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命を賭ける  作者: 小瑠璃
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後編

俺は金がほしいのか?


特別貧乏なわけではない。

かといって金持ちなわけでもない。

いつか「すべてのものは金で買える」と言った人がいた。

それは違う。そう反論した人もいたし。その通りだといった人もいた。


俺は後者の意見に賛成だ。

実際、車や日常品は金で買える。食べ物だって動物だって、人間だって、地位だって、名誉だってなんでも買える。

そう。命だって買えるんだ。 買えないものなんてあるのだろうかと考えてしまう。

これはあくまで俺個人の考えであって、誰かにこの意見を押し付けるなんてことはしない。 価値観なんて人それぞれだ。


さて、今日はもう一眠りしよう。 もうあんな夢は見たくないけれど。



 早いもので賭けを始めてから1年と1か月が経った。 賭け金は3920000円だ。かなりの額になる。 いつも通り智からメールがきた。 本文の最後に、 


「いつもの焼肉屋に行かないか?」


と付け加えられている。


「仕事が終わるのが7時だから、7時30分に行く。」


と返信してまた仕事に戻った。 はっきり言って賭けのことなどもうどうでもよくなりつつあった。


「よう。」

 

時間前だというのに智がいた。


「お前、どうしたんだよ。」


まじまじと顔を見ていると、


「僕が早く来るのがそんなにおかしいの?傷つくなあ。」


心外だ!とでもいうような顔をした。


「今日は失礼なこと言ったから、祐のおごりだ!たくさん食べるぞ!」 


まるで子供のようなはしゃぎぶりだ……。


「ちょっと待て。そんな理由でおごらなきゃいけないのか?」


「何食べようかな。」


人の話など聞いていないかのように店の中へ入っていく。

「はあ……。」 しょうがない。たまにはいいか。  



デザートのパフェも食べ、かなり満足の智が言った。


「祐、今日久しぶりに家に来ないかい?いいワインと、この前言っていたDVDがあるんだ。」


「ワインか。DVDも見たかったしな。行こうか。」


「じゃあ、おいでよ。」


そうして俺は智の家に行くことになった。 あいつの家は大きなマンションの10階にある。以外にも金持ちなんだ。


「さあ、上がって。」


玄関のドアを開けると、黒を基調としたとてもきれいに片付いている部屋がそこにあった。 

いつ来てもきれいだ。

そこで俺たちは智のおすすめのワインを飲んだり、途中で買ってきたビールを飲みあさった。

DVDも思っていたよりおもしろく、盛り上がった。

 


  夜も更け、酔いも回ってきたころ、不意に智が言った。


「なあ、風に当たりに、屋上へ行かないか?」


頭もぼーっとしてきたところだったのと、明日も仕事があるため行くことにした。


何故この時気づいてやれなかったのだろう。


そうすればきっとこんなことにはならなかったはずなんだ。


あいつが……、智がこんなことになっていたなんて……。  



「ここから見える景色って綺麗だよな。」


前に来た時から思っていた。


「そうだね。まあ、隣にいるのが祐じゃなくて可愛い女の子だったらもっといいんだけどね。」


そう言い終わる前に俺は智の頬を抓っていた。


「悪かったな。可愛い女の子じゃなくて。」


「ひたいよ。はらしてー。」


そんなことをしながら笑っていた。 けれどいつの間にか智から表情が消え、ずっと前に聞いたあの声が聞こえた。


「祐、あの賭けに勝ちたいかい?」 寒気がした。


「……。」


どこかで聞いたことのある台詞だった。


どこだっけ?


ドラマ?アニメ?小説?


思い出せない。


「この賭けに勝つ方法は一つしかない。自分が死ぬことなんだ。」


「ああ。」


どこだ?


俺はどこでこの言葉を聞いたんだ?


思い出せない俺を智は待ってはくれない。


「祐は死んでまでお金がほしいと思ったことはあるかい?」


「何を言って・・・」


さえぎられる。


「ないだろうね。でも僕は違う。死んででも金がほしいんだ。」


「なんで……?」


それしか出てこなかった。


その答えを聞く前に智が言った。


「最後くらい、僕が勝ってもいいよね?」


思い出した。


夢だ。


夢で見たんだ。


あれと同じなら智は……。


思い出したときにはもう遅かった。 智の体は視界から消た。

柵に駆け寄りとを伸ばす。


ふわりとスローモーションのように落ちていく智。

手が智の服をかすった。

だがつかめない。


智は……。


        

 笑っていた。


 

「やめろっっっっっ!」  



ああ、すべて夢で見たものと同じじゃないか。  


叫び声が虚しく響き渡る。



俺は


二度も智を殺したんだ。



わかっていたのに。


  俺が……。  


  俺が……、智を殺したんだ。  


俺は警察に呼ばれていろいろと事情を聞かれたが、争った形跡もなく、遺書も見つかったため自殺だと判断された。 遺書には、


「人生に疲れた。」


と書いてあったそうだ。

俺は罪悪感から家に引きこもるようになった。

仕事も休んでいる。



何故?


何故?


何故?


疑問だけが積もっていく。  


「なんでんだよ・・・。」


答えてくれる人なんていないとわかっている。  


いっそ死んでしまおうか。


そう思った時だった。


今朝の新聞の間に白い封筒が挟まっている。

こんな時に一体誰だ?

そのままにしておこうと思ったが気になってしまい、封筒を手に取る。

 

そして俺は青ざめた。


差出人が、智だったのだ。


はさみなんて使おうと考える余裕もなくびりびりに封筒を破り、中の手紙を取り出す。



  「 祐へ  



これが君の家に届くころにはもう僕はこの世にいないんだろうね。 君の目の前で飛び降りたことを心から申し訳ないと思ってる。


祐と過ごした時間はすごく楽しかったよ。


君のことだから、自分のせいで僕が死んだんだと思っているのかもしれないけど、違うんだ。

僕が死んだ理由。 それはね、」  



続きを読むのが恐かった。

けれど、読まずにはいられない  



「それはね、ただあの賭けに勝ちたかったんだ。


なんでそこまでして?


って思うでしょ?

ちゃんと理由があるんだ。


中学生のころ中田君に、僕のお父さんのことを聞いたことあると思うんだけど覚えているかな?


僕のお父さんは賭け事が好きで、やっぱり命を賭けたんだ。

自分が長生きする方に賭けた。

本人はふざけただけだったみたいだけど、相手はそうじゃなかった。

そして……殺された。


賭けに負けたらお金を払わなければいけない。大きな額のお金だ。

お母さんはその借金を今でも払い続けている。

毎日毎日取り立てにやってきて、もうお母さんの精神状態が危うくなってしまったんだ。


残りの金額はあの日でちょうどの額だった。 この賭けをしたとき、君は僕が長生きする方に賭けてくれたよね。それで気が付いたんだ。大切に思ってくれる人が二人もいる。だったら僕は死ねるって。


あの日、君と別れた後、お父さんが賭けをした人のところへ行ったんだ。

あの人は部下に殺人をさせた。

だから表面上は無実なんだ。

僕も賭けをした。

命を賭けた。

そして僕が死んだ。

僕の勝ちだ。お母さんはまた0からやりなおせる。

君と賭けをしたのはもう一つだけ理由がある。

僕が逃げ出さないように。

君に勇気をもらっていたんだ。

無責任なやつだと罵ってくれても構わない。


でも、今までありがとう。


もっと生きていたかったけど、これでいいんだ。  


本当にありがとう。  


巻き込んでごめんね。  


この賭けは僕の勝ちだ。

最後に君に勝てて嬉しいよ。



  あ、最後に。

お金は払わなくていいからね。          

          智                    」  


こいつは最後まで馬鹿だった。


男が泣くなんて…と思うかも知れない。


でも、涙があふれてくる。


これはきっと、賭けに負けた悔し涙だ。


締め切っていたカーテンを開ける。


もう日の出の時間だ。

新しい朝が始まり、俺の体は太陽の光に包まれた。

明日からまた前を向いて生きよう。


あいつの分まで。



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