黒き雷
わたしには分からない
「伸びろ、勝利の道筋!ウイニング・ロード!」
セイムから放たれた帯が水平に何本も並び、ヒサメの周囲、長距離を囲うトンネルを形成し、
閉じ込める。
「くっ・・・決めに来るか・・・!」
セイムが大技を放とうとしていることは明らかだ。ヒサメはよろよろと立ち上がる。
「ヒサメちゃん・・・行くよ!」
「フ・・・いいだろう・・・来い!我が氷を越えられるのならばな!!」
二人の間は一本道。どちらも攻撃を回避できない。
「集い猛れ!我が魔導!」
セイムが右腕を前方に差し出すと、次々と帯が巻き付いて行き、張られたトンネルに触れる
程の巨大な円錐となった。
「見せてみろ!お前の力を!フェスタイス・ツァプフェン!」
それに対抗するように、ヒサメもまたトンネルぎりぎりの巨大なつららを生成する。
「イグナイト!」
セイムの右腕の円錐の底の部分が火が点いたように光を放ち始めると同時に、円錐が高速で
回転する。そして、トンネルを形成している帯を回転に巻き込みながら、より巨大に姿を変え
ながら凄い勢いで前進して行く。
「これが私の!フルスパイラル・エンドーーー!!!」
巨大に成長したセイムの円錐は、ヒサメの氷を容易く砕いた。
「・・・見事!!」
円錐がヒサメの全身を捉え、一気に炸裂した。
どうしてそこまで・・・
シツライはふら付きながらゆっくりと立ち上がる。周りを見渡すと、エンジュも、ヒサメも、
力無く横たわっていた。目の前には竜の女と犬の女。
「後はお主だけじゃ!」
二人が倒されたのだと理解した。
「エンジュお姉ちゃん・・・ヒサメお姉ちゃん・・・」
「イクスパルテ・ボックス!」
呆けているシツライを、再びあの魔法陣が囲う。
「氷です」
「うむ、頂くのじゃ!」
メルリアはワンコが生成した氷をどんどんと吸い込んで行く。
シツライは動かない。
「氷結の・・・メガブレス!!」
氷のように透き通ったブレスが一直線に捕われたシツライへと伸びて行く。
「染まり・・・砕け」
ブレスは直撃した・・・かのように見えた。だが、次の瞬間には掻き消えていた。
「な・・・何じゃと!?」
掻き消えたのはブレスだけではない。囲っていたシュリの魔法陣までもが綺麗さっぱり無く
なっていた。そしてその様相は明らかにこれまでとは違っていた。
シツライの身体が、黒い何かがバチバチと音を立てていた。シツライが徐に手を前方にかざ
すと、その周囲に黒い物体が無数に浮かび現れる。
「何じゃあれは・・・!」
「・・・見るからに危なそうですね」
本能が警鐘を鳴らす。どう対応するべきか、考える時間は与えられなかった。
「黒雷槍・五月雨」
その黒い物体が次々と放たれる。
「ワンコよ!わしの後ろに!障壁で防ぐのじゃ!!」
メルリアは巨大な障壁を張り、黒に触れないように対処する。しかし、
「ぬう!?」
たった一粒。ただそれを受けただけで障壁は砕け散った。続けて飛来するそれらを、竜化さ
せた腕で防ぐ。
「ぐう、がああああ!!」
その瞬間、メルリアの全身を雷を受けたような衝撃が襲う。
「メルリア殿!」
まだまだ黒は止まない。ワンコはこのままではメルリアが危険だと判断し、今度は自身をそ
の盾にする。
「う!・・・ぐううううう!!」
その衝撃はそれまでとは比べ物にならなかった。身体全身を外と内から引き裂かれるような
感覚。耐えられたり慣れられたりできるものでは到底無かった。
何のために・・・
シツライはゆっくりと、今度はシュリたちの元へと近付いて行く。
「や、やべえ・・・シ、シュリさん!やべえっすよ!」
「・・・・・・だねえ」
シュリの隠した魔法はまだ幾つも残っていた。だが、先程のメルリアの張った障壁が一瞬で
破壊された様を見るに、恐らくあの黒い雷のようなものには「魔法」に対する特効も含まれて
いると考えていい。だとしたならば、魔法で如何なる搦め手を行使した所で効果は無い。
「シュリちゃん!私が何とか引き付けようか?」
セイムが申し出る。それは助かるのだが、セイム自身もかなり消耗しているはず。更なる危
険に晒してしまうのはどうだろうか?
「切り札・・・出すしかないかねえ・・・」
「私、行くよ!」
「セイムちゃん!?」
着々と歩み寄ってくるシツライに居ても立ってもいられなくなったセイムは飛び出し、シツ
ライの目の前に立ちはだかる。
「私が相手だよ!」
「・・・仇!」
シツライの目が見開かれると同時に、その身体から黒い雷が溢れ出した。既に疲労したセイ
ムは反応が遅れ、その黒に飲まれてしまった。
「セ、セイムちゃんまで・・・」
「この状況では切り札を使ってもねえ・・・そもそも決めきれるかねえ・・・!」
切り札を使うにも、今のシツライには通用しないだろう。通用したとしても、倒すだけの強
力な技を持つのは、バンリだけだ。でも、今のバンリはあの黒い雷を纏うシツライに対し、恐
怖心を抱いてしまっている。この状態で決め手になる「魂狩り」が成功するだろうか?作れる
チャンスはたった一度。失敗すれば終わりだ。だが、最早迷っている時間は無い。
「バンリちゃん、任せても・・・」
とその時、シュリの正面、シツライの後方から光が伸びて来る。
「・・・ん」
それをシツライは軽く掃うように打ち消す。
「本当にしつこい・・・」
そこに立っていたのはメルリアだった。
「ふふ・・・シツライよ、わしの打たれ強さ・・・舐めるでないぞ・・・!この程度の痛みなど、慣れっ
こなのじゃー!!」
メルリアは吠えると、シツライへと突っ込んで行く。
「黒雷破!」
シツライの手から雷が放たれ、メルリアに直撃する。
「うぐううぬううう!!があああああ!!!」
だが倒れない。歩みを止めない。何度も何度もぶつけるが、それでも喘ぎ声を上げるだけで
決して倒れない。
「くっ!くふうっ!」
シツライは思わず手で口を押さえる。血だ。見なくても分かった。
シツライの『黒雷』は、全ての物や生き物に対して特効を持つ、強力無比の力。そしてその
「全て」の中に、生き物である自分自身も含まれているのである。
この血は、身体の限界を示していた。
「わしは・・・負けぬのじゃー!!」
「!!」
気付いた時には目の前に居た。だが、振るわれた拳を何とかかわす。しかし、
「あああああーーー!!」
太い尻尾がそこにはあった。それだけではない。その鱗は、仙人掌のように逆立っていたの
だ。気付いた所で、回避する術はない。
「ごおふっ!!」
無数の、硬く尖った鱗が脇腹に食い込む。そのダメージは大きかった。シツライは倒れると、
もう立ち上がる事が出来なかった。
「これで・・・仕舞いじゃ!」
メルリアは空高く跳び上がると、前転を繰り返し、逆立った尻尾に遠心力を溜めていく。
苦しい思いをして、傷ついてもたたかうの?
「身体も・・・体力も、もう・・・ここま・・・で・・・・・・せめて、あの竜・・・だけは・・・!」
シツライは身体を起こし、片膝を突く。そして、意識が虚ろになりつつあるその身体で、黒
い雷をたぎらせる。
「今だよ!ラキエルちゃん!」
その声と共に、シュリの直ぐ後ろに一人の天使の少女が突如、ぱっと現れる。
「命ず、解除せよ!」
黒い雷は消え去った。
これが「切り札」だった。三姉妹が気が付いてここに来る前に、シュリはラキエルに「動か
ない限りは姿が見えなくなる魔法」を掛けていたのだ。前回の戦いの時、ラキエルはその力を
使っておらず、その効力の強力さから不意打ちに最適の、まさに「切り札」となるとシュリは
考えたのだ。
「逆・大輪尾激なのじゃあああ!!」
メルリアが高速で回転しながらシツライ目掛けて降下する。シツライにはもう防ぐ手立ても、
回避する力も無かった。
その時だった。
「もう止めてよ!!」
突然それは現れた。片膝を付いた状態でも殆ど背丈が変わらないほど小柄で、特徴的な長い
耳を持った少女は、かばうようにシツライの前に両手を広げて立ち塞がった。
「メ・・・メルリアちゃんやめてーーー!!」
「メルリアさん!!止めろーーー!!!」
気が付き、辺りを見渡す。皆が慌てている。誰かに大きな声で呼びかけたり、泣いている者
もいる。直ぐ目の前の地面には、鮮やかな赤い溜まりがあった。
「あ・・・は・・・はっ・・・はぁ・・・はぁっ・・・ぐっ!」
息が揚がり全身にかつてない程の悪寒が奔る。恐る恐る尻尾に触れてみると、ぬるっとした。
その感触は液体で、色は・・・・・・
「わ・・・わし・・・が・・・・・・や、やった・・・のか・・・・・・?」




