新たな出会い
夏休みも残り半分となろうとしていたある日、バンリはハイラント邸を訪れていた。
「バンリちゃん、もしかして、ちょびっとひやけした?」
言う通り、少し肌が小麦色になっていた。半袖を捲るとその違いが良く分かった。
「まあな。最近、走り込みとか素振りとか、筋力トレーニングとかしてるからな」
「へえー!がんばってるんだね!」
「いやいや、まだまだ頑張るのはこれからだよ。一朝一夕程度の継続では大して効果は無いだ
ろうからな。ハワーは何かやってる事はあんのか?」
「ん?無いよ?」
まるでそれが普通であるかの様に、気の抜けた返事が返ってくる。
「ん~・・・まあ、何かしろとか強要はしないけどなあ・・・あ、そう言えば、ヒイカは?どっか出
かけてるのか?」
「ああ~・・・ヒイカくんなら・・・」
何かあったのだろうか。ハワーは目を逸らして口篭っている。
「どうした?何かあったのか?」
「んとね・・・ヒイカくんは・・・・・・だめ!やっぱいわない!」
「何だよそれ!気になんだろーが!」
「だめだめ!ないしょなのー!」
何とか言わせようとするバンリと、何とか隠し通そうとするハワーが組んず解れつしている
所に、当の本人が訪れる。
「へ、へへへ・・・み~つけた~」
あ、これはヤバい。本能的にそう感じ取ったヒイカは、踵を返して逃げようとするが、一歩
遅かった。腰の辺りにタックルを食らい、呆気なく倒される。
「な、何か・・・御用なんですか!?」
「へへへ・・・なあ、坊や・・・何企んでるんだい?」
妙な手付きで身体をまさぐって来るバンリに対し異様な恐怖を感じる。
「ややややめて下さい!怖い、怖いです!」
「じゃあ、教えてくれるかい?・・・坊や・・・」
ひいいいいい!耳元で囁かれるその声と吐息が身の毛を弥立たせる。
「わ、わ、分かりましたから!離れて下さい!お願いします!」
ようやく解放された。とはいえ、逃げる事は最早出来そうも無いし、ヒイカは話す他無いと
判断した。
「何かもっと、ぱっとする事がしたいなあ・・・筋トレだけじゃあ、何だか地味だしな」
バンリが誰に言うでもなくポツリと呟く。
「バンリちゃん、なんだかよっきゅうふまんぎみ?」
「あ?ああ・・・言い方はあれだが、まあ、間違ってはないな」
「具体的に何かしたい事でもあるのですか?」
「あー・・・何だろ・・・実践、とか?」
だらしなくソファに横たわりながら答えた。
「それなら、いい考えがありますよ」
「はあ・・・はあ!?」
全く期待せず、ただ言ってみただけのつもりだったバンリは、返ってきた思わぬ答えに驚き
跳ね起き、その弾みでソファから転げ落ちた。
「い、いてぇ・・・そ、そんな事より!教えてくれ!ほんとに何かあんのか!?つーか、教えない
と・・・」
わきわき。あの奇妙極まりない手付きでヒイカを威嚇する。
「元々隠すつもりはありませんから!その手付きをやめて下さい!」
「いいのか?本当にいいのか?して欲しかったら、して欲しいって言っていいんだぞ?何なら
二人係でやってやってもいいんだぞ?」
「ひひひ」
今度はハワーも加わり、二人して奇妙な手の動きを始める。
「もういいですから!」
二人がようやく落ち着き、本題に入る。
「えっとですね、『クエスト』というものを受ければいいんですよ」
「クエスト?」
「はい。『冥界の外側』にある『大社』で受ける事が出来ますよ」
「『冥界』か・・・」
「はいはーい!めいかいにはわたしがあんないするよー!」
ハワーが元気良く手を挙げる。それもそのはず、ハワーの実家は『冥界の外側』にあるのだ。
下宿しているのは、学校から近いからという単純な理由である。
「それじゃあ、頼り無さそうだが頼むわ」
「ひ、ひどい!」
「私も同行しますね」
「それは助かるな!」
「うう~・・・」
『冥界』総称としてこう呼ばれているが、実際は冥界の中と外に分かれており、『外側』と
『内側』と分けて呼ぶのが一般的である。
『内側』はその名の通りの『冥界』である。魔獣族の故郷とも言うべきこの世界は、昼と夜
の概念が無く、空は常に真っ赤に染まっている。そして、ここには他の世界で見る事が出来な
い冥界特有の植物が数多く自生しており、観光目的で訪れる者も多い。また、この世界の大気
は魔力に満ち溢れているため、魔力を持つ者にとってはとても過ごしやすい世界である。だが、
その一方で、世界が繋がった事によって、薄暗い冥界から明るい外の世界へ出て行く者が増え
た事による過疎化が進行している。
『外側』は正確には「冥界に繋がる扉がある世界」と言うべきだろう。内側とは違い、大気
中の魔力は薄いが、色取り取りの自然が溢れている。この世界にはかつて『人間』と呼ばれる
種族が住んでいたが、冥界に侵攻しようとした結果、先代の魔王によって滅ぼされたという。
それにより、魔獣族は外にまで住処を広げる要因となった。
現在は「大社」と呼ばれる管理施設が建てられ、冥界の中に入っていく魔獣族以外の者の管
理や、全世界から寄せられる依頼「クエスト」の管理も行われている。
中央に湖があり、それを囲むようにして大社が建っている。そこには陸からだけでなく、空
からも、更には湖からもたくさんの人々が忙しなく出入りしている。
「す、すっげえ人の数だな・・・」
「でしょー!いっつもこんなだよ」
何故だかハワーが偉そうにしているが、呆気に取られているためツッコミを入れる者は居な
い。保護者代わりとして付いて来たフュクシンの案内で中に入っていく。
一階の大きな部屋へと入ると、そこには特にたくさんのの人がいた。
「うわあ・・・」
「う、うるさいよう・・・」
ハワーはピンと立っている耳を手で押さえる。
「ここで、ですね」
非常に騒がしい部屋の奥に進んで行くと、カウンターに辿り着く。
「いらっしゃいませ。どのようなクエストをお探しですか?」
受付の竜種の女性がニッコリ笑顔で応対する。
「いえ、今日は『チーム』の新規登録を目的に参りました」
「登録ですね?では、こちらの紙にメンバーの名前と、成人していない場合は年齢の記入をお
願い致します」
バンリは名前を記入する。
「あれ?・・・あたしだけ?」
誰も続いて記入しようとしない。予想外だ。
「えっと・・・お一人では登録できません。最低でも四人で、少なくとも一人の保護者役となる大
人の方が必要になります」
うん。自分とハワーとヒイカ。保護者役にはフュクシンが居る。ちょうど四人である。なの
に・・・あれ?
「おい、どうしたお前ら・・・。フュクシンさんも・・・」
ヒイカは言う。
「同行するだけのつもりで・・・」
ハワーは言う。
「ただのあんないやくだよ?」
フュクシンは言う。
「ヒイカ様の使いですから」
どうやらやる気があるのは自分一人だけらしい。
「メンバーを集めてからお越しください」
結局、登録用の紙だけ貰って部屋を出る羽目になってしまった。
この『冥界』の内と外の両方を管理している、謂わばこの世界の最高位と言える者は、冥界
に繋がる門を護る門番である者が務めており、『門番長』と呼称されている。この大社の最上
階に住み、日々管理業務をこなしている。
最上階の一室、暖かな日の光が差し込み、昼寝するには持って来いの時間帯である。着てい
る着物の帯を緩め、だらしのない格好で横になる。これは気持ちがいい。直ぐにでも眠ってし
まいそうだ・・・。
「メルーーーッ!!!」
夢の世界に沈み行こうとしていた所を釣り上げられたかの様に跳ね起きる。ガラガラガッタ
ーン!と、戸が壊れそうなほど思い切りよく開け放たれ、眉間にしわを寄せて鬼の形相になっ
た姉、メアトリスが足音激しく入ってくる。
「な、なんじゃ姉上!何か用かえ?」
その返答に、更に気分を害したのか、表情は変わらずとも気迫で怒りが増した事が分かった。
「おい、ツラ貸せや・・・」
その迫力に言葉も出せず、着物の首根っこを掴まれて引きずられていく。
「あ、姉上!待ってたもれ!き、着物がぬげ、脱げるう~!」
問答無用でズルズルズル・・・。
引きずられ、蹴り飛ばされて転がりながら入室した部屋は『門番長』である母親の仕事場だ
った。そんな光景にも母親、メサイアはいつもの事なので動じる事無く対応する。
「メア、ご苦労だった。メル、この書類をクエストカウンターに届けてくれ」
差し出された書類の量は大した量ではなかった。これくらいなら自分で行けばいいじゃない
かと言おうとも思ったが、背後から凄まじい気を感じたので素直に従う事にする。
「うむ、任されたのじゃ」
「終わったら、直ぐに帰ってきなさいよ。仕事は幾らでもあるんだから」
着物を整え、書類片手にブツクサ文句を呟きながら目的である一階のクエストカウンターを
目指して歩いていく。こちらの事を知っている一部の人はすれ違い様に一礼してくるので、軽
く手を挙げて返す。いつも通りの退屈な光景である。
(外へ出ればこれじゃからのう・・・)
顔には出さずに意気を落としながら歩き続け、ようやくクエストカウンターのある部屋に到
着した。そこに知っている顔があることに気が付く。
「お、おお?おおー!フュクシン、フュクシンではないか!久しいのう!」
周りは騒がしくあったが、何かの紙をバサバサと振っているのが目に止まり、フュクシンは
気が付いた。
「あなたは・・・メルリア様!こちらこそ、お久しぶりですね」
「ふふふ、元気じゃったかの?うぬ?この天使っ子・・・どこかで・・・・・・もしや?」
メルリアは天使族の少年の頬をつんつんして様子を伺っている。
「ええ、ヒイカ様です」
「ほお!ほおほおほお!話には聞いておったが・・・めんこいのお・・・!ほれほれ」
「あう、ううう・・・やめ、やめて下さい・・・」
ヒイカが子供になったという事はヒイカの事をよく知っている、友と呼べるような一部の人
には伝わっている。
「フュクシンさん、このひとだーれ?」
「紹介しますね。この方はメルリア様です。この冥界の管理者、つまり一番偉い人の娘であら
せられます」
メルリアは子供たちに胸を張ってみせる。だがそれ以上に、立派な尻尾に目が行っている様
だ。竜種特有の鱗に覆われた太くて強靭な尻尾は、強そうでかっこいいのだろう。だが一人、
興味を示さず、そっぽを向いて何やら落ち込んでいる子供がいる事に気が付く。
気付かれない様に背後に周り込み、両手で腋を掴んで一気に持ち上げた。
「うわあ!?」
「ふふふ、幼女ゲットじゃー!ほ~れ、たかいたか~い、たかいたか~い」
「ややや、やめろー!はなせ、この変態め!」
バンリは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら抵抗する。だが、その行為が返って注意を集め
てしまう。大勢の人の視線を感じたバンリは更に赤く染まり、糸が切れたかのように大人しく
なった。
一頻り幼児扱いし終えたメルリアは、満足げな顔で世間話を始める。
「フュクシンよ、そういえばここで何をしておったのじゃ?」
「バンリ様がチームを作る、と言う事でその申請に」
そう言い、床にぺたりと座り込んで、両手で顔を隠して恥ずかしさに打ちひしがれている少
女に目線を送る。
「ほう、お主、まだ若いと言うに立派な心掛けじゃのう。して、ここにおる四人がそれなのか
え?」
「いえ、実は・・・・・・このバンリさんお一人だけでして・・・」
ようやく落ち込んでいる理由を理解する。
「のうのう、バンリとやら。お主、友達おらんのかえ?可哀相な奴じゃのう・・・」
「うるせーよ!同情するなら人材くれよ!」
「ふむ・・・よいぞ?」
「あ?」
「じゃから、よいぞ?なってやっても」
バンリは言葉の意味を直ぐには理解できなかった。が、少ししてようやく何を言っているの
か、半信半疑ではあるが理解する。
「まじか!チームに入ってくれんのか!?」
「うむ。その通りじゃ!」
「メルリア様、よろしいのですか?」
メルリアはこう見えてもいい所のお嬢様みたいなものである。この軽さからよく考えもせず
に気分で言っている様な気がしてならない。
「良いのじゃ。家におっても、雑用をやらされるだけじゃしの。それに、クエストであれば、
いろいろな所にも行く事が出来よう。楽しそうではないか」
この言葉に喰い付いたのはハワーだった。
「え?いろんなとこにいけるの?」
「うむ、そうじゃぞ。クエストを達成するためには、色々な世界に行く必要があるものもある
からのう」
ハワーの目が輝き始める。と同時にヨダレも見える。
「ハワー?」
「いろんなせかいにいける・・・それはつまり、いろんなおいしいものがたべられるということ・・・
たびとおいしいものがどうじに・・・!わたし、やるよ!」
「お、おう・・・これで三人・・・でいいんだよな・・・」
仲間は増えれどやる気があるのは依然としてバンリ一人である事に、これでいいのだろうか
と本人は不安を感じて素直に喜べなかった。だが何にせよ、後一人である。メルリアが大人だ
から、後は大人子供どちらでもいい。となると、手っ取り早いのは・・・
「ヒイカ」
「駄目ですよ?」
何か言う前に否定された。だが諦めない。ハワーに目配せをする。
「ハワー!」
びくっ!何か・・・嫌な予感がする。ヒイカは逃げようと踵を返す。が、ハワーに周り込まれて
しまった。そしてその手付きは・・・いやらしい。
「へへへへへ・・・・・・」
「うひひひひ・・・・・・」
「またですか!駄目ですよ?駄目ですからね?私には他にやる事があるんですからね!」
「ぐひょひょひょひょ・・・・・・」
「!?」
何故かメルリアまでヘンタイの仲間入りを果たしている。しばらく様子を見ているだけだっ
たフュクシンがようやく助け舟を出す。
「皆さん、そのくらいに。ヒイカ様には大事な用が御座いますので、申し訳ありませんが、チ
ームには加わる事は出来ません」
「やりたいこと・・・そう言えばそんな事言ってたな」
「む~・・・それじゃあ、仕方ないかなぁ・・・」
「そうなのかえ?お主等が諦めると言うのであれば、従うがの」
バンリは正直、直ぐにでもメンバーを揃えて登録してしまいたかったが、ヒイカの事情も知
っているため、今日の所は諦める事にした。
「それじゃあ、バンリよ、ハワーよ、残りの一人はお主等に任せてもよいかの?」
「ああ。こっちで探してみるよ」
「うむ。見つかったらいつでも来るとよいぞ。わしはいつもここにおるでな」
別れ、帰ろうとしたその時だった。メルリアの脳天に何者かの突然のチョップが炸裂する。
「ぬぐふっ!」
その威力にメルリアは膝から崩れ落ちる。そのチョップを放ったのは姉メアトリスだった。
その形相はまさに鬼の如し。目の当たりにした子供三人はすっかり震え上がってしまっていた。
「メル、おんどれ・・・そないな簡単な仕事もでけへんのか?ああ!?」
「あ、ああ・・・あね、うえ・・・・・・」
強靭な身体を持つ事で有名な竜種であるメルリアを同じ竜種であるとは言え、チョップ一発
で碌に喋る事も出来なくしてしまうとは、本当にどんな威力をしているのだろうと、三人は更
に恐怖する。
「メアトリス様、お久しぶりでございます。お変わり無い様で」
鬼の形相をしていたメアトリスはその目にフュクシンを見止めると、優しい顔になった。
「あらフュクシンさん、いらしてたんですね。フュクシンさんもお元気そうで」
そう言いつつ、メアトリスはフュクシンにしがみついて震え上がっている子供三人の内、天
使族の少年に目が留まる。と同時に、メアトリスの身体から汗が噴き出してくる。
「ふふふフュクシン・・・さん?え、え~と・・・こ、こちらの・・・お方は・・・もしや?」
ごくりと生唾を飲み込む。
「はい」
その一言でメアトリスは全てを察した。
「ひ、ひ、ひ・・・ヒイカ様!!!???」
床に穴が開きそうなほどの勢いで頭を下げ、土下座する。というか、しっかり穴が開いてし
まっている。
「申し訳ございません!ヒイカ様!とんだ醜態をお見せしてしまいました事、平にご容赦を!
また、怖がらせてしまいました件に付きましては、このメアトリス、如何なる罰も受ける所存
に御座います!」
突然の超威力チョップに突然の怖い顔、からの突然の土下座に突然の謝罪の言葉の雨霰。ヒ
イカは勿論、バンリもハワーもぽかんとしている。
周りの目も憚らず、土下座をしたままピクリとも動かない謎の女性に、一刻も早く話しかけ
なければならないと判断したヒイカはとりあえず言葉を掛ける。
「頭を上げて下さい!罰とかそんな事はいいですから」
「いえ!そういう訳には参りません!」
頑なに拒むメアトリス。だが、このままにして置く訳にもいかない。ヒイカはしばし考え、
メアトリスの目の前にちょこんと座り、もう一度声を掛ける。
「では、この大社の案内をお願いできますか?私、記憶が無くなっていて、よく覚えていない
んです」
「案内、でございますか?」
「はい、お願いします、メアトリスさん」
ヒイカはようやく頭を少しだけ上げたメアトリスに手を差し出す。
「ヒ、ヒイカ様!・・・私の名前は覚えて・・・・・・」
「え?いや、それはさっき・・・」
フュクシンが呼んでいたからなのだが、どうやら勘違いしたらしいメアトリスは差し出した
手を両手で優しく握り、感激に目を潤ませている。
「ヒイカ様!案内の件、承りましてございます!まずは私の両親を紹介させて頂かねば!」
「え?ちょっと、もっとゆっくりで!」
メアトリスはヒイカの手を引き、走っていった。
残された三人は呆然としていた。
「あのひと・・・なんというか、すごいね・・・・・・」
「ああ、まさに嵐の様だったな・・・・・・」
「とりあえず、どうしますか?私はメルリア様を看ながらヒイカ様を待ちますが」
フュクシンは一人伸びているメルリアを担ぎ上げる。
「そうだなあ・・・あたしもメルリアを看るよ。メンバーになって貰ったわけだしさ」
「じゃあ、あたしもまってようかな」
「そうですか、それでは一先ず休憩室に参りましょう。そこでは食事も出来ますし」
「いますぐいこー!」
ハワーは我先にと走り出す。
「まてよハワー!場所分かってんのか!?」
「しらない!においでたどるよ!」
お腹が空いているらしいハワーはそのまま走って行ってしまう。仕方なくその後を追う。
最上階の大きな部屋に連れて来られ、心の準備をする間も無く入室させられる。
「母上!母上!」
「騒がしいぞメア。うん?その子は・・・」
メアに手を掴まれ、びくびくしている少年に気が付く。その子にはなんとなくではあるが、
見覚えがあった。
「ヒイカ・・・か・・・」
「はい!母上!」
ヒイカであると確認がとれた門番長メサイアは立ち上がり、ヒイカの元に歩み寄り、しゃが
んで目線を合わせる。
「ヒイカよ、久しいな。とは言ってもこちらの事は覚えてはいないか。だが、こちらは多分に
世話になっている。私の名はメサイアだ。困った事があれば何なりと言ってくれていい」
「・・・ありがとう・・・ございます」
このメサイアと言う人はとても優しそうで、自分の事を良く知っている様だと感じたヒイカ
は、これを機として思い切って頼んでみる事にする。
「あの、メサイアさん」
「うん?何用か」
「『私』の事、教えて下さい!」
メサイアはヒイカが何か、成したい目的があるのだと察し、その願いに応じる事にする。
「了解した。メア、茶を淹れてくれるか」
「はい!直ちに!」
一頻り話を聴き終えて一息付く。思っていたよりも様々な話を聴くことが出来、ヒイカもそ
うだが、何故か頼んだ本人ではないメアトリスが本人以上に満足した顔をしていた。
「ノートを取っておけばよかったわ・・・」
「そ、そこまではしないで下さい・・・」
「満足して頂けたか?」
「あ、はい。とても助かりました」
「そう言えばヒイカよ、今日は何かの用事で来たのか?話が本題であった訳ではないだろう?」
「えっと、友達がチーム作りたいという事で来ました」
「ほう、無事に登録は済んだかな?」
「いえ、それが・・・一人足りなくて・・・私が入れば足りるのですが、やりたい事があるので・・・と
そうでした、メルリアさんがそのチームに入って下さると仰ってるのですが・・・」
その話を聴いたメサイアとメアトリスは少し驚いた様子だった。メルリアは怠け癖があり、
面倒な事はしない様な子だ。確かに、頼めば嫌々ながら仕事もするが、自分からする事はほぼ
無いと言っていい。そんな子が「クエスト」と言う面倒事をこなすのが本意であるモノに自ら
首を突っ込むとはとんだ気まぐれである。
「ほう。あの子がな・・・。勿論構わない。むしろ、あの子で役に立つのであれば扱き使ってやっ
て欲しい」
「全くその通りです。メルは家に居ても働かずに寝てばっかですし、迷惑にならないか心配な
くらいです」
「ははは、それならよかったです」
そこにようやく起き上がったメルリアが真剣な面持ちで入ってくる。
「母上よ!お話が!」
「うん、構わん。やってみろ」
ついさっき話を聴いたため、話を聞かずに承諾する。
「良いのか!?ハイラント邸に住んでも!」
「ん?待て、チームに入るのではないのか?」
「うむ、入るには入るがの、ハイラント邸を本拠地にしようという話になったのじゃ」
メルリアの後ろから皆がやってくる。
「フュクシンよ、迷惑ではないか?」
「いえ、問題ありません。むしろ、屋敷の給仕者は大歓迎でしょう」
「そうか。メルリアよ、あまり迷惑を掛けぬようにな」
「うむ、任せておくのじゃ!」
「あなたのそれは不安でしか無いんだけど・・・」
一先ずこれで三人。初めは今日中に登録できると思っていたから少し躓いた感じはあるが、
何にせよ後一人だ。チームが結成される日は近いと、バンリは希望に胸を膨らませていた。




