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命を賭ける  作者: 小瑠璃
1/2

前編



「なぁ。賭けをしないか?」


となりを歩く智が言った。


「またかよ。お前、弱いくせにそういうの好きだよな。」


「いいじゃんか。楽しいんだから。」 智は賭け事が好きだ。


しかしものすごく弱い。

本人もわかっているようだがやめられないらしい。


「で、今日はどんな賭けだ?」


智のことをいろいろ言っているが俺も賭け事は嫌いじゃない。

競馬などのレースから物事の勝敗を賭けたものまでいろいろだ。

もちろん法を犯すことなんてしていない。明日の天気を賭けるような簡単なもので、賭ける金額も数百円から数千円程度だ。


「すごく簡単な賭けなんだ。」


「ほう。」


昨日は

「マンションから出てくるのは女か男か」

というものだった。

智は女にかけ、俺は男にかけた。

賭けた金額は100円。いつもと同じく俺が勝った。


(今日はどんな賭けなんだ?)


少だけわくわくしながら智の説明を待つ。


「僕と祐、どっちが長生きするかだ。」


「……?」


一瞬思考が止まってしまった。

 

(今、なんていったんだ?ついに狂ったのか?)


「どうしたの?そんな変な顔して。口、開いてるよ?」


何事もなかったように笑っている。


「え、何を賭けるって言った?」


聞き間違えたのだと自分に言い聞かせ、聞き返した。


「だから、僕と祐、どっちが長生きするか。」


やはり聞き間違いではなかったようだ。


「何言ってんだよ。終わるまでに何年かかるかわかんないじゃん。」


俺も智も今年で23だ。平均寿命が確か80ぐらいだから、60年近くもある。


「いや、わかんないよ。明日車に轢かれるかもしれないし。」


「物騒なこと言うなよ。」


「まあまあ、いいじゃん。で、どっちに賭ける?」


「あんまりよくない。」


「ほらほら。はやく。」


なんでこいつはこんなに楽しそうなんだ?


「わかったよ。じゃあ俺はお前が長生きするのに賭けるよ。」


「おお、今日の裕は優しいねー。」


「調子に乗るな。賭ける金額はひゃく……」

100円賭ける。

と言おうとしたが、智の声にさえぎられた。


「一日10000円。」


「は?」


「だから、一日10000円ずつ増やしていくの。」


「高くないか?」


「いいじゃないか。命を賭けるんだから。」


命を賭ける。


そういわれると少しだけだが恐い。


「そうだな。それでいいか。」


「じゃあ僕は、祐が長生きする方に賭けるよ。決まりだ。祐、死んだらだめだからねー。」


そう言って智は人ごみの中に消えていった。 こうして俺たちの奇妙な賭けは始まった。


1日目。


特に賭のことを気にすることもなくいつも通りに1日が終わる。

(今日の9時から楽しみにしていたドラマがやるんだったな。録画しておかないと。)


3日目。


賭け金は30000円になった。

毎日智からメールが来る。

内容は


「おはよう祐。今日で3日目だね。賭け金は30000円だ。くれぐれも死なないようにね」


というような感じだ。

「お前もな」 そんな短い返事をする。


俺が智と出会ったのは中学生2年生の時だった。

父親の転勤の都合でとある田舎町から東京に転校してきた。

元々人見知りだった俺はなかなかそのクラスに溶け込むことができなかった。

そんなとき、一人の男子生徒が話しかけてきた。


「ねえ。祐君って、賭け事とか好き?」


いきなりのわけのわからない質問に戸惑い、思わず「うん。」と言ってしまった。


「本当?嬉しいな。このクラスに賭け事好きな人っていないんだよね。」

戸惑っている俺に気が付かず、話を続ける智を見て隣の席の中田がそっと耳打ちする。


「こいつの親父、そういうことが好きで。遺伝とかいうやつだ。まあ、悪い奴じゃないんだぜ。」


と教えてくれた。

この時初めて中田としゃべったのだと思う。


「あ、言い忘れてた。僕、織部智っていうんだ。よろしくね、祐。」


いきなり呼び捨てかよ。


心の中でそうつぶやきながらも、 「こちらこそよろしく。」と少しひきつった笑顔で言った覚えがある。

よく考えると、いや、よく考えなくても賭け事が好きな中学生なんているのだろうか?

少なくとも俺は智に出会うまで会ったことがない。

智と中田と話すようになり、だんだんとクラスにも溶け込めるようになった。


ある意味智には感謝している。

中田は高校が違ったため、会う機会がほとんどなくなったが今でもたまに連絡を取り合っている。


中学生の時にした賭けは今と変わらないとても単純なもので、テストの点数や、順位、クラスメイトの告白が成功するか、担任が結婚できるかなどくだらないものだった。はじめのころはあまり気の進まなかった賭けだが、やっていくうちに楽しくなっていった。


「そういえば……。」


今思い出した。今回の賭けと似たような賭けを前にしたことがある。


それは、


「中学校の目の前にある小林さんの家で飼っている犬の“なな“が明日生きているか」


というものだった。

小林さんとは時々話をしたり、ななと遊んだりする程度の薄い関係だ。

変に思いながらも当然と言うように生きている方に賭けた。

智は生きていない。

つまり死ぬ方に賭けた。

あいつは本当に弱い。

いや、運が悪いと言った方がいい。だからこの時も俺が勝つはずだった。

掛け金も俺の意見で100円だったのを500円にしてもらった。

 しかし次の日の朝小林さんの家の犬小屋を見ると、いつもいるはずのなながいない。おかしいと思いながらも学校に向かった。


授業中に少し気になったもののすぐに忘れてしまった。

放課後俺は先に小林さんの家に行った。

やはりななはいなかった。


「あら、佑くんじゃない。」小林さんの声がした。


「こんにちは。あの、ななは?」


一番気になっていることを聞く。


「あぁ……。」


何故か目を伏せた。

「ななは今日の朝死んじゃってね。」


その言葉に衝撃を受けた。

まさか本当に死ぬなんて。

それを見計らったかのように、宿題を忘れ居残りをさせられていた智がやってきた。


「小林さんこんにちは!」


なにも知らない智の声は明るい。


「こんにちは。」


元気のないその声で何かを察したのだろう。あいつは俺の方を見た。

電話の鳴る音がした。


「ごめんなさい。ちょっと出てくるわね。」


小林さんが家の中へ入っていく。


「佑、何があったの?」

「あぁ。ななが死んだらしい。」

「やっぱり。じゃあ僕の勝ちだね。」


智は笑っていた。

死んだのは犬かもしれない。

しかしひとつの命が消えたことに変わりはない。

それなのに笑っているなんて。

しかも「やっぱり」って……。

ひとつの考えが俺の頭に浮かんだ。



ななは智が殺したのではないか?



いや、智はそんなやつじゃない。そう自分に言い聞かせているときだった。 


「佑は僕がななを殺したんだと思っているんでしょ?」

いつもと違う低い声。

一瞬本当に智なのか耳を疑ってしまった。


「……。」黙っている俺に


「やっぱりね。確かめようじゃないか。」


声はいつも通りに戻っていた。

固まっている俺をおいて戻ってきた小林さんに


「あの、ななについて聞きたいんですけど。」


「なに…?」


「どうして死んでしまったんですか?」


「もう寿命だったのよ。犬の寿命は短いの。」目を伏せながら答えてくれる。そんな表現を見ていると罪悪感に包まれる。


「そうでしたか。失礼なことを聞いてすみませんでした。ありがとうございました。」


智は驚いたようにこちらを見ていた。気にせず頭をさげた。


「いいのよ。今までななと遊んでくれてありがとうね。」 


小林さんは じゃあ と言って家の中へ戻っていった。


「佑が確かめたいって言うから聞いたのに、何でちゃんと聞かなかっの?」


不思議方に尋ねてくる。


「聞けるわけないだろ?」


能天気というのか、無神経というのか。そんな智に対して感じた怒りは今もはっきり覚えている。


しかし俺の思っていることなんて解るはずもなく、話を続ける。


「まぁ、どうであれ僕の勝ちだ。500円ね。」


殴ってやろうかと思った。

俺は黙って500円を渡した。


なんて懐かしい思い出だろう。

忘れかけていた遠い思い出。

今回はどうなるのだろうか。 そう考えながら俺は支度をし、会社へ向かった。  


あれから2週間が経つ。

賭け金は140000円だ。賭け金がだんだんと増えていく。1年もすれば3650000円になる。10年だと・・・。

もう計算するのもめんどくさい。お金の問題はいいのだが、一つだけ問題があった。

電車を待っているとき、横断歩道を渡っているとき、エレベーターに乗っているとき、人混みを歩くとき、ほかにもいろいろあるが、そのすべてが恐いのだ。

いつ死ぬかわからない。

死ぬことへの恐怖がだんだんと大きくなってきている。

自分の命について今まで無関心過ぎたのかもしれない。 

今日は智と夜、飯を食べに行く約束をしている。 智は俺が長生きすることに賭けているから殺すなんてことはしないだろう。

と、 信じている。

あいつは初めてできた親友だから。  

 時間ピッタリについた。いつもの焼肉屋だ。あいつはまだ来ていない。少し待ったが、来る気配がない。中で待っていようと店に入ろうとした時だった。

「ごめんねー。待ったー?」

智が女のような声でそう言いながら抱きついてきた。 周りがざわざわしだしたので恥ずかしくなり、ほとんど引きずるようにして店の中へ入った。


「ちょっと、祐、痛いって、引っ張らないで!髪の毛抜けるっ!痛い。」

ふざけているようだったので、強く引っ張ってやろうと思ったけれどやめた。

「反省してるのか?」

「はいっ。許してください!」

「まあ、いいだろう。」

「ようし。何食べようかな?」

尊敬したくなるほど切り替えが早い。そして 食べる気満々のようだ。

今まで感じていた恐怖が消えていく。あまり考えないことにしよう。


「じゃあ俺はこの店長のおすすめのやつにする。」    


わいわいしながら無事に今日が終わった。    


ビルの屋上は心地いい風が吹き抜ける。下には車やネオンの光りでとても賑やかだ。


「祐、この賭けに勝ちたいかい?」


智が言う。


「……。」


俺は何も言えない。


「この賭けに勝つには自分が死ななきゃいけない。」


「ああ。」


その通りだ。


「祐は死んでまでお金がほしいと思ってことがあるかい?」


死んでまで金がほしいと思ったこと。そんなことない。


「いや……。」


それを見透かしていたかのように、

「そうだろうね。」


智の目は俺を見ていない。


「お前はあるのか?」


恐る恐る聞く。


「あるよ。」


即答だった。そして続ける。


「昔も今もそうだ。死んでも金がほしいよ。」


「なん……。」


なんで。  

と言おうとするもさえぎられる。


「僕は勝ちたいんだ。この賭けに勝って金がほしい。」


そして最後に言った。


「最後くらい、僕が勝ってもいいよね?」


表情は見えなかった。

あいつの体が目の前で落ちてゆく。


「やめろっ。」


そう叫び目が覚めた。

周りを見渡す。そこはいつも見ている自分の部屋だった。


「なんだ。夢か……。」


自分を安心させるために口に出した。 時計を見る。もう昼の1時だ。 月曜日だが、祝日だったため仕事は休みだ。

嫌な夢だ。

夢の中であいつは金が死んでもほしいと言っていた。一体何のために? いや、所詮夢の中のことだ。現実的じゃない。


俺は……。



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