その29 効率電車
疲れて駅に着くと
列車はホームに入っていて
発車まで十分
ゆったりと座席に座った
一日の労苦を
自ら労う思いで
その日は珍しく
缶ビールも手にしていた
しだいに席が埋まってくる
発車まで七分
今すぐ動き出せばいいのに
席が埋まるにつれて
座る間隔は
余分のないものに
きっちり訂正されていく
肩掛け鞄を
座席に置いていた
膝の上に置きなおすのが
もはや億劫だった
しかし知っていたのだ
発車までには満席になることを
いつものことだ
早く発車しろと
苛立つ思いでいると
「ここ空いてますか」
と鞄に目をやりながら
声をかけてくるのだ
出勤の電車も
たった二両
押し合い圧し合いの満員だ
詰め込まないと
効率が悪いのだ
鉄道会社にとっては
空席のある電車など
走らせる意味のないものだ
俺たちは
「効率」の上に乗っている
いつまで乗り続けなければならないのか
と俺はいつも考える
定年まで、という結論にやはりなる
できるならその前に下りて
自分だけのレールの上を
走り始めたいのだが
頼みの年金は
給付が五年も先送りされ
給付水準も下げられてしまった
七十を過ぎると
給付額は現役時の所得の
半分以下になるという
年金などは
枯れ木に水をやるようなもので
最も効率の悪い支出というわけだ
利を産めなくなったサラリーマンは
速やかに地上から消えるべしか
ふざけるな




