?」
「明智悠太……です」
「よろしくな、明智さん」
明智は頷いた。
(彼のような奴と一緒にいれば、目立たずに済むだろう。これが最善の選択だ)
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——アキトシ・ネズオ




