竜王様、暴れる
死神界「ゼントルム」。シュリの頼みを受けてやって来たカイエル、メイエル、メルリア、
そしてメアトリス。
「何故姉上まで来ておるのじゃ?」
「何故じゃねだろ。お前ら、天界城に簡単に入れるとでも思ってんのか?」
頼みの物を手に入れるためには、天界城の内部にある書物庫に行かなければならない。だが、
天界城は死神界の長である「統領」の住まう場所でもあり、自由に出入りする事は出来ない。
「助かります、メアトリスさん!」
「だな。竜王様が居てくれるんだ、これなら心配無さそうだな」
発端は退院したメルリアが一旦、着替えるために大社に戻った際、久しぶりに戻ってきたと
言うのにまた直ぐに出掛けるというので、そんなに急いで何処に行くのかと訊かれ、話した結
果、メアトリスが同行する事となった。
「何だお前達、中に入りたいのか?」
巨大で重厚な門の前に門番と思われる人物が一人、武器も持たず、門にもたれ掛かって座っ
ている。
「じゃあ、これに入りたい理由を書いてもらえる?」
その男はメモ帳を取り出し、差し出してくる。代表でメアトリスがそれに記入し、男が内容
を確認する。
「ああ、書物庫か。いいよ、今開けてもらうから。おーい!客人だー!開けてくれー!」
男が大声を上げると、重厚な門は重い音を立てながら呆気なく開かれた。
「さ、どうぞ、書物庫へは中の人に訊けば案内してくれるから」
四人は門を潜り、天界城の中へ入る事に成功した!
「簡単だったな」
「あっさりした人だったね」
「姉上・・・」
「う、うるさい!俺だって来るのは初めてだったんだ!簡単に入れるとは思わねえだろ!」
天界城の中に入り、大声を上げていると、一人の給仕者が気付いて声を掛けて来た。
「今し方いらしたお客様、ですね?どちらに御用でしょうか?」
「書物庫です!」
「かしこまりました。では、ご案内させて頂きます」
案内されながら歩く廊下には、装飾等は見られず、城と言うにはいささか殺風景だった。
「何じゃか城っぽくないのう」
メルリアが口を漏らす。
「メル!黙れ!」
「ふふ、構いませんよ。統領が装飾は好まない方でして。それに、このお城は昔、優秀な人材
のみが通う事が出来る学校だったと伺っております」
「学校!?ここがか・・・」
それにしてはでかい建物だが。まあ、昔と今ではかなりの違いがあると言う事は学校でも学
んで知っているし、そう考えると特段不思議でもないかもしれない。
「のうのう、何か面白いものとかないのかの?」
「メル、殴るぞ?」
「面白いものですと・・・・・・そういえば皆さんは、ここにいらしたのは初めてで御座いますか?」
「そうですね、初めてになりますね」
「じゃから、こんなに簡単に入れるとは思わなくてのう。姉上が・・・ぶふっ!」
「よし、殴る」
メアトリスがメルリアの胸ぐらを掴む。
「まあまあ、落ち着いて下さい。それよりもそこ・・・そこのドアを開けてみて下さい」
その給仕者は一つのドアを指差した。だがそれは選んで指差したようには見えなかった。
「これかの?」
解放されたメルリアがわくわくしながらドアノブに手を掛け横にスライドさせる。
「ぬお!?何じゃこれはー!!」
そのドアの先は、畑だった。しかも、部屋の中だと言うのに行き止まりが見えず、空間が何
処までも続いているように見える。
「何だこの広さ!?城の敷地よりもあるんじゃないか!?」
「まるで別の世界みたいだね・・・」
「これは統領であるリベラール様の所業に御座います」
その給仕者が言うには、死神の統領リベラールの能力である「存在」の力で、部屋の存在を
引き伸ばして空間を広くしているらしい。聞いても原理がよく分からない。シュリならこうい
う話好きだろうし、理解も出来るのだろうか。
「じゃが、城の中に畑とはのう」
「リベラール様のお仕事は座ったまま行うものばかりなのですが、リベラール様は長くじっと
していられない方でして、お体を動かしたくなられた時に、そのエネルギーをためになる事に
使いたいと、畑を作る事にされたそうです」
「すごい人なんだな・・・城の中に畑を作るという行動力とか・・・」
「でも、じっとしてられないって、なんだか似てるね」
理解出来ない程の凄い力を持っているのだと、遠い存在のように感じていたが、じっとして
いられない人だと分かると、途端に親近感が湧いてくる。
「さ、このドアの先が書物庫になります」
そのドアの先も、やはり広かった。その広い外周をなぞる様に、手を伸ばしても到底最上段
まで届かない程の高さの本棚が立ち並び、どの本棚もびっしりと本が詰まっている。中央には
本を読むためのテーブルが幾つかある。今は誰も居ないようだが。
「す、すごい量の本だな・・・」
「本棚だけにの」
「この中から探すの・・・?」
途方も無い程の本の中から目的の内容の本を探さなくてはならないのだ。気が遠くなる。
「こういう所には司書が居るもんだろ、おい、司書を紹介してくれ」
「えと・・・居ませんよ?」
「は?」
「居ません。司書は、居ないんです」
「何でだよ!!こんなでかい書物庫だぞ!司書の一人や二人居なきゃ駄目だろ!!」
「でかすぎるので、誰もやりたがらないんです。城の中で働いている方は皆さん、司書をやっ
ている暇などありませんし、ならばと外へ呼びかけて来てもらっても、この本の数を見た途端
に皆さん、帰って行かれました・・・」
どうやらそれ以来、本を読みたくば自分で探すのが当たり前となり、そんな暇も無いため、
殆どこの書物庫は利用されなくなったらしい。
「な・・・何てこった・・・」
どうやら地道に探すしかないらしい。もう帰りたいくらいだ。だが、戦いに協力できなかっ
た分、協力させてもらうと引き受けた手前、そう言う訳にもいかない。
「やるしかないか・・・」
「で、探す本はどんな本なのじゃ?」
カイエルが今一度シュリから貰った紙を取り出す。
「えっとだな・・・『れんきんじゅつ』?に関する本だそうだ」
「なに?そのれん・・・なんとかって?」
「姉上は知っておるかの?」
「知らんな。術というからには、魔法に関係ありそうだが」
「知らないのに探すの?どういう内容がれんナントカってわからないのに」
全くもってその通りだ。
「で、でもだな、題名とかで書いてあるかもしれないだろ?まずはその『れんきんじゅつ』と
いう題名の本を見つけて中を読む。その後はその内容に似た内容の本を探していくんだ!とに
かくやらなきゃ終わらん、やるぞ!」
カイエルの作戦通りに「れんきんじゅつ」という題名の本を探して流し見て行く四人。だっ
たのだが・・・
「あ、そうだ、俺は統領に挨拶に行って来ないとな~。竜王だしな~。挨拶は基本だしな~」
メアトリスが言いながら出口へとじりじり向かっていく。
「逃がさぬぞ姉上ー!!」
その片足にメルリアがしがみ付く。
「止めろ!離せ!中に入れりゃあ俺はもう用済みだろ!第一、俺は手伝うとは言って無い!無
関係だー!!」
先の見えない作業に真っ先に根を上げたのは、意外にもメアトリスだった。
「何だ、竜王様は案外せっかちなんだな」
「姉上は昔から気が短いからのう!」
「うっせえ!これが俺なんだよ!文句があんならかかってこいやオラァ!!」
しがみ付いているメルリアを引き剥がさんと、その足を思い切り振り切る。すると、メルリ
アはすっぽ抜け、鋭い直線を描き、そして本棚の中段付近に突き刺さった。
「あ」
気付いた時にはもう遅かった。着弾点の本棚を起点に、連なっている本棚がこれまた綺麗に
一定の速度で順番に倒れていき、見事全ての本棚がメアトリスに頭を垂れる形となった。
「さて、竜王様・・・弁解があるなら聞こうか・・・」
「ぐ・・・頑張らせて頂きます」
「よもや、退院したその日に本棚に突っ込んで下敷きになるとはのう!」
倒れてきた本棚の下敷きになったメルリアだったが、大した怪我も無く、ピンピンとして笑
っている。
「無事でよかったよ、メルリアさん。ほんとに竜って丈夫なんだね」
その一方で、逆に本棚の受けたダメージは致命的だった。
「くそ!どいつもこいつも壊れてやがる・・・!」
「どうするんだ?これじゃあ元には戻せないぞ」
ここで初めて案内してくれた給仕者が居ない事に気が付いた。
「あれ・・・あの人は何処に・・・」
「まずい!チクリに言ったか!」
「今更まずいも何もないだろ・・・素直に謝るべきだろ」
「く・・・竜王だと言うのに、何たる失態を・・・」
そうこうしていると、書物庫のドアが開き、誰かが入ってきた。
「うわ、何これ!?賊でも出たの!?」
「いえ、あちらのお客様です、リベラール様」
(り、リベラール!?うげえ!選りにも選って統領呼んできやがった!!)
「あなたが犯人?」
「う・・・え・・・その・・・・・・」
「はい、こいつです。竜王と言う名の賊です」
一向に謝らないメアトリスに、カイエルが告げ口をする。
「誰が賊だてめえ!」
「こんな事態を引き起こしといて謝りもしないんだ、そんなん賊と同じだろ!」
「ああん!?だったらお前も謝れよ!」
「ああ、謝るさ!竜王様が謝ったら一緒に謝ってやる!あんたが先に謝るのは当然だろ!」
睨み合い、言い争い続ける二人。リベラールは溜め息を吐いた。
「・・・ちょっと黙らせよっか」
リベラールがそう呟き、手を前方にかざした瞬間、
「があっ!」
「ううっ!」
煩く争っていた二人があっという間に静かになり、その場に崩れ落ちた。
「お兄ちゃん!」
「姉上!」
駆け寄り、身体を揺するが、反応は無い。何が起こったのか、何かをしただろうリベラール
を見ると、その傍らに二つの青白い光が漂っていた。
それはまさしく二人の魂だった。リベラールは鎌を出す事無く、一瞬で二人の魂を抜き取っ
てしまったのだ。
「ふう、静かになった。・・・・・・ま、ちゃんと戻すけどね」
リベラールは一息吐くと、魂を二人に戻した。すると直ぐに二人は目を覚ました。
「はあっ!何だ?なにが起こったんだ・・・?」
メアトリスがゆっくりと身体を起こし、
「てめえ!いきなり何しやがる!」
カイエルは飛び起き、リベラールに敵意を見せた・・・?
「お、お兄ちゃん・・・?」
「何だ、メイエル?」
反応したのはメアトリスの方だった。
「あれ・・・これって・・・・・・お兄ちゃん、目の前の人が誰だか分かる?」
「はあ?メイエル、ちょっと気を失ったくらいで何を言って・・・!?」
そこには「自分」が居た。
「はああ!!??」
その声に「自分」がこっちを見た。
「あ!?俺だと!?」
「やっぱり・・・お兄ちゃんとメアトリスさんが入れ替わってるー!?」
「あら~?魂をあべこべに入れちゃったみたいね~。間違っちゃった~てへ!」
全く悪びれる様子は無い。むしろ、逆撫でるかの様な口調だ。
「てんめえ・・・戻しやがれ!今すぐにだ!」
「戻してあげてもいいわよ?ただし、新しく本棚を作り直し、本を元通りに・・・いえ、この際だ
からついでに分かりやすく整理してくれたら戻してあ・げ・る!」
「当然だろうな・・・おい竜王様・・・流石に文句は言えないだろうな?」
「分かったよ・・・やりゃあいいんだろ!やりゃあよ!」
「加えて条件だけど、またいい争いとか喧嘩とかしちゃったら、一生そのままって事で、頑張
ってね~!」
「は!?おいちょっと待て!」
リベラールはそう言い残し、そそくさと去って行ってしまった。




